表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライム娘の恩返し~転生して錬金術師になった不遇外科医は尽くし系美少女と平和な生活を送りたい~  作者: 砂礫零
第3章 スライム娘の大受難

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/61

第41話 スライムさんたちは最強だった

 やっと、できた ――

 生命錬成スキルをまだ得ていないのに無理やりやったから、膝から崩れ落ちそうなほどに疲れたが…… なんとか、なった……

 アイテムボックスから取り出した上級(ハイ)ポーションをのんでHPとMPを回復させつつ、俺は構成したばかりの錬成陣を見た。


 バフォメット(解析と統合)アシュタルテ()マルドゥーク()バアル()レプト()ルキア() ―― 全ての要素が複雑に絡み合った、13重の錬成陣。


 構成するには想像以上に、魔力(MP)体力(HP)も必要だった…… が、これで終わりでは、もちろんない。

 むしろ、本番はこれからだ ――


 俺は大きく深呼吸し、錬成陣の中央にイリスの両親からもらった触媒を置く。それから、ポーションのなかで眠っているイリスを。


「《心核(ケルノ)修復 ―― 」


 不安が心臓の底から、じわじわとあふれだす。

 もし、失敗したら…… いや。

 首を横に振り、もう一度、深呼吸。

 自身を過信はしないが、無駄な心配もしない ―― もしこれが手術なら、過信も心配も、失敗のもととなるのだから。

 ただ、俺にできることを、地道に行うだけだ。

 細心の注意をもって、丁寧に……


「《心核(ケルノ)修復 ―― 錬成開始》」


 錬成陣が光を放ちはじめた。

 光はやがて、イリスと触媒を包み込むように丸くなる。錬金釜の形…… なかで、魔素(マナ)と触媒がイリスに注がれているのがわかる。


「成功だ……」


 俺は思わず、声に出して呟いていた。

 これから心核の完全修復までは、3年7ヵ月…… ここで使うのは、もはやおなじみのあのアイテムだ。

 俺は 《超速の時計》 を取り出し、錬成陣に青い光を照射する。


「《時間経過 ―― 3年7ヵ月》」


 このままいけば、あと30分もかからず心核(ケルノ)の修復が完了し、イリスが目を覚ますはず ――


「なるほど。あなたも、シニョリーナ(お嬢ちゃん)のお仲間でしたとは」


 背後から、数時間前に聞いた声がしたのは、そのときだった。

 複数の気配…… 集中しすぎていて、気がつかなかった。

 俺はゆっくり、振り返る。

 実験室の戸口を塞ぐように立っているのは、ドブラ議員と、彼の引き連れた護衛たち。そして、縛られたゼファーとソフィア公女、ベルヴィル議員…… イリスの両親。みんな、ドブラをにらんでいる。

 ゼファーが俺の顔を見て、叫んだ。


〈リンタローはん、すんません! せっかく治してもろた羽が、また……〉


 一方のドブラ議員は涼しい顔…… というより、表情を悲しげに曇らせている。いかにもな被害者(ヅラ)だ。

 ともかく。

 少なくとも、ドブラが 『国家級の軍事力』 を持っているって情報は嘘じゃなかったみたいだ。警備用機械生命(オートマタ)だけじゃなく、護衛の実力も半端なかったんだろう。

 だが、イリスの心核(ケルノ)修復の、邪魔だけはさせない ―― 時間を稼がねば。


「彼女らの扱い、ひどすぎないか?」


 俺は、ドブラ議員が無視できないよう声を張り上げる。

 

「特に! ソフィア公女は無関係だろう? こんな扱いが、センレガー公爵領やニシアナ帝国に知れたら、どうなるか、わかっているんだろうな?」


「ふん。むしろ好都合ですな。彼女が翼竜を使い大海蛇(シーサーペント)を暴れさせ、わが国(ラタ共和国)の財産に大きな損害を与えたこと、ニシアナ帝国には、ぜひ詫びていただきたい」


 損害があったのはドブラ議員の貿易船だけのはずだが…… 『わが国の財産』 とは、大きく出たものだ。

 それにソフィア公女の動きを見抜いているとは、もしや……


「ひどい言いがかりですこと! わたくしは、たまたま翼竜で飛んでいただけです!」 と、ソフィア公女が主張する。


「クウクウちゃんを、あんな目に()わせたこと…… わたくし、決して許しませんわ!」


「ほう…… あくまで無関係と言い張るのでしたら、いずれ、法廷で争うことになるでしょうな。十人委員がすべて味方と、思わぬことだ」


 やはり。

 十人委員も一枚板ではない。なかには、ドブラ議員の逮捕に反対する者もいた…… 彼らがドブラに、内通していたのかもしれない。


「だが、ドブラ議員。すでにきみの逮捕状は出されているが…… 抗えば抗うほど、不利だろう?」


「その件については誠に遺憾ですが…… 私のことでしたら、ご心配は不要ですな」


「ほう?」


十人委員(警察&裁判所)は、取引に応じるでしょう。()()()()()()()人質全員の生命と、私の亡命とのね……!」


 言い終わらぬうちに、護衛がいっせいに床を蹴る ―― 一瞬後には、俺は屈強な男たちに取り囲まれていた。

 まずい…… あと、少しなのに…… 

 絶対に、錬成陣は守らなければ。

 ―― だが、護衛たちにはまったく隙がない。

 俺がわずかでも動いたら、すぐにも捕縛されてしまうだろう。

 どうすればいい……?

 焦りだけが、つのる ―― ついに、護衛のリーダー格らしき男が合図した。


「かかれ」


 ざっ……

 無駄のない動き。男たちは俺にとびかかろうと再び床を蹴り、そして……


 す べ っ て

  こ け た

 

 ―― は? なにが、あったの?


 などと戸惑っいる場合ではない。

 俺はすかさず、手をかざす。


「《錬成陣スキップ ―― ガラス装飾》 、スノードーム、錬成開始…… 《超速 ―― 200倍》」


 まずは護衛たちをスノードームに封じる。狭いがちゃんと空気穴つき。

 そして。


「なっ、なんですと!? いったいなにが……!」


 突然のことに驚くドブラも、同じく

 

 す べ っ て

  こ け た


 もちろんこっちも、すかさずスノードーム用の錬成陣を展開。

 《超速の時計》 はもう制限いっぱいまで使ってしまったから、しかたなく汚水をぶつけて動けないようにする。

 汚水は、イリスの両親を巨大アメーバから分離したときにできた、臭さ保証つきのやつだ。

(さっき直接攻撃された研究員がまだ、白目をむいて倒れている)


「ぐっ…… ぐぉごぇええぉぉぉぅろ……」


 ドブラ議員もまた、あまりのニオイに悶絶してくれた。その間に、スノードームに封じ込める ―― よし、成功。


「ふう…… あぶなかった」


 ついひとりごとが出るが、ほっとしてはいられない。

 はやく、捕まったみんなを解放しよう。


「大丈夫か?」


「クウクウちゃんが怪我をしましたの……!」 〈うちは羽だけですわ〉 「油断したわ、まったく!」


 声をかけると、それぞれに悔しそうな返事。

 その割には、なんでみんな、今にも笑いそうな顔をしながら、床を見ているんだ……?

 俺は縄をほどきながら、3人の目線の先を確認する。

 さっき、ドブラや護衛たちがいっせいにすべったあたりだ ―― そこには、黄色く細長く薄っぺらいものが、無数に散らばっていた。


 バ ナ ナ の 皮 だ ……


 ぷるぷるぷるっ

 見ていると、バナナの皮はいっせいに揺れだした。

 え? なんで動くの? 皮だよね、きみたち!? ―― とツッコみたいが、正体は、なんとなく予測がつく。

 …… ほら、やっぱり。 


{ぷっはぁぁぁぁ……} {うまく、いきましたねえ} {バナナの皮って滑りが半端ないんですね!} {1/6になるって知ってました? 摩擦が} {南国まで売り飛ばされた経験を、今日ほど感謝したことはないのですっ} {あそこはご主人様も優しかったし、バナナもおいしかったですもんね……}


「つまり、きみたちが、バナナの皮に変身して助けてくれた……?」


 確認する俺に、先ほど助けた大量のスライム少女たちは、いっせいにこう答えたのだった。


{{{{{恩返しですから!}}}}}


 少女たちから口ぐちに説明されたところによると。

 ―― つい、数十分前のこと。

 実験室の外で待機していたスライム少女たちは、ドブラ議員がこちらに向かうのを見て、あわてて壁と同化した。

 そのまま、護衛たちの足元に移動し、タイミングを見計らってバナナの皮として出現。

 護衛たちを見事に、すっころばせてくれたのだ。 


「いや、ほんと、助かった…… ありがとう」


 事情を聞いた俺は、改めてスライム少女たちに頭をさげる。少女たちが一斉にあわてて {はわわ……} {そんなつもりじゃ} {ほんのちょっとした、恩返しなのですっ} などと言っているが……


「有難いものは、有難い」


「まったく、そのとおりよ。今回はお手柄だったわね、あなたたち。すごいわ」


〈ほんまでっせ。ようやらはりましたなあ!〉


 ベルヴィル議員とゼファーにほめられ、スライム少女たちから、ほのあかいグリッターが舞った。イリスみたいだな…… もうすぐ、会えるはずだ。

 ちなみにソフィア公女は、まだバナナの皮にツボっているらしい ―― 縄を解かれてからずっと、口元を抑えて笑っている……


「バナナの皮の殺傷力が、いろんな意味ですごい」


「ひぃぃっ…… も、もうやめて、リンタロー…… ぷぷぷぷっ……」


 ベルヴィル議員がぱんぱん、と両手を打った。


「さて、積もる話は、ここを出てからにしない? …… と言いたいのだけれど、それは? なにか錬成中かしら? こんなときに?」


 ベルヴィル議員の視線の先にあるのは、イリスの心核(ケルノ)を修復中の錬成陣。いま、ちかちかと目まぐるしく点滅する光を放っている……

 

「すまん、あと10~15分くらいだと思うんだが、待ってもらえると有難い」


 俺がごく簡単に事情を説明するとベルヴィル議員は、あっさりとうなずいた。


「それくらい、わけないわね。もうドブラの野郎も捕らえたわけだし…… リンタロー、改めて礼を言うわ」


「わたくしも」


 ソフィア公女がスカートの端をつまんで足を後ろに引き、頭を下げる ―― 貴族が偉い人にやるお辞儀だ。大げさだな、ソフィア公女。


「リンタローのおかげで、わたくしたち、助かりましたわ…… ありがとう」


「いや、それは違う」


 どっちかといえば、スライム少女たちのバナナの皮変身のおかげだし、あれこれの経緯を考えれば、ベタではあるが 『みんなのおかげ』 と言うしか……

 と、俺が言う前に。


 ピシッ…… ピシッ……


 ガラスにヒビが入るような音がした。

 ドブラ議員を入れたスノードームのほうだ…… うそだろ。


{まさか} {また、あの神聖魔法を……!?}


 イリスの両親のがくぜんとした声と。


〈そんな、あほな……〉 「まだ、余力があったのか……」 とつぶやく、ゼファーとベルヴィル議員の声。

 そして、ソフィア公女の 「みなさん、逃げて!」 という悲鳴のような声が、俺に、これが現実だと教えてくれる。


 ドブラ議員を封じたはずの強化ガラスは、もろくも崩れ去ろうとしていた ――

しつこいぞドブラ! でも本当はいいところもあるやつなんですよ! 全然書けてないけど!

次回は7月10日(木)12時20分更新です。


続きが気になったら、広告下の《リンクボタン》をクリック! 『ネオページ』にて10話以上先行配信中です!

ブクマ、応援☆いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ネオページ』で先行公開中!『スライム娘の恩返し』の続きはこちらです!

※ネオページでのタイトルは『転生したらなんでもできるスライム娘が押し掛けてきた』です
― 新着の感想 ―
しつこい悪役すこ( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ