黒百合
焦燥感、とでも言うのだろうか。
なにかに、追いかけられているかのような感覚。
きっと追いかけられているという事実はないものの、なにかにおわれている感覚が抜けない。
「鬱病ですね」
昔、医者に言われた言葉。
淡白な口調であっさりと告げられたそれは、俺を絶望させるには十分すぎた。
鬱病、というものがあるのは、知っていた。
でも俺のこれは、自己肯定感の低さから来るもので、病気の類ではないと思っていた。
鳥海が連れて行ってくれた病院には、もう長いこと行っていない。
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嫌に息が詰まる。咳が止まらない。昔から患った肺が、心の弱りを感じ取ったのか、定かではないが、少しばかり悪化しているのを感じる。
死ぬのだろうか。
それでも構わない。
自分の中で、要らぬ思考が連なるのを感じる。
死にたいけれど、死にたくない。
矛盾しているが、そうとしか言えない。
生きる気力、希望。それがあるから人は生きられるのだと、改めて実感する。
もう充分だろ。
俺の中で、俺のネガティブな部分がそう告げた。
生きていても仕方ない。もういいだろ。
でも、どうしても俺には死ねない理由がある。
───……彼は、俺がいなくなったらきっと、ダメになってしまうから。
俺の、初めてできた大切な人。
だから。俺は彼を一人にするなんて、絶対にできない。




