スポットライトは道標
死にたいと思うことは、そんなに悪いことでは無い、と語る横顔は、患っていた時の窶れた面影を少し残しているが、血色は、以前の通りになっていた。
あの日、佐沼から、暴言、と言っていいのか分からないものをぶつけられた日。
その翌日僕が飽きもせず病室を訪れた時、彼女の養姉が彼女の頬を叩いたところだった。
良くも悪くも、感情的で、優しい人なことは僕も理解はしていたが、流石に驚いて、二人の間に入った。
「何してるんですか白井さん!!」
「カエルくん……」
「何を……」
「よかよ、好きなだけ殴ったら良か。それで、白姉の……キララの、気が済むんやったら」
静かな声が、低く呟いた。紛れもなく、僕の大好きな人。姉のことを、下の名前で呼ぶことが何を示すのか、分からないほど僕も馬鹿じゃない。
けれど、この人はそれほどまでに疲れきって、張り付いていた笑みさえ浮かべる余裕もない。
家族さえ、捨て置こうとするほどに。
「佐沼千雨さん」
僕の呼び掛けに、僅かに目を揺らした。聞こえているならばそれでいい。
「貴女は、きっと今は余裕が無いから、僕に八つ当たりをした」
彼女は、特に何も言わなかったが、僅かに眉を寄せた。
「でも、僕は特に気にしていない。だって、僕は貴方の人間らしいところも、全部知っているから」
彼女は、嫌そうに顔を窓の方へと背けた。けれど聞こえてはいるだろうから、考えながら慎重に言葉を紡ぐ。
「僕は、貴女が大切です。僕が大好きな貴女を、他でもない貴女が、否定しないでください。それはきっととても悲しいことだから。」
彼女の肩が震えているのは、見なかったことにした。彼女はきっと、見られることをいやがる。
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いまの彼女は、以前と同じようにとは行かないものの、随分と元気になった。
記者からの質問や、雑誌の読者からの相談に軽快に答えている。
少しだが、素の笑顔を見せてくれる機会も増えた。
とても喜ばしいことだと、素直に思う。
「死にたいと思うことは、そんなに悪いことでは無い、と言いますと?」
「みんな、世界という大きな軸で自分を見すぎなんです。」
自分の人生の軸は、自分であるはずだ。
「一人一人が主役です。脇役なんて居ない。スポットライトが当たる人が主役になり、そのほかが脇役になるのなら、」
俺は、全員にスポットライトを与えたい。
なぜなら、それは、
「どこへ進むべきかを示してくれる、道標だろうから。」




