表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十五章 金鐘崎、新年早々、死屍累々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

443/621

第397話 二日/午前/Side:美沙子/彼女の値打ち

 かれこれ二時間ほど待たされている。

 そろそろ、お昼にも近い時間だ。


「…………」

「…………」


 美沙子も、シンラも、無言のまま案内された部屋で待ち続けている。

 そんな中でただ一人だけ――、


「あ~もぉ~! 待つの疲れたし~! やんなる~! ヒマ~! ちょーヒマ~!」


 那岐和十萌だけは、部屋の中を歩き回って元気に文句を垂れ流し続けていた。

 三人がいるのは、結構な広さを持った応接間である。


 壁に沿って幾つもの本棚や大型のテレビが置かれ、真ん中にはソファとテーブル。

 開かない大窓からは手間暇かけて整えられた庭園を見ることができる。


 ここは、王原組の事務所を兼ねた、王原兼続の自宅だ。

 八雲と共に車に乗った美沙子と、追ってきた十萌とシンラはここに通された。


 シンラは隠れていたかったが、到着して数秒もせず十萌が見つかってしまった。

 それを見て、シンラも隠れることをやめて表に出たのだ。


 しかし十萌はともかく、シンラが通されたことに、美沙子は王原の意志を感じた。

 これから先、彼が自分に何を話すのか、何となくだが予想がつく。


「もぉ~、本当に兄貴のヤツは~……」

「いつまでも立ってないで少し落ち着いたらどうだい、十萌ちゃん」

「あ、お気遣いなく~。あちし、何か座ってると逆に落ち着かないっつ~か~」


 泳いでいないと死んでしまう魚のようなことを言う。

 美沙子は、チラリと隣に座るシンラを見る。


『トモエちゃんっていう人は、こういう子なんですか?』


 ふと気になったので、彼に魔力念話でそんなことをきいてみた。


『……正直、戸惑っている次第にて』

『戸惑って?』


 なかなか意外な返答である。


『実は、あの那岐和十萌嬢と余が知るトモエ様は、全くキャラが違うのです。トモエ様は常に落ち着き払って、物静かで、理性的に頭のおかしいお方でありました』

『……矛盾してませんか?』


『それがしていないのです。それゆえにヤジロと気が合ったのでしょうが……』

『そうなんですねぇ……』


 美沙子はちょっと濁した返し方をするしかなかった。

 しかし『出戻り』前後でキャラが違うことは、割とよくあることだ。

 自分だってそうだ。前の『美沙子』と今の美沙子では、性格が違いすぎるワケで。


『それよりも、美沙子さん』

『はい、何ですか。シンラさん?』

『余は何があろうと、美沙子さんを放すつもりはありませぬぞ』


 シンラが、そっと美沙子の手を握ってくる。


『……はい』


 美沙子も胸中にうなずいて、彼の手をしっかりと握り返す。


「あ~! 二人で手ェ握ってる~! いいな~、あちしもラビュラビュした~い!」

「うッ!」

「あれま……」


 そして速攻で十萌に見つかってしまった。

 シンラは慌てて手を離そうとしたが、美沙子がぎゅっと握ってできなかった。


「そうだよ、この人はアタシのイイ人だからね。手くらい繋ぐさ」

「へぇ~、そうなんですね~。いいな~、羨まし~!」


「十萌ちゃんは彼氏はいないのかい?」

「いないんだな~、これが。何でだろ~ね、あちし、こんなかわいいのにね~」


 そして、何故か二人の間で始まる女子トーク。

 だが、それも長くは続かなかった。部屋のドアが開け放たれたからだ。


「お待たせしやした、お嬢さん」

「王原さん……」


 部屋に入ってきたのは、スキンヘッドな強面の王原と、那岐和八雲。

 続いて、大きなアタッシュケースを持った組員が入ってくる。


「テーブルに置け」

「へい!」


 王原に命じられ、その組員はテーブルにケースを置くと、そそくさと退散する。


「王原さん、これは……?」


 大方の予想を固めながらも、美沙子は王原にケースについて問いかける。

 しかし、彼はそれには答えず、八雲と共に美沙子達の対面に座る。

 王原が美沙子の傍らに立っている十萌をジロリとねめつけた。


「十萌ちゃん。俺らァ、これから大事な話するから、出てってくれねぇか?」

「や~だよ~! 兄貴が無礼なこと言うか監視するモンね、監視!」

「十萌、おまえは……!」


 気色ばんだ八雲がソファから腰を浮かすが、それを美沙子が制止する。


「アタシは別に構いませんよ。ねぇ、シンラさん」

「そうですね。俺も別に」

「ほ~ら~! 正義は勝つ! あちしは正義! よって、あちしは勝つのだ~!」


 豪気にVサインをしてみせる十萌に、八雲は舌を打って、王原は肩をすくめた。


「美沙子お嬢さんがいいってんなら、仕方ねぇ」


 そして、王原はまず、美沙子の前に深々と頭を下げた。


「改めまして、お久しぶりです、お嬢さん。お待たせしちまって申し訳ねぇ」

「いいんですよ。何か用事があったんでしょ?」

「ええ、こいつを準備するのにちぃとばっか時間がかかりましてね」


 王原がアタッシュケースをポンと叩く。


「それと、新年早々、いきなり呼びつけちまった無作法をお詫びいたしやす」

「王原さんからのお話となれば、応じないワケにもいきませんから」

「ありがてぇ」


 次に、王原は美沙子の隣に座るシンラへと視線を移す。


「そして、あんたが……」

「風見慎良と申します。こちらの金鐘崎美沙子さんの婚約者です」


 名乗るシンラに、王原はしっかりと頭を下げて、自らも名乗る。


「王原組三代目をやらせてもらっておりやす、王原兼続と申しやす。美沙子お嬢さんが何かとお世話になっているようで、ありがとうございやす」

「いえ、そんな……」


 これまでずっと周りに敵視されていたシンラに、王原だけは真摯に感謝を告げる。

 そこに美沙子はちょっとした安堵を覚えるが、それも束の間、


「けどね、オレァやっぱり、あんたを認めるワケにゃあいかんのです」


 頭を上げた王原は、欣司や八雲と同じ目でシンラのことを睨んでいた。


「いや、美沙子お嬢さんも子供じゃねぇ。それに俺が見たところ、風見さん、あんたも相当な器量をお持ちのようだ。そんな相手に今さら言葉でああだこうだ言っても、大人しく従ってくれるたぁ、俺だって思っちゃいねぇ」

「過分な評価、痛み入ります。……それで?」


 先を促すシンラに、王原はアタッシュケースをドカッと置き直して、開ける。

 中に入っていたのは美沙子の予想通り、大量の札束だった。


「三億ありやす。こちらで、手ェ打っちゃくれませんかね?」

「……三億」


 アタッシュケースの中にぎっしり詰まった札束を前にして、シンラが目を剥く。

 彼の反応を見て、八雲が口元を歪めてニヤニヤ笑い出す。


「どうだい、風見さん。一商社のサラリーマン程度じゃ一生かかっても稼ぎきれない金額が目の前にある感想は。美沙子さんを譲ってくれれば、これは君のものだ」

「ちょっと兄貴~? その言い方はさすがにドンビキモンだよ~?」

「ゃ、いや、十萌。おまえは黙ってろ。大人の話に口を挟んでくるな」


 顔をしかめて言う年の離れた妹に、八雲はシッシと軽く手を振ってあしらった。


「王原さん……、これは?」

「俺のポケットマネーですよ。欣司の旦那のおかげで、稼がせてもらってます」


 美沙子が尋ねると、王原は「ヘヘヘ」と笑って自分の禿頭を手で撫でる。


「いえ、そういう意味ではなく……」

「あのね、お嬢さん。俺ァ、欣司の旦那と同じ意見なんですよ」

「お父さんと……?」


 いきなりその顔つきを神妙なモノにして、王原が美沙子を正面に見据える。


「あんたは一度三日星に戻るべきですよ。そして、こちらの八雲さんに嫁げばいい」

「そうだよ、美沙子さん。僕なら君を誰よりも幸せにできる」


 王原の後押しを受けた八雲が、またそんなことを言い始める。

 自分とアキラを広告材料にする、などとのたまった男が。


「王原さんは、こっちでは唯一『あたし』と集さんの結婚に賛成してくれたじゃありませんか。それなのに、今度はお父さんと同じことをアタシに言うんですか?」

「お嬢さん、俺ァ、あのときの自分の選択を少々後悔しとりやす」


 目を細めてそれを言う王原の顔には、言葉通りに苦々しいモノが浮かんでいる。

 彼の悔恨は、美沙子にも多少なりともショックを与えた。


「……後悔、ですか?」

「俺が賛同したことが直接の原因じゃねぇことはわかっとりやす。けどね、それであんたは一度本家を勘当され、戻ってきたら今度は欣司の旦那が倒れちまった……」


 王原が、その顔を深くうなだれさせて色濃い懊悩を見せる。

 つまり彼は、欣司が倒れた原因の一端を自分が担っていると思い込んでいるのか。


「俺ァね、お嬢さん。集さんなら、あんたを引っ張っていけると見込んで、二人を応援したんですよ。けど、結果はどうだい? あんたはつまんねぇ男に騙されて集さんとは離婚。さらにその男とも破綻して、今また、新しい男とよろしくやってやがる」

「王原さん……」


 目の前のヤクザが言っていることを、美沙子は咄嗟には否定できない。

 シンラのことは抜きにしても、それ以前については反論できることがないからだ。


 それが『美沙子』の所業だとしても、今は『出戻り』した自分こそが美沙子だ。

 全く、無用な自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。


「意地を張るのはおやめなさいよ、お嬢さん。ここにいる八雲さんなら、あんたと息子さんに誰よりも楽な生活を提供できるんだ。御両親を安心させてやってください」


 誰でもない、半ば父親代わりだった王原の言葉だからこそ、美沙子に響く。

 欣司と美喜子に代わって彼女を育ててくれたのは、王原と使用人の茅野だった。

 この二人は、美沙子にとっては親代わりにも等しい相手ともいえる。


 これまでは自分の主張に一点の曇りもなかった美沙子である。

 しかし、王原までもが、美沙子の考えを否定する。こちらに戻れと言ってくる。


 もしかしたら、自分は三日星に戻った方がよいのではないか。

 欣司をではなく、王原を安心させるために、それを考えるべきなのでは――、


「美沙子さんは僕と一緒になるべきだよ。ご覧、風見さんだって、見たこともない大金を前に固まってるじゃないか。所詮、俗人なんだよ。この男は」


 三億円を前にして固まるシンラを八雲が嘲る。

 すると、そのシンラが表情を固めたまま、唇だけを動かす。


「――そう、ですね。正直申し上げて、驚きました」


 呆気にとられたその声に、王原もさもありなんと深くうなずく。


「でしょうねぇ。こっちとしても痛ェ出費ですよ。けどね、あんたにお嬢さんから手を引いてほしいと言ってるのはこっちだ。だったらきっちり誠意ってモンを……」

「違いますよ、王原さん」


 シンラが、首を横に振る。


「俺が驚いたのは、三億という金額じゃありません」

「何ですって……?」

「俺は、美佐子さんからあなたは事実上の美沙子さんの父親代わりだったと聞いた。美沙子さんもあなたに関してだけは、好意的な言葉を重ねていました」


 いぶかしむ王原に対し、告げるシンラが見せるのは、これ以上ない呆れの感情。


「そのあなたが、《《美沙子さんに値段をつける》》とは思いませんでした。驚きましたよ。まさか父親代わりのあなたが、美沙子さんを売買しようとするなんて」

「な――」

「しかも三億。……美沙子さんの値打ちが、三億程度? クク、ハハハ」


 驚く王原と八雲を前に、シンラは堪えきれない失笑を漏らす。

 そして、ソファにしっかりと背をもたせ、思い切り右足を天井に向かって上げる。


「くだらん」


 バシン、という激しい音は、シンラが己の右足をケースに叩きつけ、生じたもの。

 威力に負けてケースの蓋が閉まり、彼はその上で優雅に足を組んで見せた。

 これ以上なく横柄な彼の態度に、八雲と王原は完全に言葉を失う。


「余にとって美沙子さんは宇宙に等しき価値を持った存在。それを、これが如き少額を対価に渡せなどと、傲岸不遜も甚だしい。万死をもってなお贖えぬ罪深さよ。王原兼続、那岐和八雲。余、のみならず美沙子さんをも愚弄せし罪、さすがに許し難し」

「え~~~~!?」


 いきなり態度を豹変させたシンラを見て、十萌が驚愕の声をあげる。


「ど、どしたの風見さん! え、何? ちゅーにびょー!?」

「十萌嬢からはそう思われても仕方がありませぬな。されど、これが本来の余にて」

「うわッ、令和の日本で『余』とか言う人、初めて見た!」


 十萌が見せるオーバーリアクションに、八雲もハッとして今度こそ立ち上がる。


「き、君はいきなり、何だ! 失礼にも程があるぞ!」

「そうだな、紙幣は足蹴にするものではない。が、それでもおまえよりはマシだ」


「な、こ、この僕が何をしたと……!?」

「余ではない。美沙子さんに無礼を働いたではないか。……そうか、自覚もなしか」

「あ~ぁ、兄貴さぁ……」


 嘆息するシンラの横で、十萌がジトッとした目で八雲を見る。

 彼は、眼前の男が見せる態度も、妹から送られてくる視線も何もかもが疎ましい。


「黙れ、うるさい! 僕は、与党議員である那岐和六郎の長男、那岐和八雲だぞ!」

「そうか。余は皇帝シンラ・バーンズ一世である」


 威張り散らす八雲に、シンラはアタッシュケースの上で足を組んだまま名乗る。


「こ、皇帝……?」

「わ、やばぁ~い! 風見さん、マジかっけぇ~かも~! エンペラーじゃん!」


 エンペラー、という語を聞いて、シンラが思い出すのは例のヤツ。

 だが脳裏に浮かんだそれを瞬時に掻き消して、彼の視線は王原へと向けられる。


「王原兼続よ」


 呼びかけると、王原はその肩を揺らし、頬を伝う汗を手の甲で拭う。


「いけねぇいけねぇ、俺としたことが。……風見さん、あんた、何モンだい?」

「余の素性などどうでもよきこと。これは返すぞ。余の視界にあることすら不愉快」


 シンラが、三億円入りのアタッシュケースを王原へと蹴りつける。

 スキンヘッドのヤクザはそれを両腕で受け取ると「そうですかい」と脇に置いた。


「三億じゃ足りねぇ、と。じゃあ、一体幾らなら承諾していただけるんで?」

「星だ」

「……星?」


 怪訝そうに尋ね返す王原に、シンラがうなずく。


「そうだ。夜空をあまねく満たす星全てを余の前に献上するがよい。そのとき、余は心底からの本音をもってこう返そう。美沙子さんに代わるものなどどこにもないと」

「うっわぁ……」


 厳かに宣言するシンラを見て、十萌が口に手を当てて頬を赤くする。

 黙り込んだままの美沙子へ、シンラは促す。


「決断をなされませ、美沙子さん」

「シンラさん……」

「王原兼続の態度でわかるはずです。彼はあなたではなく、欣司の側に立つことを選んだ。あなたはどうするのですか。王原のために、金鐘崎本家に戻るのですか?」


 王原のために。あるいは、この場にいない茅野のために。

 この三日星での、両親代わりだった二人のために。自分は、金鐘崎美沙子は――、


「もし、アタシが戻るコトを選んだら、シンラさんはどうしますか?」

「そうですね。まずはこの場にいる敵対者全員を殺します」


 こともなげに告げられた言葉は、八雲を始め、王原と十萌までもギョッとさせた。


「次に本家の人間を全て殺し、追ってくる者がいれば殺し、邪魔する者がいれば殺し、阻む者がいなくなった時点で美沙子さんをさらいます。それが余の答えです」

「――――」


 シンラの答えに美沙子は一瞬だけ驚いて、次の瞬間、それは笑みに変わる。


「ハハンッ、やっぱりアンタはあの子の息子だね、シンラさん」

「余の心は余のものではありますれど、受けた影響の大きさは計り知れず」


 そして、シンラが足を戻し、二人は同時にソファを立つ。


「お嬢さん……?」

「この話は終わりです。アタシ達は帰らせていただきますよ、王原さん」


 座ったまま見上げてくる王原へ、美沙子はきっぱりと己の判断を告げた。


「どうしても、ダメですかい? 欣司の旦那へ孝行する気はねぇと?」

「子供を苦しませる親に、どう孝行しろっていうんです」

「そう、ですかい……」


 王原は深々とため息をついた。そこににじむのは、悔いにも似た諦めの色。


「だったら、仕方がねぇ」


 次に、その声に苦いものを含ませながら、王原は己の懐に右手を入れる。

 そして彼が取り出したのは、重々しい黒が特徴的な、拳銃だった。


「このまま行かせやしませんよ、お嬢さん」


 部屋のドアが勢いよく開け放たれ、銃や刃物を手にした組員がなだれ込んでくる。


「な、なァ……!?」


 驚愕の声をあげるのは、八雲のみ。

 十萌は悲鳴を叫ぶどころではない様子で、顔を青くして固まってしまっている。


「王原さん――」

「俺ァね、お嬢さん。勝手ながら、欣司の旦那の右腕を自負してるんですよ」


 金鐘崎欣司。

 この三日星区のお殿様にして、古くからの王原の友人でもある、美沙子の父親。


「あの欣司の旦那が倒れたと聞かされたときにゃあ、大層驚いたモンです。欣司の旦那はとにかく色々と太くいらっしゃる。病気なんかに負けるような御仁じゃあねぇ。そんな旦那が倒れたとなりゃあ、そりゃあ、子供のこと以外にねぇんでしょう」

「欣司が、アタシを心配するあまり、心労が祟った、と……?」

「それ以外にゃねぇでしょう。あの人だって人の子だ。そして人の親だ」


 本当は違う。欣司が倒れた理由は、赤い影の異面体に魂の七割を奪われたからだ。

 しかし、それを王原に教えたところで、彼が納得するとは思えない。


「逃がしませんよ、お嬢さん。あんたにゃ八雲さんとの結婚を了承してもらう。それで三日星に戻ってもらいますよ。それがあんたの幸せにも繋がるってモンだ」


 またか。と、美沙子は思った。

 欣司もそうだった。こうすることがおまえの幸せに繋がるんだとか抜かしていた。


 だがそこに美沙子の意思は一つも介在していない。

 王原が言う『美沙子の幸福』は所詮、王原から見た『美沙子の幸福』でしかない。

 ああ、そうか。だったら――、もういい。


「王原さん」


 美沙子が、王原兼続をキッと睨みつける。

 そして彼女は、取り出した金属符を壁に向かって投げつけ、応接間を『異階化』。


「子供の幸せってのはね、願うものであって、決めつけるものじゃないんだよ」


 そう呟く彼女の手には王原が持つものよりさらに大型の拳銃。

 美沙子はそれを、躊躇なく、王原へと突きつけた。


「み、美沙子お嬢さん……!?」

「こいつはアンタが売った喧嘩だよ、王原兼続」


 具現化させた薬莢付きのライフル弾を煙草のようにくわえ、美沙子が凄む。


「高値で買ってやるさ。――恨みと一緒にね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ