ドワーフの誓いと、反撃の狼煙
「……よかろう、人間。お前たちの力を、見させてもらおう」
ドワーフの長老の言葉は、この薄暗い隠れ里に、確かな希望の光を灯した。
猜疑心と絶望に沈んでいたドワーフたちの目に、ほんのわずかだが、闘志の色が戻り始めていた。
翌日から、俺たち柳瀬組と、ドワーフの生き残りたちは、まるで一つの「組」のように動き始めた。
まずは、互いの手の内を晒し、戦力を把握することからだ。
ドワーフたちは、数は少ないながらも、一人一人が屈強な戦士だった。特に、案内役だったバルガンと名乗る古参の戦士は、巨大な戦鎚を軽々と振り回し、その威力は岩をも砕くほどだ。若いドワーフたちも、生まれながらの職人気質なのか、罠の設置や、地形を利用した戦術に長けていやがった。
「組長、こいつは頼もしい味方になりやすぜ!」
ゴードンは、ドワーフの戦士たちと手合わせをしながら、興奮したように言った。
ベイルも、ドワーフの鍛冶場に目を輝かせ、早速、現地の職人たちと槌を交わし始めた。言葉は通じねえ部分もあるが、職人同士、鉄を打つ音と、互いの技術で通じ合っているようだった。
「こいつらの鉱石の知識と、俺の『喧嘩道具』のアイデアを組み合わせりゃ、とんでもねえモンが出来上がるかもしれねえぜ……!」
ベイルの目は、獲物を見つけた獣みてえにギラついている。
ミリアは、長老や他の女ドワーフたちと話し込み、ドワーフの伝承や、「魂の契約」について、さらに詳しい情報を集めていた。
「虎之介さん、やはり『黄昏の蛇』は、ドワーフの魂を特殊な鉱石に封じ込め、それを『龍脈の楔』の核として使おうとしているようです。そして、その儀式は、三日月の夜に、鉱山の最深部にある『大地の祭壇』で行われる、と……」
三日月の夜。残された時間は、あと数日しかねえ。
俺は、集まった情報と、俺たちの戦力を吟味し、最初の作戦を練り上げた。
「いいか、俺たちの最初の目標は二つ。一つは、『大地の祭壇』で行われる『魂喰いの儀式』を阻止し、これ以上ドワーフの魂が穢されるのを防ぐこと。もう一つは、強制労働させられているドワーフたちを解放し、俺たちの戦力を増強することだ」
ヤクザの抗争でも、まずは敵の資金源を断ち、味方を増やすのが定石だ。
「鬼神の玄武とやらがどれほどの化け物か知らねえが、いきなり大将首を狙っても、返り討ちに遭うのがオチだ。まずは、奴の手足を削ぎ、じわじわと追い詰めていく」
「作戦はこうだ」
俺は、ドワーフたちが描いた鉱山の見取り図を指差した。
「ゴードンと、バルガン率いるドワーフの精鋭部隊が、鉱山の労働地区に潜入し、監視の『鬼瓦』どもを無力化する。そして、強制労働させられているドワーフたちを扇動し、一斉蜂起させるんだ。武器は、ベイルとドワーフの職人たちが、あり合わせの材料で急造する」
「へい! お任せを!」
「ドワーフの怒り、見せてやるわ!」
ゴードンとバルガンが、力強く応える。
「その間に、俺とミリア、そしてベイルは、鉱山の最深部、『大地の祭壇』へ向かう。目的は、儀式の阻止と、そこにいるであろう『黄昏の蛇』の術者どもの排除だ」
「組長、そいつは危険ですぜ! 奴らの魔法は、ただのチンピラとは訳が違いやす!」
ゴードンが心配そうに言う。
「分かってる。だからこそ、ミリアの力が必要だ。それに、ベイルには、とっておきの『対魔法兵器』を期待してるぜ」
俺がそう言うと、ベイルはニヤリと笑った。
「へっ、任せとけ。ドワーフの知恵と俺の悪知恵で、奴らの度肝を抜くようなモンを仕込んでやる」
「儀式を阻止し、ドワーフたちを解放できれば、鉱山は大混乱に陥る。その混乱に乗じて、俺たちは一時撤退。その後、解放されたドワーフたちをまとめ上げ、本格的に神嶺組と玄武を叩き潰す。これが、俺たちの反撃の狼煙だ」
俺の作戦に、ドワーフたちは静かに、しかし熱い闘志を燃やしていた。
彼らにとって、これは単なる戦いじゃねえ。奪われた誇りと、同胞の魂を取り戻すための、聖戦なのだ。
そして俺にとっても、これはただのシノギじゃねえ。氷川への復讐と、この異世界での俺自身の「ケジメ」をつけるための、重要な一歩になる。
作戦決行は、三日後の三日月の夜。
それまでの間、俺たちは文字通り不眠不休で準備を進めた。
ゴードンとバルガンは、鉱山の潜入ルートを徹底的に洗い出し、ドワーフの戦士たちは、ベイルの指導の下、あり合わせの農具や工具を改造して武器を作り上げていく。
ミリアは、鉱山全体の気の流れを読み解き、祭壇の正確な位置と、そこに張られているであろう結界の種類を特定しようと集中していた。彼女の額には汗が滲み、時折、苦しげな表情を浮かべることもあったが、決して弱音は吐かなかった。オフクロのお守りが、彼女の精神的な支えになっているようだった。
そして俺は、ドワーフの長老や戦士たちと、夜ごと酒を酌み交わし(ドワーフの酒は、とんでもなく強烈だったが)、彼らの覚悟と、俺たちへの信頼を確かめ合った。
言葉や文化は違えど、腹を割って話せば、分かり合えねえことなんてねえ。ヤクザの世界も、この異世界も、そこは同じかもしれねえな。
決戦前夜。
隠れ里の広場には、武装したドワーフの戦士たちと、俺たち柳瀬組のメンバーが集まっていた。
松明の明かりが、彼らの険しい顔と、ギラつく武器を照らし出している。
俺は、その中央に立ち、最後の檄を飛ばした。
「いいか、野郎ども! 明日の夜、俺たちは、クソみてえな神嶺組と、気色の悪ぃ蛇野郎どもに、本当の地獄を見せてやる! 奪われたもんは、力づくで奪い返す! それが、俺たちドワーフと、柳瀬組のやり方だ! 震えが止まらねえような、デカい花火を打ち上げてやろうぜ!」
「「「オオオオオオッ!!」」」
ドワーフたちの雄叫びが、夜の山々に木霊した。
その力強い声を聞きながら、俺は、ベイルが新たに打ってくれた、ドワーフ鋼と俺の鉈の技術を融合させた、漆黒の戦斧を握りしめた。
こいつで、氷川への道を切り開く。
そして、このドワーフ・マウンテンに、柳瀬組の新たなシマを築き上げてやる。
明日の夜が、楽しみで仕方がなかった。




