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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
幕間 バーンズ家の色々諸々冬景色

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第532話 一難去ってまた七男

 必殺、無言で肩パンチ。


「ぁ痛ァ!?」


 俺の一撃によって、親父は悲鳴をあげて悶絶した。

 ククク、どうよ、この一撃。ミフユ直伝、指の関節でグリっといくパンチだぜ。


「ちょ、ちょっとアキラちゃん、いきなし何してんのよぉ!?」

「お仕置きどす」


 慌てて駆け寄るライミごと、俺は親父に半眼を向ける。

 まぁ~ったく、この野郎は何回言っても隙を作ることに余念がないというか!


「親父さぁ~、さすがにちょおぉ~~~~っと、ヒント出しすぎなんだわぁ」

「ヒ、ヒント……?」


 あ~、わかってない。

 この宙船坂集、自分のしでかしたことを何にもわかっちゃいないのである。


「えっと、マリク様のことでしょうか……?」


 俺が腕組みして目線だけで親父をいじめていると、おずおずとユユが切り出す。


「ああ」


 短く答えて、俺はマリクがいる部屋の方を見据えた。

 ふすまで仕切られた一つ奥の部屋。


 今、マリクはそちらで瞑想をおこなっている。

 何でも『出戻り』したあとも一日一度の瞑想はずっと続けてたとか。真面目か。


「元々、俺がマリクをここに連れてきたのは、尽きかけたあいつの気力をライミの異面体で回復させてもらうためだったんだよ。本当に、それだけだったワケ」


 俺としちゃあ、それ以外の目的は何もなかったんだ。

 ところが、この宙船坂集だよ。


「なのに親父がさぁ、いつもの『やさしいおじさん』を無駄に発揮しちゃってさぁ、マリクがまだ自覚してない問題の本質を鋭く抉っちゃってくれたからさぁ……」

「あ~、それって、もしかして……」


 今頃気づいたらしい親父が、半笑いになって俺の方を見る。


「アキラは、あえてマリク君に伝えていなかった、ってことなの、かな?」

「そうですが、何か?」


 質問に質問を返すのは無礼なので、俺は質問に質問を返してやった。


「自分の中で確固たる結論は出てるのに、その結論が正しいかどうかを確かめる。はい、おかしいですね。どう考えてもおかしいですね。矛盾してますね。誰だってわかることですね。――そうだよ、誰だってわかんだよ! 俺だって!」


 当然、気づいてたに決まってるだろうが。こんな見え見えの破綻。

 だけど、それを今のマリクにそのまま指摘してどーすんの。って話でしょうがよ!


「マリクだって、誰かに言われないでも自分で気づけたよ」


 親父への呆れをそのまま言葉にたんまり乗せて、俺はその場にあぐらをかいた。


「一日しか時間はない。っつったって、それは逆にいえば一日は時間があるってことなんだから、それだけの時間がありゃ、今のあいつでも遠からず気づいたさ」

「本当に? マリクちゃん、すごいギリギリっぽく見えたけど……」


 と、ライミがいかにもな疑問を口に出してくるが、そりゃあそう見えもするか。

 今のマリクには余裕がない。それは間違いない事実なのだから。だが――、


「ウチのマリクをナメんなよ、おばあちゃん」


 俺は、そこで確信をもってライミを鼻で笑ってやる。


「な、何よぅ!」

「マリクはマリクだって話さ。どれだけ余裕がなくても、ギリギリでも、あいつはバーンズ家の次男、マリク・バーンズ。『大賢者にして大司祭』と呼ばれた天才だ」


 そう――、天才。

 マリクは十五人の子供達の中で特に魔法に長けた、魔法の天才だ。


 肉体的な素養だけを見るなら、最も強い魔力を持って生まれたヒメノの方が上だ。

 しかし、魔法に関する才能ってのは、別に魔力の強弱だけじゃない。


 魔法を使う際に実際にモノをいうのは二つ。

 それは『魔力量』と『魔力の使い方』。


 そしてマリクが長けているのが、後者の部分だ。

 魔力量こそ並程度でも、無駄なく魔力を使うことで多数の魔法を行使できる。


 魔力の制御技術において、マリクは他の追随を許さない。隔絶している。

 ところで、バーンズ家にはシイナという洞察力オバケがいる。


 あいつは0から1を見抜くことを得意としている。

 この部分では、シイナはラララなんかも凌駕してぶっちぎりの精度を誇る。


 一方で、マリクはシイナのようにはいかないが、別の部分で洞察に優れている。

 あいつの場合は1の情報から10の答えを導き出すことができる。


 本質を見抜くのではなく、多面的に考察する方面の洞察力がズバ抜けているのだ。

 そんなマリクが、この窮地で思考放棄などするワケがない。


 あいつは、今も考え続けているはずだ。

 何を知るべきか、何を見るべきか、どう見るべきか、どこを目指すべきなのか。


「親父に言われるまでもなく、あいつは自分の中にある矛盾に気づくよ。そして、またそこから考え始めるだろうよ。その矛盾に対して、色々な角度でね」

「おまえは、マリク君がこれからどんな道を進むのか、わかっているのかい?」


 親父が、俺にそんなことを言ってくるが、それこそ『まさか』ってヤツですよ。


「わかるわけないじゃ~ん。俺にシイナみてぇな予知能力はないんだわ」

「そうなのかい? 何か、確信しているような口ぶりに聞こえたけど」

「ああ、確信はしてる」


 俺はうなずく。それこそ、自信満々、力いっぱいに。


「あいつが、マリク・バーンズがこのまま『自分を亡却する』なんて結論をよしとするワケがないって、確信してるよ。どんな理屈でそれを否定するかは知らねぇが」


 そう、あいつがどうやってその結論を否定するか、俺にはわかりようもない。

 何故なら俺はシイナではないので、予知能力などないからだ。


 だが、あいつがどうあれその結論を否定することは、俺には疑いようもない。

 何故なら俺はアキラ・バーンズで、マリクの父親であるからだ。


「ただなぁ」


 ここで俺は、盛大にため息。


「今回の巡礼さ、確かにマリクにとっては矛盾でしかない行動なんだけど、俺は必要な『過程』なんじゃないかと思ってンだよね。あいつにとっては」

「それは、マリク君が自分を見つめなおすという意味で?」


 などと宙船坂集氏はおっしゃられてやがるので、俺はにこやかな笑みを返した。


「そんな! 親父じゃあるまいし!」

「ぐふぅ……」

「アキラちゃん、今日はいつになくおじさんに辛辣だね……」


 ライミはそう言うが、でも俺のことを止めたりはせんのだな。

 こいつはこいつで、俺の言わんとするところを半ば察しているようだった。


「ま、半分は親父の言う通りではあるがな。ただ、自分を見つめなおすなんて、マリクは毎日どころか毎秒やってるよ。今みたいにな。俺が言ってるのは『その先』だ」


 ――『その先』。


 今まで『自分を忘却する』という結論を抱えていたマリクが、どこに行きつくか。

 それを決めるために必要なのがこの巡礼なのだと、俺は思っていた。


「だからね、俺はね、できる限りあいつのやらせたいようにやらせようって思ってたんです。余計な口出しはしないでね。……でもね、そこにいる宙船坂さんがね?」

「ああ、うん、そうか、そうだね……」

「あ、何かおじさんがヘニャヘニャにしぼんでく!?」


 この一日、できる限りマリクには考える時間を与えてやりたかったのが俺の本音。

 だが、親父が余計なヒントくれたからね~、ショートカット発生不可避ですわ。


 多少いじめる程度は許せ、親父よ。

 あんたのその大らかさと優しさは美徳で美点だが、同時にやっぱり隙なのだ!


「さてさて、それにしてもクラマねぇ……」


 俺はチラリと時計を見る。

 午後十時ちょっと過ぎ、ですかー。十時ちょっと過ぎかー。そーかー……。


「早ェ、いくら何でも早ェよ……」


 クラマはマリクにとって、聖職者としての師匠筋。

 そしてディ・ティの依り代であるランタンの前の持ち主でもある。


 マリクにとっちゃあ、家族とディ・ティ以外で最も強い影響を受けた相手だ。

 その意味では、クラマはこの巡礼で最後に話す相手になるだろうと予想していた。


 に、したって早すぎやしませんかねぇ。

 旅立ってイベント二つこなしただけで即ラスボスって……。


「あ~、アキラちゃんが何か難しい顔してる~」


 腕を組んで考え事をしている俺を、ライミが横から覗き込んでくる。


「何ですかねぇ、異世界実母さん」

「アキラちゃんが悩んでるから、心配してるだけだけど~?」


 心配。心配ですか。笑うわ。


「何だよ、そりゃ。今は俺よりマリクのことを心配するべき場面だろうがよ」

「そーかもしれないねー」


 俺が鼻で笑うと、ライミは軽い調子でそれにうなずく。そして、


「でもでも、あたしはアキラちゃんも心配なの。……ダメ?」

「…………笑うわ」


 言いつつも、俺は苦笑の一つも浮かべることはできなかった。

 ああ、そうだったね。自分で言っておいて何だが、この女、俺の母親だったわ。


「俺は大丈夫だから、変に不安になるなよ」

「ん、わかった。でも何かあったらいつでも言ってね?」

「へいへい」


 俺は肩をすくめる。

 マリクを心配する俺が今のライミを笑ったら、自分を笑うのと同じだわな。


「……あれ、おかしいなぁ」

「どうしたんですか?」


 と、そこに親父とユユの声が聞こえてくる。

 親父は、スマホをいじっていた。クラマに電話をかけようとしているようだ。


「先生が出ないんだよ。RAINで呼びかけても既読がつかないし」

「お忙しいだけなんじゃないですか?」

「そうかもしれないけど、いつもこの時間は反応があるからね」


 クラマに連絡がつかない?

 いつもはいるであろう時間に、今日に限って……?


「ちょっと電話かけるわ」

「え、アキラも、佐藤先生にかい?」


 スマホを取り出す俺に親父が言ってくるが、違う。かける先はクラマではない。


「もしもし」

『わっほ~、おパパ、どしたの~ん?』


 俺が電話をかけた相手は、ご存じ情報一強のスダレだ。


「クラマと連絡を取りたいんだが電話に出なくてな。探せるか?」

『それってつまりご依頼ですかぁ~? それともゴリラ胃ですかぁ~?』

「ゴリラの胃だったらどうすんの……?」


 純粋な興味が先に立ってしまい、思わず聞き返してしまった。


「依頼料お支払いはミフユに頼んでくれ」

『にゃ~い。情報、検索検索~。ヒ~ット、アンド、リリ~ス』


「リリースすんな! 結果を教えろや!」

『だってだってのだってってぇ~、おクラさん市内にいないっぽいしぃ~』


 クラマが、宙色市内にいない?


『天月にもぉ~、星葛にもぉ~、陽室にもいないっぽいよぉ~』

「はぁ? 何だそりゃ、どういう――、……あ」


 思い至った俺は、そこから二言三言スダレと言葉を交わして電話を切る。

 深く嘆息する俺へと、親父とライミが視線を注いでくる。


「やれやれだよ、ホント……」


 俺は収納空間から取り出した金属符を、近くの壁に貼りつけた。

 すると宙船坂家の今は異階化し、そこに今までいなかった長身の女が出現する。


「わ!?」

「お、おぉ……?」


 いきなり飛び出た怪異・電信柱女に、ライミは仰天し親父は軽くのけぞった。

 驚き方にも個性が出てるの、見てて笑うわ。


「おやおや、父様、このアオ・バーンズめに何か御用でございますでしょうか~!」

「おまえントコにクラマいるだろ、ギオ」


 俺は単刀直入にそう告げた。それしか考えられなかった。

 クラマは放浪癖こそあるものの、あいつ自身の行動範囲はそう広くはない。


 だがスダレはあいつは近隣の市のどこにもいないと言っていた。

 じゃあ、考えられる可能性は一つだけだ。だって、クラマも『眷属』だもんな。


「クラマ・アヴォルト様でございますか~! ええ、ええ、いらっしゃいますとも! あたくし共の本国『高天禍肚(タカマガマガハラ)』に~! キシシシシシシシシシシシ!」

「やっぱか……」


 どうやら、次に向かうべき場所は、決まったみたいだ。

 それにしてもいつぶりだろうな。ギオの異面体に行くのは。うん、忘れたね!


「え、顔、怖……」


 アオを見て腰抜かしてるライミの一言がこれ以上なく無礼だった。笑うわ。

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