表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

推(お)しのライブは夏の輝(かがや)き!・後編

 十曲目(じゅうきょくめ)昭和(しょうわ)っぽいポップソングが(うた)われる。曲調(きょくちょう)はポップだけれど、(うた)われている内容(ないよう)には苦悩(くのう)(かん)じられた。そうだよね、(だれ)もが平和(へいわ)()らせて、平和(へいわ)(あい)()えれば最高(さいこう)だけど。現実(げんじつ)は、なかなかそうはいかないよねぇ。つまらない現実(げんじつ)重力(じゅうりょく)があって、ひ(よわ)理想(りそう)()(つぶ)されてしまいがちだ。だからといって、理想(りそう)()うのが馬鹿(ばか)げているとも(おも)わない。きっと(つら)現実(げんじつ)対抗(たいこう)するため、(ひと)信仰(しんこう)()ったり、私のように()しを(もと)めて()きていくのだろう。


 (さき)ほどの十曲目(じゅっきょくめ)はミディアムテンポで、(かん)(きゃく)()ちあがるような曲調(きょくちょう)ではなかったので。トークコーナーから()(つづ)き、私たちは(ちゃく)(せき)したままだ。十一曲目(じゅういっきょくめ)は、(さび)しげな青色(あおいろ)照明(しょうめい)(つつ)まれて(うた)()された。(かな)しい悲恋(ひれん)(きょく)で、この選曲(せんきょく)に私は(おどろ)かされる。誕生(バース)(デー)ライブで(うた)われるとは(おも)ってなかったけど、歌詞(かし)には外国(がいこく)での戦争(せんそう)()かれていて、()しが(いま)という時代(じだい)見据(みす)えた(うえ)での選曲(せんきょく)なのだろう。


 十二曲目(じゅうにきょくめ)青春(せいしゅん)時代(じだい)(わか)れが(うた)われた。キャリア初期(しょき)名曲(めいきょく)で、気高(けだか)さが(かん)じられるバラードだ。(きょく)(なか)のヒロインは、()自身(じしん)(おも)わせる十代(じゅうだい)少女(しょうじょ)で、ティーンエイジャーがこれほどの高潔(こうけつ)(たましい)()っていることに感動(かんどう)させられる。そう、私の()しは、()まれながらにして特別(とくべつ)存在(そんざい)だったのだ。彼女(かのじょ)のすべてを()っているとは()わないけど、それでも私には彼女(かのじょ)素晴(すば)らしさがわかるのだった。


 トークコーナーからここまで、私たちは(すわ)りっぱなしだ。そろそろ()ちたいなぁと(おも)っていたところで、お(あつら)()きの十三(じゅうさん)曲目(きょくめ)(はじ)まった。CM(シーエム)にも使(つか)われていた(きょく)で、(せつ)ないながらも()かせどころでは躍動(やくどう)(かん)()ちている。()ちあがった私たちは喝采(かっさい)(おく)った。(つづ)十四(じゅうよん)曲目(きょくめ)もダンサブルなCM(シーエム)(きょく)で、私も(ほか)観客(かんきゃく)大満足(だいまんぞく)だ。やがて、連続(れんぞく)(うた)(つづ)けていた()しの彼女(かのじょ)一息(ひといき)ついて、場内(じょうない)(あか)るくなった。


「ありがとう、すべての客席(きゃくせき)ーー!」


 ()しが私たちに()びかけてくれる。拍手(はくしゅ)(おく)られて、()れていない観客(かんきゃく)だと()(いた)くなっていそうだった。私くらいのベテラン観客(かんきゃく)になると、ライブが()わるまでの()(たた)くペースがわかっているので(なん)ともないのだが。私の周囲(しゅうい)にいる(わか)いギャラリーは大丈夫(だいじょうぶ)かな。


今日(きょう)みたいな()(むか)えられると、もっと(さき)景色(けしき)()たくなります。どうも、ありがとうございました!」


 いよいよライブも終盤(しゅうばん)だ。十五曲目(じゅうごきょくめ)最近(さいきん)のロックナンバーが(うた)われて、()しが()()()()ってくれる。彼女(かのじょ)歌唱(かしょう)(りょく)なら(なん)でも(うた)えるけれど、やっぱり彼女(かのじょ)はロックンローラーなんだなぁと(おも)った。私はロックを(くわ)しく()らない。でも高潔(こうけつ)()しの(たましい)が、(かみ)さまから──(とく)音楽(おんがく)(かみ)さまから──(あい)されて(かたち)づくられたことは確信(かくしん)している。彼女(かのじょ)のハートは十六(じゅうろく)ビートを(きざ)んでいて、そして(ひと)(はげ)しく(あい)するのだ。(とく)に私を!


 十六曲目(じゅうろっきょくめ)、スタジアムで(うた)われるのに相応(ふさわ)しいナンバーが(はじ)まる。またまた私は()()ってもらえて、夢見(ゆめみ)心地(ごこち)としか()いようがない。日常(にちじょう)現実(げんじつ)大変(たいへん)で、私たちの理想(りそう)()(つぶ)されそうなくらい過酷(かこく)なことはわかっている。でも(いま)だけは、私たちは背中(せなか)(はね)()ばして、(そら)(たか)飛翔(ひしょう)するのだ。その(さき)()える景色(けしき)を、私と()しの彼女(かのじょ)(きょう)(ゆう)する。(だれ)理解(りかい)されなくてもいい。とにかくこれは、そういう(ゆめ)(うた)われた(きょく)であった。


 ステージの(まく)()りて、場内(じょうない)(くら)くなる。「え……()わり?」と(わか)いファンが(つぶや)いてたけど、そんなわけはない。私や常連(じょうれん)(きゃく)()しの()()んで、(こま)かく何度(なんど)()(たた)いた。リズミカルな催促(さいそく)拍手(はくしゅ)で、やがて(ふたた)び、(まく)()がる。()ちに()った、アンコールの時間(じかん)だ。


「ありがとー、客席(きゃくせき)ぃーー!」


 十七曲目(じゅうななきょくめ)()しを代表(だいひょう)する最初期(さいしょき)(だい)ヒットナンバーが(はじ)まる。(わか)いファンが悲鳴(ひめい)みたいな歓声(かんせい)をあげていて、私は私で、()しが()()ってくれたことに感動(かんどう)していた。もう実際(じっさい)に、私に()()られたかはどうでもいい。彼女(かのじょ)と私は(あい)()っているのだ。(くち)には()さないから、そこらの人間(にんげん)否定(ひてい)されることもなく、私は(むね)(なか)(あい)(あじ)わい()くしていた。


 十八曲目(じゅうはちきょくめ)自由(じゆう)(れん)(あい)(うた)った(きょく)だ。制限(せいげん)なんてない。私と彼女(かのじょ)(あい)制限(せいげん)があるほうがおかしいのだ。間違(まちが)っているのは()うるさい()(なか)であって、なるべく平和(へいわ)(てき)世界(せかい)()わればいいなぁと私は(おも)う。


 十九曲目(じゅうきゅうきょくめ)最近(さいきん)のロックナンバーで、(あい)する(ひと)とこれからも()きていこうという内容(ないよう)だった。音楽(おんがく)形式(けいしき)(ちが)うけれど、(なん)だか行進曲(こうしんきょく)のようで、私はスーパーマンのテーマを(おも)()こした。今月(こんげつ)、スーパーマンの映画(えいが)上映(じょうえい)されるから()てみようと(おも)う。


本当(ほんとう)に……ありがとうございます」


 ()しはちょっと(なみだ)ぐんでいた。これほど(あたた)かく、観客(かんきゃく)から誕生(バース)(デー)ライブを(いわ)われれば、そうなるよねぇ。ちなみに私も彼女(かのじょ)誕生(たんじょう)()一緒(いっしょ)だ。だから(なん)だという(はなし)だけど、彼女(かのじょ)(たん)(じょう)()()ごせるというのは、やっぱり素敵(すてき)時間(じかん)だった。


今日(きょう)(うた)えなかった(きょく)は、これからのツアーで(うた)います! 最後(さいご)(きょく)です」


 二十曲目(にじゅっきょくめ)はデビューアルバムからで、いわば彼女(かのじょ)というアーティストが、()(たん)(じょう)した()(ねん)になるような(きょく)だった。いつまでも()()ない私とは大違(おおちが)いだ。ミュージシャンにはなれないし、なる()もない。私は私で、自分(じぶん)にできることを(さが)すしかないのだ。そう(おも)わせてくれる、この()最後(さいご)(きょく)であった。私に()()ってくれた……と(おも)うけれど逆光(ぎゃっこう)()にくいなぁ。


最高(さいこう)誕生(たんじょう)()、ありがとう! お元気(げんき)で!」


 緞帳(どんちょう)()りるまで、私に、そして観客(かんきゃく)全員(ぜんいん)()けて()しは()()(つづ)けてくれた。私たちは()()ったり拍手(はくしゅ)をしたりして(おう)じる。ライブが()わって、私たち観客(かんきゃく)帰途(きと)()いた。会場(かいじょう)()てから確認(かくにん)すると、ライブは()時間(じかん)(はん)ほどだったらしい。最近(さいきん)のハリウッド映画(えいが)くらいの(なが)さで(じつ)()かった。「すごかったねー」、「また()ようねー」というファンの(こえ)()こえてきて、それが自分(じぶん)のことのように(ほこ)らしい。


「ビール、ビール、いかがっすかー」


 (そと)(くら)くなっていて、まだ屋台(やたい)からはビールを()(こえ)()こえてきてビックリする。この(あつ)(なか)、ずっと()()みを(つづ)けていたのだろうか。(なつ)はコーラやビールが()れる季節(きせつ)で、これが(いも)焼酎(じょうちゅう)では上手(うま)くいかなさそうだ。コーラなら()っても()かったけど、会場(かいじょう)()った()みものが(のこ)っていたので私は屋台(やたい)をスルーした。


 一人(ひとり)で私はファミレスへ()って、簡単(かんたん)夕食(ゆうしょく)()ませる。そして、(だれ)()っていない()まいへと(もど)った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ