薔薇と西日
新しい舞台。
集中するには、この気持ちに終止符を打たねばと思った。
でも、どうするのが良いのだろう。
「えー?うーん……素直に伝えたらいいんじゃない?」
「貴女に聞いた僕が馬鹿でした」
「待って待ってごめんって!」
平は笑っていたのを真面目な顔にして、少し考えていた。
「僕は、言葉にするのが苦手なので」
「そうだな…………言葉にいちばん詳しい子が、この後来るからさ。蓮くんのお悩み聞いてあげるように言っとくよ」
嫌な予感しかしないが、とりあえずは待ってみることにするか。
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「んで?蓮くんは俺に相談があるんだろう?」
やっぱり。
粋な計らいではあるんだろうが。
何故この気持ちの矛先である人に相談させようとするんだ。
「……千雨さんは、「好き」って、どう伝えるのが正解だと思います?」
「……それは、どっちだい?友情?恋慕?」
佐沼は、表情一つ変えず、でも真剣な声でそう言った。
「後者です」
「……まあ、そうだね……」
佐沼は、少し考えて、口を開いた。
「……夏目漱石を知っているかい」
「え?」
頷くと、佐沼は言った。
「夏目漱石の、有名な告白の文言を知っているかい」
「……【月が綺麗ですね】ですよね」
馬鹿にされているのかと思った。
でも、どうやら違ったらしい。
「俺はこれが嫌いでね」
「えっ?」
僕は、この表現を美しいと思っていたから、拍子抜けした。
文豪の著した愛情表現を、叩き落とした佐沼は、続けた。
「どうも回りくどくて。思った通りを伝えればいい。裏切られる覚悟でね。」
それこそ、恋慕の先の物だ。
佐沼の赤い瞳が、鈍く光る。
西日のせいか佐沼の赤い目の光だけが、薄暗い夕時で目立っていた。
この人は、どこまでも文学者なのだろう。
「……好きです」
「僕は、貴女のことが、好きです」