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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十五章 金鐘崎、新年早々、死屍累々

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第390話 元旦/夕方/こうして一息つきまして

 ジンギが便利すぎるんだが。


「おまえ、すごいわ。ホント……」

「…………イエイイエイ」


 俺が感嘆の声を漏らすと、ジンギは表情を変化させないままWピース。

 何をしたかといえば、記憶の改竄である。


 ジンギの異面体『幾何絡機(キカラギ)』にそれができるアイテムを作ってもらったのだ。

 使った相手は、茅野のオバチャンと那岐和八雲、あと、蘇生した親戚共。

 改竄したのは『異階』での出来事に関してだ。


 親戚共には魔法の暗示をかけてあるので、殺し合った記憶はそのまま。

 どっかで陰口叩こうものなら即座にそれがフラッシュバックよ。


 いやぁ、いい思い出ができましたねぇ。金鐘崎家親族共よ!

 それ以外の、俺達にまつわる記憶なんかはジンギのアイテムで消去済みだ。


 八雲と茅野のオバチャンについては、丸々修正させてもらった。

 覚えられててもめんどくさいことにしかならないからなぁ。


 それが終わったあと、俺達は『異階』から戻って眠らせた連中を起こした。

 年始の挨拶については、欣司の体調不良を理由に中止してもらった。


 もらった、ってのは、俺達以外にそれを主導した人間がいるってことだ。

 外から来たヨソモノの俺らじゃ、説明したところで納得は引き出せなかったろう。


 客達に挨拶の中止を知らせたのは、お袋の母親の美喜子だった。

 この女、俺が金属符を畳に張る前に、さっさと大広間の外に逃げていたのだ。


 何という危機回避能力。

 さすがはお袋のお袋、悪い意味で保身のすべを心得ている。

 だが、正直言えば、非常に助かってしまった。


 お袋から欣司が倒れたと聞かされて、美喜子は早々に客達に挨拶の中止を告げた。

 それを言う姿は凛としていたが、要するに、関係者を増やしたくなかったのだ。


 関わる人間が増えれば、それだけ事態は複雑化する可能性が高まるからな。

 美喜子は単純にそれをイヤがっただけに過ぎない。ことなかれ人間の本領発揮だ。


 まぁ、だから今後のこの女の扱いに困るんだけどね。

 美喜子にも仕返し予定ではあったものの、形としては助けられたワケだしなぁ。

 それが、美喜子自身がめんどくさいのを嫌った結果だとしても、だ。


 なお、小夜子、美智子ついても蘇生して同じく記憶を修正してある。

 小夜子と美智子はこのあとで仕返し予定だったが、そうもいかなくなったのだ。


 お袋曰く、欣司の体調不良を知れば、王原が絶対に駆けつけてくる、って話だ。

 組長の王原が欣司とは長らくの友人なのだとか。俺にとってのケントか。


 王原が駆けつけたとして、そこにさらに美智子や小夜子がいなかったらどうなる。

 絶対によくない方向に話がこじれますよねー。目に見えるわ。


 地元のヤクザなんぞ、俺にとってはどうでもいい。

 しかし、王原はお袋にとっては恩人で、ある意味での父親代わりだったらしい。


 ……それは、さすがに無視できない。


 と、いうワケで小夜子と美智子への仕返しは一旦保留。

 できそうなタイミングになったら、直ちに仕返し実行するけどね。特に小夜子。


 崟吾については、バリ脅しておいた。

 少しでも怪しい動きしたら、おまえの人生今日で終わっちゃうぞ、とかね。


 あの野郎、涙と鼻水まみれでヘコヘコうなずいてたよ。

 でも、確証はなかったので、ちょっとだけ呪っちゃったわ。ガルさん、サンクス!


 俺らに逆らったら全身に激痛が走るという非常にシンプルな呪いです。

 崟吾には、あとで改めて色々聞かなきゃいけないしねぇ。


 と、いうワケで現在の状況をまとめるの以下の通り。

 年始の挨拶は欣司が倒れたことにより中止。それを客に知らせたのは美喜子。

 小夜子、美智子、八雲、茅野のオバチャンと親戚共は記憶改竄済み。


 予定されていた小夜子達への仕返しは一旦保留。

 理由は、お袋の恩人である王原が本家に駆けつける可能性が高いから。


 小夜子と美智子への仕返しは、状況が落ち着くか、チャンスが来たら改めて。

 状況が落ち着く、ってのは欣司が起きたらってコトだ。


 現在、欣司はあの赤い影の異面体に魂の七割を奪われて、仮死状態だ。

 崟吾を尋問して魂を戻させればそれで決着ではあるんだが、果たしてどうなるか。

 その崟吾は現在、ガルさんの呪いで俺らに逆らえなくなっている。


 ――以上が、俺達が『異階』から戻ったあとの大雑把な流れだ。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 闇。

 まだ午後五時なのに外は真っ暗だ。音もほとんどなくて、闇の底って感じがする。


 ここ三日星区は、山に囲まれた僻地だけあって、街灯の数もとても少ない。

 あるにはあるけど、夜の闇を押しのけるには全然足りちゃいない。


 こういうのを見ると、宙色がいかに都会かがよくわかる。

 いや、この場合はここ三日星区がいかに田舎かが、ってコトになるのか。

 東京都かに比べれば宙色も天月も地方だモンな。


 それにしても、この暗さは異世界を思い出す。

 俺とお袋が住んでた村も相当な田舎で、夜はこんな感じだったっけ。


 黒々とした闇がすぐ近くにあって、夜に外に出れば迷って帰ってこれなさそうな。

 ああ、別に思い出す必要もない懐かしさだけど、本当によく似てるよ。


 ここは金鐘崎の本家屋敷。

 あのあと、俺達は宙色に帰らず、ここに残ることになった。


 それを判断したのは、もちろんお袋だ。

 倒れたままの欣司を放置するのはさすがにバツが悪いってことなんだろう。


 ま、俺もシンラもタマキも、そうなるだろうとは思ってた。

 カリンとジンギは、同じ屋敷内にいるが残念ながら部屋は離れている。


 小夜子の記憶を修正した手前、ひとまずはあの女のところに戻っている。

 もはや親子関係の断絶は決定的だが、記憶を修正された小夜子はそれも忘れてる。


 まぁ、いいさ。

 あの女も三が日はここにいるという。


 だったら今日の夜に、明日と、チャンスはいくらでもある。

 あとでカリンとジンギとその辺も打ち合わせておくか。


「……車の音だ」


 宛がわれた部屋の中で外を眺めてボーっとしてたところに、走行音が聞こえた。

 遠ざかるそれに乗っているのは、王原だろう。


 お袋の予想通り、王原は本当に来た。

 そして今さっきまで、欣司が寝ている部屋に籠りっぱなしだった。


 欣司と王原は、俺とケントのような関係。

 仮にそう考えて、ケントが倒れたら俺はどうするだろうか。


 決まっている。

 自分にできる限りの手を尽くそうとするだろう。


 王原も、きっとそうなんじゃないだろうか。

 自分にできる手段を用いて、欣司の治療に努めるような気がする。


 だがそれは無駄だ。

 欣司が目を覚まさないのは、魂の七割を失っているからだ。


 魔力すら感知できない現代医学でどうにかできるものではない。

 異世界の技術ですら、今の欣司を治すことは難しいのだから。


「さて――」


 俺は、部屋の入り口であるふすまの方へ目をやる。

 すごいよね、ドアじゃなくてふすまだよ、部屋の入り口が。中も畳敷きだし。


 そういえばリリス義母さんの家も和風の御屋敷だっつったっけ。

 もしかしたら、ここと似たような感じなのかもしれんね。


 で、王原が帰ったってことは、対応に出てた崟吾もフリーになったってことだ。

 お袋は、今はシンラと一緒にいる。なら、タマキだけでも呼んでおくか。


「尋問、しちゃいますか~」


 金鐘崎崟吾の尋問の開始である。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 崟吾を大広間に呼んだ。

 そこには俺とタマキ。カリンとジンギは、都合がつかなかった。


「な、何だ……?」


 崟吾は、俺達を見てかなりビクビクしている。

 そりゃまぁ、そうだろうけどねぇ。


「タマキ、金属符」

「わかった~」


 俺は崟吾を無視してタマキに指示し、大広間を『異階化』させる。

 そして、傍らにマガツラを具現化させた。


「う……」

『オイオイ、俺見ただけでチビりそうになってねぇか、この親父よぉ~?』


 マガツラの言う通り、崟吾は今にも失禁しそうなくらい表情が強張っている。

 やめてくれませんかね、年始の挨拶のときにもチビってただろ、おまえ。


「何だ、俺に、何の用だ……!」

「ンな怖がんなよ、たかが小学二年生と女子高生によ~」

「な、何が小学二年生だ、このバケモ――、ぎゃああああああああああッ!?」


 俺を罵倒しようとしたことで、呪いが発動して崟吾が激痛に見舞われる。

 ちょうどいいや、このまま聞いちまおう。


「なぁ、金鐘崎崟吾。俺はおまえに確認したいことがあるんだよ」


 畳に這いつくばっている崟吾の髪を掴んで無理矢理前を向かせ、俺は尋ねる。


「ひぃ……、ひっ、か、確認したい、こと……?」


 崟吾は、呪いのよる激痛ですっかり大人しくなっていた。

 涙を溢れさせた目を見ても、恐怖に怯え切っているのがよくわかる。


「どうだ、タマキ」

「ん~、多分、演技とかはしてない、かな」


 一応、タマキに気配を探ってもらう。

 この辺り、シイナかラララがいると楽なんだけどな。いないものは仕方がない。

 演技だったらミフユも頼りになるんだが、やっぱりいなぁ~い!


 なお、俺自身の見解もタマキ一緒だ。今の崟吾の様子は、演技には見えない。

 その上で、さらに念を押しておく。


「金鐘崎崟吾、これから一つ質問をする。正直に答えろ」

「……ぁ、あぅ、わ、かりました」


 崟吾が一生懸命うなずいている。

 俺は尋ねた。


「欣司の魂を奪った異面体はおまえのものか? 欣司の魂はどうした?」

「へ? す、すきゅら……? たましいって、な、何の話……」


 崟吾の反応はそんな感じ。そもそも異面体すら知らないらしい。

 だが、これはどっちだ。嘘か真か。疑い出せばいくらでも疑えてしまうぞ。


「マリクに渡すんじゃなかったな……」


 という呟きののち、俺はため息を漏らす。

 この状況、あの『黄泉読鏡(ヨミヨミラー)』があれば一発で決着なのになー。


 二つあるアレ、今、どっちも手元にねーんだわ。

 一つは、トモエを探してるヤジロに貸して、もう一つはマリクに貸しちゃった。

 古代遺物の研究がしてみたいって言ってたからさ。しくじったわー……。


「しゃーない」


 真偽を確かめるため、今の俺の使える手段はただ一つ。

 俺はガルさんを取り出した。


「ガルさん、こいつと俺に『真問真答一対呪(クエストカース)』をかけてくれ」

「ちょ、おとしゃん」

「崟吾の言ってることが本当かどうか、確かめるにゃそれしかねぇよ」


 軽く驚くタマキに、俺は顔をしかめる。俺だってできればやりたくねーわ。


『ペナルティはどうするのだ、我が主』

「死」

「し、死ィ~ッ!?」


 俺が口にしたその言葉に、崟吾が激しく反応を示す。


「そうだ、金鐘崎崟吾。これからする質問におまえが少しでも嘘を含ませたら、その瞬間、おまえは死ぬ。即死だ。この先の未来を迎えることなく、おまえは死ぬ」

「や、やだ! いやだ! た、たす、助けてくれェ~! 死にたくないィ~!」


 あ、このオッサン、また漏らした。マジかよ、勘弁してくれよ。

 ちょっと脅しただけでこれかぁ。

 仮にもお袋の兄貴だろうがよ――、って、そうか『お袋』の兄貴だからか……。


「正直に答えりゃ死にやしねぇよ、なぁ?」

「う、ぅぅ、何でも、何でも答えるからァァァァァァ~~~~!」


 崟吾が涙と鼻水で顔をグシャグシャにして幾度もうなずく。

 仮にこれが演技なら大したモンだよ。俺とタマキは騙されそうだモン。


『我が主、術式の準備が整ったぞ』

「あいよ~」


 畳を見れば、いつの間にやら展開されている魔法陣。

 さすがはガルさん、術式の展開が秒っすわ、秒。マリクのお師匠さんだけある。


「金鐘崎崟吾、俺が今から一つ質問する。答えろ。その代わり、俺もおまえの質問に答える。何でもいいぞ。何でもきけ。俺はそれに、正直に答えてやるからよ」

「ぐ、ぅ……」


 崟吾がうなずいたことで、両者の間に合意が成立。

 それをもって俺と崟吾の『真問真答一対呪』が発動・開始される。


「改めて質問だ、崟吾」


 光を放つ魔法陣の上で、俺は尋ねた。


「俺を襲い、お袋を狙って、欣司の身を切り裂いたあの赤い影の異面体を操っていた『出戻り』はおまえか、金鐘崎欣司? さぁ、答えてみせろ!」

「……ぐ、ぉ、俺は」


 口をあんぐり開けて呼吸を乱しながら、崟吾がかすれた声で返答をする。


「俺は、し、知らない。そんなものは、知らない……!」

「…………」


 しばし待っても、ペナルティは発生しなかった。

 傍らで見守っていたタマキが、怪訝そうな顔つきで崟吾と俺を交互に見てくる。


「おとしゃん、これって……」

「ああ」


 俺はうなずいた。

 崟吾は嘘を言っていない。こいつは『出戻り』ではない。


 仮に『出戻り』する可能性を秘めているとしても、まだしていない。

 つまり、あの赤い影の異面体の本体は、この男ではないってことになる。


「だが、マガツラがあの影を消滅させたとき、気絶したのはこいつだ」


 あのときの崟吾の反応は、間違いなく異面体を破壊された『出戻り』のそれ。


「え、何々? どゆことだ……?」


 早速思考を放棄したタマキが、俺に答えを求めてくる。このバカはよー。


「こいつは『出戻り』じゃないが、あの年始の挨拶のときはこいつが赤い影の異面体の本体だった。ってことだよ。状況をまとめると、そういうことになるな」

「何言ってんだよ、おとしゃん、そんなことあるワケないだろー!」

「くすぐって泣かすぞ、おまえ」


 だが、タマキの言う通り、本来であればあり得ない状況だ、こいつは。

 しかしそれでも『あり得る』と仮定して考えれば、見えてくるものだってある。


「――『他人に貸せる異面体』」

「え?」

「状況から察するに、あり得そうなのはそれだ。あの赤い影の異面体には、《《他人を仮の本体にする能力》》があるんじゃねぇかと思う。『魂喰い』の能力以外にな」


 もしそうなら、これはなかなか厄介な話になってくる。

 何故なら、本体の可能性がある容疑者が一気に増えてしまうからだ。


 崟吾は除外されるとして、あの場にいた親戚一同、小夜子、美智子、八雲もだ。

 茅野のオバチャンも容疑者に入る、か。

 いや、場合によっては、美喜子も入るかもしれない。


 シイナやタクマのように、現実に影響を与える異面体も存在する。

 ヒメノのように、異面体に関わるアイテムがあったりする場合だってある。


「まずいな、容疑者を絞り切れねぇぞ、これ……」


 結局、いくらでも疑えてしまう状況が覆ることはなかった。

 あの赤い影の目的すらわかってない今、これは果たして、どうしたものか。


「ぉ、おい……」


 悩んでいるところに、崟吾が声を出す。

 ああ、そういえば、こいつの質問にまだ答えてなかったな。


「何だよ、質問ならさっさとしろよ」

「わかってる、なら、お、教えてくれ……」


 声の震えはそのままに、崟吾が俺に質問を寄越した。


「親父は、助かるのか……?」


 意外にもそれは、俺に関する質問ではなく、欣司についてのものだった。

 若干の驚きを覚えつつも、俺は、正直に答えた。


「助かるだろうな。最終的にはよ」


 何せ、あの赤い影は俺とお袋を狙った。すでに仕返し対象なんだわ。

 だから欣司は目を覚ます。奪われた魂も戻るし、俺達もこの家と縁を切れる。


「そう、か。わかった……」


 そう零した崟吾の顔には、確かな安堵がにじんでいた。

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