沈丁花と予感
そういえば、この舞台の担当者は、僕の同僚だった気がする。
そして、演者のひとりも、佐沼の友人だとか。
佐沼にとっては身内が多く関わる現場だ。
心置きなく、ダメ出しできるというものだ。
実際、舞台に関わっている間の佐沼は、少し怖い。
目つきが鋭く、射抜くような視線で、じっと舞台を見つめている。
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「サメちゃーん。目ぇ怖いよ(笑)」
「え?」
演者のうちの一人、佐沼の友人でもあり、養姉でもある、白井狐羅々が、揶揄うように佐沼の肩を小突いた。
同じく演者で、佐沼の友人である祭城咲季も、笑いながら佐沼をつついた。
「真剣なだけなんやけどなぁ」
佐沼は困ったように笑った。
「まあ、分からなくもないけどね。」
自分の作品だもん、そりゃ真剣になるよね。
祭城の言葉に、佐沼は深く頷いた。
「自分が生んだキャラクターに相違無いし、何より大切な物語やけんね。大事に演じて貰わんと」
ダメにしたら俺が怒るけんね。
佐沼の冷えきった笑顔に、演者二人と、近くにいた僕まで鳥肌が立った。
この人こんなに怖い人だっけ。
「わかってるよ〜……怖いなぁ」
「私たちなりに頑張ってるんですけど、今のとこどうですか?」
「まあ、君たちなりにキャラクターを解釈して、上手いことやってくれているのは感じるね。あと一歩先に行けたらね……」
あとから聞いた話だが、佐沼は演者経験もあるらしい。
だから演者の二人と、なんの壁もなく話していたのかもしれない。
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限りなく、成功に近いと思う。
キャスティングも、キャストの真面目さも。
身内という忖度なしに、姉と祭城の二人は、演技力、解釈、理解力共にトップクラスの演者だと思う。
今回の舞台はいいものになる。
あと一ヶ月ほどあるが、
これ以上にもっと仕上がると思うとワクワクせずにはいられない。
俺にとっても思い入れの深い作品。
一体どれだけの人が、見に来てくれるだろうか。