エリンジウムとお酒
結果的に言うと、舞台は大成功だった。
公演後のアンケートには、
「またやって欲しい」
「素晴らしい物語だった」
「物語も演者も素晴らしかった」
と絶賛の声が多数上がった。
佐沼も当日は観客として舞台を見ていた。照明をしながら、フィナーレに拍手を贈る佐沼の口元が、緩んでいるのが見えた気がした。
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片付け等が落ち着いて、裏方スタッフも混じえた打ち上げという名の飲み会が始まった。
勿論平が一番飲んでいた。
僕はサワーをちびちびやるだけ。
佐沼と祭城はソフトドリンクで、白井はビールをたくさん飲んでいる。
「……千雨さんは、お酒苦手なんですか?」
「まあね〜……弱いのもあるけど」
そういえば、僕の同僚はどこに行ったのだろう。
証明スタッフの。
周囲をきょろきょろと見渡していると、佐沼が自身の後方を指さした。
後ろの席に、一人で静かに日本酒を飲んでいる照明スタッフの来栖澪央斗が居た。
「澪央斗」
「あ、カエルさんだ」
蛙鳴だからか、多くのスタッフは僕をカエルと呼ぶ。
まあ、カエルは好きだから別にいいんだけれど。
「いや〜大物新人脚本家の舞台、成功してよかった」
澪央斗は、肩の荷がおりたとでも言うように肩を回した。
「カエルさんも佐沼さんの脚本好きなんでしょ?」
と話題を僕に振ってくる。
「まあ、そうですね。僕は、」
「俺の話?」
佐沼がいつの間にか僕の真後ろに立っていた。
「カエルくんは俺の脚本好きなの?」
「カエルくんて呼ばないでください……」
佐沼は、心無しかにやにやしている。
澪央斗は?を頭にうかべている。ありがとうそのまま純粋でいてくれ。
「ええ。貴女の脚本は好きですよ」
だから敢えて、脚本の方を強調した。
変に言って誤解されるよりはマシだ。
「そっか。嬉しいね」
佐沼そのまま元の席に戻って行った。
「……カエルさん、今のはダメだよ」
澪央斗から睨まれ、なんのことかと思えば、
佐沼は少し、寂しそうに目を伏せていた。