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第81話 君が生き延びる道はただ一つ!

 異世界における最強のアンデッドの一角『不死者の王(ノーライフ・キング)』。

 そのまんま過ぎる名称だが、いわゆる吸血鬼(ヴァンパイア)の上位種を指す。


 吸血鬼よりも遥かにタフで、その不死性はまさに『王』の名に相応しい。

 また、宿す魔力も膨大で、様々な魔法に精通し、身体能力も高い。


 異世界でこいつを相手にする場合、推奨されている対処法は『封印』だ。

 半不滅とも呼べるその特性を打ち破れる手段が極めて少ないことが理由である。


 こいつの出現は、異世界では一種の災害として扱われる。

 本人の不死性もさることながら、厄介なのは『眷属を殖やす能力』の方だ。


 こいつに血を吸われた生物は魂を支配されて『不死なる臣下(ノーライフ・マン)』となる。

 王ほどではないにせよ、強靭な肉体と再生能力を持ったアンデッドだ。

 しかも、この『不死なる臣下』も吸血によって他者を『不死なる臣下』に変える。


 どこぞのホラーサバイバルゲームみたいな連中なのである。

 そして、俺は異世界でこの『不死者の王』と実際に対峙したことがあった。


 それが『夜にして闇』と謳われた『不死者の王』カイト・ドラッケン。

 封印ではなく、完全滅殺という形で死を叩きつけてやった、かつての強敵である。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――『人外の出戻り』。


 そんなモノが、出てきてしまうのか。

 この、宙色市に。


 いや、あり得ない話ではない。

 あちらに転生するならば、転生先が人間以外である場合もあるだろう。


 あの世界にはエルフがいた。ドワーフがいた。妖精もいた。

 そしてゴブリンがいて、オーガがいて、ドラゴンがいて、アンデッドもいた。


 アンデッドに転生する、というのもおかしな話かもしれない。

 しかし、人の身に生まれて、自力で自らをアンデッドに昇華したならばどうか。


 俺が知るカイト・ドラッケンが、まさにそのパターンだった。

 あの野郎は俺が生まれる千年以上前に生まれて、自らを不死者化した。


 俺達『出戻り』は、身体能力以外、異世界で得た全てを持ち帰れる。

 記憶も、能力も、覚えた魔法も、収納空間(アイテムボックス)のアイテムも。

 だったらカイトが不死者としての能力を持ち帰っても、何の不思議もない。


「……『不死者の王』ってのが、まためんどくせぇ」


 ゆったり歩いてくる柳原達を前に、俺は心底うんざりしながら言う。

 こいつらはすでに『不死なる臣下』と化している。


 某有名ホラーサバイバルでいうところのゾンビ化しちゃってるワケだ。

 よって、今からこいつらは潰す。それはもはや確定事項。


「調査開始前にひと汗かくか~」

「え~、イヤよ。ベタベタになるじゃないのよ~」


 恨むなら夏と腐敗臭してそうな目の前の柳原君を恨んでくれ。あとカイト。

 ひとまずこのまま、ここに立っていても襲われるだけだ。


 俺は金属符を取り出して、周りを『異階化』させる。

 今回は、半径30m圏内。周りに人はいなさそうなので、空間を広くとる。


「さて――」


 空間を隔離し、俺はマガツラを呼び出そうとする。

 だが、ケントが一歩前に出て、いち早く『戟天狼(ゲキテンロウ)』を展開する。


「俺にやらせてください」


 こちらを振り返って言うケントの顔には、何やら厳しいものが浮かんでいる。

 決意とかそういうたぐいではなく、怒りとか苛立ちとか、そっち。

 俺は、ミフユとシンラの方を向く。


「別にいいんじゃない?」

「何やら、ケント殿には思うところがあるご様子。お任せするべきかと」

「OK、ケントに任せるわ。血ィ吸われるなよ~」


 俺が声をかけると、ケントは「わかってますよ」と言って構えを取る。

 柳原達『不死なる臣下』は、のったらのったらと前進してきている。


「遅いんだよッ!」


 己の異面体によって超加速能力を得たケントの姿が、俺達の前から掻き消える。

 次の瞬間、その姿が柳原達の直前に現れて、裂帛の気合が大気を震わせる。


「ゥオラァッ!」


 声。音。吹き飛ぶ『臣下』達。

 一発、のように思えた。

 ケントの拳は突き出され、音も激しい激突音が一度。しかし多分、実際は数十発。


 その証拠に、柳原達四人全員が、今の攻撃でアパート前の道路に吹き飛んだ。

 さらにそこから、超加速を得たケントによる滅多打ちが始まる。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ――――ッ!」


 四人の『臣下』を、その拳が、その蹴りが、打って打って打ちまくる。

 吹き飛べば、その先にすでに待ち構えているケント。健司をやったときと同じだ。


 だが、心なし、健司をぶちのめしたときよりも、力が入っているように見える。

 隣で見ていたミフユも、同じ感想を抱いたようで、


「何か、随分と熱くなってない、あの子?」

「確かに。何か憂いを胸に秘めているように見受けられまするな」


 シンラも同意する。

 しかし直後、ケントは自ら腹に抱えるものを吐露した。


「何が『不死なる臣下』だ、頭空っぽのクセによォ! おまえらはいいよなぁ、何も考えてなくていいから、頭の中に夢詰め込めれてさぁ――――ッ! こっちは、ここ最近、毎日毎晩悩んで悩んで、全然眠れてねぇんだよォォォォォォ――――ッ!」


 絶叫、からの、ブン殴る音。音。音。止まらない攻撃。攻撃。攻撃。


「あちゃ~、そういうこと……」


 何かに気づいたらしく、ミフユが片手で頭を抱えていた。


「何? 何なの? ケントの寝不足の原因、知ってたりするの?」

「う~ん、まぁ、う~ん……」


 興味本位で尋ねる俺に、ミフユは何とも歯切れの悪い返事をするだけ。

 この前から、一体何なんだよ……。いい加減、気になるんだが。


「まぁ、そのうちね……」

「えぇ~、何だよそれよぉ~」


 俺が不満を漏らした直後、シンラの「まずい」という呟きが聞こえてくる。


「シンラ?」

「ケント殿が相手取るには、些か相性がよくない相手のようですな」


 俺は再びケントと柳原達の方を見る。

 いつの間にか打撃音はやんで、ケントは『臣下達』の前に立ち尽くしていた。


「はっ、はぁ、はぁ! はぁ……!」


 派手に動き回って体力をすり減らし、呼吸が激しく乱れている。

 一方で、四人の『臣下』はまだ健在だった。

 滅多打ちにされて負った損傷も、みるみるうちに再生して消えていく。


 単純なゴリ押しでは打ち倒しにくい相手。

 そういう意味では、確かにシンラの言う通り、ケントには相性が悪い相手だ。


「クソ、この程度。こんな連中程度に、俺は……」


 ギリッ、と、ケントが奥歯を噛みしめる音が聞こえた。


「ケントってさ、あんなに弱かったっけ?」


 俺にだけ聞こえる程度の小声で、ミフユがボソッと言ってくる。

 そう言いたいのもわかるが、声に出すなよな、このババアはよ~……。


「シンラの言う通り、相性が悪いんだよ。……()()()()()()()

「え……?」


 訝しむミフユに反応を返さず、俺はケントに言う。


「ケント、選手交代だ。ここから先は俺とシンラがやる」

「団長、そんな……!?」

「散々殴って、気はまぎれたろ。今はそれで納得しとけ。話はあとで聞くから」


 重ねて言うと、ケントは悔しげに「クソッ」と毒づいてゲキテンロウを解除する。


「父上……」

「シンラ、おまえはあのピアス野郎以外の三人を沈めろ」


「父上は?」

「あのピアス野郎とお話しをしてくるわ」

「御意。それでは、これより『裁きの庭』を開きまする」


 シンラが、己の異面体である閻鬼堵(エンキドウ)を呼び出す。

 すると、一つ目の巨人に見据えられた三人の『臣下』が地の底に沈んでいく。


 シンラとエンキドウも同じように、ズブズブと地面へと沈み込んでいった。

 エンキドウが形成する『裁きの庭』に移動していったのだ。


 そしてこっちは、唯一残った『臣下』である柳原と相対する。

 もちろん、俺の傍らにはすでに異面体であるマガツラが出現している。


「団長、大丈夫なんですか。そいつ、相当タフですよ……」

「問題ないって。おまえだって知ってるだろ、マガツラの絶対超越(オーバードライブ)は」


「そりゃ、知ってますけど……」

「マガツラの能力は、その名の通り、相手の能力を絶対に超越する。つまりだ――」


 固く握られたマガツラの鉄拳が、柳原の顔面を真っすぐブン殴る。

 メシャ、と音がして柳原の頭部が爆ぜた。脳と骨と肉片が汚ェ花火となって散る。


「え、あれ……?」


 キョトンとするケント。

 きっと、柳原の再生が始まらないのが不思議なのだろう。


「な? 問題ないって言ったろ?」

「何が起きたんです? 何で、再生が始まらないんですか……?」


「だから超越したんだよ。あいつの不死性を超越して、ただの死体に変えてやった」

「……そんなン、ありですか?」


「ありだから、俺はカイト・ドラッケンに勝てたのさ。あのクソにな」

「やっぱ『勇者にして魔王』っすよ、あんた……」


 苦笑するケントから聞くそれは、まさに最高の称賛だった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 柳原が目を覚ました。


「あ、あれ……?」

「グッモーニン、柳原君!」


「お、おまッ、あのときのクソガ……ッ!」

「そしてグッイブニ~ング!」


 ガツッ。

 柳原の額に、ダガーを突き立てた。


 割れた頭蓋から血を溢れさせ、グルンと白目を剥いて倒れる柳原。

 俺は、それを蘇生アイテムを使ってさっさと蘇生する。


「あ、え、ぉ、おれ……」

「よぉ、柳原君、おはよう!」


「ぐ、おま……」

「態度が悪い。やりなお~し!」


 斧を首に叩き込んで、首が飛ぶ寸前の状態にして殺す。

 倒れる柳原を、俺はまた蘇生させた。


「ぁ、あ。お。ぉれは……」


 三度目はすでに顔が引きつっていた。

 自分が何回も殺される事実を自覚したようだ。態度が一気にしおらしくなった。

 これくらいで丁度いいかな。


「やっと大人しくなってくれたみたいだな。柳原君。俺も嬉しいぞ。今から尋問の時間だ。俺の質問にしっかりと、素早く、正確に答えてくれよな! 答えなきゃ殺す。返答が遅くても殺す。返答が聞き取れなくても殺す。答え以外のコトを言っても殺す。これからおまえが生き延びる道は、ただひたすら答えることだ。OK?」

「ひっ、た、助け……」


 命乞いをしようとする柳原の口の中に、ダガーを突っ込んだ。

 切っ先が延髄の部分を抉って、柳原の体から力が抜ける。人の話は聞けよなー。

 はい、蘇生蘇生。


「ぅ、あ……」

「質問するから答えてね。答える以外の行動をしたら、わかるよね?」


 すっかり怯えた柳原が笑いかける俺に何度もうなずいた。


「それじゃあ、最初の質問なんだけど――」


 そうして、俺は柳原から『堕悪天翼騎士団』の情報をゲットしたのだった。

 なお、柳原君は見事生き延びることができましたー!


 シンラのエンキドウの餌食になってたけどね。

 あ~、シンラって怖いね~。笑うわ。

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