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CAR LOVE LETTER 「Africa」

作者: YAS
掲載日:2009/09/19

車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。

貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?

そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。

<Theme:MITSUBISHI PAJERO MINI(H58A)>


意外と淡白なもんだよ。

この会社に勤めて、40年にもなるんだね。つまり、私の人生の半分以上、この会社で過ごして来たんだよ。


しかし、そのお役が済んでしまうのも、ずいぶんとあっさりしてると言うか、味気無いというか。まぁ定年退職なんてこんなもんなのかも知れないねぇ。


私は会社の建屋を見上げ、工場の三角屋根と青空を眺めた。

私の他にも、この景色に別れを送った先輩方がたくさんいたのだよな。そして、私もその仲間入りをしたって訳だ。


総務の女の子がくれた花束の香りをそっとかぎ、正門で私は深々と頭を垂れた。

守衛さんが私に敬礼してくれる。ははっ、ありがとさん。


毎日同じ時間に起きて、毎日同じ道路を走って、毎日職場に着き、毎日同じ作業台に向かって、毎日同じ物を作って、そして毎日家に帰る。その繰り返しが私の毎日。

そんな毎日が、明日からは無いのだなぁと思うと、何だか張り合いが無いなぁと感じつつも、趣味に没頭する事が出来ると思えば、これからの人生もワクワクしてくる気もするね。


私は数年前から写真を始めてね。昔っからカメラが欲しくてたまらなかったんだけど、なかなか勇気がわかなくてさ。

でも、あるカメラマンの撮った写真を見て、年甲斐もなく興奮しちゃってね。それで私も一念発起して、カメラを買う事にしたのさ。


その写真ってのも、実はライオンの写真でね。

サバンナで獲物の何だろうね、水牛だかインパラだかを狙っていた画なんだけどね、その生命の躍動感ったら、もうその場にライオンが居る様で、息遣いが感じられそうで、本当に凄かったんだよ。


それから私は写真を練習してね、定年退職したら、アフリカに動物の写真を撮りに行くぞと目標を掲げたんだよ。


最近のカメラはいいね。撮ったその場で確認出来るし、失敗しても消しちゃえばまた新しい写真が撮れる。

でもフィルムの頃から写真をやってた人にしてみれば、シャッターを切る緊張感がなくなったと嘆いていたけれど、五十の手習いの私にとっちゃあ、この方がありがたいけれどもね。


まだまだ写真の技術は満足行く様なもんじゃないけどね、私はもうアフリカに行きたくて行きたくて。退職した翌日に、早速旅行代理店に勤めている息子にプランの相談に行ったんだ。


「アフリカ。アフリカねぇ・・・。」

息子は眉間にしわを寄せて少し考え事をした後に、パソコンをカチカチと動かした。


「やっぱりなぁ。親父、今しばらくはアフリカに行くのは難しそうだよ。」

予想だにしなかった息子の言葉に、私は面食らっちゃってね。思わずどもってしまった。


「ななな、どどどどうして?」


どうも民族間の紛争がここに来て激しくなりそうな感じらしくて、大使館からも渡航自粛の呼び掛けが出ているらしいね。

私もずっと楽しみにしていたから、本当に諦めきれなくて、何とかならんかねと再度息子に聞いてみたんだ。


「人質の邦人、殺害される・・・なんて記事を、俺は絶対に見たくないよ。」


そうまで言われちゃ、私も無理は通せないよね。

まぁアフリカがなくなってしまう訳じゃなし、私は夢の実現を、ほんの少し先延ばしにすることにしたんだ。


家に帰って家内にその話をするとね、「あたしもアフリカなんて嫌だわ。暑そうだし、虫がたくさんいそうじゃない。」と言われてね。

しかも飛行機が怖いなんて言うもんだからさ、きっとアフリカには、私独りで行く事になるんだろうなぁと思ったよ。


「仔猫ちゃんで北海道なんてどうかしら?」と、落胆した私に家内の方から提案してきたんだよ。


なるほどな。私はアフリカの事ばかり考えていたから、国内の事なんて全然考えてもいなかった。


前に家族で北海道旅行したときに、またゆっくり来たいねぇ、なんて言ってたっけね。

ゆっくり時間が取れるこの時だからこそ、マイカーで北海道一周なんて良いかも知れないね。


そのマイカーってのも、自慢出来たモノじゃない、軽自動車なんだけどね。パジェロミニって言うジープみたいな車でさ、普段は私の毎日の通勤の足だったんだよ。


写真を始めてからは、雪深いところに野鳥を撮りに行ったり、ジャングルの様な泥濘地の大杉を撮りに行ったりとね、普段走らない様なところにも平気で行けちゃう意外に頼もしい車なんだよ。


そんなヘビーな使い方だけじゃなく、通勤や週末の買い物はもちろん、家内の踊りのお稽古にも苦もなく使える。

息子が独立してからの、私ら二人だけだったらこの車で十分なのさ。


パジェロってどういう意味?と家内が聞いて来たので、山猫って意味らしいよと答えたら、「じゃあこの子は仔猫ちゃんね。」とコロコロと笑い、家内はパジェロミニを撫でたんだよ。

それから、ウチではこの車は仔猫ちゃんって通り名なのさ。


息子には、北海道への片道の船を手配してもらうよう頼んだ。

時間はたっぷりある。悠々自適に北海道を満喫するさ。


「アフリカ、残念だったな。」と、船の予約をパソコンで取りながら、息子はそう言った。


そうなんだよなぁ。本当はアフリカに行きたかったんだよなぁ。

今更だが、やっぱり私は悔しくて、「まぁ、仕方ないさ。」と未練がましく唇を噛んだ。


とは言え、北海道は本当に楽しかったよ。

家内と二人っきりで旅行なんて、ホント何年ぶりかね。


広大な牧草地で草を食む牛達を時間を忘れて眺めたり、人生で始めて気球に乗ったり、有名なドラマが撮影された山小屋を見たり、スカイラインって車のコマーシャルに使われた大きな木を拝んだり、もう一つ食いたいと思わせる程の濃厚なソフトクリームを味わったりね。


気付けばカメラのメモリーがいっぱいになっちゃってね。現地で買い足してしまう位だったよ!


せっかく北海道みたいな所にお邪魔してるんだから、私は自然の写真を撮りたくてね。釧路湿原に行ったのさ。

ここは多くの野鳥が飛来するところで、運が良ければタンチョウにも会える。私はわざわざ湿原の近くに宿を取ったんだ。


湿原にはまだ暗いうちから行く事にした。日の出の幻想的な風景と野鳥を撮りたかったからね。家内を置いて、私は独りパジェロミニを湿原に向けて走らせたんだ。


辺りは真っ暗。車を停めて朝日を待ちながら、私はいろんなイメージを湧かせていたんだ。

その時ね、息子がくれたCDの事を思い出したんだ。


私はそのCDを取り出す。

TOTO?陶器屋みたいな名前だね。

その中に私は「Africa」と言う曲を見つけた。ふぅん、あいつめ。気を遣いやがって。


私はそのCDをオーディオに入れ、そのAfricaを聴く事にした。


ドラムと電子ピアノ、シンセ何とか言うやつだろ、その音がゆっくりとしたリズムで車内に流れたんだ。私ぁこういう曲は自分から聴いたりはしないけど、たまにはこういう曲も悪くないもんだね。


まったく意味の解らない英語の歌詞を聴き流して、私は缶コーヒーをすすった。


しかし聴いているとね、曲の調子がどんどんと変わって来るのさ。最初は静かな雰囲気なんだけど、サビの部分ではうわっと盛り上がるんだ。

その感じが、まだ寝静まっているサバンナに朝日が刺し込んで、背の高い樹々のシルエットが浮かび上がり、そして生き物達が目を覚まし、また輝かしい生命の営みが照らし出される様な、私の想い描いているアフリカの光景が広がる、そんな錯覚を得たのさ。


私ははっとしたよ。なんと目の前の湿原には、私が想い描いていたアフリカの光景が、本当に眼前に広がっているんだ。

背の高い樹々は無いにしろ、真っ赤な太陽がぼんわりと湿原を照らし出し、数羽の野鳥がその太陽を横切ったんだ。

私はね、それを見て夢中でシャッターを切ったんだよ。


その写真をね、新聞の日曜版に投稿したら見事佳作を頂いてね。私の撮った写真の中でも一番のお気に入りなんだよ。


題名はね、「Africa」。

講評でも、まるでアフリカ大陸の夜明けの様な雄大さを感じると書いて頂いてね。本当に感慨深いよ。


息子はこの写真を北海道旅行のパンフに使いたいからくれって言うんだよ。もちろん、息子のくれたCDのおかげで撮れた写真さ。是非とも使ってくれってお願いしたさ。


アフリカに行く前に、私はアフリカの写真を撮ってしまったんだよねぇ。

そう思うとね、まだ日本にアフリカを感じるところがあるかも知れないと思うわけさ。


という事でね、今度は鳥取に来てるんだよ。

もちろん、また家内を連れて、うちの仔猫ちゃんでね。


だって、パジェロミニじゃなきゃ、息子のくれたCDを聴きながら、アフリカの日の出を待つことが出来ないだろう?


「仔猫ちゃんもここへ来て県外奔走で大忙しね。」と、家内はコロコロと笑い、パジェロミニの車窓から鳥取の風景を私のカメラで写真に収めた。


「母さん、そういう写真は小さいカメラの方で撮ってくれんかね。またメモリーを買わなきゃいけないよ!」


「あら、別にいいじゃない。」とまた家内はコロコロとパジェロミニの助手席で笑ったのさ。


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― 新着の感想 ―
[一言] アフリカですか。行きたいです。今度のワールドカップに行きたいと言ったら、南アフリカは危ないからだめといわれました。 でも、あの雄大な景色。まのあたりにしたらもう死んでもいいくらいに思うそうで…
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