第496話 暗黒決戦皇帝ダークビギナー・エンペラー降臨
雷鳴。雷光。雷鳴。雷光。ゴロゴロピシャ~ン! ゴロゴロ~! 的な。
『マジで、マジの、マジで、最悪じゃァァァァァ――――ッ! これで何度目!? 一体これで何度目なの、シイナお姉ちゃん! ここまで前回を踏襲しておいて、それでもまだネタバレカマすの!? ちょっと、それはないんじゃないかなァ!』
うぉぉ、カリンがマジギレしていらっしゃる……。
「久しぶりに聞いたわね、カリンの女の子言葉」
ミフユですら『あ~ぁ』というツラをしておいでです。
カリンは本気の本気でブチギレると、女の子口調になるのである。今みたいに。
しかし、そうか。
大魔王城のときと同じ演出にしたのは、一応のシイナ対策だったのか……。
前と同じだからネタバレすんじゃねーぞ。という。
だがしかし――、
「ひぇぇぇぇぇ! ごめんなさいごめんなさい! ごめんなさいカリンちゃん~!」
それに気づけなかったシイナ、グラウンドで平謝りである。
おまえ、家族随一の洞察力はどこ行ったよ……。
『言っておくけど、これについては俺っちも擁護できねっしょ』
「そんな、タクマさァァァァァァァ~~~~ん!?」
タクマに見捨てられるシイナが哀れに笑いを誘うが、まぁ、うん。残当。
「……あ~、ごめんなさい、カリン叔母さん」
『そうだよ! エンジュちゃんも今回に限っては同罪だよ! ネタバレを楽しむ子になっちゃったなんて、叔母さんすごい悲しいからね! 本気で半べそだからね!』
脅しでも何でもなく半分泣き声になってるカリンである。
ニアのこと、よっぽど最後までとっておきたかったんだろうなぁ~。って。
「おっと、待ってもらおうか!」
「……そうだな」
だがここで、観客席からラララとタイジュが立ち上がる~!
「エンジュに叱るのはこのラララとタイジュの専売特許だぞ、カリンちゃん!」
「……そうだぞ、カリン」
「話がややこしくなるからお母さんたちは今は入ってこないで!」
バカ親バカは所詮、バカ親バカだった。
『…………』
そして、完全に場の流れから置いてけぼりをくらっている特別ゲスト本人。
『ちょっと~、今はニアがメインなんじゃないの~? 放置はどうなのよ~?』
『はッ! そうじゃった! ワシとしたことが!』
ミフユのマイク越しの指摘を受けて、カリンが正気を取り戻す。
一方、シイナとエンジュについては――、
『ヒメノ、やっちゃって』
「はい、お兄ちゃん」
決してマリクではないリマクからGOサインが出て、ヒメノが両手に紙コップ。
「……あの、ヒメノ姉様?」
「……それは、まさか」
「さ、二人とも。グイッとどうぞ」
シイナとエンジュの問いかけに答えることなく、ヒメノが紙コップを持って迫る。
その中身については、言うまでもない。現状、最高にして最速のお仕置きだ。
「タ、タクマさ……、助け……!」
『…………』
「うわ、そっぽ向かれましたよ!? 彼女のクライシスなのに、タクマさぁ~ん!」
『これは、おまえが、悪い』
彼氏にバッサリと切り捨てられ、シイナの両手に渡される紙コップ。窮まったな。
「あの、お母さん、お父さん……?」
エンジュも追いつめられて、ラララとタイジュに救援を求めようとする。
「あ~、残念~! エンジュに『入ってこないで』と言われちゃったからな~!」
「拒まれた以上、俺達は遠くから応援することしかできない。ずっと見守ってるぞ」
「ああああああああああ、前言撤回させてくれないぃ~!?」
バカ親二人、娘の発言を盾にとって、保身に走る。
そして、死刑執行。
「「ぎゃぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~ッッッッ!!?」」
全員の前で罪深きネタバレを敢行した二人は、こうして成敗されたのであった。
悪は滅びた。
「え、ごめん、全然ついてけないんだけど」
一人、ニアと同じく流れに取り残されたライミの呟きが、ちょっと新鮮だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ニア・ラドネス、語る。
「御主君、来訪予定」
実に短い言葉だったが、それだけで十分だった。
「あ、そーですかー、ギオ、来るんですかー」
「義父様、肯定。御主君、大会、興味津々」
黒雲を背景に浮遊したまま、ニアは俺に向かってコクコクとうなずく。
俺の隣に立つミフユが、腕を組んで「ふ~ん」を軽く一声。
「ニアを先に寄越したってことは、今回はケンカを売りに来たワケじゃないのね」
「義母様、肯定。御主君、旧交、熱々、期待」
旧交を温めるつもりだ、ってことらしい。
ニア言語は独特だが、割と慣れるのは簡単だ。何でそんな言葉遣いかは知らんが。
異世界での話だが、ギオはケンカを売ってくるときは『高天一党』を使う。
しかし、そうでないときはこんな風にニアをメッセンジャーにしていた。
ちなみにニアは御主君とか言ってんけど、別に二人の間に主従関係はない。
それどころか告白もプロポーズもギオかららしいから、むしろニアが主なのでは?
「ところで、何でおまえここにいるん? ここ『異階』じゃなく『絶界』よ?」
ふと感じた疑問を、俺は直でニアにぶつける。
金属符で創られる『異階』ならまだしも『絶界』は基本、侵入不可能のはずだが。
「義父様、回答。右手、注目」
ニアは懐から何かを取り出した。――って、あれ、それはもしや『金色符』!?
『ほぉ! そいつは『原色符』だな! まだ現存しておったとは驚きじゃわい!』
「おっと、ガルさん」
いきなり、俺の収納空間からガルさんがポンッ、と、姿を見せる。
「何だよ、ガルさん。その『原色符』ってのは?」
『そのままの意味じゃわい、我が主。『金色符』のプロトタイプのことよ』
あ~、金属符のオリジナルの『金色符』の、さらにプロトタイプ。
「ガル様、肯定。現存、最終。使用、侵入」
「現存する最後の一枚で、それで『絶界』に侵入した、と……。可能なのか?」
ニア言語を解読し、俺はガルさんに確かめる。
『可能ではあるだろうな。プロトタイプゆえ『絶界』の構築はできんが、共通する機能は幾つかあるはずだ。それらを用いたのではないかな』
「ガル殿、明察」
『フフフ、それほどでもないわい! それにしてもニアよ、久しいのう! 貴様は滅多に顔を見せんから、常々心配しておったわ! こうして会えて何よりじゃわい!』
あ~あ~、懐かしのご対面でまたガルさんが親戚のおじさん化しちゃったよ。
「で――」
俺は、決してカリンではないリカンを名乗るカリンの方へを視線を移す。
「もう何か、色々決着気味だけど、この空気どーすんの、おまえ?」
ニアまで登場しちまって、サプライズも何もあったものじゃない雰囲気だよ?
『……そうは言うけどね、ととさま。ワシ悪くないと思うんじゃよね、これ』
と、カリンは未だ地面に這いつくばったままの戦犯×2を見下ろしている。
「それはそうかもしれない。しかしおまえはこの大会の演出担当だよね?」
『そーよそーよ! あんたが始めた新展開でしょ、これは!』
俺とミフユが一緒になってカリンに追求する。
準決勝までは順調に行ってたのに、今現在、色々段取りメチャクチャやぞ!
「疑念。当方、来訪、迷惑?」
「いやいや、そんなこたぁねぇ~よ?」
そう、ニアの登場が迷惑というワケではないのだ。
『ニアは気にしないでいいわよ~。そこの運営責任者がポカやらかしただけだから』
『くふぅ~、ちょっとかかさまの驚く顔が見たかっただけなのに……!』
カリンにしては珍しく短絡的な動機である。
『カリンに巻き込まれてダークビギナーやらされたぼくは、今、結構しんどいです』
ああ、決してマリクではないリマクが、かなりゲンナリした顔になってる!
もしかしたら、マリクこそ現状、最大の被害者かもしれない。
『それで、ど~すんのよ~? このまま準決勝に進んじゃっていいの~?』
痺れを切らした大会主催者が、運営責任者に確認を取る。
だけど、ここまで冷え切った空気をまた盛り上げるのって、結構大変じゃね?
『そうじゃのう、ダークビギナーズは音楽性の違いから一旦解散で』
『本当に何しに来たの、ぼく達!?』
マリクの悲鳴が場に響く。おまえは泣いていいぞ、俺が許す。
「あ」
と、そこでニアが一声。
「どした、ニア?」
「只今、御主君、御到着」
――おっと、来やがったか。
『絶妙すぎるタイミングね。絶対出待ちしてたでしょ、あいつ』
「俺も同感なんだが、一回マイクから口離せば?」
すぐ近くでガンガン響くから、そろそろ耳が痛いっす、ミフユさん!
『…………ファ』
おや?
『ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ッ! 見事、見事なり、決戦士共! よくそ我ら暗黒決戦士ダークビギナーズを打ち破った! ワシらはどうやら、貴様らの実力を侮っていたようじゃ! 素晴らしい決戦であったぞ~!』
『えぇぇぇぇぇぇ!? ぼく達、戦ってないのに負けちゃってるぅ~~~~!?』
カリンが力業でイベントを進めた結果、イベント自体がスキップされた模様です。
何これ、マリクの絶叫がもはや憐憫の情すら誘うんですけど?
『じゃが心せよ、決戦士共!』
そしてカリンは、すぐ脇で喚くマリクを完全に見ないふりして、声に熱を入れる。
『ワシらが敗れようとも、その敗北を贄として、今ここに暗黒決戦皇帝陛下ダークビギナー・エンペラー・ギオ様がこの地に降臨召されるのじゃあァ~~~~!』
「……ギオに全部丸投げしたわね、あの子」
何という潔い決断でしょう。ちなみに、これを日本語では他力本願といいます。
『さぁ、ニアよ! 今こそここに、我らが皇帝陛下を!』
「……長男様?」
カリンに促されたニアが、その首をコテンとかしげる。流れを理解していない!
『そっちじゃなくてェ~! シンラの兄御じゃなく、ギオ呼んで、ギオ!』
「あ、了解。御主君、御出番」
言って、ニアが『金色符』によく似た『原色符』とやらを掲げる。
するとオレンジに近い色の輝きが走り、そして――、
『……ゥルゥルゥルゥルゥルゥゥウゥゥゥルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥルルル』
『……ァァァァァァァラララララララァァァァァァァリリリリリリリルルルリリリ』
『……カカカカカカカカペペペペペペペペジジジジジジジジジジロロロロロロロロ』
そこかしこから、そんな奇妙な声が立て続けに聞こえ始めてくる。
「な、な、何~!? 何々、いきなり何これ、チョー怖いんだけどォ~~~~!」
ライミが跳び上がらんばかりに驚くが、奇声を発しているのは別に誰でもない。
それは、観客席を満たしている観客が引き起こしているものだ。
『なぁ~んじゃ、これ。ゴーレム達の制御が利かんくなったんじゃけど……?』
異面体で観客を統制しているはずのカリンまでもが、そんなことを言い出す。
「おまえの制御が利かなくなったってことは、簡単だろ」
俺は、こともなげに言う。
「おまえの『婆娑羅堂』を上回る力が、ゴーレム達の制御を奪ったってことだ」
そう俺が告げた、次の瞬間だった。
『『『『『にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!!!!!!!』』』』』
全てのゴーレムが、ギオに変わっていた。
数万体はいるであろう観客型ゴーレムが、全て、全て、男も女も、老いも若きも。
全員、ギオ。
相変わらずの空色の長髪に、相変わらずの空色の瞳。相変わらずの美少女な容貌。
そして相変わらずの女モノの服を着た、相変わらずの陽気なはしゃぎっぷり。
何も変わっていない。
全く、何も変わっていない。
《《異世界の頃と何も変わらない姿のギオが》》、《《観客席を満たしていた》》。
「御主君、登場」
『『『『『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいしてるぜェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッ!!! バァァァァァァァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~ンズ家の、みんなァァァァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~ッッ!!!!』』』』』
自称『鬼子にして忌み子』による俺達へのラブコールが、闘技場を揺るがす。
全く、笑うわ。




