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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
幕間 バーンズ家の色々諸々冬景色

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第485話 『炎獄杯』一回戦第一試合:母親vs母親:前

 俺は控室に戻り、再びスクリーンから闘技場を見ている。

 何か、控室の中身が変わっていた。


 デカイソファと、傍らに小さなテーブル。

 テーブルの上にはお菓子とジュースが置いてある。至れり尽くせりかよ。


 さて、俺はしっかりとソファに身をうずめて、スクリーンに目をやる。

 そこでは、実況と解説によるこれからの戦いに関する説明が行われている。


『もうすぐ一回戦第一試合が始まるぜェ~!』


 と、タクマが軽い調子で実況している。


『ねぇ、組み合わせって、もう決まってるの?』


 そこに、解説役のライミが、今まで触れられていなかった部分に言及する。


『各対戦の組み合わせは決まってるぜ。先週、組み合わせ抽選会やったからな~』

『え~! 何それ、あたし知らないんだけど!?』


『そりゃあ、ばあちゃんが来る前だからな~』

『あ、そっか……』


 聞いてて思うワケですわ。

 これ、どっちが実況で、どっちが解説? 明らかに逆なのでは?


『ちなみに第一試合は誰と誰なの?』

『第一試合は――、っと、いきなり注目のカードっしょ、こりゃ目が離せねぇ!』


『だから、誰と誰なのよォ~!』

『そう急かすなって、ばあちゃん。ほら、グラウンドを見てみなよ』

『え~?』


 ライミの声の直後にスクリーンが切り替わって、闘技場のグラウンド。

 芝生の上を、今、二人の人物が歩み出てくる。


 一人はミフユ。

 今日のために用意したと思しきコスチュームに着替えての登場だ。


 アニメヒロインであるミスミ――、ではなくケイタのコスプレだった。


 胸に大きくパレモンのエンブレムが描かれた空色の半袖のシャツに長ズボン。

 頭には野球帽をかぶって、鼻筋にキッチリと絆創膏を貼っている。


 王様気取りの次は主人公気取りと来たもんだ。

 さすが主催者にして言い出しっぺ、入念に準備しておる。力の入りようがすごい。


「フフフ、ここから始まるのね。わたしのパレモンマイスターへの道が!」

「さて、そいつはどうかねぇ……?」


 ミフユにそう言ったのは、向かい合っている対戦相手。

 それは、お袋だった。


「案外、アタシに手も足も出ず、なんてこともあるかもしれないじゃないか」

「お義母様、夢は寝ているときに見るものですよ」


 ミフユとお袋が真正面からバチバチやってる珍しい構図。

 そこに、外野から『み~た~ん!』という声が飛び込んでくる。


『やっちゃえ、みーたん! その変な子供のコスプレしてるヤツをやっつけろ~!』


 アニメ主人公の名前すら知らない解説役。とは。


『決戦のグラウンドで両者が睨み合う。ついに『炎獄杯』本番がスタートだ!』

『あの~、タクマ君、ところで『3on3ルール』ってどんなのなの?』


『おっと、ばあちゃんはそこからか』

『そうだよ! あたし、パレカなんて触ったコトもないモン!』


『そっかそっか。んじゃ、この第一試合を見ながら解説してやるっしょ』

『やった! お願いしま~す!』


 実況に解説させる解説役。とは。

 一方で、ついに一回戦第一試合が開始される。


 ミフユとお袋が、共に二本指を衝き上げる。

 それはパレモン本編で『大志の絵筆』と呼ばれている、決戦開始の合図だ。


「「決戦(アーツ)ッ!」」


 戦うことを了承した決戦士(アーティスト)二人のそのかけ声により、決戦は始まる。

 それが、決戦士の絶対に欠かしてはならない作法である。


『さぁ、いよいよ始まったぜ、母ちゃん対美沙子さん! 事前のコイントスにより、先攻は美沙子さん。後攻は母ちゃんとなっているぜ!』

『これは、どっちが強いの?』


『先手必勝って言葉があるくらいだ。一般的には先攻が有利扱いされるっしょ』

『そうなんだ! みーたんのが強いんだ!』


『や、直接強いってワケじゃ――』

『やっちゃえ、やっちゃえみーたん! ミフユちゃんなんか一発でやっちまえ~!』

『う~ん、初心者!』


 俺が思ってることをタクマがそのまま声に出してて笑うわ。

 グラウンドでは、お袋が胸辺りに浮いているデッキへと手を伸ばしている。


 もちろん、それもカリンとジンギによる演出。

 こんなデケェ舞台を用意して、普通にカードゲームやるのはシュールすぎるし。


「ふゥん、なるほどね……」


 手札を五枚引いたお袋が小さくほくそ笑む。

 引かれたカードは、お袋の眼前に伏せられた状態で巨大化して展開されている。

 あの表情、いきなりいいカードを引いた、か……?


「――パレット、展開(オープン)!」

『おっと、美沙子さん、いきなりの『展開』だ! 初手から圧をかけていく!』


『え、何々? おーぷんって何?』

『展開と書いてオープン。戦闘に使うモンスターを場に出現させることだぜ』


 お袋の宣言と共に、伏せられていた五枚のカードのうち一枚がめくられる。

 そして、カード自体を土台にして、その上に赤い鱗を持ったドラゴンが出現する。


『あ、ちっちゃい。結構可愛い!』


 ライミの反応からわかるが、現れたドラゴンは見た目からして幼く、小さい。


「アタシはナンバー134『サラマンタ』に『アタッカー』のロールを付与!」

『来たぞ、まずは美沙子さん、自身のパレモンに『アタッカー』を付与していく!』


『あたっか~?』

『パレモン『3on3ルール』では、1試合中3回までモンスターに3つの役割(ロール)を与えることができるんだよ。『アタッカー』なら攻撃役で、このロールを付与されたモンスターは、決戦士への直接攻撃能力を得ることができるんだぜ』

『??? ???? ……そ、そうなんだぁ~?』


 ライミ、全然わかってないの丸わかり。

 ま、今日がパレカ初体験なら、それも仕方がない。ろ~るって何ですかって話よ。


「ミフユちゃん、早速だけど大会初ダメージはアタシがいただいとくよ」


 お袋が笑みを深め、右手を勢いよく突き出す。


「アタシは『サラマンタ』でミフユちゃんをダイレクトアタック! 先制攻撃さ!」

『うぉ~! み~た~ん!』


 カードの上にいる『サラマンタ』が、ミフユめがけて口から炎を吐く。

 パレカ『3on3ルール』では、決戦士のライフポイントは3で固定されている。


 モンスターの攻撃力に関わらず、攻撃を三度受ければ勝負が決まる。

 それだけに一発の価値がかなり高く、先攻有利とされる理由の大半がここにある。


「――フ」


 だが、いきなりのピンチにもかかわらず、ミフユは笑う。


「そうくることはわかってましたわ、お義母様!」

「何だって?」

「わたしは、手札からナンバー035『シルダン』をカウンターで『展開』! このモンスターは場に出ると同時に、自動的に『ガード』のロールを獲得するわ!」


 叫ぶと同時、伏せられていた手札の一枚がひっくり返り、モンスターが現れる。

 それは、自分よりも大きな盾を持った三頭身の小人だった。


 お袋の『サラマンタ』が吐いた炎は、しかし、その大盾によって防がれてしまう。

 やっぱり持ってたか、カウンターガード能力持ちのモンスター。


『あれ、何か防がれちゃった! 何でェ~! みーたんの勝ちじゃないのぉ~!?』

『『シルダン』か~、ガードパレモンの中でもメジャーな方だな。それを運よく手札に引き込んでるのは、母ちゃんの幸運なんだろうけどなぁ~』


 悔しがるライミの隣で、タクマが冷静に状況を分析し、実況に乗せる。


『タクマ君、どういうことよ~!』

『パレモンには今みたいに特定の状況で手番に関係なく『展開』できるモンスターがいるんだよ。『シルダン』の場合は、第1ターンに先制攻撃を受けたとき、だな』


『何で攻撃防がれちゃったのよ~!?』

『それは『シルダン』の特殊能力っしょ。あれは『展開』すると同時に3ターンの間、自身に決戦士からの任命なしに『ガード』のロールを付与するっしょ。『ガード』のロールは、決戦士への直接攻撃を無効化する能力だぜ』


『え~! それじゃあ、みーたんがミフユちゃんに攻撃できないってコトぉ~!?』

『んにゃ、今の場合で『シルダン』が防げるのは『サラマンタ』からの直接攻撃だけだ。別の『アタッカー』からの直接攻撃を防御することはできねぇんだ』


 そうそう、そういったロールの駆け引きもパレモンの面白いところだ。

 つか、ライミがリアクション役として100点満点な件。

 解説させる役としては、逆に一周回って有能なのかもしれない。


「『シルダン』を手札に入れてたとは、運がいいね。……アタシは場にカードを一枚伏せて、ターンエンドさ。やれやれ。肩透かしだったねぇ、こりゃあ」


 お袋は苦い顔を見せて、手札のうち一枚を場の一角に移動させ、手番終了。

 先制攻撃は先攻の特権だが、それを防がれると守りに回った際に隙ができやすい。


「お義母様、それは果たして幸運で片付けていいのでしょうか?」

「おや、何だい、ミフユちゃん。他に何かあるってのかい?」


 問い返すお袋に、ミフユは不敵な笑みを浮かべかぶっている野球帽を逆さにする。

 それは、アニメの主人公ケイタが本気になったときに見せる動きだった。


 なり切ってる!

 ウチのカミさん、主人公気取りじゃなくて、なりきってるよ!


「わたしが『シルダン』を引いたのは、幸運じゃないわ。運命よ! それを、これから教えて差し上げますわ、お義母様。――わたしのターン!」

『あ、あれは知ってるよ、わたし! おれのたーんだ! おれのたーん!』


 それだけは知っていたらしいライミが、途端にはしゃぎ出す。

 おまえ、ミフユ嫌いじゃなかったんかい。


「幸運じゃなくて、運命。そう言うんだったら、見せてもらおうじゃないかい!」

「とくとご覧くださいませ、わたしの勝利をッ! パレット『展開』ッ!」


 先攻のお袋と同じようにして、ミフユも自分の手札から何かを使おうとする。


「そう、わたしは悟ったのよ。この対戦でのわたしの勝利は、運命。《《これ》》が初手の手札に混じっていたときから、それはすでに定まっていたことなのよ!」

『おぉ~、何やら母ちゃんからすごい気迫を感じるが、何を展開する気だ~!?』


 タクマの実況ののち、ミフユが《《ソレ》》の名を叫ぶ。


「さぁ、おいでなさい! わたしのエースモンスター!」


 かざした右手の先、五枚並ぶ手札の真ん中がひっくり返される。

 そして現れたのは鈍い鋼鉄色をした、スマートな騎士甲冑に身を包んだドラゴン。


「わたしは、場にナンバー099『ナイティオン』を展開! 『アタッカー』のロールを付与し、それによって条件を満たして、特殊能力を発動するわ!」


 ミフユが場に展開したのは『ナイティオン』。

 パレカでも永久人権と呼ばれるモンスターの幼体が、空に向かって咆哮をあげる。


「お義母様。――せめて、このターンくらいはもってくださいね?」


 野球帽を目深にかぶるミフユの瞳に、鋭い光が宿った。

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