第495話 来襲、暗黒決戦士ダークビギナーズ!
――現在、6ターン目ッ!
「ヒャッハァ~! 俺はナンバー001『ファイニャン』にアイテムカード『熱血! バーニング爪とぎ!』を使って、さらにエナジー3点消費! これにて条件クリア! 今ここに、熱き血潮は灼熱の奔流をなす! 燃え盛る魂よ、輝きを放て! パレット・エボリューション! 来い、ナンバー101『ブレイブレオン』!」
ド~ン!
ズドド~ン!
チュドッドォ~~~~ン!
真っ赤な火柱が噴き上げて、そこに現れるのは炎に包まれたライオン。
これぞ俺のエースモンスター、ナンバー101『ブレイブレオン』だァ~~ッ!
「よくもここまで散々妨害してくれやがったなァ、ライミさんよォ~! だがそいつもこいつでしまいだ! 総合力じゃ『パラディオン』にも匹敵するといわれるウチの子の雄姿をその目に焼き付けて、コンガリいい感じに焦げ付くがよいわァ~!」
「ま、まだ勝負は終わってないモンねェ~!」
ライミが必死に強がるが、フハハッハハハハ! 無駄にして無理にして、無駄ァ!
頼みの綱は残り1枚の伏せカードなんだろ?
クケケケケケケケケ! そんなこたぁ、わかってんだよ!
さぁ、俺の『ブレイブレオン』の力を存分に味わって、敗北の砂を噛めェ!
「俺は『ブレイブレオン』の特殊能力発動! このモンスターは場に出ると同時に敵陣に出されている任意のカード1枚を、即座に破壊できる!」
「そんなァァァァァァァァァァ~~~~ッ!?」
俺の説明に、ライミが両手で頭を抱えて悲鳴をあげる。
これで、ライミの陣地にカードはなくなった。そしてライフは、互いに残り1。
『さぁ、状況は極まったぞ! ここでばあちゃん側に父ちゃんの攻撃を防ぐ手段がなければ、いよいよ決まりそうだが、決まるか? ここで決まるのか!?』
タクマの実況にもこれまでになく熱が入る。
当然、それを聞かされている俺達は、もっともっと熱いものを分かち合っている。
「行くぜ、ライミッ! エンジュ!」
「く、アキラちゃん……!」
俺は、右手をまっすぐライミへとかざす。
「行けェ、『ブレイブレオン』! このモンスターは相手決戦士の残りライフが1のとき、自動的に2ターンの間『アタッカー』を自らに付与する! 長かった戦いよ、さらば! くらえ、熱血! ブレイブ・ブレイズ・バーストライザー!」
金色の炎を纏った『ブレイブレオン』が、ライミめがけて突撃する。
決まった。俺は、この時点で99%勝利を確信していた。しかし――、
「来たよ、来魅!」
「うん、縁珠! これがあたしの最後の悪あがきだァ――――ッ!」
「な、何ィ~~~~!?」
この状況から、まだ何か切り札があるってのか!?
「あたしは手札からアイテムカード『移ろいしときの揺り籠』を展開! このカードは自分が受けるダメージを1回だけ1ターン先送りにできる!」
「げぇ! 揺り籠だとォ!?」
ぉ、おっま、それ確かレア度クソ高い、初心者が持ってちゃいけないヤツゥ!
「あ~、ごめん。それ、わたしが入れたヤツだわ」
すぐそばの観客席で犯人があっさり自供した。
「ミフユゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――ッ!?」
「だって余ってたんだモ~ン!」
言ったミフユが可愛くテヘペロをしやがる。
まさか、この土壇場でクソ金満プレイヤーの弊害が立ちはだかるとは……ッ!
「よしッ! 何とか凌いだよ、縁珠!」
「うん、これで望みを繋いだわ。次のドローに賭けることが――」
「まだだァ!」
何とか生き残ったと思ったようだが、まだだよ。まだ、俺のターンは続くんだよ!
「え、ウソ? だってアキラちゃんの場にはもうモンスターは……!」
「そうか、しまった!」
呆けるライミの隣で、気づいたエンジュが痛恨の表情を浮かべる。
「『ブレイブレオン』の特殊能力、発動! 進化に使った全エナジーとアイテムカードを破棄することで、このモンスターは『ファイニャン』に逆行進化できる!」
「えええええええええええ、何それェェェェェェ――――!?」
普段ならば誰も使わない特殊能力、逆行進化。
進化を巻き戻して、あえて弱い姿に戻るという『ブレイブレオン』のみの特性。
この能力の特徴は『ファイニャン』を未行動状態に戻せること。
つまり、実質的に再行動が可能であるという点だ。
しかし『ファイニャン』の性能は高くない。
それに『ブレイブレオン』の進化コストも相応に高いため、普通は誰も使わない。
が、今ならば。
互いに手を尽くし合ったこの状況ならば!
「最後の最後まで残しといててよかったぜェ! 俺は『ファイニャン』に『アタッカー』のロールを付与し、ライミに直接攻撃だ! くらえ、ファイア・ヒッカキ!」
「あああああああああああああああああああああああァ~~~~ッ!?」
今度という今度こそ、ライミに俺の攻撃を防ぐ手段は残されていなかった。
ライミのライフが『ファイニャン』の攻撃で0になる。
『決まったァ――――ッ! 大会最長の激闘6ターン、この壮絶にして素晴らしい試合を制したのは、我らが父ちゃん、アキラ・バーンズだァ~~~~!』
「ぃよっしゃァ、勝ったァァァァァァァァァァ~~~~!」
タクマの実況を背に、俺は諸手を挙げて勝利の喜びを全身で表現する。
「あ~~~~ん、負けたァ~~~~!」
「まさか逆行進化を使うなんて、やられたわ……」
ガックリと肩を落とすライミと、露骨に悔しがるエンジュ。
この二人、本気で強かった。ガチで、ガチのガチでバチクソ強かった。
まさか『3on3ルール』でこんな長丁場になるとは思わなかったよ、俺。
途中、何回『あ、これ無理かも』って思わされたことか。
「ライミさん、今日はパレカ初めてとかウソですよね? 正直に言ってみ? アキラ君、怒らないからさ? 実は年単位で経験あるでしょ? ねぇ? ねぇ!?」
「え~! そんなのあるワケないよォ~! ホントに今日が初めてだってェ~!」
と、ライミは言うのだが、それが本当ならマジで末恐ろしいな、こいつ。
いくらエンジュの助けがあるからって、初めて触るゲームでこれとか。
仮にライミが一か月でもパレカを学んでいたら、俺に勝ち目はあっただろうか。
そう思えるくらいに、ライミはまさしくセンスの塊だった。
「縁珠、ごめ~ん。負けちゃったァ~!」
「別にそれはいいわよ。それよりも、来魅さ――」
半泣きで縋り付くライミに、エンジュはフッと穏やかに笑いかける。
「ふぇ?」
「どうだった? パレカ、楽しかった?」
「――うん! すっごい楽しかった!」
ライミは途端に明るい笑顔を見せて何度もうなずいた。
それを見て、エンジュも、そして俺も、笑って軽くうなずき返す。
「アキラちゃん! 次はあたしが勝つかんね!」
「何度でも来い。軽くあしらってやるぜ!」
そして俺とライミは握手を交わす。これぞまさしくグッドゲーム、ってね。
この握手は親子としての握手ではない。
しかし、俺達は決戦士として繋がることはできた。また一つ、積み上げたのだ。
「フ、なかなかの好勝負だったわよ!」
そしてやってくる王様気取りにして主人公気取り。……イラッ♪
「いや~、本当に見てるこっちが燃える試合でしたねぇ~!」
「ええ、決戦士かくあるべし。そう思わされましたわ」
グラウンドには、シイナとヒメノも来ていた。
そうか、これで一回戦は全て終わって、次はいよいよ準決勝、か……。
『熱戦の余韻冷めやらぬ、……ね。けれど、戦いはすでに次のフェイズに突入してるのよ。この場に揃った四人の勝者、四人の決戦士。この中で『輝ける炎』を手にできるのはたった一人だけ。それは、この場にいる四人とも、わかっているわね?』
いつの間にか手にしたマイクで語り始めたミフユに、俺もシイナ達もうなずく。
まさしく、大会はここからが本番。伝説のカードを手に入れるために……!
『さぁ、それじゃあ準決勝を開始――』
ミフユが、そう言いかけた、そのときだった。
ピシャ~ン!
――と、いきなり雷鳴がグラウンドの上空に轟いた。
『え、何?』
真っ先に、ミフユが反応を示す。
待って、つまりそれは、ミフユの仕込みではないということですか?
「見てください、空が、分厚い雲に覆われて……!」
「あらあら、何事でしょうか……?」
シイナが空を指さして叫び、ヒメノが頬に手を当てて困惑する。
何だこりゃ、一体何が……!?
『ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~ファ~~~~ッ!』
突如として響き渡る、どっかで聞いたことのある笑い声。
『このようなお遊びの大会に本気になっておるとは、やはり決戦士は甘いのう。甘々じゃ。どんぐりの背比べに『輝ける炎』など、過ぎた品であろうのにのう!』
こ、この言い回し、この口調、こいつはまさか、いや、やはり……!
『何者よ、出てきなさい!』
ミフユが、わざわざ笑い声の主に乗っかっる。
すでに正体丸わかりだってのに、大概律儀だな、こいつも。
『ファファファファファファ! よかろう、ならば刮目するがよい!』
そして天空を稲光が切り裂いて、そこに浮かぶ四つの人影を浮かび上がらせる。
『我ら、暗黒決戦士ダークビギナーズ!』
そこにもう一回、雷がドド~ン!
「あ、暗黒決戦士……!」
「ダークビギナーズ、ですか……」
と、シイナとヒメノが各々反応を示すのだが――、それで終わり。
続いて、沈黙。沈黙。静寂。静寂。
「あのさ……」
仕方がないから、俺が言ってやることにした。
「シカエシスゴロクのときと同じ演出はさすがにどうなの、カリンさん?」
マンネリ大嫌いのイベンターがこんなモロマンネリ、いくら何でも片手落ちだぞ!
『えぇ~い、うるさいうるッさい! 今回は急な用件が入って考えてるヒマもなかったんじゃ! そこは見逃せ! 身内のみのイベントなんだからこれでいいの!』
「思いっきりマンネリの自覚あるんじゃねぇか……」
しかし、急な用件、ねぇ……。
『あとワシは決してカリンではない! 暗黒決戦士ダークビギナーズが一人、ダークビギナー・リカンじゃ! 決してカリンではない! ないのじゃ!』
「ネーミングまでも、安直……!?」
『そこ、ととさま、黙らっしゃい! あ、決してカリンではないけど!』
ととさま言うてるじゃないすか。思いっきりカリンじゃないすか。
「え~と、そうすると他は……?」
『…………決してジンギではない、ダークビギナー・ギンジ。いぇ~い』
「流れの板前っぽい名前になってますね、ジンギ君」
両手でピースしてる決して五男ではない五男を見上げ、シイナがコメントする。
そして、次、隣。雨の中で濡れた子猫みたいに震えているのは――、
「お兄ちゃん?」
『……ぃ、いや、あの、ぼくは決してマリクじゃない、えっと』
『兄御、リマク、リマクじゃよ』
『ぁ、そ、そうそう。ダークビギナー・リマク、……です。何で、ぼくまで』
「そんな後悔するなら参加しなければよかったのでは?」
『やめてよ、ヒメノォ~! ぼくは巻き込まれただけなんだァ~!』
ニコニコ笑っている双子の妹に、マリクではないリマクが泣き言を喚き散らす。
何だァ~、この展開は。いきなり何事なんだァ~?
『ちょっと、カリン! 大会がいよいよこれからってときに、何なのよ、これは! 別にテコ入れなんて必要ないでしょ! わたし、何も聞いてないわよ!』
主催者のミフユがカリンに文句をつける。
そう言いたくなる気持ちもわかる。だって順調に盛り上がってたモンね。大会。
『ファファファファファファファ! カリン・バーンズはここにはおらんが、決してカリンではないこのダークビギナー・リカンがお答えしようではないか!』
この状況で、決してカリンではないと言い張るエンタメ根性は見上げたモンだが。
『実は今さっきも言ったが急な用件が入ったのじゃ! そしてワシ――、ではなくカリンは思った。『あ、こっちのが面白そう』とな! つまり、LIVE感ッッ!』
『せめてわたしに一言相談しなさいよ!?』
『だって、かかさまの驚く顔が見たかったんじゃモン。しょうがなくない?』
しょうがなくないよ。な~んにも、しょうがなくないよ?
『っていうかね、さっきから言ってる急な用件って何なのよ!』
『うむ、それは――』
決してカリンではないダークビギナー・リカンが、チラリと視線を横に流す。
『…………』
その視線の先にいるのは、無言を貫いている四人目のダークビギナー。
顔をフードで覆っているが、そういえば、こいつは誰なんだ?
カリンとジンギとマリク。
それは今回の大会の裏方である三人だ。だから一緒にいても不思議はない。
しかし、残る一人。
いかにもカリンが意味ありげに視線を送る、最後のダークビギナー。
こいつが何者なのかがわからない。
『ファファファファファファ! この者が何者か、わかるまい? 最後のダークビギナーにして、最恐の刺客! その正体を知りたくば、まずは我ら三人を倒し――』
「あの~……」
と、そこでシイナがおずおずとながら挙手をする。
その隣には、いつの間にかエンジュが立ってる。……おや、この組み合わせは。
『おっと、何やら質問かのう?』
決してカリンではないダークビギナーが、シイナの方を向いて反応を寄越す。
『じゃが心せよ! 我ら暗黒決戦士は決戦を100%楽しんでいただくため、事前のネタバレ質問などについてはお答えできかねます! 残念じゃったのう!』
おい、どっかで見たことあるぞ、この流れ。
「え~と、別に決戦はもっとしたいからそれはいいんですけどー……」
『ファ、ファ、ファ。ならばよいわ。何じゃ、言うてみぃ』
決してカリンではないダークビギナーへ、シイナが尋ねる。
「……そっちの人、ニアちゃんですよね」
『…………』
シイナが呼んだその名に、決してカリンではないダークビギナーの動きが止まる。
『えぇ、ニ、ニアァ~!?』
俺は固まり、ミフユも驚きの声をあげる。
「この『匂い』は、ニア叔母さんですね。何やってるんですか……?」
シイナのみならず、エンジュまでもがその人影へ言葉を向ける。
『…………』
皆の視線をその身に受けて、四人目のダークビギナーがフードを外す。
そこに現れたのは、蒼い髪の釣り目の少女。
異世界から容貌は変わっているが、そこは同じ『出戻り』。見ればわかる。
「うわぁ、本当にニアじゃねぇか……」
ニア。
ニア・ラドネス。
ウチの七男であるギオの嫁さんであった『万有にして万能』と呼ばれた女。
異面体を模倣する異面体によって、様々な任務や作戦を遂行できる、多彩の傭兵。
『……皆様、御無沙汰』
ニアが、こっちに向かってペコリと頭を下げる。
タイジュ並に無表情で、喋り方も独特だが、慣れると割ととっつきやすい。
そしてニアのすぐ隣。
いつか見たときと同じく、プルプルと全身をわななかせているイベンターがいる。
沸騰は一瞬で、直後に炸裂。
『最悪じゃあァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!』
ピシャッ! ゴロゴロゴロ!
と、派手に轟く雷光を背に、カリンが腹の底からの怒声を響かせた。
「少しは学びなさいよ……。全く、笑えないわねぇ」
マイクから口を離し、ミフユがカリンの怒声に思いっきり呆れ返ってしまう。
それについては俺も完全同意なので、笑うわと言い切れん。笑えん。
「いや、でも、やっぱ笑うわ」
やっぱりカリンにとって、シイナは天敵なのだった。




