ガーベラと姉妹愛
今日も仕事を終え、軽くお酒を買って帰路に着く。
今日はあの人がやってくる日だ。
次の日が休みの日に、あの人は、「お姉ちゃんなので!」と理由をつけて僕と晩酌をしにやってくる。
家の扉を開け、不審に思った。
ヒールの靴が置いてある。
……確かに合鍵は渡したが。
「夢月さん!先に飲んでるとか聞いてないですよ!」
「いいじゃーん……お姉ちゃんなんだもの……おかえりぃ」
既に泥酔した、赤茶の髪を垂らした眼鏡の女性が、机に突っ伏していた。
机の上にはお酒の缶が散乱している。
この人が我らが演出家とは聞いて呆れる。
「あの、少しいいですか。」
以前、僕と佐沼が初対面の時、気になったことがあった。
「ん〜?にゃにー?」
「佐沼千雨さんと、知り合いですか?」
「さぬま、……あ〜サメちゃんか!」
確かに佐沼はそう呼ばれている。
「ぼくのおともだちだよ〜」
「ともだち、ですか」
彼女は脚本家だから、演出家と繋がりがあっても何らおかしなことは無い。
「ん〜あとね〜おともだちはね〜れおととーれんくーん」
「はいはい。僕も入れてくださってありがとうございます」
泥酔しているこの人はどうしようもないと知っているので、とにかく水を用意して、一応は異性なわけだから、どうしたものかと思ってしまう。
「……仕方ない、」
僕の知る中で、唯一の女性。彼女に頼むしかない。
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「……それで、俺が呼ばれたんだね?」
佐沼は、状況を見ただけで把握したらしい。
長年の付き合いだという。
「ほら、夢さんお風呂入ろ」
「え〜やだあ」
「ずっと蓮くんの家にいるわけにもいかないだろう?せめて俺の家においで」
「さめちゃんのいえいくぅ」
と言いつつ机に突っ伏して眠ってしまった。
その様子に二人で苦笑して、佐沼が平を回収して帰っていった。
「……全く……あの人は……」
仕方の無い人だ。一応は上司だと言うのに。
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翌日、平に呼び出された。昨日の詫びだそうだ。
いつもの事だから最早気にしていないのだが。
待ち合わせ場所に行って驚いた。
平と共に佐沼もいたのだ。
「えっ」
「やァ。」
「サメちゃん居た方が蓮くん嬉しいかなって」
どストレートに言い過ぎでは?
「あとサメちゃん夢の国来たことないって言ってたからさっ」
平が、どやぁと効果音が聞こえそうなほど自慢げに胸を張る。
「小学生以来ですけどね、正確には」
「あれ、そうだっけ」
佐沼に苦笑いされ、平は少し気まずそうだった。
平の計らいで、その日一日はテーマパークですごした。
女の勘、と言うやつだろうか。
僕が佐沼に抱いている気持ちを、既に見抜いていたようだった。
「僕応援してるよ」
そう言って笑ってくれた。
なんとも頼もしいお姉ちゃんだ。