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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十五章 金鐘崎、新年早々、死屍累々

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第389話 元旦/午後/金鐘崎本家、年始の挨拶、終了

 大鎌を構えた、血の色をした人型の影。

 空中に浮遊していながらそれは立体ではなく、のっぺりとした平面の存在。


「マガツラ!」

『クカカカカカカッ! ンだよ、いるじゃねぇか、敵さんがよォ!』


 大鎌を構え、こっちに迫ってくる赤い影を、俺はマガツラで迎撃する。


『ゥオラァッ!』


 マガツラの鋼の拳が、赤い影を直撃する。

 が、影は当たったはずの剛拳をそのまますり抜けて、俺に直進してくる。


「あァン!?」

『へぇ、こりゃあ何とも。気体か、それとも霊体か、それとも別の能力か!』

「感心してんじゃねぇ、このデカブツが!」


 俺は自分の異面体に怒りまぎれの罵倒をぶつけ、ガルさんを構える。


「ガルさん、何かわかるか?」

『せめて一当てせねば、何とも言えんな』

「だよねぇ~!」


 赤い影がいよいよ間合いを詰めてくる。

 俺は、その大鎌を魔力を這わせたガルさんの刃で受け止めようとするが、


「横からドーン!」


 自身の異面体である『神威雷童(カムイライドウ)』を纏ったタマキが、赤い影を殴った。

 マガツラが殴れなかった影を、殴った!?


「おとしゃん、危なかったなー」

「ああ、助かったぜ、タマキ。それより、よく今のヤツ、殴れたな」

「オレは強ェからな~!」


 フフンと胸を張るタマキ。もちろん、それは知ってはいるけれど。


「今のヤツ、どうやって殴った?」

「わかんねぇ!」


 フフンと胸を張るタマキ。もちろん、そう答えることも知ってはいるけれど!


「って、そうか……、タマキの『真打(しんうち)』か」


 タマキが使う攻撃は『真打』と呼ばれる最強打撃技だ。

 威力もさることながら、物理無効のはずの相手を殴り倒せるんだよな、この技。


「そうか、何でも殴れるなら相手がどういうタイプでもお構いなしか……」

「おとしゃん、あいつ、また来るぜ!」


 タマキに殴られて空中に散った赤い影が、一か所に集まって再び人型を作る。

 それだけ見れば気体にも見えるが、判断するには情報が足りなさすぎる。


「マガツラ、《《アレ》》やるぞ!」

『ヘェ、いいのかい、本体? 制御に不安があるんじゃなかったのかい?』


「言ってる場合か、敵が目の前にいんだよ!」

『クカカカカカカカカカ! あいよォ! わかってますって!』


 赤い影が再びこっちを狙ってくる。

 しかし、その進路上に立ちはだかるマガツラが、グッと右拳を構えて力を溜める。


「――『焦熱撃破(オーバーブレイク)』」


 呟くと同時、マガツラの右拳が真っ白な炎に包まれる。


「え、おとしゃん、それ……!?」


 タマキが驚くのも無理はない。見た目は完全に『亡却業火(オーバーブレイズ)』だからな。

 ただ、これはさすがに『亡却業火』とは違う。アレは異能態の能力だ。


『オォォォオオオオオッ!』


 赤い影めがけ、マガツラが白く燃える拳を振り抜く。

 残念ながら、拳は直撃せずに影の端っこをかすめるのみに終わる。しかし、


「おッ!」


 タマキが声をあげた。

 赤い影の脇腹辺り、マガツラの拳が当たった部分が軽く抉れたのだ。


「効くには効く、か……」

「何、おとしゃん、今の何だよ! 今まで見たことねーぞ、あんなの!」


 タマキがはしゃぎながら尋ねてくる。あとで勝負申し込まれそうでイヤだな……。


「『焦熱撃破』。マガツラが自律したのと同時に使えるようになった新技だよ。触れたものの強度に関係なく打ち砕く、一撃必壊の技だ」

「すげー! おとしゃんすげー!」

「ただ、まだまだ使いこなせてねぇんだわ、これ……」


 苦笑する俺の全身を、ドッと溢れた汗が濡らす。

 力を溜めなきゃ使えない上、一発使い切り、使用後は激しい消耗と来たもんだ。


「タマキと共闘なら何とかできるか?」


 相手の能力を『理解』できていない以上、まだ『絶対超越(オーバードライブ)』は使えない。

 どう見ても、相手は直接戦闘ではなく能力に頼るタイプ。

 こういう搦め手を使いそうなタイプは、タマキにとっては相性が悪い相手だ。


「ヘヘヘ、おとしゃんと一緒か。なら、絶対負けねぇな!」

「油断大敵、っておまえに言うことでもないけどな」


 タマキとマガツラが並んで構える。

 赤い影はユラユラと空中を漂いながら、そののっぺりとした頭部をこっちに向け、


「……何!?」


 いきなり、その場からスゥと消え去った。

 そして、次に現れたのは俺達の死角。などではなく、お袋のすぐ背後であった。


「あ、おとしゃんのおかしゃんに狙いを切り替えやがった!」

「チィッ!」


 俺は激しく舌打ちをする。お袋は、欣司との会話に集中しているようだった。


「お袋、そっちに行ったぞッ!」


 腹の底から声を張り上げると、さすがにお袋も気づいて振り向く。


「――異面体!?」


 お袋が驚きの声を発し、その手に拳銃を取り出そうとする。

 だが、影が速い。俺から見ても相当な速度で、お袋めがけて鎌を振るおうとする。


「美沙子さん!」


 シンラもお袋に迫る影に気づいてはいる。だが、位置が悪い。

 お袋とシンラの間に那岐和八雲がいて、そいつが壁になっていやがる。


 間に合わない!

 そう思った瞬間、お袋へと手を伸ばしたのは――、


「おぉらァッ!」


 座布団の上でふんぞり返っていた、金鐘崎欣司だった。

 その手がお袋を突き飛ばし、自身は赤い影が振るう大鎌の軌道上に残ってしまう。


「な、お父さ……」


 お袋の声が聞こえて、俺達が見ている前で赤い大鎌が欣司の身をザクリと薙いだ。

 悲鳴などはなく、欣司の体が後方に弾かれる。


 血は飛んでいない。肉体には、傷がついていないようだ。

 だがそんなこと、今の俺にはどうでもいい。欣司のことなど、どうでもいい。


「お袋を狙いやがったな、おまえェェェェェェ――――ッ!」

『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――!』


 俺の憤怒に呼応して、マガツラが雄叫びをあげる。

 そして再度、白い炎に包まれた鋼の拳が、今度こそ赤い影のド真ん中を捉えた。


『――――ッ! ――――ッッ』


 声にならない声を大広間に響かせ、胸の真ん中に大穴を空けた赤い影が消滅する。


「ぎひッ!?」


 同時に、汚い声をあげて気絶したのは、金鐘崎崟吾。

 異面体を破壊されたら本体も意識を失う。つまりはこいつが、あの影の本体。か。


「…………」

「どうかしたのか、おとしゃん?」

「いや、何でもない」


 思うところはあるが、ひとまずは置いておこう。崟吾が逃げるのは不可能だしな。

 それよりも、だ――、


「欣司、ちょっと! 欣司! お父さん! ねぇ、ちょっと!」


 お袋が、自分を守って倒れた欣司を起こそうと体を揺すっている。

 しかし欣司は一向に目を覚ます様子がない。俺も近寄って、状態を確かめてみる。


「お袋、見ていいか?」

「アキラ……」


 お袋は、俺が驚くくらいに弱々しい表情していた。

 やはり自分の父親が相手だからか。守られたこと自体が、意外そうだったけど。


「ガルさん」

『うむ』


 俺は、ガルさんと共に欣司の体を詳しく観察する。

 呼吸をしていない。心臓も動いてない。だが死んでいない。仮死状態ってヤツか。


『これは――』

「何かわかるか、ガルさん?」

『魂の七割近くを持っていかれている。……『魂喰い(ソウルイーター)』だ』


 ガルさんが言った『魂喰い』は、その名の通り生物の魂を奪う特性のことだ。

 モンスターや魔法にもこの特性を持つものはあるが、数はそう多くはない。


 魂が完全に抜けきれば、その肉体はただの死体だ。

 時間が経てば腐っていくだけ。

 しかし、三割も魂が残っているのなら、まだ死んだとは言えない。


 マガツラの『絶対超越』なら、能力の中身が『理解』できれば戻せるはずだ。

 が、まだ俺の『理解』はそこに至っていない。

 魂を喰らう能力の全容を知ることができなければ『絶対超越』は使えない。


「なぁ、ガルさん、欣司の魂を戻すことはできるか?」

『無理だな。これが魔法であるのならばどうとでもなるのだが――』


「異面体の能力となると、さすがにガルさんでも専門外か」

『すまんな、我が主よ』

「いいさ。ひとまず本体の方は確保できてる。あとでじっくり問いただすさ」


 俺は失神したままの崟吾の方に目をやり、軽く嘆息する。


「何なんだ、これは一体、何が起きているんだ!?」


 一人、状況についていけていない那岐和八雲が騒いでいる。

 それに応える者は誰一人としていない。


 シンラはお袋に寄り添っているし、タマキは崟吾を見張っている。

 カリンとジンギは、床に転がっている親戚共を蘇生させている真っ最中だ。


「お袋……」

「大丈夫だよ、アキラ。ありがとうね」


 倒れたままの欣司の傍らに膝をついているお袋が、俺の頭を撫でてくれた。

 笑っているその顔は、だが、明らかに強がっているのがモロわかりだ。


「親戚一同を蘇生させたら、一度『異階化』を解きましょう、美沙子さん」


 シンラが区切りを入れることを提案する。

 それには俺も同意だ。親戚への仕返しも終わったし、一区切り入れるべきだ。


「そうですね。そうしましょうか」


 お袋が、シンラにうなずく。

 それからお袋が発した呟きが、俺の耳にしっかりと聞こえた。


「……アンタは、アタシに何を言おうとしたんだい、欣司」


 こりゃあ、今日中には帰れないかもしれねぇな。

 俺は何となく、そう思った。

 こうして金鐘崎本家の年始の挨拶は、混沌とした中で終わりを告げた。


 ただ、この一件、果たして崟吾をシメて終わるのかどうか。

 ちょっとイヤな予感が止まらない俺だった。

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