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目覚めたらアポカリプス  作者: 紗雪ロカ
移動要塞船『フォーマルハウト』
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第16話 コスチュームチェンジ

 とっさに背中側に防御を集中させたから良かったものの、そうでなければ内臓でも飛び出しそうな衝撃だった。激しくむせながら壁伝いに落ちていくヤコを見下ろし、ミミカは叫ぶ。

「分かってるわよ! アンタが来てから、敵を倒すまでの効率はバカみたいに良くなった! それは認める、でもっ……!」

 彼女が何を言わんとしているのか聞き逃してはいけないような気がして、痛みを堪えながら視線を上げる。今にも泣きだしそうな顔をしたミミカは、しばらくしてぽつりと呟いた。

「……どうして、そんな便利な能力を持ってるなら、もっと早くこの船に乗ってきてくれなかったのよ。そうしたらあの子は……っ」

 助かったかもしれないのに、と、声にならない声が続きを伝えてくる。

 こればかりは誰の責任でもない。ヤコは意図して遅く乗船してきたわけではない。それをミミカも分かってはいるのだろう。だからこそ余計に苛立つ。彼女は真っ赤な顔をしながらやぶれかぶれに叫んだ。

「っ、アンタに、身内を亡くした何が分かるっていうのよ! ついちょっと前まで――」

「普通に話してたんですよね」

「え?」

 被せるようにそっと言った言葉に、ミミカは大きく目を開いた。ヤコは痛みに顔を歪ませながら静かに続ける。

「おはようって言って、これからもずっと一緒に居られるのだと信じて疑わなかった。あの朝に戻れたらって、何度夢に見たか分かりません」

 暗く沈んだ声は、普段のヤコからは想像できないような大人びた物だった。開きっぱなしだったミミカの口から、ようやく問いかけが返る。

「なんで……」

「……私も同じなんです、お母さんを、事故で」

 階段裏の小さな暗がりに沈黙が下りる。遠くの方から年少組が楽しそうに笑い合う声が聞こえてきた。

 伏せていた眼差しを、ヤコは急に上げた。言葉を探して迷っていたミミカは、想像していたものよりも強い目に驚き一歩後ずさる。

「ミミカさん、私に銃の扱いを教えてください!」

「は、銃?」

 いきなり何の話だと困惑する彼女に、ムジカから預かった信号弾の実物を取り出し説明する。

「お願いします、この船で一番扱いが上手いのはミミカさんだって聞きましたっ」

 そうだ、何も身内を亡くしたのは自分たちだけではない。この船に集った子供たちだって、家族と死に別れてしまったような物なのだ。沈んでばかりなど居られない、護る者として前を向かなければ。何よりも大切なのは『今』なのだから。

「私は、ガードとしてみんなを守ろうって決めたから!」

 決意を胸に、この想いが伝わって欲しいと思いながら訴える。それをあっけに取られたように見つめていたミミカの目から、ふいに涙がぽろりと零れ落ちた。

「ヒロ……」

「え?」

 知らない誰かの名前で呼ばれ、一瞬反応が遅れる。ハッとしたミミカはこちらが問い返す前にくるりと背を向けてしまった。

「っ、なんでもない! ってゆーか、アンタよくそんな恥ずかしいセリフ言えるわね」

「そ、そうでしょうか」

「お芝居かっつーの。クサいわ、ヒロイン気取り? 状況に酔ってんじゃないの?」

「うぅ」

 チクチクと嫌味を言われて気力が削がれていく。充分にへこんだところで、ミミカが大げさなため息を一つ吐いた。

「……っはぁ、めんどくさ。さっさと行くわよ」

「え?」

「訓練所。ここでブッ放すワケにいかないでしょ、一度しか教えないからね」

 その言葉の意味を理解した瞬間、ヤコの表情がパァァと明るくなっていく。

「ミミカさん、それって!」

「うわうざっ、効率を考えただけですし。言っておくけどね、あたしはアンタらみたいに仲良しごっこするつもりはないから。勘違いしないでよ」

 そうは言うものの、先を行くミミカの耳はここからでも見て分かるほどに赤くなっていた。素直じゃないんだと、後からついてくヤコはニコニコと溢れる笑みを隠せない。通り過ぎたクルーたちが何だ何だと振り返るのも面白かった。

「ミミカさん、ミミカさん、ふふ」

「なに笑ってんのよ。言っておくけどね、あたしアンタみたいなタイプ近くに居なかったから苦手なのよ」

「えへへ、私もミミカさんみたいな子とお友達になるの初めてです」

「はっ? 友達じゃねーし!!」


 ***


 ミミカとのわだかまりもほんの少し解けた日から一週間ほど経った頃、ヤコたちガードの面々はデッキに集合していた。襲撃の時と同じ並びだが、今日の彼らに緊迫感は無く、物珍しそうな表情で各自が着込んだ装いを見下ろしている。

 そう、今の彼らはピカピカに仕立て上げられた揃いの制服を着ていた。モスグリーンのジャケットにネクタイを締め、女子は上着と同色のひざ丈プリーツスカートに黒のハイソックスと頑丈な茶のエンジニアブーツ。男子はスラックスの裾をブーツに入れている。上着はベルトで腰の辺りを締める形になっており、スッキリとしたシルエットを保つと共に、動いてもバタつかない仕様になっているのが実戦向きだ。道具を収納するポケットもあちこちに付いている。

「うわぁ~、めちゃくちゃお似合いです皆さん! ウチらで夜なべして作った甲斐がありました!」

 この既製品と遜色ない衣装をデザインし作り上げたのはツクロイだった。ヤコの側に立った彼女は目元にクマを作りながらも満面の笑みで喜ぶ。そして、彼女の後ろでは、手伝った縫製班の子たちがきゃあきゃあと手を取り合いながら黄色い声を上げていた。レイが嬉しそうな顔で新衣装の出来栄えを褒める。

「縫製班が作ってくれたのか。武器を収納する箇所もよく考えられている、ここは……あぁ、ロープをクリップのように挟めるのか」

「はいっ、武器開発班とも連携を取りまして、皆さんの得意武器に合わせて細かく調整してあります」

「すごいよツクちゃん、サイズピッタリ」

 ヤコもブーツのつま先をトントンと打ち付けながら喜びの声を上げる。ふふんと得意げに胸を張ったツクロイはこう言ってのけた。

「ガードさん達がこういった衣装を着てくれたら、船内の士気も高まるんじゃないかと思いまして!」

 確かに、展望室からはクルーたちが溢れんばかりに押し寄せ、キラキラとしたまなざしでこちらを見ている。照れくさくも一理あるような気がした。ツクロイが言っていた「良い事を思いついた」とはこの事だったのだ。

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