喧嘩とパフィオペディラム
憧れの人。
尊敬している人。
大好きな人。
そんな人と恋人になれる世界線があるなんて。
信じられない。
僕にとって、とても嬉しい事だったが、どうにも信じられない気持ちが強い。
あの佐沼が。
僕を好きだと。
そんなに都合のいいことがあっていいのだろうか。
白井……佐沼の姉に聞いてみることにする。
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「え?サメちゃんが蓮くんのこと好きかって??」
白井は、僕の顔を、信じられないものを見るかのように見た。
「好きでもなきゃ付き合わないよ」
「それはそうなんですが……信じられなくて」
「私の妹を……信じれない、ねぇ?」
白井の目に、暗い光が宿った。
あ、これはまずい。
重度のシスコン……までは行かないが、妹の強火オタクである白井は、妹をバカにされたり、貶されたりすると延々と、それこそ佐沼が止めるまで延々と説教という名の愛語りをすることで有名だ。
その日も、佐沼がやってきて遠い目で白井を抑えるまでは、僕が拘束された。
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白井は途中、熱が入りすぎて涙ながらに怒りを顕にしていた。
要約すると、私の妹がどれだけ待っていたと思ってる。どうして好かれてる自覚が無いんだ。妹がどれだけ君のことが好きだと思ってる。妹が君と一緒にいると楽しいと話していたのをうそだといいたいのか。
恋人が相手を信じてやれなくてどうする。
親と絶縁した佐沼を拾った、育ての親でもあり、姉の白井の言葉は重かった。
佐沼は、泣いている姉を見て真剣な顔になった。
佐沼は直ぐに姉を落ち着かせ、僕を引き離してくれたが、暫く、裏の事務所から白井も佐沼も姿を現さなかった。
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驚いた。
舞台の監修にやってきたら、姉と恋人が、口論、というか一方的に恋人が言葉責めされていた。
姉の方は、切羽詰まった様子で涙を流していた。
とりあえず、恋人を引き離し、仕事に戻るように言ってから、裏の事務所に連れていく。
姉は、一言、「ごめん」とだけ呟いた。
何となく、事情は察している。
この件は、どちらにも責任は無い。
どちらかと言うと、有責なのは俺だ。




