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第69話 夏直前だよ、バーンズ家全員集合!

 明日は六月最終日。

 そういえば今月はまだ集まってなかったなー、と気づく俺。

 ちょっとミフユに相談。


「あ、そーねー、何だかんだ忙しかったし、都合がつく子だけでも呼びましょっか」


 ということとなりまして、一応、全員にアポ取り。


「む、問題ありませぬぞ。ひなたも明日は休園日ゆえ」


 シンラ、ひなた、OK。


「え~? いつもの~? ちょっと遅れるかもだけど、いいよぉ~」


 スダレ、遅刻するとのことだが、OK。


「ああ、定例の。……お嬢来ます? ……来る? う~ん、今回はパスで!」


 ケント、パス。珍しいな。つか、タマキと何かあったんか?


「いつものかー、行く行く! え、ケントしゃん来ないの? え~、マジで~!?」


 タマキ、OKだけど露骨に不満げ。絶対何かあったよね、これ?


「はい? 宴会? ああ、こっちでもやるんですね。ええと、食べ物出ます? 飲み物は? お酒はないけど父様達の奢り、ですか。なるほど。……行きます!」


 シイナ、OK。完全にタカりに来てるの、たくましくて笑うわ。

 そんなこんなで、やや急ではあるものの翌日にバーンズ家集合と相成りました。


 会場は、ミフユのツテで前回と同じく例のホテルの最上階。

 もちろんワンフロア貸し切りさ。

 そろそろ、このワンフロア貸し切りとかいうブルジョワにも慣れてきたな……。


 ――今回も、家族で飲んで騒ぐぞー! お酒はなし! ひなた小さいから!



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 当日、ひとまずシンラ、ひなた、タマキ、シイナ、俺とミフユ、集合。


「スダレは二時間ほど遅れるそうなので、そのときにまた乾杯ってことで~」

「了承いたしましたぞ、父上」

「りょーしょーましたぞー」


 うなずくシンラに、ひなたが追随する。何かあれね、ほっこりするね。


「うわ、うわ、本当にみんな集まってる。……うわ。うわぁ。うわぁぁぁぁ」


 何でおまえは半べそかいてんだよ、シイナ……。


「ケントしゃん……」


 そしてこっちはすっかり(しぼ)んでるタマキ。


「……ミフユさんや、うちの長女に何かあったのかい。ケントも来ねーし」

「さ~ぁ? ミフユちゃん、わかんな~い」


 と、肩をすくめるミフユ。嘘だろ、絶対トボけてるだけだろ、ババア。


「ま、そのときが来たら、ケントかタマキからあんたの方に話が行くわよ」

「何それェ、超気になるんですけど~……」


 気になって夜しか眠れない系のアレなんですけど~……。


「いいのよ。家族思いもいいけど、外野が立ち入っちゃいけないコトもあるでしょ」

「……う~ん、まぁ、了解」


 ミフユの言うことにも一理あるとは思うので、モヤモヤはするがしばし様子見で。


「さて、それじゃあ今集まれるメンバーは集まったなー。乾杯するぞー」

「父様、お酒はないんですよね? 弱いお酒もないんですよね?」


 乾杯直前、そんなことを言い出すシイナ。


「ねーっつってんだろーが! おまえちょっと見ない間に酒飲みになったんか!?」

「いえ、せっかくのタダメシなので、タダ酒も欲しかっただけです」


「酒飲みかどうかはともかく厚かましくなったのは理解したわ」

「私、バーンズ家で随一の庶民派感覚の持ち主なので! バーンズ家で随一の!」


 それは誇ることでもないし自慢することでもない件。


「…………ま。いいか。じゃあグラス持てー、乾杯するぞー」

「なので、こんなホテルの高いお部屋に来て膝が笑っています。大ダメージです!」

「うるせぇ、いいから乾杯すんだよ、庶民派ァ!」


 付き合ってたらいつまで経っても乾杯できねぇ! こうなりゃもう強行だッ!


「はい、それじゃあ! カンパァ――――イッ!」

「「かんぱーい!」」


 カチンカチンと、グラスとグラスが重なる音が幾つもして、宴会開始。

 っつっても、思い思いに飲んで食って話すだけど、決まった進行なんぞ別にない。

 シンラとシイナが話している。


「シイナよ、おまえとこうして再び巡り合えたこと、兄は心より嬉しく思うぞ」

「は、はい。あの。シンラ兄様も、お変わりないようで……、エヘヘ」


「うむ、余と決して視線を合わせようとしないその態度、実に懐かしきこと」

「胃が痛いんですよぅ、皇帝陛下とお話しするとか、胃がキリキリするんですぅ~」


「ハハハハ、おかしなヤツめ。こちらにおいては余はただのサラリーマンであるぞ」

「じゃあ『余』とか言わないくださいよ~! 態度が皇帝なんですよ、兄様!」


 うん、それは俺も思う。

 そういえば、シンラとお袋、今どうなってるんだろう。

 あとでそれとなく確認しておくかなー。


「う~、ケントしゃん……」

「ちょっと都合がつかなかっただけでしょ、いつまでもしょげてんじゃないの」


 こっちでは、未だショボンなままのタマキに、ミフユがはっぱをかけに行ってる。


「だってさ~、おかしゃん」

「せっかくの集まりなんだから、シャキッとしなさい。あんた、一番上なんだから」

「う~……、うん!」


 と、タマキが顔をブルンブルン振って、


「そうだな、よし! オレ、バーンズ家の一番おねーちゃんだモンな!」

「そうよ、その調子よ。ほら、みんなとお話してきなさい」

「は~い!」


 こういうときの切り替えの早さは、やっぱタマキだなーって感じる俺である。


「ねぇねぇ~」


 と、俺の背中を誰かがポンポンと叩いてくる。

 振り返ると、何か大きな紙を持ったひなたが俺のコトを見下ていた。


「お、どうした、ひなた?」

「これ見て~」


 と、見せてきたのは画用紙で、そこにはクレヨンで何かグシャグシャ描いてある。


「おとうさんだよー! 幼稚園で描いたのー!」

「おお、これシンラかー、いいじゃん。上手く描けてるじゃねぇか」

「でしょ~!」


 エヘン、と自慢げに胸を張るひなた。

 もちろん、画用紙に描かれてるのはかろうじて人の顔とわかる感じの絵。

 だが、その下に下手な文字で『おとうさん』と書いてあるのが結構ポイント高い。


「いかがです父上。ひなたが、余のために描いてくれたのです。余のために!」

「出たなバカ親バカ。よりによって俺に父親マウントか、この野郎……」


 ひなたの後ろで、同じように胸を張ってふんぞり返るシンラがクソムカつく。


「おまえよー、お袋とはどうなん? 最近、その話、聞かないじゃん?」

「うむ、それなのですが、いやはや美沙子殿はなかなかに難敵でありまするな」


「ん? どゆことよ?」

「余がその件について話そうとすると、見事にかわしてゆかれるのです!」

「ああ、なるほど。お袋の『重要な話に加わらないスキル』は凄まじいからな……」


「まこと、難攻不落と呼ぶにふさわしい。されど、余は諦めませぬぞ」

「ひなたには母親が必要だモンなー」

「然り。今のところ、美沙子殿が最有力候補ゆえ余は攻めの手を緩めませぬぞ」


 今のところ、か。

 じゃあ、他の有力候補が現れたらそっちに移ったりするんだろうか。


 あー、移るかもしれんなー。

 シンラは皇帝だ。情よりも理と利を優先する傾向にある。何よりひなた第一だし。


 う~ん、けど、まぁ別にいいか。

 お袋に俺が力を貸す理由なんてねぇし。生かしてやってるだけで十分だろ。


「むむむ、このサンドイッチ、美味しいですね。母様、これどこのお店のものですか? ……えっ、あそこの通りにそんなお店が。ちょっと調ますね。……うわ、高ッ、でも店長さんカッコいい! 独身でしょうか? あ、妻子持ちだ。ちぇ~」


 ……シイナが何やら一人百面相をしておるなぁ。


 あいつ、今年で二十六だっけ。

 アラサーってヤツ、になるのかな。今の様子を見るに、彼氏いないんだろうな。


 異世界でもその辺をずっと気にしてたモンな。

 最終的に結婚できたけど、それもお見合い結婚だったし……。


「ああああああ~、このお肉、おいひぃ……。超おいひぃ……。お、お酒、チューハイが欲しくなります。いや、これなら日本酒、ビールもありでしょうか……!」


 ――次から少しは酒も用意した方がいいんだろうか。ミフユと相談しよう。


「そういえばよー、おまえらって、今はどんな生活してるん?」


 これは、ふと気になった俺からの質問。

 異世界では家族だった俺達も、こっちでは赤の他人なワケで、気になるよね。

 知ってどうなるってものでもないが、宴会での余興なだわな。


「余につきましては御存じでありましょう。市内の商社に務めておりまする。こちらでの両親は健在ではありまするが、ほぼ没交渉にて。いわゆる長男教の毒親でした」


 長男教ってのは、親が長男を最優先する家族を指す言葉だな。

 シンラは確か、次男だったんだっけな。扱いに格差があったんだろうなー。


「大学に進む折、こちらの大学を選びまして、それを機に家を出たのでございます」

「ございますー!」


 自分の真似をするひなたを、シンラが優しく撫でた。


「オレは両親はいないなー。二年前に事故で死んじゃった。俺もそのとき『出戻り』したんだけどさ。あと俺、こっちじゃクォーターなんだ。父方のじいちゃんがブラジル人なんだってさ。会ったことないけど。こっちに来るまでは母方のじいちゃんとばあちゃんと住んでたぜー。マガコーに進んだときに一人暮らし始めたんだ!」


 女子高生の一人暮らしとか、それだけ聞くと色々危なく思えるが、タマキである。

 こいつの馬力をどうにかできる人類はいないので、一人暮らしも余裕だろ。


「普通の家に生まれて、普通ややオタ寄りに育って、普通に高校を出て、普通に短大を出て、普通に就職しようと思ったら大きな病気やっちゃって『出戻り』して、占い師になりました。……占い師って、普通ですよね? 普通、です、よね?」


 あ、うん。……普通、かなぁ?

 シイナはきっと、バーンズ家を反面教師にして育っちゃったんだろうなー。

 本当、やたら『普通』であることにこだわってるし。


 だが、自称『庶民』のこいつを、俺は普通と思ったことは一度もない。

 何なら、個性豊かなバーンズ家の中でも、指折りどころか随一の個性派まである。

 こいつのとびっきりの特異性に頼ることも、この先、あるだろう。


「俺とミフユは、語るまでもないかなー。今はただの小学生やってるし」

「そうよねー。どこにでもいる小学生やってるわよねー」

「「ない。それはない」」


 ウチの長女と長男が、ものすごい真顔で声を揃えて否定してくる。

 あ~ん? どういう意味だよ、そりゃあよ~!


「こぉんにちはぁ~! きたよ~ん!」

「こんにちは、お邪魔させてもらいますね」


 と、そこに新たな参加者登場。スダレと――、え、誰?


「あらスダレ、来たのね。……って、そちらの男性はどなた?」


 お土産代わりらしきお菓子と飲み物を持ってきたスダレの隣に、男が立っている。

 何というか、妙にスダレと印象がかぶる、眼鏡をかけた若い男だ。


 よれよれのスーツに、銀縁の眼鏡。

 人のよさそうな柔和な印象の顔はシンラほどではないが、随分と整っている。

 男は、俺達に向かってせわしなくペコペコと頭を下げてくる。


「八重垣簾の夫の八重垣淳(やえがき じゅん)と申します」

「「旦那さんだァァァァァァァ――――ッ!」」


 途端に盛り上がるミフユとタマキ。うっさいわ、おまえら……。


「えええええええ、スダレ姉様、既婚者? 既婚者!? き・こ・ん・しゃ!!?」


 シイナはシイナで魂の叫びを響かせておるわ……。


「あ~、おシイちゃんだ~! 久しぶりぃ~、懐かしいねぇ~!」

「ええ~い、寄るな寄るなです! 既婚者は敵! 既婚者は、私の敵ですッ!」


「うにゅ~? ノンアルコールビール買ってきたけど、飲む~?」

「飲みます、ただちに休戦協定を結びましょう!」


 はっや、やっす。

 おまえは本当にそれでいいのか、シイナ……。


「あはは、賑やかですね」

「あ~、え~と……」


 朗らかに笑う淳に、さて、俺はどう接したモンかと頭を悩ませる。

 スダレの旦那さんかぁ。それも驚いたけど、俺らの関係性は何と説明したモンか。


「ああ、大丈夫ですよ、アキラさん」


 考えあぐねていたところに、淳がそう言ってきてくれる。


「実は、僕も『出戻り』なので、皆さんの事情についてもスダレから聞いています」

「え、そーなの?」


 それなら話が早いんだけど、夫婦揃って『出戻り』か。珍しい。

 俺とミフユは、あっちでは夫婦だけどこっちじゃまだ同級生でしかないしな。


「いやぁ、僕も伝説の『バーンズ家』にお会いできるなんて、思ってませんでした」

「ん? 伝説の……?」

「はい。僕が生きていた時代は、皆さんの時代より三百年ほどあとなんです」


 なぬ、そんなこともあるんか!?


「改めて自己紹介を。僕は八重垣淳。あっちでの名をジュン・ライプニッツ。『探究者にして探検家』なんて呼ばれたこともある、しがない学者だった者です」


 そう言って、ジュンは俺に向かってまた頭を下げてきたのだった。

 腰、低いなぁ……。

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