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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
幕間 バーンズ家の色々諸々冬景色

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第517話 彼女の協力者の名は

 俺達は、全てを見ていた。

 その上で、俺はスクリーンに釘付けになっているヒメノへと問う。


「これもおまえの目論見通りか、ヒメノ?」


 スクリーンの向こう側で、マリクが嘆きを迸らせて泣き崩れている。

 誰も、それに声をかけられずにいる。

 ルイ・ヴァレンツァも、父親であるはずの高橋摩碕も。


「……何てこと」


 そして、この状況を望んでいたはずの、ヒメノでさえも。


「こんな、こんなこと……」


 ヒメノは、口元に手を当てて立ち尽くしている。

 その様子から、これがこいつが望んだ展開でないことは明らかだ。


 高橋弥代はマリクに殺された。

 それは、まぁいい。あいつはマリクに多大なストレスをかけている存在だった。


 それでマリクがブチギレて、高橋弥代は殺された。

 要するに仕返しされたというワケだ。


 そこについては、俺は別に何も思わない。

 マリクはやられすぎた、だからやり返しすぎた。いつものことだ。


 問題は、ディ・ティ。

 キレて見境をなくしたマリクは、よりによって神器のランタンで弥代を撲殺した。


 マリクにとっては、自分自身の命より万倍は大事であろう、そのランタンで。

 タチが悪いのは、それが全くの偶然だったことだ。


 誰かのはかりごとではない。

 ただただ間が悪かった。それ以外に、この状況が起きた理由は説明できない。


「ど、どうすれば……。こんなこと、こんなの、わ、わたくし……!」


 ヒメノは両手で頭を抱えて、悩み始める。

 ポジション的には一番の黒幕であるはずのこいつが、この動揺っぷりだ。


「ちょっと、ヒメノ――」


 見かねたミフユが、ヒメノに声をかけようとする。

 しかし、先にシュロが小さな嘆息を見せた。


「情けないですね、ヒメノ君。少し落ち着いたらどうなのですか」

「シ、シュロさん……! ですが、わたくしは……!」


「患部の切除を行なう際に、誤って大事な血管を破ってしまう。なるほど大きな事故ですが、絶対にないことではありません。小生とて、ヒメノ君とて、その手の事故に遭遇したことは一度や二度ではないはずです。相手がマリク君だからと焦ってはなりません。癒し手である我々が冷静さを失ってしまってはおしまいですよ」

「……そう、ですね。はい、その通りです」


 至極落ち着いた物言いをするシュロに、ヒメノもやっと冷静さを取り戻す。


「とにかく、マリクお兄ちゃんのところに行きましょう。父様も、母様も」

「当然よ。マリクをあのままにはしておけないわ」

「行こうぜ」


 うなずくミフユと俺を見て、ヒメノが竜胆の紋章が刻まれた金属符を取り出す。

 それは竜胆符。ヒメノの異面体の一部であり、現実空間へと接続するアイテムだ。


「お兄ちゃんの家の近くに出口を設けてあります。そこに」


 ヒメノが扉に竜胆符を貼りつけて、俺達はマリクの家に向かった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 マリクは、絶望のどん底で泣き続けていた。


「あ、ぁぁあ、ぅ。ああぁ、ぁぁあ。ああ、ぁあ……」


 見開かれたままの目からは涙が溢れ、か細い泣き声は途絶えることなく続く。

 その様を、弟子であるルイ・ヴァレンツァは、顔を歪めて眺めている。


「……マリク師」


 彼女は、胸の前で重ねた両手を握り締め、かすかに体を震わせた。

 その傍らで、ルイの異面体の影響下にある父親の摩碕は相変わらず無表情のまま。


「マリク、大丈夫か!」


 そこに、もう一人の父親であるアキラ・バーンズが飛び込んでくる。

 彼に続いて、ミフユ、ヒメノ、シュロが続いて現れた。


「……おとうさん」


 マリクが、涙と鼻水に濡れた顔を上げる。

 それを見て、アキラは一瞬驚きの表情を浮かべて、すぐに舌を打った。


 彼は、その場に魔法陣を展開してゴウモンバエを呼ぶ。

 召喚されたハエ型の魔獣が、床に転がっている弥代の亡骸を喰らい始めた。


「ぼ、ぼくは、ぼくはとんでも、ないことを……」

「わかってんよ、けどな、おまえが悪いワケじゃねぇよ! ああ、そうだとも!」


 アキラは、子供の姿をしていながらも強い声で言ってマリクを抱きしめた。

 続いて、ミフユが同じようにしてマリクを腕の中に抱く。


「そうよ、マリク。あんたは悪くない。何も悪くないわ。あんたは頭がいい子なんだから、それはわかっているでしょう? だから、今は何も考えちゃダメ。……ね?」

「おかあ、さん……。ぐぅ、ぅぅぅぅ! ぅ、ああああああああああああ!」


 両親の胸の中で、マリクは年相応の子供のように泣きじゃくる。

 それを、アキラとミフユはただただ抱きしめ、無言のうちに受け止める。


「君が、ルイ・ヴァレンンツァ君ですね」

「あなたは、シュロ・ウェント様? それに、ヒメノ様まで……」

「お久しぶりです、ルイさん」


 マリクに弟子だっただけに、ルイはシュロとヒメノとも知己であった。


「このたびは、とんだことになってしまったようですね。マリク君は」

「はい、私がいながら、この事態を防ぐこと能わず……」


 顔を俯かせるルイの肩を、シュロがポンと叩いた。


「君の気持ちは察するに余りあります。ですが何より、今は――」

「わかっております。私の心痛など、マリク師が感じておられる苦しみに比べれば微々たるもの。弟子として、何よりもまずは師を第一としなければ」


 ルイはそう言って、血に濡れた神器のランタンへと目をやる。

 人一人を撲殺するのに使われたそれは、ベッタリと乾かない血が張り付いている。


 神器は不朽だ。

 ゆえに多少の歪みも生じていないが、今はそこに光は灯っていない。


「……本当に、最悪のタイミングでした」

「ええ、そうですわね」


 ヒメノが、転がっているランタンを拾い上げる。

 そして彼女は、部屋の隅っこへと顔を向けて深いため息を一つ見せる。


「ご覧の通りですわ、《《ユユさん》》」

「……何?」


 アキラが、その名に反応を示す。

 彼とヒメノが見ている先で、景色が不意に揺らいでそこに一人の少女が現れる。


「…………」


 厳しい顔つきでそこに立っていたのは、マリクのクラスメイトの鮎川遊結だった。


「とんでもないことになっちゃいましたね」

「ええ、本当に」


 遊結とヒメノは、それこそ見知った間柄であるかのように自然と会話を交わす。


「ヒメノ、そいつは?」

「はい、お父様。この方が、先程申し上げたわたくしの協力者ですわ」


 ヒメノは言って、遊結の隣に立って彼女のことをアキラ達に紹介しようとする。


「初めまして、太父様、太母様」

「……は?」

「え、た、たいぼ……?」


 頭を下げる遊結に、アキラもミフユも、軽い驚きを見せた。

 改めて、遊結が名乗る。


「私はユユ・バーンズ。三百年後の異世界を生きた、ヒメノ・バーンズの子孫です」


 未来の『出戻り』ユユ・バーンズは、仰々しく頭を下げたのだった。

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