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目覚めたらアポカリプス  作者: 紗雪ロカ
プラネタリウムで会いましょう
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第26話 探索

 人が歩くよりは少し早いスピードのタラップから飛び降りる。なぜか付いてきたニアは、隣に着地しながらこう言った。

「やー、ちょっと興味あったんだ。あのヤコちゃんがここまで我を通して抜け出すなんて。何か特別な理由があるんでしょ?」

 そう聞かれてしまえば黙っているわけにもいかなくて、ヤコは謎の呼びかけの件をついに打ち明けることにした。いい加減一人で抱え込むのも訳がわからなくなってきたところだ。船から見えないよう、岩場の影に身を潜めながら手短に話す。

「笑ってもいいんですよ、自分でもバカげてるって思いますから……」

「いやいや、笑わないよ。なるほどねぇ、呼びかけか」

 しばらく考えていたニアは、カラっと笑うとこう続けた。

「ワクワクするじゃん。ゲームならイベントフラグだよ、スルーしたら勿体ないって」

 割とこっちは真剣に悩んでいるのにゲーム扱いされて何だか微妙な気分になる。だが、立ち上がった彼は手を差し出してこう言った。

「ついてってあげる、バレたら二人で怒られよう」

 優しい申し出にジーンとする。現金なもので、仲間が出来たことでそれまで感じていた心細さは途端に消えていった。ニアは拾った棒で砂地に略図を描いていく。

「さて、W市のプラネタリウムと呼べる施設は街はずれの一か所。方角的にはあっち、船の進行方向からだいぶ北東に逸れた位置にある」

 船、目的の街、プラネタリウムを三カ所に配置した彼はジャッと線を引いた。

「だけど能力者ぼくらだったら走って朝までには船に追い付ける。バイパスと高速を通ればさらに急げるかもね。敵も出ない」

「おぉぉ」

 自分では思いもしなかった妙案に感心する。確かに砂漠のあちこちには道路だったと思しき高架橋が顔を覗かせている。そこをたどればいけるかもしれない。


「早い早い! 走りやすいです!」

 かくしてニアの読みは大当たりだった。どこまでもまっすぐ続く道路をヤコ達は風のような勢いで駆け抜ける。足元が砂ではないだけで、こんなにも走りやすいとは思いもしなかった。

 途切れて砂に呑み込まれてしまっている箇所を、ヤコは思い切り踏み切って飛び越える。狭い船内ではスピードを出せないので、自分が鳥にでもなったかのような感覚に否が応でもテンションが上がった。笑顔で振り返り連れを急かす。

「ニアさん、早く早く! 置いてっちゃいますよっ」

「わー、元気ぃ……。もうちょい行ったらバイパスを降りよう、もう近いはずだよ」

 疾走を続けるヤコは前方右に視線を向ける。目指す施設は市街地からは少し離れた郊外にあった。丸いドームのシルエットも記憶の通りだ。

 それを見て、浮かれっぱなしだったヤコの気分が引き締まる。自分を呼んでいるのが誰なのか、もうすぐわかるかもしれないと思うと鼓動が高まっていく気がした。


 ***


 プラネタリウムはそこまで損傷しているようには見えなかった。ちらりと横目で見た駐車場には汚れた自動車が数台だけ停まっていて、主人をいつまでも待ち続けているのが物悲しかった。

「お、おじゃましまーす」

 警備員が居るわけではないのだが、なんとなく気後れしながら自動ドアを押し開けて入る。持ってきた懐中電灯のスイッチを入れながら歩みを進めると、施設の中にまで砂は入り込んでいるようだった。壁を触ってみると少しザラザラとする。

「うぅ、オバケでも出そうな雰囲気……ニアさん?」

 返事がない事に振り返ると、探索の相棒はしれっと姿を消していた。パニックで大声を上げそうになった瞬間、辺りの電気がテン、テテンと二、三度点滅してから点く。

「え、あれ、電気?」

「すごいよここ、非常用電源が生きてるっぽい」

 どこぞの事務所から扉を開けてニアが出てくる。いつの間にと舌を巻いていると、彼はケーブルの束を探りながらこんな事を聞いて来た。

「少しだけなら充電できるかも。ヤコちゃんスマホとか持ってる?」

「あ……ありますあります、お願いします!」

 思いがけない幸運に、ポケットに大事にしまっていた端末を取り出す。コンセントに差すと充電を意味する赤いバッテリーが付いて胸をなでおろす。お守り代わりに常に持っていてよかった。

「さて、それじゃその間に探索でもしようか」


 それから二手に分かれて探索をしたものの、特にめぼしい物は見当たらず投影ドームで落ち合う。中央辺りの床に座り、ちゃっかりコーヒーセットを持参していたニアにカップを渡されると、中には砂糖たっぷりのカフェオレが入っていた。

「すみません……やっぱり何にも無かったみたいですね」

「声っていうのはもう聞こえない?」

「……はい」

 あれだけ落ち着かなかった『呼んでいる』という感覚も、今はすっかり鳴りを潜めていた。冷静になってみれば、自分はなんて無謀な事をしたのだろう。ニアにまで付き合わせてしまってこんなところまで……。

「コンソール室と似てる。でも監視とかしなくていいし、癒されるねぇ」

 だが、飄々とした先輩は特に気にする様子もなく笑顔で空を見上げている。操作室に潜り込んでプログラムを再生したらしく、スクリーンには無数の星が描き出されていた。

「気にしないでいいよ、僕が勝手について来ただけだし。こんな綺麗な物も見られたから」

 ヤコちゃんとデートもできたしね、と茶目っ気たっぷりに返される。頬を染めたヤコは何も言えずもじもじするしか無かった。やっぱりこの人を相手にすると少し戸惑ってしまう。

 その時、ニアはそうだ、と思い出したように白衣のポケットを探った。

「ちょっとだけど充電できたよ、はい」

「あ、ありがとうございます」

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