漁港町ヴェルカ 2
これより更新再開します。不定期ですが、第四章はできるだけ毎日更新しようと思います。
ぜひ、楽しんでいただけるとうれしいです!
漁港町ヴェルカの近隣にある草原で、ルイスは今日も槍を振るっていた。
約束の期限は迫り、その重圧に鈍る槍。それを滾る情熱で抑え込み、一心不乱に鍛錬を続ける。
そうしていると、突然ルイスの左胸に鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!」
胸を押さえた手のひらに、強い鼓動を感じる。かつて、大切な者から授かった心臓が伝えているのだ。
もう時間がない、と。
「ザイフィール……。いよいよ、か」
幼き日。あの真紅の背中に乗って飛び回った広い空を見上げながら、ルイスはつぶやいた。
夜。町の近くの林の中で見つけた聖花を使って、アリアはフローリアとの交信をしていた。
次のアウラの花弁の情報が入っていないか確認するため、二日に一度はこうして連絡を取り合っているのだ。
「フローリア、こんばんは」
「こんばんは。オースアリア。息災なようでよかったです」
相変わらず、幼い少女のような可愛らしい声。それでいて大人のように落ち着いた口調。
女神フローリアと話していると、なんとなく癒やされる。
「さっそく本題なのですが、三つ目のアウラの花弁の場所が判明しました」
「お、見つかったんだ。これで私も使命を続けられるね」
「はい。定期的に穢れの怪異を狩ってくださっているおかげで、現実世界のほうへの影響も最小限に防げています。すべて、アリアのおかげです」
現実世界には、アリアの弟の晴人がいる。王の魂を持つ晴人は、穢れの怪異にとって恰好の餌となってしまう。それを防ぐために、現実世界に転移する可能性のある強力な穢れの怪異が出現したときも、フローリアから情報をもらってアリアたちが対処しているのだ。
「この漁港町ヴェルカでの生活も楽しかったけど……やるべきことをやらなくちゃね」
「いつもありがとうございます。オースアリア。それで、アウラの花弁の気配があった場所ですが――」
フローリアが次の使命の詳細を話し始める。
それを聞いて頭に叩き込んだアリアは、仲間たちの待つ宿屋へと戻った。
アリア、ルイス、システィナ、エヴァンの四人は宿屋の隣の酒場に集まっていた。
酒場といっても昼から営業していて食事もできる場所なので、アリアたちは行きつけにしている。
そこでアリアはフローリアから聞いた情報を伝えた。
「ガナン渓谷か」話を聞き終えたエヴァンが言う。「ここからだと王都フォンデインに近い方面にある土地だ。そこにアウラの花弁があるんだな?」
続いてシスティナが不安げな声で。
「フローリア様のお話では、強大な存在がアウラの花弁を手にしている可能性があるんですよね……。大丈夫なのでしょうか」
たしかに、今までアウラの花弁を持っていたのは、弱い存在であるゴブリンと、強いけどあくまで人間であるエヴァンだった。
それが今回は、フローリアいわく「強大な存在」がアウラの花弁を手にしているかもしれないらしい。
アウラの花弁を持った敵はゴブリンですら強敵だったのだ。もしその強大な存在との戦いになったら、生き残れる保証はない。
「話し合いで解決できたらいいのですが……」
「そううまくはいかないだろうな」
そこでアリアは、ルイスがずっとうつむきながら黙り込んでいることに気づいた。
「ルイス?」
「ん……ああ、すまない」
「考えごと?」
「まあな。……それで、ガナン渓谷にあるアウラの花弁なのだが……私には心当たりがある」
その言葉に、システィナとエヴァンもルイスに注目する。
「ほんと!?」
「ああ。これは私の推測に過ぎないのだが」
そこでルイスは一度言葉を止めた。皆が彼の次の言葉を待つ。
「私は迷っていたんだ。私の個人的な事情に、君たちを巻き込んでいいのかと。これは、君たちとの友情を利用するようなものではないかと」
深呼吸をする。ルイスの真剣な表情に、そこにいる皆が息を呑んで見守った。
「だが、道は思わぬところで交わってしまったようだ。こうなっては、もう遠慮をする必要もないな」
「……私たちに、遠慮なんてする必要ないのに」
それは本心からの言葉だった。ルイスにはアリアやシスティナの個人的な事情にたくさん巻き込んでしまった。だから、ルイスにも何か背負っているものがあるのなら、その手伝いをしたい。きっとアリアだけでなく、システィナやエヴァンも同じ想いだと思う。
「システィナ、エヴァン……そしてアリア。君たちに私から依頼があるんだ」
「依頼?」
突然の言葉にアリアは困惑する。
「報酬は私が持てる財産のすべてだ。正式にギルド経由で依頼を出そうと思っている」
「ぜ、全部ってそんな……!」
困惑するアリアを尻目に、エヴァンが冷静に尋ねる。
「その依頼内容は?」
「それは……」
ルイスはもう一度皆を見回してから、ゆっくりと語り始めた。
「半身が……穢れに飲まれようとしている……心臓を分かち合った、我が半身が」
半身。ルイスがそう呼称するような存在は――。
「……そしてそれは、我が故郷であるガナン渓谷にいる」
「もしかして、ルイスの言う半身って……」
ガナン渓谷にいるという、アウラの花弁を持った「強大な存在」というのも、おそらく。
ルイスはうなずいて、言葉を続けた。
「今こそ、約束を果たす時なんだ。竜を……我が父であり母、友であり半身である、偉大なる竜ザイフィールを……殺してくれ」




