第498話 ここからはダイジェストでどうぞ
それではニアのリアクションです。どうぞ。
『――当方、大会、御主君、一緒、観戦希望。期待、大期待』
うん、そっか。そっかー。
ニアの様子を端的に語ると、ニコニコ、ワクワク。そんな感じ。
「…………」
俺は、ニアのすぐそばにいるカリンを見上げた。
ミフユも、他のみんなも、同じく見上げた。
暗黒決戦裏皇帝ダークビギナー・ギガエンペラー・ニア様が、何だって?
『…………』
カリンの沈黙。
「…………」
俺の沈黙。
『…………』
カリンの沈黙。
「…………」
ミフユの沈黙。
『…………』
カリンの沈黙。
「「「…………」」」
俺達の沈黙――、
「今だぜ、ブラザー・ギオ!」
『『『『『にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!!!!!!!』』』』』
ぎゃあああああああああああああああッッ! うるッッせぇ~~~~!!?
「クックック、お気に召していただけたかな? 俺達のツープラトン叛逆をッッ!」
『『『うぼぁ、ヤジロちがおにゃのこになって~~~~ら~~~~!?』』』
『御主君、其処、今?』
クッ、余計な沈黙がバカとボケに協力する時間を与えてしまったか。
俺が六男と七男に意識を割こうとした瞬間、カリンの姿が消えた。
「あ!」
というミフユの声に、俺はそれに気づく。
逃げた。という思考が、このとき皆の頭に浮かんだだろう。だが、そうではない。
「あ、ねぇ、あれ見て!」
空を指さし、叫んだのはライミだった。
俺達はつられてそちらを見る。ニアがいる場所よりさらに上。黒い雲の直下辺り。
「お? 何だありゃ?」
黒雲をスクリーン代わりにしてデケェ文字が下から上に流れ始めている。
『かくして、ここに長く苦しかった戦いに終止符が打たれた。
かの四人の決戦士の熱き想いと猛き勇気の前に暗黒決戦裏皇帝は敗れ去った。
さぁ、決戦士達よ、今こそ勝鬨を上げるときだ!
まだ君達の勝利を知らない人々に、世界が救われた事実を教えてあげるといい!
残された問題はまだまだ多い。しかし、今は、今だけは。
大いに喜ぶがいい。君達は確かに、この戦いに勝利したのだから!
どこかに、まだ見ぬ強敵がいるのかもしれない。もしかしたら、この先、
ロクでもない事態になってしまう可能性だってある。
苦難の道はまだまだ続くだろう。しかし、勇気ある決戦士達よ!
駆け続けるのだ、どこまでも! そして、あらゆる苦難を乗り越えていけ!
おお、神よ、偉大なる勇者の姿をどうぞご照覧あれ!
害ある者よ、決戦士達の力の前に滅ぶがいい!
見よ、人々の笑顔を。これぞ決戦士達が取り戻した平和の証なのだ!
猛き者、汝は決戦士、その伝説は永遠に語り継がれるであろう!
神は君達のことを永遠に見守り続けるだろう。ありがとう、決戦士達よ!
ついに、世界に平和が訪れたのだ!
大会はまだ再開していない。しかし、それを阻む者はもういないのだ!
だから、決戦士達よ、熱き戦いをここに再び!
決戦士達よ、永遠に! フォーエバー、決戦士! グラシアス、パレモン!
では、暗黒決戦士編の幕を下ろすとしよう……。
全てのパレカファンに、幸多からんことを。
ごめんなさい。
――カリン・バーンズより』
「…………」
ポカ~ンとなる俺。ライミ。エンジュ。シイナ。その他大勢。
何、この、何? 何なの、この壮大なエンディング的なヤツは、一体何なの?
「アキラ……」
「ミフユ?」
「最初の一文字目、縦読みよ」
……んん? 最初の一文字目とな?
「あ!」
ホントだ! 最初の一文字目が縦読みの文章になってる!
文章全体はものすごく壮大な感じだけど、中身はただの言い訳だァ――――ッ!?
「…………よし」
全ての文字が流れて消えたところで、ミフユがコクリとうなずく。
『さぁ! いよいよ『炎獄杯』も準決勝ね! ギオとニアも観戦してる中、わたし達四人の誰かが『輝ける炎』を手にするわ、みんな、覚悟はいいかしら!?』
なかったことにしたァァァァァァァァ――――ッ!?
暗黒決戦士編、丸々なかったことにしたぞ、このバビロニャ――――ッ!
「ぼくは、ぼく達は、何のために……」
「…………スルメいる?」
「あらあら、カリンちゃんったら悪い子ですね。ウフフフフ」
完全に心へし折れているマリクへ、ジンギが焼いたスルメを差し出していた。
その様子を、ヒメノがニコニコ笑って見守っている。
ああ、カリンはあとで『飲む全快全癒』なのだなと、俺は確信を抱いたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ここからはダイジェストでどうぞ。
――準決勝第一試合:ミフユvsシイナ。
「フフフフフフフ! 残念だったわね、シイナ! あんたのデッキは読み切ったわ! ここは一気呵成に攻勢を仕掛けるのが吉と見たわ! エナジー全消費! 今こそ、白銀は真なる白の輝きへと至る! パレット・エボリューション!」
「げェ!? 『パラディオン・プラティーン』じゃないですか! それ出されたらこっちは総崩れですよォォォォォォォォ~~~~ッッ! 母様、エッグゥ!」
ミフユが金持ちデッキパワーでシイナを圧殺。
勝ったのはミフユ。決勝進出!
――準決勝第二試合:俺vsヒナタ。
「お父さんの攻めパターン、お兄ちゃんに結構似てるねェ~! 私と相性いいや! 私はエナジーを全消費して、パレット・エボリューション! と、同時に、進化を条件に発動するアイテムカードのコンボを、ドン! ドドン! ドドド~~ン!」
「ギャアアアアアアアアアアアッ!? 俺の『ブレイブレオン』がァ~~~~! って、ええええええええええ、まだコンボ終わんな……、ぐわァァァァァ~~~~!」
ヒナタに負ァ~けェ~たァ~!
いいところまで行ったんだけどなァ~~~~! ぐやじィィィィィ~~~~!
……ヒナタ、決勝進出です。
「負けちまったねぇ、アキラ」
「アキラちゃん、頑張った! 次の大会はもっとイイトコ行けるって!」
「グギギギギギギ……ッ!」
観客席で、俺はお袋に撫でられ、ライミに背中をポンポンされて慰められた。
だが、背後からヤツが襲来したのである。
「ププ~! ププププ~~~~! 負けちった? 負け負けちった? 負けちった? ギオたん、心の排気クッキング。略してハイク。……やっべ、笑うわ~!」
「ギオ、コラァ!?」
「にゃっほほ~~~~ん、逃ッげろォォォォォ~~~~!」
鬼の形相になって俺が叫ぶと、ギオは音を越える速度でその場を離脱した。
そこに、ギオを追いかけてニアがやってくる。
「御主君、義父様、傷口、塩分過多?」
「おお、そうだな! あんにゃろ、傷口を岩塩で殴るマネしくさりやがってッ!
「死因は間違いなく撲殺だね、それ……」
変な想像でもしたか、ライミがげっそりとした顔をして呻いた。
「義父様」
グラウンドでミフユとヒナタの決勝戦が白熱する中、ニアが俺に呼びかけてくる。
「御主君、伝言」
「あ? ギオから?」
差し出されたのは茶封筒。
そこには、やたら綺麗な筆文字でこう書かれていた。
『バーンズ家、楽しい楽しい新企画三本立て!』
……こいつは。
「わかった」
俺はそれだけ言って受け取って、それをポケットに突っ込む。
ニアは俺の方を見つめている。その顔は何か言いたそうなようにも映る。
「他に何かあるのか、ニア?」
「御主君――」
ギオが、どうかしたのか。
「……否。万事順調」
「何でもない。ってことだな、わかったよ」
ニアがうなずき、そしてそのまま俺達の前から歩き去っていった。
「何だったんだろうねぇ?」
「何だろね~? あのギオちゃんって子も、派手な登場の割に何もしなかったし~」
見送ったお袋とライミが、そんなことを話している。
「家族の行事に顔出すときはあんなモンだぜ、あの二人は。ギオは目立ちたがり屋だが、ここじゃあくまでもバーンズ家の七男さ。だからあいつもそう振る舞うんだよ」
「ハハンッ、含みのある物言いじゃないかい、アキラ」
「ま、それについては追々な」
ポケットに突っ込んだ茶封筒に意識を向けつつ、俺はお袋にへ肩をすくめた。
やれやれ、金鐘崎本家に枡間井未来の一件と続いて、次は何を仕掛けてくるやら。
この大会が終わったら、次のギオの『犯行予告』について吟味するかね。
全くイヤな予感しかしませんよ、俺は。本当に、笑うわ。
「ここよ! くらいなさい、ヒナタ! わたしはアイテムカードを展開! さらにパレレット・エボリューション! この一撃で全てを決めてやるわッッ!」
「フフ~ン、お母さんならそう来るって信じてたよ! カウンターでアイテムカード展開! パレット・エボリューション! これが私の最後の一手だァ~~~~!」
「な、何ですってェ~ッ!? そ、そんなバカなァァァァァァ~~~~!」
あら、ミフユが負けた。
っていうか、負け方が完全にラスボスですけど。主人公のコスプレしてるのに。
「勝ったァァァァァァァァァ~~~~!」
第1回『炎獄杯』王者――、最終兵器幼女ヒナタ!
ヒナタに『輝ける炎』を贈呈するミフユの悔しそうな顔が、すごく、面白かった!
そして、万雷の拍手の中、無事に『炎獄杯』は幕を閉じた。
気がつけば、ギオとニアはいなくなっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
落ちていく。
落ちていく。
二人だけで、どこまでも落ちていく。
しかし不安や恐怖はない。
何故ならこれは帰還だ。帰り道を通っているに過ぎない。
「……ねぇ、ニア」
落ちているうちの一人、空色の髪を伸ばした美少女のような少年が、薄く笑う。
「どうだろうね? 次の『案件』、父さんは気に入ってくれるかな? 母さんはどんな風に感じてくれるかな? 兄さんは何を思ってくれるかな? 姉さんはどんな活躍を見せてくれるかな? 気になるね。すごく、すごく気になるね。ああ、楽しみだ」
「御主君……」
闇の中を落ちていく。
愛する人と落ちていく。
「御主君――、ギオ」
「うん、何かな、ニア」
相手の姿など見えない深淵の中、それでもニアはギオを見て、ギオはニアを見る。
「ついてくよ、どこまでも」
「ついてきてよ、果てまでも」
ギオは、バーンズ家。
ニアは、バーンズ家に見初められた伴侶。
ギオはバーンズ家随一の異形だが、二人は特別な関係で、ニアは彼を愛している。
もちろん、ギオだって彼女のことを誰よりも、何よりも愛している。
アキラがミフユを想うように。
バーンズ家の兄弟達が、己が選んだ伴侶を特別視するように。
ニアのためなら、ギオは世界を滅ぼせる。
何故なら、彼はバーンズ家。
異世界の人々を恐れさせた『最悪にして災厄なる一家』の一人なのだから。
「……愛してるぜ、ニア。愛してるぜ、バーンズ家のみんな」
彼の名前はギオ・バーンズ。
またの名を『大怪人』、『都市伝説』、『犯罪王』ギオ・ハイランド。
家族への愛情を『案件』という形で示し続ける真性のバーンズ家厄介オタク。
そして、十五人の兄弟達の中でただ一人、異世界にて『真念』に至った男である。




