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推(お)しのライブは夏の輝(かがや)き!・前編

 (むらさき)照明(しょうめい)が、ステージ中央(ちゅうおう)(あらわ)れた彼女(かのじょ)()らす。一曲目(いっきょくめ)月夜(つきよ)幻想曲(げんそうきょく)といった、そんな雰囲気(ふんいき)曲目(ナンバー)だ。緞帳(どんちょう)()がって、彼女(かのじょ)とバンドメンバーが()てきた瞬間(しゅんかん)、さりげなく彼女(かのじょ)が私に()()ったのを私は見逃(みのが)さなかった。よくあるパフォーマンスに()ぎない? 私に()けて()ったとは(かぎ)らない? いいえ、(ちが)います! あれは私に()けた(あい)なのだ。まあ(だれ)()うつもりもないし、反対(はんたい)意見(いけん)には()()わない。(きょく)途中(とちゅう)にも()()ってくれて、彼女(かのじょ)(いろ)んな方向(ほうこう)()()っているので、(おお)くのファンが彼女(かのじょ)から(あい)されていることは(みと)めよう。


 二曲目(にきょくめ)(なつ)(あつか)った作品(さくひん)だ。(いま)時期(じき)にふさわしい選曲(せんきょく)で、彼女(かのじょ)代表(だいひょう)するヒット(きょく)でもある。(なつ)といえば(うみ)(やま)()(ひと)もいるのだろうけど、十代(じゅうだい)ならともかく、二十代(にじゅうだい)(なか)ばを()ぎたインドア()の私には(えん)がない。私の(なつ)は、()しの彼女(かのじょ)(とも)にある。彼女(かのじょ)(なつ)時期(じき)(おお)きなライブをやることが(おお)くて、まして誕生(バース)(デー)ライブとなると数年(すうねん)一度(いちど)のレアイベントだ。私の(なつ)は、そのイベントに参加(さんか)できれば、そこで()わってくれて(かま)わない。最近(さいきん)(あつ)すぎて、(あき)()(どお)しいし。


「私のライブへ、ようこそー!」


 (きょく)終了後(しゅうりょうご)場内(じょうない)(あか)るくなって、()しがマイクでこちらへ()びかけた。私を(ふく)めて、(きゃく)(せき)から拍手(はくしゅ)()きあがる。すごい拍手(はくしゅ)で、それが一回(いっかい)ではなく、二回(にかい)連続(れんぞく)()きた。ライブ(しゅう)(ばん)ならともかく、まだ(はじ)まったばかりなのに。こんなに彼女(かのじょ)(あい)されているのかと、圧倒(あっとう)される(おも)いだ。


「すごいね……」、「こんなに(あい)されてるんだ……」


 私の周囲(しゅうい)(わか)(きゃく)が、ざわついている。私と(おな)感想(かんそう)で、でも私は結構(けっこう)()しのライブには何度(なんど)出向(でむ)いているのだ。それなりに()しを(かず)(おお)()てきた私でさえ、こんなにすごい拍手(はくしゅ)はちょっと(ひさ)しぶりだった。周年(しゅうねん)誕生(バース)(デー)ライブとは、それほどのイベントなのだろう。


終演(しゅうえん)時間(じかん)()まってて、()ばせないんで。どんどん、(うた)っていきます!」


 拍手(はくしゅ)()()るように、()しが(きゃく)(わら)わせてから再度(さいど)場内(じょうない)(くら)くなる。カラフルな照明(しょうめい)(なか)(さん)曲目(きょくめ)(はじ)まった。十代(じゅうだい)青春(せいしゅん)時代(じだい)(うた)った(きょく)だ。私にもあって彼女(かのじょ)にも、そして(だれ)にでもあった(わか)日々(ひび)交流(こうりゅう)彼女(かのじょ)にはどんな(おも)いがあったのだろうか。四曲目(よんきょくめ)はドラマでも使(つか)われた(ふゆ)(きょく)で、()んだ空気感(くうきかん)のあるバラードであった。


「ファンからも、メンバーからも私は(あい)されてまーす」


 (きょく)()わって、(あか)るくなった場内(じょうない)()しがバンドメンバーを紹介(しょうかい)する。MC(エムシー)のたびに(あか)るく()()()()とした空気(くうき)になるのが、また彼女(かのじょ)魅力(みりょく)だけど。メンバー紹介(しょうかい)正直(しょうじき)、あまり興味(きょうみ)がなかった。私の()しは彼女(かのじょ)であって、その()にはどうにも私の(あい)()かわないのだ。一途(いちず)なのだと、むしろ評価(ひょうか)してほしい。私が(かれ)全員(ぜんいん)(あい)したら、それはそれで(ただ)れたことになってしまう()がする。


 五曲目(ごきょくめ)(はじ)まって、童謡(どうよう)チックなラブソングが(うた)われる。幸福(こうふく)そのものといった歌詞(かし)で、むしろ(つら)現実(げんじつ)()()るために()かれた作品(さくひん)ではないか。私のような(いん)キャのためにできた(がっ)(きょく)のような()さえする。うん、いい(きょく)だ。


 六曲目(ろっきょくめ)もラブソングで、この(きょく)(しゅう)(ろく)されたアルバムはかなり()れたはずだ。(きょく)最初(さいしょ)途中(とちゅう)で、私に()けて()しが()()ってくれる。うん、間違(まちが)いない! あれは私に()()ってくれたのだ! 全身(ぜんしん)()ねあがって、子犬(こいぬ)みたいに自分(じぶん)がシッポを()っている姿(すがた)幻視(げんし)する。


(みな)さん、お(すわ)りください。水分(すいぶん)補給(ほきゅう)もしててね」


 (きょく)()わって、()しが私たちに指示(しじ)をする。一斉(いっせい)(ちゃく)(せき)して、私は()っていたペットボトルに(くち)()けた。ライブ(ちゅう)はなかなか、(みず)()機会(きかい)がないからありがたい。七曲目(ななきょくめ)新曲(しんきょく)で、しっとりとしたバラードだ。この(きょく)はライブで私たちを(すわ)らせ、(やす)ませるために(つく)られたのではないかとさえ(おも)ってしまう。


 八曲目(はちきょくめ)初期(しょき)代表(だいひょう)(きょく)で、もの(がな)しくもポップなバラードだった。また(きゃく)総立(そうだ)ちになって、私も()ちあがる。充分(じゅうぶん)水分(すいぶん)補給(ほきゅう)できたから、みんな(げん)()であった。


 九曲目(きゅうきょくめ)(きょく)最初(さいしょ)()しが私に()()ってくれた……と(おも)うけれど自信(じしん)がない。私の二階(にかい)(せき)からは()くステージが()えたけど、たまにステージからの照明(しょうめい)逆光(ぎゃっこう)になって、()しの姿(すがた)()えなくなるのだ。(はし)(せき)だからかもしれない。正面(しょうめん)(せき)なら、こんなことにならないのではないか。青春(せいしゅん)時代(じだい)(なが)(よる)(うた)われた(あと)照明(しょうめい)()ちて、(かん)(きゃく)(ちゃく)(せき)する。これから(はじ)まるのは、バンドメンバーと()しのトークコーナーだ。




 毎年(まいとし)()しのライブに参加(さんか)していればわかる。()しはとにかく、おしゃべりが()きで、(かなら)ずと()っていいほどトークコーナーを(もう)けるのが(つね)だった。そういえば全体(ぜんたい)(てき)に、(きょく)のテンポは(はや)かったのではないか。()いて(うた)って、ライブ中盤(ちゅうばん)でおしゃべりする時間(じかん)確保(かくほ)したのだろう。


 ちょっと時間(じかん)をかけて、ステージ中央(ちゅうおう)にトーク番組(ばんぐみ)みたいな(せき)(つく)られる。照明(しょうめい)がついて、()しがトーク(せき)(すわ)っていた。この(あと)で、バンドメンバーの(だれ)かと彼女(かのじょ)がトークをする、というのがいつもの(なが)れなのだけど。しかし今日(きょう)は、いつもとは(ちが)うのだ。


「ハッピーバースデー・トゥー・ユー♪ ハッピーバースデー・トゥー・ユー♪」


 バンドメンバーが演奏(えんそう)しながら、バースデーソングを(うた)いだす。スタッフがケーキを()しの(まえ)()ってきて、彼女(かのじょ)(おどろ)いていたけど、私たち(かん)(きゃく)大半(たいはん)はこの展開(てんかい)予想(よそう)していたと(おも)う。彼女(かのじょ)(かん)(きゃく)からも、スタッフからもバンドメンバーからも(あい)されている。そんな彼女(かのじょ)だから、私は()しを(さい)(あい)(ひと)としているのだ。


「ケーキ、ありがとう……、でも、(いま)()べられないね」


 ()しが(わら)って、ひとまずケーキは(ふたた)び、スタッフが()()っていった。どんなケーキなんだろうか、ちょっと()たかった。オペラグラスでも()ってくれば()かったかな。(あと)でブログとかで、()しがケーキの写真(しゃしん)をアップしてくれるよう(ねが)おう。


 ()しとバンドメンバーのトークが(はじ)まって、今年(ことし)(せん)()(はち)十年(じゅうねん)昭和(しょうわ)()えば百年(ひゃくねん)()たるという(はなし)があった。そうか、今年(ことし)(ひと)つの、時代(じだい)区切(くぎ)りなのか。来年(らいねん)がガウディの没後(ぼつご)百年(ひゃくねん)だということを私は(なん)となく(おも)()した。


 百年(ひゃくねん)一度(いちど)存在(そんざい)というものがあるとすれば、それはきっと()しなのだろう。彼女(かのじょ)より()れているアーティストはいるけど、そんなことは関係(かんけい)なかった。彼女(かのじょ)は私にとっての最高(マスター)傑作(ピース)なのだ。彼女(かのじょ)には価値(かち)があって、それは(けっ)して、数字(すうじ)では(あらわ)せないものだと(しん)じている。私には彼女(かのじょ)価値(かち)がわかるし、その価値(かち)他人(たにん)理解(りかい)されなくても(かま)わない。


 トークコーナーが()わって、中央(ちゅうおう)(せき)(かた)づけられる。(ふたた)び、()しの(うた)(はじ)まった。

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