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古の紅き竜 2

「たああッ!」


 アリアは飛び上がって、剣を叩き込んだ。

 魔力の込められた剣は鎧を砕く。鮮血が舞う。かなり深く斬りつけることができた。ザイフィールが苦しげな声を上げる。

 直後、ルイスの槍がザイフィールの胸元を穿ち、エヴァンの鉈剣が首元を斬り裂く。ふたたび鮮血。どちらも浅くはない傷だ。

 自らも痛みをこらえるように、ルイスが声を絞り出す。


「いいぞ……。このまま……ザイフィールを……」


 苦しそうな彼の声を聞いていると、自然とアリアの目にも涙を浮かんできた。

 でも、手を止めるわけにはいかない。もう一度空へと飛び立たれたら、今度こそ手が出せなくなってしまう。

 二度、三度とアリアたちは竜の体へと武器を叩き込む。心が痛むが、一撃で倒すことができない以上は、何度も攻撃をして体力を削り切るしかない。

 悲しみを堪え、攻撃し続けていると、突如としてザイフィールが大きく翼を広げた。

 何か来る。そう気づいた頃には遅かった。ザイフィールは翼を羽ばたかせて竜巻を起こし、それに炎の息を吹きかけて巨大な火炎の渦を作り出したのだ。

 それに巻き込まれたアリアは、炎に炙られながら後方まで吹き飛ばされる。


「う、うわああ!」


 上下もわからなくなりながら、アリアは地面に叩きつけられた。

 周囲を確認したいが、額からの流血が目に入って視界を奪われる。おそらく兜をかぶっていなければ、もっと大きなダメージになっていただろう。


「ルイス、エヴァン!」


 呼びかけると、少し離れた場所から返事があった。どうやら二人も無事らしい。だが、皆が怪我と火傷だらけで、受けたダメージは小さくない。それに、ザイフィールはふたたび大空へと飛び立っている。さっきみたいに上空から一方的に攻撃されたら勝ち目がない。

 アリアと同じく状況を確認したエヴァンが、声を上げる。


「第二の策に移るぞ。洞窟まで移動するんだ!」


 アリアとルイスは痛む体に鞭打って立ち上がり、走り出した。

 後方では、光の竜を使った反動で動けずに、ぺたんと座り込んだシスティナがいる。エヴァンは彼女を抱え上げると、同じく洞窟へと向かう。

 上空からザイフィールが火球を吐き出してアリアたちを追撃してくる。まるで絨毯爆撃のような攻撃の中を、爆風に煽られながらアリアたちは走った。

 崖際に洞窟が見えてくる。それはアリアたちがここに来るまでの間に見つけたもので、ザイフィールでもギリギリ入ることのできるくらいの大きさの巨大な穴だった。

 ここなら空から放ってくる火炎を防げるし、この閉所に誘い込めればザイフィールの翼を封じることができる。空さえ飛ばなければ、勝機はあるはずだ。


 洞窟の入り口目掛けて火球が叩きつけられる。入り口ごと破壊されそうだと不安に思いながら、アリアは仲間たちとともに洞窟の奥へと逃げ込んだ。

 ルイスが静かに皆に語りかける。


「皆、ありがとう。ここが正念場だ……なんとかザイフィールを洞窟内へと誘いこむぞ」


 入り口から連続して聞こえてくる爆音。振動でパラパラと石の破片が落ちてくる。

 それが止むと、洞窟の入り口を覗き込むようにしてザイフィールが顔を出した。

 上手く行ったか? そう思った直後、ザイフィールの口元に紅蓮が灯った。

 アリアが慌てて盾を構える。


「まずい、ブレスが来る……! みんな、私の後ろに隠れて!」


 おそらくザイフィールは、洞窟ごと焼き尽くすつもりだろう。

 アリアは盾に魔力を込めて障壁を展開する。その後ろで、システィナがふらふらと起き上がって結界の魔術を唱えた。

 直後。巨大な洞窟のすべてを覆い尽くすほどの規模で、灼熱の火炎が吹き荒れる。

 遮蔽物のない、あっても意味を成さないこの洞窟内では、防御の魔術だけが頼りだ。

 紅蓮。すべてが紅蓮に染まる。

 防いでいる盾が悲鳴を上げるように軋む。

 背後でシスティナが、耐えきれないとばかりに「ぅ、ぁ……」と喘ぐ。

 さらには洞窟内の温度が上がっていき、このままでは釜焼きにされてしまう。


「負け……ない……!」


 自分だけじゃない、仲間たちの命もかかっているんだ。

 背後でエヴァンとルイスが体を支えてくれるのを感じた。

 身を焦がす熱と光の中、必死で踏みとどまるアリアたち。

 すると、痺れを切らしたようにザイフィールはブレスを止め、洞窟内へと突進してきた。

 ハッ、とアリアは立ち上がる。


「い、今だ!」




 もはや洞窟の中は灼熱の地獄だった。岩は熱せられて赤く光っており、まるで火山の火口付近にいるかのように熱い。

 だが、この瞬間が最大の好機なのも確かだ。アリアたちは武器を持ってザイフィールに挑む。

 ザイフィールが突進して暴れ回ると、洞窟の天井の一部が崩れて岩が降り注いでくる。

 それを避けながら、アリアは盾と剣を構えてザイフィールへと近づく。


「はぁぁ!」


 爪の一撃を、地面を滑り込むようにして躱す。背後で岩壁がバターのように引き裂かれた。ザイフィールの翼と炎がなくても、この爪と牙だけで十分な脅威だった。

 エヴァンとアリアが交差するようにザイフィールを斬りつける。するとザイフィールは反撃として尻尾を振り回し、洞窟の壁に激突して岩が降り注いだ。

 洞窟が崩れるのも時間の問題だろう。その前に決着をつけなければ、ここにいる皆が生き埋めになってしまう。

 続くルイスが槍を突き立てようとしたとき、ザイフィールは大きく翼を振るった。

 その強靭な一撃を受けたルイスが、吹き飛ばされ岩壁に叩きつけられる。


「ぐあッ!」


 岩壁が砕けるほどの衝撃。これまで戦い抜いてきたルイスが、がくりと倒れる。


「ルイス!」


 地に伏したルイスと、その近くで魔力を使い果たし倒れているシスティナ。だが、それに気を遣っている余裕はアリアにもエヴァンにもなかった。

 やはりザイフィールは強すぎる。こうなったら、もう捨て身で攻撃するしかない。

 アリアはザイフィールに飛び掛かると、その背にしがみついたまま剣を突き立てた。


「ん、くぅう……!」


 魔力を込めた剣を深く、深く突き刺す。暴れるザイフィールから、振り落とされないように。

 エヴァンもまたアリアと同じく、ザイフィールに飛び乗って鉈を振るった。

 ザイフィールが怯む。なんとか生じた隙。ここに誰かもう一人、渾身の一撃を叩き込むことができれば。


「ルイス、お願い……!」祈るようにアリアが声を出す。

「ルイス!」エヴァンが叱咤するように呼びかける。


「やるさ……」


 ルイスがふらつきながら、起き上がる。

 その身は全身傷だらけで、血に塗れていた。


「その役目は、私のものだ」


 頭も、腕も、脚も血に染まりながら、ルイスは走った。

 ザイフィールの、愛する家族のもとへと。


「ザイフィール……!!」


 呼びかける。その一瞬だけ、竜の瞳に叡智の光が灯った。


「ル……イス……」


 答える、竜の声。それにルイスは一瞬だけ驚きながらも、止まることなく、その喉元に槍を突き立てた。


「ガァァ!」とザイフィールが絶叫のような声を上げる。


 槍を引き抜くと、すぐにザイフィールの口元に紅蓮の炎が宿る。

 ここで自らが焼けることを(いと)わずに炎を吐かれたら、一網打尽にされてしまう。

 そこへもう一撃、ルイスが槍を突き刺した。稲妻のごとき一撃が、ザイフィールの喉元をふたたび貫き、炎の息を不発に終わらせる。


「アリア……頼む!」


 私の力では、ザイフィールにとどめを刺すことはできない。

 忸怩(じくじ)たる思いで、ルイスはアリアに最後の一撃を任せる。


「……わかった」


 アリアの剣が白い光を帯びる。浄化の力と魔力の両方を込めた一撃。舞い散るのは光で形成された実体のない花弁。

 それに見惚れたように、ザイフィールは動きが止まる。


「行くよ……ザイフィール!」


 盾を手放し、両手で持った剣を高く掲げ――。

 光芒を残しながら、アリアが剣を振り抜く。

 持てるすべてを込めた一撃。偉大な竜すらも屠る剣閃。

 一太刀をその身に受けたザイフィールは、鮮血と黒霧を撒き散らしながら、地響きを上げ、ついに地に倒れた。


 霧となって消えていく竜の姿を見ながら、ルイスは祈るように言葉を発する。


「さようなら……ザイフィール。私を愛し、育ててくれて、ありがとう……」

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