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「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃーーー!」


「ん? なんだ今の悲鳴……」


 俺が異世界転移して、早数日……。森を抜け、街道に辿り着いたところで、どこからか叫び声が聞こえてきた。


「放っておくわけにはいかないか」


 腐っても元日本人。放っておくわけにいかず、この世界で身につけた音速での移動を実行に移す。





「お、お逃げください!」

「こちらには、逃げ道がございません!」


 手頃な岩の影に隠れ、様子を見た。戦況を見ずに無駄死にする阿呆にはなりたくないからな。


「ふーん……この世界の人の服って着物みたいだな」


 着物のような服装に、異世界人らしいカラフルな髪や瞳。まるでコスプレのようだと思いながら、周囲を見遣る。


「あれ? ワイバーンもどきじゃねーか。あの程度でこんな状態になるなんて、この護衛たちは、弱いんだな」




 そんなことを考えながら、歩いて死にかけの護衛に声をかける。


「くそっ、ワイバーンの毒が……!」


「ねぇ。手助け、いる?」


「な、何をやっているんだ、君は。逃げなさい。あのお方は、君のような年若い者の命が無駄に失われることを喜ばない!」


「まぁいいや。ワイバーンもどきなら、森の中で大量に殺ったんだよね」


 そう言って、駆け出す俺を、止める声はもう耳に届かなかった。


「ワイバーンを大量に、だと? あれは……十四歳くらいに発症するという、自分を特別な存在と認識する病の少年なのか……? それにしては、年長に見えたが……」







「あれはすごい……」

「神の御技か!?」

「た、助かったぞー!」



 そう大した時間もかけず、ワイバーンもどきの群れを討伐した。

 さっきの死にかけの護衛が、回復薬をかけられたのか復活して走ってきた。






「先ほどは、大変失礼した。君は素晴らしい実力者だ。よろしければ、我々が護衛させていただいているお方にお会いしていただけないだろうか?」


 これだけの護衛を連れているんだから、ある程度の身分のある者に違いない。

 情報も欲しいし、きっとお礼もくれるだろう。

 会いにいくだけいって、危なくなれば逃げればいい。

 この程度の実力の護衛ならば、危険を探知してからでも逃げられるだろう。







「命を救ってくださり、ありがとうございます。命の恩人に礼をさせてくださいませ」


 そう言って、扉の開いた馬車の中から頭を下げる少女は、美しかった。日本人かと思う黒髪。

 サラサラのストレートヘアに、ぱっちりした瞳。

 色白なのにピンクに色づく頬と唇。

 ほっそりとした体型なのに、女性らしい豊満さは成熟している。


「その、命の恩人様。あなた様のお名前をお聞かせ願えますか」


「……日本人、か?」


「ニホンジン様?」


「いや、すまない。俺の名前は、破反(ハハン) (りつ)だ。」

「ハハン リツ様」


「そうだ。名はリツだ」


「リツ様……申し遅れました。わたくし、サーシャ・ルタタルガと申します。ルタタルガ家が長女でございます」


「サーシャか。よろしくな」


「その、よろしければ、我が家にお越しいただけますか? お礼をさせてくださいませ。命の恩人を放り出すなんてすると、父上に怒られてしまいます」


「あぁ、礼くらいなら受け取ろう。俺は、辺境の地からこの国に来たばかりなんだ。詳しくないから、道中いろいろと教えてもらえると助かる」


「かしこまりました」


 この国は、昔の日本のような異世界だと判明した。だからこそ、黒髪黒目ほど身分が高い者が多いらしい。

 俺が何者でもないと言うと、大変驚かれた。





「目の前で魔物に襲われている人がいたら、助けようとするのが人間だろ?」


「そうは思っても実際に行動を起こせる者はおりませぬ。ですから、リツ様は勇敢なお方なのです」


「リツ様。恐れながら魔力や反力(はんりょく)がとてもお高いのではないでしょうか?」


「反力って言うんだこれ……反抗力みたいなもん?」


 そう言って、心の中でステータスオープン、と呟いた。



《ステータス》

ハハン リツ

人間(異世界人)

17歳

職業 なし

レベル15

体力20

知力150

魔力0

反力9999

運80


スキル

料理


 レベルが上がっている。反力というのは、9999から増えていない。運は結構上がっている。体力は+14か……。レベルが1つ上がるごとに1つずつ上がってるな。


「反力というのは、魔力のように扱える力でございます。今まで、生きようと忍耐されたこと、その素晴らしい努力の結果が反力として現れます」


「へぇ……」



 そう言っていると、街中にたどり着いた。


 映画村みたいな風景だ。ただ、魔力があるせいか電気があったり、違和感を感じるところは多々ある。


 そんな街の中を、馬車が駆け抜けていく……。














「え、おい。これ、城じゃねーか?」


「はい。我が家はこの国を治めておりますゆえ」


「は!? 姫君ってこと!?」


 言われてみれば、手先は荒れておらず、肌や髪が整っている。現代のSNSなんかで見ている限り、みんなこんなもんだけど……この時代では、珍しいんだろうな。

そう思って、サーシャの手先を見つめていると、顔を赤らめて言われた。



「リツ様のような素敵なお方に、そんなに見られると照れてしまいます」


「は? からかっているのか?」


 素敵なお方なんて、生きてきて初めて言われたぞ。

 もしかして、容姿が変わったのか?

 ……森での生活で痩せてはいるが、変わりはなかったはずだ。ステータスオープンを再度心の中で呟き、確認する。なぜかステータスオープン欄に自分の姿も表示されるんだ。

 俺もステータスなんて変なものに、もう慣れたんだな。

 この世界に転移したばかりの時を、思い出すよ。









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