プロローグ
神さまが創った最高傑作。それが彼女だ。大げさだとは思わない。誰が何と言おうと、推しである彼女は私にとって、そういう存在だった。
今は七月で、そして今日は彼女の誕生日ライブが行われる。ハチ公がいる都内の駅で降りて、私は会場へと歩いていた。時刻は午後五時で、ライブが始まるのは六時だから余裕をもって間に合うはずだ。迷子にならなければ。
この辺りには普段、まったく立ち寄らないので、私には土地勘がない。今年になって駅の工事で、ハチ公改札が移設されたものだから、なおさら迷子になりそうだった。駅周辺の工事はサグラダ・ファミリアみたいに今も続いていて、全体像の完成は渋谷駅のほうが後である。
ライブ会場までの坂道を歩きながら、来年には完成すると発表されたサグラダ・ファミリアのことを考える。ずっと昔に亡くなったガウディの最高傑作。きっと彼は、未完となった自分の建造物を愛していたのだろう。私が、最高傑作である彼女を愛しているのと同じように。
二〇二六年はガウディの没後から百年だそうで、海外に行ったこともない私は正直、そこまで興味もないけれど。それでも一世紀以上をかけて、情熱が引き継がれ作品が具現化したことには感銘を受けていた。きっと神さまも情熱的な愛をもって、世界や人間を創造したのだろう。
推しの彼女は、そんな神さまが最大の愛をもって創り、世に生をもって送り出されてきたのではないか。そう私は信じていて、でも周囲に話したりはしない。宗教論争は避けたいので。彼女の素晴らしさは、可能なら私だけが知っていればいいとさえ思っている。
だから彼女の名前も年齢も、私は誰にも教えたくない。私と彼女は同年代で、二十代の女性であるとだけ言っておこう。男性からも、私のような女性からも愛されているロックンローラー。これから語るのは、この夏に私が体験した、推しの誕生日ライブ。そのレポートである。