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第55話 チーム『ジャンクメイカー』の脱落

 空間を切り離し、限定的に世界を『異階化』させる金属符。

 色々と便利なアイテムであるが、実はこれには裏技的な使い方がある。


「連中が突入してきたと同時に切り離す。いいな」

「うん」

「上等」


 ミフユとタマキが揃って応じ、俺の手には二枚の金属符。

 玄関からガチャガチャと音が聞こえて、その直後に鍵が回る音がする。

 そして、ドアが開け放たれ、外から武器を手にした男達が次々に突入してきた。


 数を確認。全部で六人。

 手には木刀やバット。飛び道具のたぐいを持ってるヤツはいない。

 全員が帽子をかぶってバンダナを巻いたりして顔を隠している。


「佐村美芙柚はここにいるよなぁ!」


 男の一人がそう叫んだところで、後続がいないことを確認した俺は動き出す。


「さぁね」


 両手に持った金属符二枚を、背中合わせに張りつけた。

 こうすることで、本来であれば『異階化』を引き起こす効果に、バグが生じる。


 そして空間は変質を起こし、全てが灰色に染まる。

 灰色の大地、灰色の空、壁はなくてどこまでも同じ風景が続いている。


 スダレの『万象集積階』の第三階層にも似ていなくもない風景だ。

 ただし、これはバグを利用したものなので不安定で、十分ほどで現実に戻る。


「な、何だ、何が起こりやがった……!?」

「オイ、何だよここ、真夜中だろうが、今!」


 襲撃者達が混乱しているが、俺がそれを斟酌する必要はない。


「さて、こいつら全員――」

「待って、アキラ。先にやらなきゃいけないことがあるわ」


 ダガーに殺意を込めようとした俺を、ミフユが止めてくる。


「……何だよ」


 俺が低い声を出すと、ミフユは無言でタマキの方を見る。

 ああ、そうか。そうだったな。確かに、それは先に済ませておかなきゃな。


「タマキ」

「うん」


「わかってるな。禊の時間だ」

「……うん」


 バーンズ家は基本的に子供達の自由にさせるが、例外的にいくつかルールがある。

 例えば、月に一度の定例大宴会とかがそれに当たる。

 その中に、どんな理由でも外の争いを家に持ち込まない、というものがあった。


 どんな理由でも、だ。

 そこに例外は認めない。俺も持ち込まないし、持ち込ませない。

 そして、このルールを破った者は、罰として禊をしなければならなくなる。


「俺と知らなかったとはいえ、おまえは他人からの依頼で俺を狙った。これは違反だ。事情は汲まない。そういうルールだ。ただ事実のみで判断する」

「わかってるよ、オレだってバーンズ家の長子だ。責任はとる。汚名を雪ぐよ」


 言って、タマキが襲撃者達の方に向き直る。


「共通の黒いシャツに、スパナと髑髏のエンブレム。おまえら、チーム『ジャンクメイカー』だな。名前くらいは知ってるぜ。少数だけどイケイケの武闘派だってな」

「何だ、この女……?」

「あ、こいつ! 天月でムチャクチャやってる『喧嘩屋』だ!」


 襲撃者達の中に、タマキを知っている者がいたらしい。

 それが嬉しかったのか、ウチのバカ娘は「ムフフッ」とかキモい笑いを漏らす。


「ハァーッハッハッハ! その通り、オレ様こそは天月の闇に躍るストリートの伝説、喧嘩屋ガルシア――、と言いたいが、悪いな。今からオレはグレイス・環・ガルシアとしてじゃなく、タマキ・バーンズとして、おまえらを皆殺しにする」

「は、皆殺し?」

「何言ってんだ、こいつ――」


 タマキを前に、六人の襲撃者達は一人残らずゲラゲラと笑い出す。


「オイ、マジかよ、怖すぎるぜ。俺達はそっちのメスガキ一人をヤリに来ただけなんだぜ。それなのに皆殺しって、釣り合いとれねぇだろ、理不尽すぎるぜ~!」

「っつーか、イキってるJKちゃんは僕達六人に何ができるんでしゅ~? あ、でもすっげー上玉じゃん。おっぱいもでけぇぞ! オイ、あの女マワしちまおうぜ!」

「いいねぇいいねぇ、何か変なトコに来たけどまあいいや。俺の股間のビッグマグナムでアヒンアヒン言わせてやるからよ、ゥヘヘヘヘヘ……」


 はいはい、そういう連中なワケね、こいつら。

 これなら心置きなくやれるな。元から、同情の余地はないんだけどね。


「やれ、タマキ」

「言われなくてもわかってるよ、おとしゃん」


 こいつ、真剣になると『おとしゃん』呼びになるの可愛いよな。どう思う?


「行くぜ、俺の異面体(スキュラ)――」


 言ってタマキが構えを取る。足を広げ、両腕を腰に溜めて、風が巡り始める。


「お……?」


 笑っていた襲撃者達が、タマキを見て笑いを止める。だがもう遅い。

 タマキは両腕を顔の前で×の形に交差させると、次の瞬間、それを大きく広げる。

 そして、叫んだ。


「――変身ッ!」


 足元から光を伴った風が舞い上がり、空の果てから一条の雷光が降り注ぐ。

 そして、雷鳴が轟く中、タマキは純白の異形へとその姿を変える。


 首に漆黒のスカーフを巻いた、全身が真っ白い仮面の武闘家。

 それが、自らの肉体を素体とした、バーンズ家最強を誇るタマキの異面体(スキュラ)


神威雷童(カムイライドウ)


 何となく某特撮ヒーローっぽい名前ではあるが、これがまた強ェんだわ。


「オイオイ、今度はコスプレしちゃったぜ?」

「うわ、バカみてぇ! 喧嘩屋なんてやってる――、イテッ!」


 言いかけてた一人が、急に悲鳴をあげる。その頬に、ザックリと傷ができていた。

 さて、始まったな。あとはもう、見ているだけですべてが終わる。


「な、え、うぉ!」


 別の一人が、腕に切り傷を作って飛び退いた。


「なん……、ひっ!?」


 さらに別の一人が、太ももにできた小さな傷に動揺する。

 異面体は、それを使う者の精神の一側面が形になったもの。俺ならば『怒り』だ。


 一方で、あのカムイライドウはタマキの『強さへの欲求』が顕れたものだ。

 言い換えれば『英雄願望』、または『変身願望』と表すこともできる。


 タマキは、心の底では自分は弱いと思っている。

 もちろんそんな事実はないのだが、異面体は自己認識が大きく影響する。


 さて、ここで問題だ。

 三歳の時点でケントのゲキテンロウに対応できた、ウチの長女。


 もしそれが十分に成長し、異面体の力でさらに強くなったらどうなるか――。

 答えは『もはや誰にも止められない』、だ。


「ひっ!」

「痛ッ、な、何だよ、傷が、どんどん傷が、増えて……ッ!?」

「何だ、やめ、な、何が起きてンだよォ!」


 次々に刻まれる小さな傷に、六人の襲撃者達は全員が恐慌状態に陥っていた。

 もちろん、タマキの攻撃によるものだ。

 超高速で動き回るタマキの姿は、俺でも捉え切れない。


 一思いに殺すのではなく、少しずつ少しずつ、削り取って弱らせる。

 狩りではなく、遊びでもなく、ただ恐怖を与え、後悔させ、心をへし折るために。


 与える傷が、徐々に大きくなっていく。

 最初は切り傷程度だったものが、今は指を切断するまでに。


「ひぎぃやぁぁぁぁぁ! ゆ、指ッ! 俺の指ィィィィィ!!?」


 絶叫しながら、襲撃者が逃げようとする。

 しかし、それはできない。逃げようとした先で目に見えない壁に弾かれる。

 もちろん、それもタマキだ。突き飛ばして、元の場所に戻す。


「うあああああああああああ、逃げられねぇ! 嘘だろ、嘘だろォォォォォ!!?」


 灰色の空間に、だみ声での絶叫がこだまする。

 叫んだ襲撃者の左耳が、次の瞬間には削がれてなくなっていた。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!」

「ひぃ、助けてくれ、俺達が悪かった! もうやめてくれェ――――ッ!」


 そうやって命乞いをする間にも、襲撃者達の体積は減っていく。

 傷が刻まれ、皮膚は剥がれ、筋肉は削られ、内臓が露わになっていき、


「ギギャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァアァァァァ――――ッ!」


 圧倒的な暴力の渦に飲み込まれ、チーム『ジャンクメイカー』は解体されていく。

 やがて、たった数分で一生分の恐怖を味わった一人目がようやく逝った。


 二人目、三人目と絶命し、四人目、五人目も発狂の末に死を迎える。

 そして最後の一人、四肢を失い、顔も半分骨が見えているという悲惨な状態だ。

 動きを止めたタマキが、赤く染まったその顔で、最後の一人を見下ろす。


「何か、言い残すことは?」

「ぁ……」


 相手がかすかに口を開いたところで、タマキはそいつの心臓を踏み潰した。

 割れた風船みたいに血が弾けて、最後の襲撃者も骸と化した。


「うちのおかしゃんを狙うからこうなるんだ、バカだな」


 そう言い放つタマキの声は、まさに冷徹そのものだった。

 かける情などあるはずがない。こいつらは、ミフユを狙ったのだから。


「おとしゃん、終わった」

「ああ、しかと見届けたぞ。おまえの禊はこれで終わりだ」

「ありがとう。ごめんなさい」


 元の姿に戻ったタマキがペコリと頭を下げてくる。うんうん、いい子だね。

 そろそろ、このバグ空間も終わりが近い。その前に、蘇生蘇生、っと。


「ちょっと、何してんの、ジジイ?」

「え、タマキの禊も終わったし、改めてこいつらに俺からミフユを狙った仕返しをね? 別にそんなひどいことはしないよ、イバラヘビを寄生させるだけだから」


「リッキーコース確定じゃないの……」

「一生涯、苦しみながら余生を過ごすがいいのさ! フハハハハハハハハハハハハ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ――――ッ!」


 けたたましく笑う俺に、タマキが「おとしゃん、怖い」と震えていた。

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