竜胆と期待
淡い期待。
でも、小心者な僕には、伝えることは出来ない。
いつかは伝えなければ。
この舞台が終われば、もう関わりは無いのだから。
僕の悩みを知ってか知らずか、旅好きな知り合いの役者が、僕に連絡をとってきた。
「確かカエルさんてこの脚本家さん好きだったよね」
という文言とともに送られてきたのは、確かに千雨の脚本の舞台だ。
しかも、キャストには白井、祭城の名前もある。
演出家は平だ。
そして、この間、澪央斗から人手不足だからと手伝いを頼まれた舞台もこれだったと納得した。
どうやら、まだ諦めさせてはくれないらしい。
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犬山学人。
福岡の俺の実家にいきなりやってきて花見に電撃参加してきたりする、コミュ力お化けの行動力お化け。
演者のひとり。
演技力などはプロなのだから言うまでもないが、
飄々と、なんでもこなす実力派役者。今回は、
【隠し事がある外科医】の役。
しかもフィナーレ以外は顔を隠している。
かなり難しい役回り。
彼がどう演じてくるのか、それは俺にも予測不可能だ。
「楽しみだね」
蛙鳴もスタッフで参加すると聞いて、より楽しみになった。
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読み合わせ時。
犬山の演技、というか読み方は、他の役者の非でも無かった。
ただ読んでいるだけなのに、何故こうも、キャラクターのイメージができるのか。
「流石ですね、犬山くん」
「そうでしょうそうでしょう。どやぁ」
「口で言う人初めて見ましたよ」
演者の中でも頭ひとつ抜けた、実力派。
白井も祭城も、驚いていた。
こんな人が、俺の友人にいたとは。
すごいね、負けないようにしなきゃ。
「負けないように、?」
「うん。勝てはしないけど、負けないようにすることは出来るからね」
「頑張りましょう!」
頼もしい役者たち。
この間の舞台で上がった信頼。
期待。
俺にとってはちょうどいいプレッシャー。
上手いことやってやる。