蕺と理由
「ごめんね、サメちゃん」
妹は、私が帰ってきたのに今気づいたようで、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でおかえり、と呟いた。
妹の額に触れる。
やっぱりだ。熱い。
「もう寝な、サメちゃん」
「え?」
「熱ある人は寝ててくださーい」
半ば強引に寝室に連れて行って毛布をかけると、しばらくして寝息が聞こえてきた。
仕事疲れによる知恵熱か、もしくは最近の無理がたたったのだろう。
「ここは、おねーちゃん一肌脱ぐかぁ」
とりあえず、とスマホを取り出す。
電話口の相手は妹が熱を出したと聞いてかなり狼狽していた。落ち着かせて応援要請。
よし。我ながらいい仕事した。
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どのくらい寝ていたのか。
気づくと昼時になっていた。
体を起こすと、聞きなれた、姉では無い声が枕元からした。
「おはようございます、」
「えっ、」
「お粥を、一口でもいいので食べてください。鮭フレークをのせるのが好きだと聞きました」
「蓮くん?なんで、」
そこまで言って漸く理解した。
大方姉がこの人を呼び付けたのだろう。
余計なお世話、と言いたいところだが、グッジョブ白姉。今度なにか奢るよ。
一番見たかった顔。
「蓮くんだ」
「え?はい。僕ですよ」
困惑顔の恋人。とりあえずお粥を受け取って食べることにする。
「俺お粥って苦手なんだよね」
「なんでですか?」
「味せんやん」
俺の答えが予想外だったのか、蛙鳴はぷっと軽く吹き出した。
「濃い味付け好きなんですか?」
「うん、好きだよ〜薄いのは苦手でね〜」
そういえば、と急に蛙鳴か口を開く。
「なに?」
「結局、喧嘩の理由ってなんだったんですか?仲直りしたんですよね」
「あ〜……仲直りしたよ。ん〜……なんて言ったらいいんやろ……」
蛙鳴が首を傾げるので、とりあえずそのまま伝えることにした。
「……俺のアイス食べやがってん」
「……は?」




