君と交わした約束
いらっしゃいませという声が反響するコンビニの中
学校帰りの尤は夕方からこのコンビニでバイトをしている
やっと慣れてきた尤は先輩と2人でレジを切り盛りしていた、事務所では店長が何なら忙しそうにパソコンを触っている
「いらっしゃいませ!ポイントカードはお持ちでしょうか?」
若い男性のお客様が無言で首を横に振るので「お持ちではないということですね?失礼いたしました!」と決まり文句を言う
若い男性のお客様が「マノレメソライト」と小声で注文したので尤は後ろのタバコ置き場からタバコを取りスキャンする
最近やっとタバコを覚えてきたのだ、すぐに取れるようになっている
年齢確認のボタンを押してもらった後に1000円札を受け取ったので会計を済ませようとしたところ、隣から先輩スタッフが「失礼ですが身分証明書はお持ちでしょうか?」と男性のお客様に質問した
男性は保険証を見せるが先輩スタッフはこれでは写真がついてないのでお売りすることできませんと突っぱねた
舌打ちする男性に対して先輩は学生さんですよね?学生さんなら学生証でいいですよ?とまるで男性が学生であることが確定、もしくは当然であるような聞き方をする
「学生じゃねーよ、あーこれでいいか?」
男性が見せたのは仮免許と書かれているものだった
そこには確かに20歳であることを示す記述がされている
「仮免許も身分証明書としてはお使いすることできないんですよね〜申し訳ありません」
この一言で男性が怒った、いや怒るのも無理はなかった
「仮免許どこで発行されてるか考えろやアホ!警察も公認してこれ発行してもらってんだぞ!免許と何が違うねん!無知を恥じろ!」
「ですから仮免許は仮なのでお引き取りください」
「他の店舗では使えたけど?」
「他の店舗のスタッフが無知ですね、それは」
その場はもう収集がつかなくなるぐらいヒートアップし、やがて店長が事務所から出てきて謝罪することになった
ギャラリーができはじめる
人手が不足しているので先輩は戻ってきたが戻ってくるさいに「これだからガキは嫌いなんだ、あいつニートなんじゃね?」と全く悪びれもせずにお客様に聞こえそうな音量で話した
「だいたい、疑われる年齢で買うやつの神経が分からん」
「疑われるのは辛いですよ、先輩も身分証明書みせて言われたら傷つきませんか?」
「いや?全く。そんな気持ちになるやつのが頭沸いてるし悪い」
尤は黙りこくった
先輩にもう少しで帰宅ラッシュの時間だからからあげちゃんのソルトを10パック、唐辛子を5パック、チーズを5パック揚げといてと頼まれて最近覚えたフライヤーの業務をする
出来上がったので携帯端末に時間を記録してからトレイにからあげちゃんをいれてカウンターにでる
ちょうど先輩がレジをやっていてそのお客様が寧音であることに気がつく
視線が合うと寧音は控えめに手を振ってくれたので尤もふりかえした
寧音がからあげちゃんを注文したので尤はトレイに入ってたそれを1つ先輩に渡すと先輩からケースに入ってる方を寄越せよと言われ慌ててケースの方を渡す
寧音に出来たてを食べてほしかったなぁなんて思いながらケースに全部をしまい終えた尤は寧音の方を見て違和感を覚えた
寧音の視線が財布の方に向いてるので財布を見た。そして尤は気がついた
寧音の財布の中にはポイントカードがあって出そうとしたら会計が終わってたのだ
「よければポイントカード付け直すよ」
「あっ尤さん…いいの?」
「もちろんいいよ」
しかし横から割り込みされたことが不服だった先輩は寧音には聞こえないように、しかし尤には聞こえるように「余計なことすんな」と耳打ちされた。
しかし対応してしまったものはもう対応するしかないので尤は返金作業あるから店長呼ぶね、待っててとさっきのお客様から解放されたばかりの店長に声をかけた
「ごめんね、お金出す前にポイントカードを出せばよかったのに手間かけちゃって」
「いいよいいよ、聞かれないと忘れちゃうことあるよね」
こうして寧音を接客し終えた尤に先輩は愚痴を漏らした
「は〜あいつさ、何も言わないならそのまま帰ってくれたのに何してんの」
「すみません、友達だったので、つい…」
「本当に疑問なんだけどさ、会計終わるまでにポイントカードの存在忘れてたやつが会計終わった瞬間に思い出したようにポイントカードだすのなに?店員へのいやがらせ?そのまま忘れてろよ、ほんま腹立つ」
先輩の喋る一言一言が尤の価値観と合わないが先輩と別に争いたいわけではない尤はアハハ…と相槌を打つことしかできなかった
世の中には色々な考えを持った人がいるんだなと勉強した尤であった
バイトが終わり店の入り口を出た尤にお疲れ様と私服姿の寧音が労う
白いワイシャツにジーパンの寧音は「コンビニのバイトで辛いことがあった時は私、相談のるよ」と気遣ってくれた
感謝の言葉を口にして尤は音頭さん見たら元気をもらえた!だから大丈夫だよと言い、自然と笑みが溢れる
夜遅いので尤は寧音の家まで送ることにした
「そういえばさ、閏年生まれって閏年でない時は2月28日生まれになるの?」
「うん、そうだよ〜。覚えてくれたんだ!」
「閏年生まれだから覚えやすかった、ハハ」
「尤さんは6月29日だったよね」
「うん、嬉しいねぇ。覚えててくれるの」
家の前までたどり着いた2人はじゃあまた明日と言った後、見つめ合う
「誕生日によかったらどこか一緒に行きませんか?」
「うん、音頭さんとちょうど僕もどこか遊びに行きたいと思ってた」
寧音が緊張からか目を背けて顔面が赤くなってるのを隠そうとしてるが尤も自分の体に熱がこもっているのを自覚していた
「それとさ、今度ある体育大会で僕が優勝したら一緒に行きたいところがある」
尤は寧音をまっすぐ見ると、
「見ていてください、俺が長距離走でトップになるところを」
右手で拳を握りしめた
「はい」
たった2文字の言葉だが尤の胸に、全身に響き渡った
夜の月明かりが2人を優しく照らす