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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第四章 佐村家だらけの死亡遊戯

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第59話 佐村甚太の脱落:前

 丸一日を、佐村甚太の行動調査に費やした。

 運の悪いことにスダレはどこぞに出かけていて、調査を頼めなかったからだ。


 あいつ、あっちの世界でもいきなりフラッといなくなることあるんだよな。

 基本、出不精のクセに行動が極端というか、何つーか。


 まぁ、いいけど。

 と、いうワケで久々の単独スニーキングミッションだったよ。

 異世界じゃ時々やってたんだよな。そういうの。


 どこもかしこも戦争ばっかで、傭兵にも色々と求められてたから。

 こっちの世界でもその辺りの勘を鈍らせないようにしておきたいというのもある。

 つっても、異世界に比べりゃ潜入も調査も格段に楽だったけど。


 佐伯甚太の家は天月市郊外。宙色市との境目辺りにあった。

 宙色市の高級住宅街にあった勲の家よりもさらに大きく、半ば城って規模だった。

 だがその分、敷地も広くて潜入しやすかった。


 一応、警備の人員はいるし、監視カメラとかもあったんだけどな。

 でもその辺りは『隙間風の外套』一つで軽くクリアだ。


 宙から偵察用ゴーグルを使って、警備が手薄なところを見つけておく。

 その後、そこから外套を羽織って姿を隠し、敷地の中へ。

 ゴーグル越しだと、レーザー探知のたぐいもしっかり視認できるのでいいね。


 そして、これだけ建物が大きければどうしても警備上の死角は生じる。

 そこさえ見つけ出せれば、あとは中に入るのは簡単だ。


開錠(アンロック)


 カチン、という音がして、窓の鍵が開いた。

 建物は地上四階、地下三階という大きさ。俺は四階の窓から内部に潜入する。


 そっからは、別の魔法アイテムを使って内部調査だ。

 使ったのは『メモリアグラス』という片眼鏡(モノクル)で、見たものを全て記憶できる。


 しかも外付け記憶装置としての機能もあり、装備中は自由に記憶を検索できる。

 検索した記憶は、すぐさま脳内に再現してくれる優れモノだ。


 これと外套を使って、俺は甚太の家の中を隈なく調べた。

 結果、わかったことはこの家の地上部分は半ば仕事の事務所だということ。

 甚太や使用人以外にも、多くの人員がここで働いていることを確認した。


 佐村甚太自身は、仕事中はほとんど地上一階部分の自室からは出てこない。

 そして仕事が終わると、地下階へと向かう。

 この家の地下階が、甚太にとってのプライベートスペースらしい。


 そして、次に地下階の調査を始めた俺は、そこで見つけてしまった。

 佐伯甚太に対する、さらなる仕返しの理由を。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 地下三階の一番奥。そこに、佐伯甚太の寝室があった。

 いや、地下三階自体が、甚太の寝室ゾーンというべきかもしれない。


 この階には、幾つもの寝室があった。

 そしてそのどれにも、首輪だけをつけた裸の女が繋がれていた。


「……なるほどね。そういう趣味か」


 闇の中、大きなベッドの上に死体のように投げ出された形で、女が眠っている。

 年齢は十代半ば。タマキよりは年下そうに見える。


 全裸で、ゴーグル越しに見ると体に幾つものあざが確認できる。

 首には犬の首輪。そしてそこから鎖で繋がれて、鎖は壁の金具まで伸びていた。


 鼻先をくすぐる、この微妙に不快な匂いは、野郎のアレが乾いた匂いか。

 この女、壊れてもいいおもちゃみたいな扱い方をされてるな。

 疲れているのか、心が摩耗し尽くしてるのか、瞳をうっすら開けたまま寝ている。


 もしかしたら、心を壊して呆けているだけかもしれない。

 俺はそっと近づいて、軽く話しかけてみた。


「おい、生きてるか」

「…………」


 返事はない。

 ただ、瞳から涙がこぼれるのが見えた。

 そしてしばしして、その唇がかすかに動きを見せる。


「だん、な、さま……、どうか、わ、たしを、ごじゆう、にして、くだ……」


 声が紡がれて、涙がこぼれる量も増えていく。

 やはりこいつは、心が壊れかけてるな。よっぽどの扱いをされてきたんだろう。


 俺の脳裏に、あの日の光景が蘇る。

 佐村勲の家で行われていた父親と娘の、ひそやかな情事。


 別に、それはどうでもいい。

 今、俺の目の前にいる女にしても、俺にとってはどうでもいい。

 だが意識がそこに及ぶと、どうしてもミフユのことにまで繋がってしまう。


 すると、俺の気分はそこで一気に悪くなるのだ。

 おかげで、あのときヘリの連中に対して感じた最悪の気分を取り戻せた。

 ああ、胸の奥に黒いものがジリジリと焦げつくのを感じる。


 殺意、殺意、殺意。

 ただ殺すのでは到底収まらない殺意が、次から次に湧き上がってくる。

 油田から、石油がドプドプと勢いよく溢れるようにして。


「――おまえ、どうしたい?」


 俺は、ブツブツ呟いている女へと問う。

 すると、しばしの間をおいて、女は何も映していない瞳のまま、答えた。


「ころして」

「誰を?」


「さむら、じんた」

「わかった。その絶望、俺が引き受けた」


 俺は金属符を壁に張りつけ、この巨大な屋敷の敷地全体を『異階化』させる。

 それから外套を脱ぐと、女にかぶせるようにして布団の上に広げた。


 女の姿が、ベッドから消える。

 そして俺は、そのあとで一つの魔法を唱えた。


「――面相変写(フェイズフェイス)



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 地下三階にも、警備員はいる。

 その一人が、俺のいる寝室の前を通りかかろうとする。


 俺は、警備員が来るタイミングで、寝室のドアをゆっくりと開いた。

 建付けが悪いのか、ドアはギギィと軋みながら開いていった。


「……誰だ?」


 警備員が立ち止まり、腰のホルスターから警棒を抜いた。

 それなりに訓練しているのがわかる、淀みのない動き。顔も警戒を浮かべている。


「…………」


 俺は無言で扉をくぐり、警備員の前に出る。

 すると、警備員は驚きの表情を浮かべた。そういう反応にもなるだろうな。

 こいつには、俺が部屋に繋がれていた裸の女に見えているだろうから。


「き、君は、鎖は、どうしたんだ……?」


 まともに驚いているように見えて、鎖のことを知っている時点でアウト。

 俺はニッコリと笑いかけ、右手を振り上げる。

 その手には、血で刃が錆びかけている、肉厚の鉈が握られていた。


「……え?」


 と、不思議がる警備員の首に、俺は思い切り鉈をブチ込んだ。

 肉が潰れる手応えと共に、警備員の首の骨がポッキリと折れて、そのまま倒れる。


「そうだよなぁ、ここにいる時点で、事情は知ってるよなぁ」


 だが、すでに仕返しは始まった。

 これから俺は、この建物にいる人間を全員殺す。そして、そこにある全てを壊す。

 佐伯甚太の全てを、壊して殺して犯して冒して刻んで砕いて、踏みにじる。


「さぁ、因果応報の始まりだ」


 警報が鳴り響く。

 俺はもう、己の存在を隠していない。


 監視カメラでも今の殺害を確認しただろうし、追加の警備が来るのもすぐだろう。

 なので、俺は俺を見つめる監視カメラを見上げて、笑いかけた。

 見る者の知覚をあざむく『面相変写』の魔法は、カメラ越しでも有効なはずだ。


「いたぞ、あそこだ!」

「ひ、平井が倒れてるぞ……!?」


 来た来た、追加の警備員。その数は三人。

 皆、手に警棒をもって、こっちを警戒している。警棒は、スタンガン内蔵かな。


「平井、首が……ッ」

「死んでる? 殺したのか、あの女が!?」

「何てことをしやがるんだ!」


 三人の警備員が口々に騒ぐが、よくもまぁ、そんなことを言えたモンだ。

 この階にいる女達がどういう扱いをされてるのか、知ってるだろうに。


 まるで自分達はまともな人間ですとでも言いたげなその反応。

 いやはや、参るねェ、どうにも。やめろよ、殺すのが楽しくなっちゃうだろ。


「歩き出した。こっちに来るぞ!」

「あいつは平井を殺しやがった、こっちも殺す気でかかれ!」

「ウオォォォォォオオオオオオオオオオオオ!」


 警備員三人が、俺に向かって殴りかかってくる。

 成人してる男が三人も、よってたかって見た目十代の女、中身小学生の俺に。

 カッコイイねぇ、シビれるねぇ、笑うわ。


「くらえェェェェェェ――――ッ!」


 スタンガン内蔵の警棒が、俺の体を打ち据えた。

 頭。鎖骨。肋骨。衝撃によって、その全てが見事に砕ける。折れる。

 さらには電撃が全身に走って、俺の体は大きくビクンと震えた。


「やった……」


 警備員の一人が言うが、おめでとう。フラグ成立です。


全快全癒ヒール・パーフェクション


 傷が全て消えた。痛みもなくなり、俺の体は健康そのもの。フラグ回収です。

 そして俺は、鉈を勢いよく振り上げる。


「え」


 その反応、平井さんと同じですよストラァァァァァァァァァァァッシュ!

 鉈が、平井の死を悲しんでいた警備員の頭を一撃でブチ砕く。


 皮膚が破れ、頭蓋が割れて、中身が他二人へとブチまけられる。

 そして響き渡る、驚愕の悲鳴。


「ひゃあああああああ、あぁ、ああああああああああああああああああ!?」

「逃がすかよぉ~」


 魔導の鎖によって、逃げようとする他二人を縛り上げる。

 そして俺は、女の姿をしたままで、ひたひたと近寄っていき、鉈を高々掲げた。


「お兄さん、死んで♪」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァアァァァァァァァァ――――ッ!」


 鋼鉄が命を叩き潰す音が、二度、響いた。


「それじゃあ、次に行ってみよ~」


 地下三階の通路を歩く俺のあとに、鮮血の足跡が残っていた。

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