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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
幕間 バーンズ家の色々諸々冬景色

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第492話 ライミ・バーンズ、決戦士への道!

 緊急開催、ライミ・バーンズ、決戦士への道!


「……何やるの?」


 ライミの目が死んでいる。

 今、こいつは『聖天十柱(サン・テン・アニムス)』が見守るグラウンドの真ん中に立っている。


 そして、その周りを俺達先輩決戦士がグルリと囲んでいる。

 残念だったな、ライミよ。

 決戦入門者であるおまえに、今はもう、逃げ場はない。


 これから何が起きるのかわかっていないライミは、顔色も青く、実に不安そうだ。

 それはそうか。周りを囲む全員が、並々ならぬ圧を発しているとなれば。


「……ふぇぇ」


 半分涙目になりながら、おののくライミは周りを見る。

 自分を囲んでいる中には当然、エンジュもサラも加わっている。


「ちょっと、縁珠~、紗良~、何なのよこれぇ~!」

「来魅……」

「あのねぇ、来魅……」


 問われた二人は、他の連中と同じく、謎の圧を発したまま詳しくは語らない。

 そして、ライミの前に進み出たのは、エンジュでもサラでもなかった。


「ライミ・バーンズ」

「あ、ミフユちゃん……」


 主人公ケイタの格好をしたミフユが、ゆっくりと近づいて、ライミを見上げる。

 そこから放たれる迫力ある雰囲気にライミはゴクリと息を呑む。


「何よ、な、何か文句あるの……!? やるならやるわよッ!」


 言って、ライミはファイティングポーズをとった。

 スゲェな、そこで屈服でも服従でもなく、即座に反抗を選べるのは素直にすごい。


 拳を構えるライミに向かい、ミフユも両腕をスッと動かす。

 それに、ライミは驚いてビクリと身を震わす。が――、


「ヴラーヴォ!」


 ミフユの拍手。そして、とてもイイ発音。


「ヴラーヴォ!」

「ヴラーヴォですよ、ライミおばあ様!」

「ああ、実にヴラーヴォだぜ、ばあちゃん!」


 ミフユを皮切りに、ヤジロやシイナ、タクマも同じく拍手をしてライミを称える。


「ぇ? 何……? 何々……? 何なの!?」


 いきなり褒め称えられたライミは、その拍手と喝采を混乱をもって受け止める。


「わたしはあんたがあんまり好きじゃないわ、ライミ!」

「そ、そんなのあたしだってそーだよ!」


 一転、ミフユに嫌いと言われて、ライミはそれに噛み付こうとする。


「でもミフユちゃん、それは拍手しながら言うことじゃない気がするけどなぁ~!」

「確かにその通りねッ! でもね、わたしは決戦士として、決戦の道を志したあんたのその決断を称えないワケにはいかないのよ! それが決戦士の心意気よ!」

「何か意識高い系の話になってるゥ~~~~!?」


 ライミにとってはそういう解釈にもなるだろうが、これが決戦士の常識だ。

 随分と派手なことになってはいるが、要は『初心者には優しくしよう』ってだけ。


 そして、この場にはそれをわかりやすくライミに教えてくれる先生もいる。

 ちょうど、今まさに混乱しきりのライミに、先生に話しかけるところだ。


「そんなに驚かないでも大丈夫よ、来魅」

「縁珠……」


 エンジュである。

 ここは、ライミの親友であるあいつに任せるのが最善だろう。

 それはミフユもわかっているようで、黙って退く。


「何なのよぉ~、これ。大会中断しちゃったんだけどぉ~!」

「はいはい、泣きそうにならないでも大丈夫よ。これがパレカの文化なだけよ」


 自分に駆け寄るライミの頭を軽く撫でつつ、エンジュは優しく笑って言う。


「ぶんかぁ~?」

「そ。パレカに興味を持った初心者を優しく迎えることは、公式も推奨してるから」


「そうなの……?」

「そうよ。実際に、公式で開いた大きな大会が、来魅と同じようなことを言った小学生にパレカを教えるために中断されたこともあるんだから」

「すでに現実で同じこと起きてたァ~!?」


 実はそうなんです。

 日本で開催された全国大会のどっかの予選での話、らしい。


「公式がそれをやっちゃうんだから、パレカで遊んでる私達だって影響受けちゃうでしょ。これがパレカだ。って、そう思わされちゃったんだからさ」

「むむむ……」


 肩をすくめるエンジュを前に、ライミは何事かを考え込むような様子を見せる。

 その視線が、チラリチラリとこっちを見たり、他の方向を見やったり。


「あのさ」

「うん」


「あたしのせいで大会が中断――」

「あ、そういうくだらないことに責任感とか罪悪感とかいらないから」

「ちょーぜつバッサリ~~~~!?」


 ライミがオーバーリアクションでのけ反るが、当たり前だよなぁ。


「別に迷惑でも何でもないよ。ね、おばあちゃん?」

「エンジュの言う通りよ! パレカは世界一、初心者に優しいTCGなんだから!」


 いちいちポーズをとって声を張り上げるミフユさん。

 まぁ、言ってることは合ってるけど。

 とにかくパレカは初心者への支援が厚く、それは一つの文化にまでなっている。


「さぁ、みんな、ライミへの『デッキ構築の儀』よ~!」

「何それ、何それッ!?」


 音頭をとるミフユに、またしてもライミは混乱をきたす。

 儀式だなんて大げさなことを言っているが、別にそう大したことではない。


「アタシからはコイツとコイツで行こうかねぇ」

「へ、みーたん?」


 真っ先に言ったのはお袋で、その手には数枚のカードがある。

 そして、同じようにシイナやヒメノもカードを差し出してくる。


「私はこれがちょうどダブってましたので!」

「では、私からはこれをどうぞ」


「え? えっと? え?」

「そんなキョロキョロしないでいいわよ。単に余ってるカードを渡すだけだから」


 要領を得ていないらしいライミへ、エンジュが説明する。

 パレカをやっているなら誰しもが持っているであろうダブリの余りカード。


 それを初心者に無償で提供するのが『デッキ構築の儀』である。

 場の人数が多ければ、本気でちょっとしたデッキが組める程度は集まるからな。


「んじゃ、俺からはこれとこれと、あとこれと……」

「アキラちゃんもくれるのォ~!?」


 異世界実母、大歓喜。

 いらないカードを譲るだけでこんなに喜ばれるのなら、悪い気はしない。


「これでわかったかしら、ライミ! 決戦士が常にWin-Winを目指すのよ! あんたも決戦士としての自覚が芽生えたら、次は贈る側に回ることね!」

「……うん。そうするね」


 モロ上から目線のミフユに反発を見せることもなく、ライミは素直にうなずいた。

 もらったカードを両手に抱えて浮かべる笑みは、本当に嬉しそうだ。


 うんうん、こういうのがあるからパレカはいいですね。

 だが、これで『決戦士への道』は終わりではない。


「来魅、ちょっともらったカード貸して」

「え、うん……」


 エンジュが、ライミから受け取ったカードを確認し始める。

 すると、その周りにミフユやお袋、ヒメノやらヤジロやらも集まって話し始める。


「クックック、惜しいな。もう少しで使えそうな量は集まっちゃいるが――」

「そうですわね。これでしたら、私からこのカードを新たに提供して――」

「ああ、いいですね~。だったら、ん~、私もこれを追加で――」


 盛り上がり始めている連中を、ライミがキョト~ンと見ている。

 俺が近寄り、説明する。


「これからおまえの初試合だからさ、それ用にデッキ調整してくれてるんだよ」

「あ、そーなんだー」


 と、ライミは軽く反応し、そこで硬直。はい、3、2、1――、


「あたしの初試合ィ~~~~!?」


 爆発。

 まさしく予想通りの素直な反応である。


「そりゃそうだろ。おまえの『決戦士への道』なんだから」

「あたし、ルールとかそういうの全然知らないよォ!」


「大丈夫だ、問題ない!」

「どうしてそこで断言できるのよぉ!?」


 どうして断言できるかって? 

 そんなの、決まっている。


「俺も最初はそうだったからだァ~~~~!」

「あ、そーなの?」

「そーだよ。誰だって最初はルールなんて覚えきれないっての」


 特にTCGなんぞ、一試合をこなすために覚えなきゃならんルールは結構な量だ。

 それを始めてすぐに覚え切れなんて、流石に初心者には優しくないでしょ。


「いいか、ライミ。おまえに言っておくぜ?」

「な、何かな、アキラちゃん……」


 緊張の面持ちで俺を見るライミに、俺は腕を組んだまま決然と告げる。


「俺達は雰囲気で決戦をやっているッッ!」

「ふ、雰囲気で……!」

「そう! 雰囲気でだッッ!」


 TCGのプレイヤーとして、ルールは大事だ。

 だが、それ以上にもっと大事なのは、楽しく遊べるかどうか。その一点。


「ルールをきっちり守って決戦をやりたいならアプリ版がある!」

「アプリ版……」


 むしろ、決戦士ガチ勢はアプリ版に流れてるって話もあるくらいだよ。


「リアルでやってりゃヒューマンエラーなんて起きて当然よね」


 ミフユが話に加わってきた。


「でもね、そのミスをも楽しんでこその、リアル決戦士よ! この『炎獄杯』だって伊達でエンジョイ大会なワケじゃないの! 楽しんだ者こそが真の勝利者なのよ!」

「うむ、話の途中に割り込んできたクセに、いいことを言う!」


 俺は同意してうなずくが、流れ的に多分今のは、俺のセリフだった。

 釈然としない。すごく釈然としないが、言ってることは正しい。釈然としないが。


「ってワケで、はいこれ、あんたのデッキよ。調整終わったから」

「あ、ども……」


 ミフユから差し出されたデッキを両手で受け取り、ライミはそれに目を落とす。


「じゃ、親子対決、がんばって」


 そして次に、ミフユはそう言って俺の肩を叩いたのだった。


「「え?」」


 俺とライミの声が、見事にハモった。

 しかし、ミフユはすでに俺達を見ていない。マイクを片手に、観客に向かう。


『『ライミ・バーンズ、決戦士への道』のラストを飾るのは『炎獄杯』一回戦第四試合『アキラ・バーンズvsライミ・バーンズ』の試合よォ~~~~!』

『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォ!』』


 大観衆、大歓声。

 って、対戦相手が変わってるゥゥゥゥゥゥゥ――――ッ!?


「な、え? アキラちゃんの相手、縁珠じゃ……?」

「私は、ライミのセコンドにつくわ」


 呆然となるライミに、エンジュが笑って隣に立った。


「縁珠、でもさ……」

「私もおばあちゃんと同じ意見よ、来魅。パレカは楽しんだ者勝ちよ」


 まだ少し不安げなライミだが、エンジュは朗らかに笑いかける。

 そして、眼鏡を外し、三つ編みを解いて、その瞳を蒼く輝かせて親友を見る。


「せっかくの機会よ。一緒に遊ぼう?」

「縁珠……」


 ライミは親友の名を呟いて、次にこっちを見た。

 何を言いたいかはその視線で容易に知れる。


「いいぜ、やってやるよ。手加減はしない。俺も優勝を目指してるからな!」

「~~~~ッ! うん、よしッ!」


 ライミが、両手で軽く自分の頬をペシンと張って、表情を引き締める。


「気合と根性、努力と信念! それだけあれば不敵に無敵! やるわ、縁珠!」

「フフフ、その意気よ、来魅。わからないことは、私が教えてあげるわ!」

「来いやァ、ひいばあひ孫コンビ! 誰を相手にしてるか、思い知らせてやらァ!」


 せっかくなので悪役ロールなどカマしつつ。

 俺は二本指を空に突き上げる。

 ライミも、それに合わせて不慣れながらも二本指を突き立てた。


「「決戦(アーツ)ッ!」」


 さぁ、俺の出番だッ!

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