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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
幕間 バーンズ家の色々諸々冬景色

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第454.5話 裏事屋さん、仕事を果たす

 ――陽室市あけぼの区、某マンションの一室。


 一人の女が騒いでいる。


「あの子はまだ見つからないの!」


 それなりに広いリビングに、彼女のヒステリックな声が響き渡る。

 対応に出ていたやせた男はそれを聞いて、安い愛想笑いを浮かべている。


「ですから、現在鋭意追跡中ですよ。奥様」


 来客用ソファに座る彼女を前にして対応に出ているのは、スーツを着たその男だ。

 女性もかなり若々しい上に細身だが、男はそれに輪をかけてやせている。


 その見た目はガリガリといってもいいほどだ。

 しかし、座っていてもそれとわかるくらいには背が高い。


 かなりの痩躯ながらもも、容貌から感じとれる印象にも頼りなさはない。

 それはきっと、男の放つ眼光が大きな要因だろう。


 リビングには彼と女性の他に、男達が数人いた。

 全員、体格がよくて強面の、見るからに『その筋の人間』とわかる連中だ。


 だがそのいずれもが、女性の対応をしている彼よりは遥か格下。

 それを、女性も含めた場の全員が理解している。あるいは、理解させている。

 男の鋭すぎる眼光、ただ一つで。


「……本当に、見つかるのよね?」


 女性は、しかめっ面で男のことを睨みつけている。

 獣の眼を持つ男を前にして横柄でいられるのは、ひとえに余裕がないからだ。


「もしもあの子を通じてあの人に私の計画がバレたら――」


 自分にとって最悪の展開を想像して、彼女は顔を青くする。

 彼女が口にしたあの子とは、もちろん永嶋来魅。あの人とは、夫の之晴のこと。


 来魅が行方をくらましてからすぐ、彼女――、永嶋成美はここに来ていた。

 この場は彼女が娘の拉致を依頼した『裏事屋』の事務所だった。


「いなくなったってどういうことなの? どうして捕まえられなかったの?」

「奥様、それについては私共の過失ではないでしょう……」


 一方的に詰め寄ってくる成美に『裏事屋』の男は小さくため息をつく。


「娘さんの帰宅にも気づかず、電話をしていたのはそちらでしょうに」

「それはそうだけど、でも、こっちだって安くないお金を払っているのよ!?」

「ええ、わかってます。わかってますとも」


 成美の言動は乱暴だったが、彼はそれにしっかりとうなずく。


「私共も奥様から依頼を受けた以上、仕事はしっかりと果たさせていただきますよ」

「本当に、お願いしますよ……?」


「ええ、娘さんはこちらで探し出して必ずや『保護』いたしますよ」

「…………」


 男はニコリと笑って『保護』という言葉を出す。

 だが、成美は複雑そうな表情を見せて、多少声のトーンを落として、


「乱暴な真似はしないように、してくださるのですよね?」

「おっと、そこを疑われてしまいますか。それはいささか心外というものですね」


 周りに立っている数人のチンピラたちを眺める成美の顔は心配げである。

 しかし男は大仰にかぶりを振って、あっさりと否定する。


「私共はそりゃあ、お天道様の下に出られるような身の上じゃありませんがね、だからこそ仕事はきっちりと果たさせていただきますよ。この界隈、信用が第一でして」

「……お任せします」

「ええ、もちろん。娘さんを一定期間『保護』すること。承りました」


 男は柔らかく笑っている。

 だが、瞳は相変わらず獣の如きそれで、愛想笑い程度では印象を変えきれない。


「……幹治は、どうなっていますか?」

「そちらは問題ありませんよ。弟さんはすでに私の兄が『保護』済みです」


「ど、どこに……?」

「それについちゃ心配無用です。手厚く『保護』してますから」

「……わかりました」


 成美は、顔にいくばくかの不安を残しつつもうなずき、引き下がった。


「大丈夫ですよ、奥様。私共はプロです。依頼された仕事は果たしてみせます。あなたも私共のような者に頼った以上、もう後戻りはできない。そうでしょう?」

「――――」


 告げる男に、成美はハッとして下を向く。


「……そう、そうね。私が《《あの人》》と一緒になるために、これは必要なこと」

「そういうことですよ。あんたは惚れた男と再婚したいんでしょう? そのために、今の旦那が邪魔だと、ご自分でも言ってたじゃありませんか。ねぇ?」

「わかってるわ、言われないでも!」


 そこで声を荒げて、成美はソファから立ち上がる。


「とにかく、早く来魅を捕まえてください。こっちは離婚調停のための準備を進めている真っ最中なんです。忙しいんです。手間を取らせないでください!」

「そいつは申し訳ありませんね。勘弁してやってください」


 座ったまま頭を下げる男を見下ろしたまま、成美は「ハンッ」と鼻を鳴らす。


「何かあったら連絡をお願いします」

「もちろんですよ」


 そして、彼女は挨拶もないままマンションを去っていった。

 ガチャン、と玄関が閉められる音がして、そこでようやくチンピラの一人が言う。


「気の強ェオバサンでしたねぇ、ライジさん」

「――フン」


 名前を呼ばれた男――、箕浦頼二(きうら らいじ)はその笑みを変質させる。

 それは、成美に向けていたものとは違う、彼本来の笑み。獣の笑みだ。


「自分から家庭を壊しにかかっておいていっちょ前に子供の心配をしてやがる。いっぱしの母親気取りなのが笑っちまうねぇ。どのツラ下げてって話さ」

「あ~、アレは俺も聞いててちょっとヒキましたわ……」


 周りにいる他のチンピラも、おおよそ頼二と同じような反応だった。


「見た目はよかったですけどねぇ……。いや、でもねぇわ、アレは……」

「俺もだ。ゲテモノ食いの趣味はねぇよ」

「ですよね~……」


 同調する部下のチンピラを軽く眺めて、頼二はソファに身を沈める。


「けどな、アレでも大事なウチの顧客なんだよ。さっき言ってたことに嘘はない。ウチみたいな商売は信用が第一だ。しっかりと実績を重ねていこうじゃねぇか」

「そうっすね。そうしないと『本部』に睨まれちまいますからねェ」

「ああ。特に今回の仕事はその『本部』からの紹介だ。下手は打てねぇぞ」


 頼二がそう告げると、部下のチンピラはそれが初耳だったらしく、


「へぇ、あんなオバサンが『本部』と繋がりがあるんですかい?」

「バカ野郎、そっちじゃねぇよ」


 口にくわえた煙草に火をつけて、頼二が煙を吐き出す。


「『本部』と繋がってるのは、あのババアのオトコの方さ。つい最近も、出世の邪魔になるからって自分の仕事の同僚をハメやがった、大層なクソ野郎だよ」

「ああ、あの几帳面そうな眼鏡の野郎ですか。この前の証拠の偽造依頼の……」

「それだよ。全く悪いヤツもいたモンだ。俺らは真面目に仕事してるってのになぁ」


 ケラケラと笑いながら、頼二は煙草をふかす。

 そうして彼が懐から取り出したのは、金属符だった。


「さて、仕事だ。いなくなっちまったお嬢さんを見つけてやんねぇとなぁ」

「おっす。おまえら、行くぞ」


 チンピラ達がリビングを出ていく。

 そして、一人残った頼二は、金属符を目の前にあるテーブルに貼って『異階化』。


「――『七眼伽藍(シチガンガラン)』」


 頼二の周囲に、浮遊する色の違う七つの宝珠が出現する。

 それが、彼の異面体。

 大きな力こそ持たないが、様々な面で応用が利く用途の広さがウリだ。


「どれどれ」


 彼を取り巻く七つの宝珠のうちの一つ、蒼い宝珠が光を灯す。

 そして頼二はスマホを取り出すと、マップアプリを起動し近隣の地図を表示する。


 縮尺を変えて、陽室市だけでなく星葛、天月、宙色も画面内に入れる。

 すると、蒼の宝珠から音もなく一筋の光線が放たれた。


「ここか」


 光線は地図上の一か所に当たっている。

 頼二は今度はその場所を拡大していった。すると――、


「フン、見つけたぜ。永嶋のお嬢さん」


 蒼の宝珠の光線が示したのは、宙色市天都原区四丁目。

 来魅が滞在している、集の家だった。

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