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反撃の狼煙と、最初の標的

ミリアの家での話し合いは、夜明けの光が部屋に差し込む頃まで続いた。

俺たち三人は、これからの戦いに向けて、頭を突き合わせて知恵を絞った。


「まず、現状を整理しよう。敵は神嶺組。奴らは次元の裂け目とやらを使ってこの世界と元の世界を行き来し、この世界の資源を狙っている。指揮官クラスには、橘馬頭という若造がいる。そして、奴らは俺のことも知っている」

俺が指を折りながら確認すると、ミリアとゴードンは神妙な顔で頷いた。


「問題は、奴らの具体的な拠点や、その次元の裂け目の場所が分からねえことだ。ミリア、何か心当たりはねえか?」

俺が尋ねると、ミリアは少し考え込んだ後、口を開いた。

「次元の裂け目は、力の流れが不安定な場所に現れやすいと言われています。フィラル村の近くでは、あの廃坑以外には、大きな裂け目が出現したという話は聞いていません。ですが、もっと広範囲に探せば……あるいは、神嶺組が意図的に裂け目を開く方法を持っている可能性も否定できません」


意図的に裂け目を開く。もしそんなことが可能なら、奴らはどこにでも現れることができるってことか。厄介極まりねえ。


「『黄昏の蛇』の連中からは、何か聞き出せそうか? あいつら、神嶺組と敵対してたみてえだし、何か情報を持ってるかもしれねえ」

「……彼らは、すでにこの地の精霊たちの手で浄化され、その魂は安息の地へ送られました。直接話を聞くことは、もうできません。ただ……」

ミリアは少し言い淀んだ。

「彼らが持っていた持ち物の中に、何か手がかりが残っているかもしれません。後で調べてみましょう」


「そうか。まあ、死人に口なし、か。だが、手がかりがあるならそれに越したことはねえ」

次に、俺たちの戦力についてだ。

元ヤクザの俺、元冒険者崩れのゴードン、そして森の守り手のミリア。悪くねえ組み合わせだが、相手は巨大組織だ。まともにぶつかれば、勝ち目は薄い。


「仲間が必要だな。ミリア、お前の『森の民』の仲間とか、他に神嶺組に反感を持ってるような連中はいないのか?」

「私の同胞は、各地に散らばっています。連絡を取るには時間がかかりますし、彼らがすぐに虎之介さんたちを信用してくれるか……。他の勢力となると、この辺りでは大きな力を持つ集団は……あまり聞きません。皆、日々の暮らしで精一杯というのが現状です」


ミリアの言葉は、この世界の厳しさを物語っていた。

そう簡単にはいかねえか。だが、諦めるわけにはいかねえ。


「なら、まずは情報収集と、俺たちの力を示すことから始めるしかねえな。神嶺組の連中がどこで何をしてるのか、その尻尾を掴む。そして、奴らにとって俺たちがどれだけ厄介な存在なのか、思い知らせてやるんだ」

俺の言葉に、ゴードンの目に闘志が宿る。

「へい! 旦那の言う通りでさぁ!」


「具体的にどうするんだ、旦那?」

ゴードンの問いに、俺はニヤリと笑った。

「闇金だよ。俺の本業を忘れてもらっちゃ困る」

「「闇金……?」」

ミリアとゴードンが、きょとんとした顔で俺を見る。


「どんな世界だろうと、金の流れがあるところには情報が集まる。そして、金に困ってる奴は、どんな危ねえ話にだって食いついてくるもんだ。俺たちは、闇金業を通じて、神嶺組に繋がる情報を集める。あるいは、神嶺組のシノギを邪魔して、奴らを苛立たせる」

俺のヤクザ稼業で培ったノウハウは、この異世界でも通用するはずだ。

それに、戦うにしても軍資金は必要だ。闇金は、その両方を満たすことができる。


「それと並行して、ゴードン、お前には引き続き村や近隣の町のチンピラどもから情報を集めてもらう。神嶺組の息のかかった奴がいないか、怪しい動きをしている奴がいないか、どんな些細なことでもいい」

「へい! お任せくだせえ!」


「ミリア、お前には『黄昏の蛇』の残した手がかりの調査と、お前の『守り手』としての知識で、神嶺組が狙いそうな場所や、奴らの弱点になりそうなものがないか探ってもらう。それから、魔法の訓練もだ。いざという時、お前の力は最大の武器になる」

「はい、分かりました! 私も、もっと強くならなければ……!」

ミリアも、決意を新たにしたようだ。


「そして、俺たちの最初の標的だが……」

俺は、ゴードンが以前持ってきたいくつかの情報を思い返していた。

鍛冶屋の借金話、そして、廃坑以外にもあるかもしれねえ、神嶺組が関わっていそうなきな臭い噂。


「まずは、あの廃坑の近くで目撃された、神嶺組とは別の『見慣れない商人風の一団』とやらを洗ってみるか。奴らが何を運んでいたのか、どこへ向かったのか。あるいは、神嶺組と裏で繋がっている可能性もある」

あの廃坑での一件で、橘の奴らは「黄昏の蛇」と「実験体」の始末に来たように見えた。だが、それだけが目的だったのか? もしかすると、別の何かを狙っていたのかもしれねえ。商人風の一団が、その何かを運び出した後だったとしたら?


「ゴードン、その商人風の一団について、もっと詳しい情報を集められるか? 目撃された場所、時間、人数、荷物の特徴、何でもいい」

「へい! 酒場のマスターや、顔の利くチンピラ共に聞いてみやす!」


「よし、方針は決まったな。俺たちは、三つの方向から神嶺組の尻尾を掴みにかかる。情報収集、戦力増強、そして、奴らの懐を脅かす揺さぶりだ」

俺は立ち上がり、窓の外に広がる、まだ夜明けの気配を残す空を見据えた。

「神嶺組の連中に、俺たちを舐めてるとどうなるか、きっちり教えてやる。柳瀬虎之介の、異世界での本当の『取り立て』の始まりだぜ」


俺の言葉に、ゴードンとミリアも力強く頷いた。

元ヤクザ、元冒険者崩れ、森の守り手。

寄せ集めのチームだが、不思議と負ける気はしなかった。

むしろ、この異世界で、かつてないほどの大きなヤマに挑む高揚感が、俺の全身を駆け巡っていた。


まず手始めに、ゴードンが掴んでくる商人風の一団の情報。

そいつらが、俺たちの反撃の狼煙を上げる、最初の標的になるかもしれねえな。

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