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最初の客の動向と、新たな火種

酒場を出てミリアの家に戻ると、あいつは心配そうな顔で俺を迎えた。

「虎之介さん、顔色が悪いですよ。どこかお加減でも……?」

「いや、何でもねえ。ちょっと野暮用を済ませてきただけだ」


俺はそう言って、ゴードンから巻き上げた(いや、まだ借りてるだけか)借用書を懐にしまい込む。この純粋そうな獣耳娘に、俺がやってる裏稼業のことを話す気はさらさらねえ。利用できるうちは利用させてもらうが、深入りは禁物だ。


「それよりミリア、この村で何か仕事みてえなもんはねえのか? いつまでも世話になってるわけにもいかねえんでな」

「お仕事ですか……。虎之介さんは何かできることがあるんですか?」

「まあ、人並みには何でもできるつもりだが……。力仕事でも何でも、日銭が稼げるなら文句は言わねえ」


本当は、こんなちまちました仕事で日銭を稼ぐなんざ性に合わねえ。だが、今はまだ元手が少ねえし、この村での信用もねえ。それに、表向きの顔があった方が、裏の仕事もやりやすいってもんだ。


ミリアは少し考え込んだ後、パン、と手を叩いた。

「それなら、少し先の森で薬草を採ってくる仕事がありますよ! 腕の立つ人なら、結構な稼ぎになるって聞きました。ただ、森には魔物も出るので危ないんですけど……」


薬草採りねえ。魔物退治のおまけつきか。

悪くねえかもしれねえ。体力づくりにもなるし、この世界の「魔物」ってやつがどんなもんなのか、見ておくのもいいだろう。それに、薬草ってのは、やり方次第じゃ金になりそうだ。


「分かった。明日からその薬草採りとやらに行ってみるか」

「本当ですか!? でも、無理はしないでくださいね!」


ミリアは嬉しそうにそう言った。こいつは本当に人がいい。この世界にも、こういう汚れを知らねえ人間がいるんだな。……まあ、俺とは住む世界が違うが。


翌日から、俺はミリアに教えられた森へ薬草採りに出かけるようになった。

最初は勝手が分からず苦労したが、持ち前の勘の良さと、ヤクザ稼業で培った危険察知能力で、魔物とやらに出くわしても何とか切り抜けることができた。ゴブリンだの、デカい狼だの、前の世界じゃお目にかかれねえ連中ばかりだったが、所詮は獣だ。気合で脅せば、大抵は逃げていく。


薬草は村のまとめ役みてえな爺さんに買い取ってもらえた。たいした額にはならねえが、それでも日々の食い扶持くらいにはなる。それに、森を歩き回ることで、村の地理や人の動きも少しずつ見えてきた。


さて、肝心のゴードンだが、あいつは俺から借りた銅貨20枚を握りしめて、案の定、その日のうちに村唯一の賭場(といっても、農家の納屋でやってるようなチンケなもんだが)に消えていったらしい。

酒場のマスターから、そんな噂を耳にした。


「ありゃあ、もうダメだな。虎之介の旦那も、貸す相手を間違えたんじゃねえか?」

マスターはニヤニヤしながらそう言ったが、俺は別にどうとも思わなかった。


「まあ、見物だな。どんな手品で金を返してくれるのか、楽しみにしてるぜ」

俺はそう嘯いた。


貸した金の行方を追うのは闇金の基本だ。

数日後、俺はそれとなくゴードンの様子を窺ってみた。

案の定、賭場でスッカラカンになったらしく、やつは以前にも増して陰気な顔で村のはずれをうろついていた。見るからに追い詰められた顔だ。


「おい、ゴードン」

俺が声をかけると、ゴードンはビクリと肩を震わせ、怯えた目で俺を見た。

「な、なんだ……?」

「なんだじゃねえだろう。返済の期限、覚えてるか?」

「……あ、ああ。もちろんだ」

「ならいい。せいぜい頑張って金策に励むんだな」


俺はそれだけ言うと、ゴードンを置いて立ち去った。

今のところ、直接的な脅しは必要ねえ。精神的に追い詰めていく方が、こういうタイプには効果的だ。


返済期限まであと3日と迫った日、村でちょっとした騒ぎが起きた。

村の有力者の一人である農場主の家から、鶏が数羽盗まれたらしい。

大した被害額じゃねえだろうが、食い物の恨みは怖い。村の連中は犯人探しで色めき立っていた。


「物騒な世の中になったもんだな」

酒場のマスターがため息をつく。


俺はその話を聞きながら、ふと、ゴードンのやつれた顔を思い出した。

まさかとは思うが……。

追い詰められた人間は、何をしでかすか分からねえ。


もし、ゴードンがその鶏泥棒の犯人だったとしたら?

それはそれで、俺にとっては面白い展開になるかもしれねえ。

取り立てのネタは、多ければ多いほどいいんでな。


俺は薄く笑みを浮かべながら、安酒を呷った。

ゴードンへの貸し付けは、ほんの始まりに過ぎねえ。

この寂れた村で、俺の「柳瀬金融」は、これからもっと大きな獲物を釣り上げてやるつもりだ。


そして、返済期限の日が、刻一刻と近づいていた。

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