コデマリと姉
佐沼千雨。
天才と言われた実力派の若手脚本家だ。
でも、才能だけでは越えられない壁がある。
僕はずっと、その壁にぶつかっている彼女を見てきた。
「……夢さん?」
「ん、あ、ごめんごめん」
僕にとっても、蓮くんにとっても大切な人。
この人は、才能だけじゃないことを知っている。
勿論、生まれ持った文才もあっただろう。
でも、それ以上に彼女は、誰よりも一生懸命に、誰よりも一途に、小説や、脚本といった「物語を書く」ことのみに努力をしていた。
ただ我武者羅に。
天才という一言だけで片付けられる人間じゃない。
そう言える人間が、僕の周りにもう二人ほど居る。
一人は僕の弟。蛙鳴蓮。千雨の恋人になった、自慢の弟。
人を影から支えることに長けていて、照明の仕事にもしっかりとそれが生かされている。
勿論、弟も、努力を重ね、時に先輩から叱られつつも、今の仕事に落ち着いている。
もう一人は、犬山学人。
舞台俳優で、この人も千雨や弟と同じく、「天才」と呼ばれてきている人だ。
この人はこの人で、普段あまり弱みや、努力を見せたがらない人だが、僕は知ってる。
舞台で殺陣をやるとなった時、休みの日に出かけてふと彼の手のひらを見ると、まめができて、潰れていたのを。
誰よりも、自分と周囲のためにと頑張れる人たち。
だから僕は、特にこの三人が心配だった。
努力家というのは、みんなきっと、自分一人で抱え込んでしまう人間だと思うから。
だから僕はたまに、晩酌と言って、うちで僕含めた四人でお酒を飲む。
僕はお酒飲んでも記憶があるから分かる。
酔っ払った僕を、三人は仕方ないなぁと笑いながら、結局お世話してくれる。
そんな優しい三人が僕はだいすき。
大切な家族で、大切な仲間。




