どうしてこうなった
田中尤は今喫茶店にいる
喫茶店といっても寧音のいるお店ではなく他のお店である
待ち合わせの人物に真面目な顔で挨拶をすます
「昔はヤッホーだったのに今はそんな塩対応なの?」
本間さんは周りからの視線を釘付けにしながら尤のいる席の隣に座った
「あの…向かい側の席空いてますよ」
「隣に座るのは不服だった?」
「…そうですね。僕が周りの視線に耐えられないからそっち座って欲しいです」
向かい側の斜めの席に座り直した本間さんは不服そうだ
「それで話しとは?」
「尤くんって今誰と付き合ってるの?」
「ちなみにそれって本間詩衣に話すんですか?」
「話し方似せたはずなんだけど妹とやっぱ違うの分かるじゃんか」
「あの時は分かってなかったですよ」
「んー優しいのに詩衣ももったいないことしたなぁ」
「優しいって評価してくれるのはありがとうございます、本間世衣さん」
ゼイと呼ばれた尤と同い年のその女の子はコーヒーを一口飲んだ
「詩衣〜また試すようなことしてどうすんのさ?」
独り言のつもりだろうがタイミングよく本間詩衣が尤たちの席に現れた
「ねぇ尤くん?今の学校で付き合ってる子、もしくは好きな子がいるよね」
「教えたくないのが本音」
「音頭寧音」
その名を聞き反応が顔にでる。どうしてその名を
「やっぱり。なんであんな容姿がアレな子が好きなの?」
「アレとは?」
「簡単にいうとそんなに可愛くないどちらかというと不細工ってことね」
「色々言いたいことあるけど好きに理由が必要ならその気持ちは好きじゃなくていいよ」
じっと尤の応えを待っていた詩衣はなんで?から始まると私の方がその子より優秀でしょとあらゆる自慢話が続いた
肌よく綺麗ねと褒められるなど尤にとってはどうでもいいことが話されてる
きちんと詩衣との関係性を終わらせた上で寧音と向き合うべきでは?と自分に言い聞かせてなんとか意識は目の前の話しに向いているがそもそも双子の入れ替わりデートを見抜けず詩衣を怒らせて愛想を尽かされた、そして向こうから別れようと提案して尤が承諾した話しのはずである
きちんととは言うがきちんと2人の関係は終わってたはずだと疑問に思っていた
「だからチャンスをあげるって話しを言いにきたの」
「チャンス??」
「よりを戻してあげるってことよ、あんな子の好きなところ1つも言えないならそんなに好きじゃないよ、私みたいに完璧ならともかく」
「私が言うのもあれだけど詩衣は本当に完璧だよ、入れ替わりでデートしたこと許してるならより戻してあげて」
話せば話すほど尤の気持ちは本間姉妹から離れていた
自信満々な人は嫌いではない、決して嫌いではない。どちらかと言うと尤も長距離走に関して言えばこれぐらい傲慢である
色々な思考が頭をよぎった
「まず音頭さんを好きになったキッカケは僕にもわからない」
左上に視線を向けて寧音の顔を思い浮かべた
「だけど好きなところは数え切れないぐらい言える」
目線を本間詩衣に合わせる
「第一にいつも姿勢が綺麗で真面目に授業を受けている」
「それは私も同じね」
「第二に他人を気配りできる。よく他の人の顔を見ているからだよ。あれができるのは」
「気配りって?」
「消しゴム落とした人に率先して消しゴム拾いに行ったり、扉の開閉も後ろの人をちゃんとみる」
「そんな程度のことが好きなの?誰にでもできるじゃん?」
「第三に自分のことを客観的に評価できる」
「そりゃ不細工が『私って可愛いよね〜』って言ったら救えないもんね」
「第四に継続力、努力家とも言えるね、がある。毎日一緒に走る練習してた時は弱音をはいたことないし感じさせたことない」
「私も運動でよく賞をとるけどその子は何かとったことあるの?」
「第五に笑顔が素敵だ。世界一ね」
「はぁ〜。それは美化しすぎだよ?」
「音頭さんは謙遜してたけど肌も綺麗だよ。特に指」
尤は第六にと言おうとして本間詩衣に話しを遮られた
「なんであの子なの?」
「音頭さんだから好きになった」
「私とあの子でなんであの子なの。よりにもよって」
「それって音頭さんのこと見下してるの?」
「事実を言ってることが見下すことになるわけないじゃん」
埒があかない。こう尤は思った
最後に尤はどうしても言っておきたいことを本間詩衣に話した
「1番は共感してくれたことだと思う。あと僕の褒め言葉に嬉しいっていつも言ってくれるのも嬉しくなる」
「例え話しになるけど僕がケーキ美味しくて好きって話しに君はケーキ好きなの理解できない!お肉の方が美味しいじゃん!って僕に何回も言ってるようなことをさっきからずっと言ってる!」
会話するだけお互いのためにならないからやめたいと尤は言い詩衣を見るが詩衣はその話しで言うなら尤くんは食べ物じゃないゴキブリ食べて美味しいって言ってるんだよとまるで寧音がゴキブリのように言われ激怒した
「寧音ちゃんの悪口それ以上言ったら許さないよ」
自分でも怖い顔にゾッとするような声だったと思う。目の前の双子がギョッとして固まった
「もうやめよう。復縁したって君のためにもならない。僕のこと好きで復縁したいふうには見えない」
その後のことは尤自身はあまり覚えておらず、何よ!と叫びながら店外に駆け出す詩衣とそれを追っかける世衣の姿だけ印象に残った