向日葵の道
佐沼が小説を描き始めたという話を、担当編集だという男から聞いた。
僕は、少しでも背中を押すことが出来たのだろうか。
あの人はきっと、脚本よりも、もっと一生懸命に、夢中になれるものがある。
それが小説なのだろう。
何となく、舞台裏方がやっていて楽しいからやっている僕とは大違いだ。
きっと彼女は「何となくでここまでこれるはずがない」と怒るだろうが。
実際なんとなくなのだから。
何となく、向いていた。
何となく、努力をするのに苦しくなかった。
仕事なんてそんなものだと思う。
勿論、将来の夢を昔から持っていて、その職につけた人はもっと情熱を持っているだろう。
だけど僕は違う。
学生時代、一度やった裏方の手伝いが、想像以上に楽しかった。
ただそれだけだ。
今の仕事は楽しい。
佐沼を知ることが出来たのも、今の仕事のおかげだと理解している。
僕には僕の、やれることがあって、やるべきことがある。
だから僕は、彼女や、役者が道に迷うことのないように、
スポットライトという名の道標を、与え続ける。
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ある種の挑戦。
脚本家という職を得ている俺が、どこまで小説家として行けるのか。
失敗してもいいとすら思っている。
失敗した方が、簡単に諦められる。
でも、失敗したとしても、きっと俺は追いかけ続ける。
父親の生霊に縛られようとも、きっと俺は諦めることは無いだろう。
それくらい、楽しく、夢見たものだった。
脚本家という職に、満足していなかった訳じゃないんだと思う。
脚本家として成功していたのは本当だし、それなりに楽しかった。
小説家になっても、脚本を続ける道もある。
でも俺はきっと、どちらかひとつを取る。
そしてきっと、小説の方を選ぶ。
我が強くて、我儘な俺だから。
自分の「好き」には貪欲でありたいと思うから。
いつかこの「好き」を、
小説に対する「好き」とは違う、「好き」を、
伝えることが出来るだろうか。