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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第366話 最後はみんなでごめんなさい

 タマキとの命がけの一戦の結果、何か狼男になってしまったケント君。

 ちなみに、耳と尻尾が生えて、毛むくじゃらになった程度の変化なんですけどね。


「あ~、なるほどな~……」


 ケントに何が起きたのか、俺は何となくわかった。


「これアレだろ。おまえと一緒だろ、マガツラ」

『クカカカ、同じだな、同じ。わかってるじゃねぇか、本体!』


 わからいでか。


「何すか、団長? 俺がどうしてこうなったのか、わかるんすか?」

「簡単だよ。おまえの異面体だよ、それ」

「…………」


 俺が答えると、ケント君、固まりまして――、


「『戟天狼(ゲキテンロウ)』!?」

「そうだぜ。名前通りになったじゃん。カッコいいぜ?」


 跳び上がらんばかりに驚くケントに、俺は軽く笑って答える。


「お袋なんかの例もあるが、異面体(スキュラ)ってのは心の力の顕れだ。そして心は常に一定じゃない。心境の変化、精神の成長、形を変えるきっかけはいくらでもある」

「それじゃあ、俺は……?」

「タマキとの一戦を通して成長したってことじゃねぇか、おまえの精神が」


 無論、これは推論に過ぎない。しかし、そこまで的外れでもないとは思う。


「成長……」


 ケントが、まだ信じ切れていない様子で自分の体を見下ろしている。

 だがそこにいるのは、青灰色の体毛に包まれた、鋭い爪と牙を持った狼の獣人。


 俺から見た印象は、さながら風が形をとった姿。

 獣の獰猛さよりも鋭さが遥かに優る、実にケントらしい姿のように思える。


「ケンきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――――んッッ!」

「ぼはァッ!?」


 まだ戸惑いから立ち直り切っていないケントに、タマキが突撃してきた。

 そのままタマキはケントに抱きつき、デケェ声で喝采を上げる。


「スゲェ! スゲェよ、ケンきゅん! オレの全部を受け止めてくれた、ちゃんと受け止めてくれた! さすがだぜ、やっぱケンきゅんが一番すごいんだァ~!」

「あ、あば、あばば……」


「しかも異面体が成長したって何だよ!? そんなことまでやっちゃうのかよ! スゲェな、ケンきゅん、やっぱスゲェェェェェェェェェェェ――――ッ!」

「…………」


 地面に倒れ込んだケントに覆いかぶさって、タマキがその胸元に顔をスリスリ。

 気づけ。気づけ長女。ケント君、完全に白目むいてますよ。


「……あれ、ケンきゅ~ん?」


 やっと返事のないケントに疑問を持ったタマキが、自分の彼氏を見る。

 白目むいてるどころじゃなかった。ケントは、ビクンビクンと痙攣し始めている。


「あれ、何で!? ケンきゅん? ケンきゅ~ん!?」

「そらおまえ、異面体が成長したっつったって、体の方はボロボロだろうよ」


 むしろ、何でおまえはそんなに元気なんだよって思うわ、俺は。


「え、オレはちょっと休んで魔力も回復したから、全回復しただけだぜー」

「おまえの自然治癒力どうなってんだよ……。普通、そんな早く魔力は回復せんわ」


 タマキ同様に全身ボロボロのケントを見ればよくわかるってモンだわ。


「え、え? ど、どうしよ、おとしゃん! ケンきゅん、動かなくなっちゃった!」

「完全無欠なる自業自得やんけ……」


 俺がそう呆れていると、NULLに乗ったマガツラがやってくる。


『クカカカカカ! こいつを飲ませな、タマキさんよォ!』


 ちっちゃいマガツラがその手に持っているのは、例の紙コップ。


「おまえ、マジかよ……」


 ここでそれを持ってくる我が異面体の鬼畜っぷりに、俺は戦慄するしかない。


「あ、そっか! それ『飲む全快全癒』だモンな!」


 しかし、タマキは『ナイスアイディア』と言わんばかりの反応を見せる。

 あかんわ。完全に動転してて紙コップの中身の威力に目が行ってない。


「……ま、いいか」


 俺は諦めた。飲めば元気になる。それは間違いないのだから。


「待ってろ、ケンきゅん。今、元気にしてやるからな~!」


 そしてタマキは、ケントの口を開けさせて、そこに紙コップの中身を注ぎ込んだ。

 うわ、うわ、うわぁ……。おまえ、そんな一気に……。


「ぐ――ッ」


 と、ケントの瞳がクワッと見開かれて、


「グゲエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェ――――ッ!?」


 もはや聞き慣れてしまった悲鳴が、大魔王城二階に響き渡ったのだった。

 ケント、哀れなり。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ようやく諸々落ち着きまして。

 ほとんどの面子が立っている中、膝をついているのはタマキだけだ。

 その周りには、からの紙コップが五つ。


「……ごめんなさい」


 お仕置きとばかりに『飲む全快全癒』五杯を飲まされ、タマキも心が折れた。


「さすがにアレを許可なしに人の飲ませるのはいかんよ?」

「はい……」


 カリンに説教を受けるタマキが、不気味なほどにしおらしい。

 さすがに最強の長女といえど、五杯は厳しかったか。心が萎え切っている。


「ううう、タマちゃんもお仕置きされたし、その辺で……」

「ケント殿は甘いのう。まぁ、おんしがそう言うならこれ以上は言わんけど」


 復活したケントに言われ、カリンも引き下がる。

 あ、ケントの姿は元に戻っている。異面体を使えばまた獣化するんだろうけど。


「ケンきゅ~ん……」

「いいっていいって、それよりも大丈夫かー、タマちゃん」


 ケントが、泣きついてくるタマキの頭を撫でている。

 本当に、タマキにはバカ甘な彼氏である。まぁ、当然のことではあろうが。


「これで、シカエシイチ武道会は全予定が終了しましたね」


 パン、と、手を打ち鳴らし、皆の注目を集めてからリリス義母さんが言う。


「うむ。ご協力いただいたリリスばば様には心より感謝じゃ。まことありがたい」

「いえいえ、いいんですよ、カリンちゃん。私も楽しませていただきました」


 互いにペコペコ頭を下げあっているカリンと義母さん。

 義母さんに司会進行を任せたのはまさに正解だった。お袋が参加者側だしなぁ。


「それでは、キリオの兄御よ」

「うむ」


 ケントとタマキの激闘でバッキバキになってる舞台の上にキリオとマリエが立つ。

 その下に立つ、大魔王配下という設定のマリク、ラララ、タイジュ達。


 そして、向かい合うように整列する、今回のイベント参加者六名。

 お袋、タマキ、シンラ、スダレ、シイナ、タクマ。

 六人はしっかりと背筋を伸ばして、キリオに向かって深々と頭を下げる。


「「「ごめんなさい!」」」


 広い空間にしっかりと響く六人の謝罪の声。

 それを聞き届け、大魔王キリオは笑ってうなずく。


「仕方ないから、許してやるであります!」


 その言葉をもって、長らく続いたカリン主催の仕返しイベントは終了した。

 これで、やっと『キリオ』の一件にも本当の意味でカタがついたワケだ。


「あ~、キツかったぜ~!」

「自爆で四杯も飲まされればそうもなりますよね……」


 と、タクマとシイナ。


「美沙子さん、お疲れさまでした。何とか、終わりましたね」

「シンラさんこそ、本当にお疲れ様です」


 と、シンラとお袋。


「この『飲む全快全癒』、もうちょっと調整できないかな?」

「味の面で、ですか? 少し検討してみましょうか」


 と、物騒なことをのたまっているマリクとヒメノ。

 各々、今回のイベントについて感想を言い合ったりしていて、辺りは賑やかだ。


「ととさまよ」


 そんな中、ちょっとした感慨にふけっていた俺に、カリンが声をかけてくる。


「お、どうしたよ、カリン」

「ちょっと確認したんじゃけど」


「おう」

「ととさまのこっちでの名前、金鐘崎アキラっていうのかえ?」


 ん? 何だ、その質問は……?


「ああ、そうだけど? お袋は金鐘崎美沙子な」

「そうかえ。なるほどのう……」


「何だよ、それがどうかしたのか……?」

「いやいや、どってことはないわい。本日はお疲れ様じゃ~!」


 それだけ言って、カリンは足早に去っていった。


「何だってんだ……?」


 カリンの質問の意味を俺が知るのは、ほんの二日後のことだった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――12月23日。ウチのアパート。


 時刻は午後四時。そろそろ辺りは暗くなり始めている。

 俺は今でゴロゴロしつつ、お袋は穴が開いた服を糸と針で繕っている。


「明日イヴですってよ~、お袋様」

「そうだねぇ。ついでにミフユちゃんのお誕生日なんだろ?」


 そ~なんだよね~。ミフユの誕生日、よりによってイヴなんだよね~。


「プレゼントは用意してあるんだろうね? 日頃あんだけ世話になってんだし」

「……ウフフフフ」

「用意できてないんだね」


 さすがはお袋様、お察しになられましたか。


「元々はリリス義母さんを探し出して会わせるつもりだったんです……」

「ああ、そりゃあ何よりのプレゼントになるねぇ」


「だろぉ~?」

「でも、もう会っちゃってるモンねぇ……」

「ゴフッ」


 俺は血を吐くマネをする。


「どうするんだい? 今から、何か準備できるのかい?」

「どぉ~しよぉ~ッ!」


 リリス義母さんを探そうと俺が皆に持ち掛けたのが先週のこと。

 そこから今日まで『Em』への仕返しだの『キリオ』の一件だのがありました。


 濃すぎる~!

 あまりに濃すぎる一週間~!


 正直、プレゼントのことは常に頭の片隅に置きつつ、それどころじゃなかった。

 やっと身動き取れるようになったら、もう前日っすわ。


「結局、今年のクリスマス会はなしになっちまったからな~」

「ま、そうもなるだろうさ。この一週間、色々ありすぎたからねぇ」


 本来は、皆で集まってクリスマスパーティーとミフユのお誕生会の予定だった。

 しかしこの一週間、諸々ありすぎてそれも中止になってしまった。


「準備する時間がないってのが一番デケェ理由だけどさ~」

「それに、みんな自分の時間だってほしいさ。しょうがないだろ?」


「そうは言うけどお袋さん、絶対シンラと出かけんだろ? ん? ん?」

「ハハンッ、当たり前じゃないかい。ウチの子供達はしっかりしてるからね!」


 そこで、そういう信頼の言葉はズルいと思いますわよ、母上様!


「ヒナタちゃんは藤咲のおじい様のところに行くらしいからね」

「あ~、そっちには挨拶行ったん?」

「まだだよ。年が明けてから、時期を見て、だね」


 藤咲家。

 ヒナタの実の母親である女の実家。


 その女はすでにこの世にはいないが、シンラとヒナタにはよくしてくれている。

 それにしても実家、実家ですかぁ……。


「ウチの実家って星葛市にあるんだっけか、確か」

「ああ、そうだねぇ。アタシは勘当されちまってるから、実家じゃないけどね」


 お袋は軽く笑ってまた針仕事に戻る。

 親父の方は両親がもう鬼籍に入っているので、祖父母がいるのは金鐘崎家だけだ。


「何だい、気になるのかい?」

「まさか」


 俺は軽く肩を竦める。

 事情が事情とはいえお袋を勘当するような連中、俺にはどうでもいい。


「それよりもミフユへのプレゼント、どうしよっかなぁ~!」


 そして俺は思考をそっちに戻す。時間が、時間がなさすぎる……!


「よ~く考えるんだよ。アンタの甲斐性をミフユちゃんに見せてやりな」

「うるせぇな~! わかってるよ~! 今、考えてるところですぅ~~~~!」


 と、俺が言い返したところで、外から、ピンポ~ン!


「おや、お客さん?」

「配達かねぇ」


 お袋が対応に出ようと立ち上がる。すると、ドンドンというノックの音。


「ちょっと、美沙子さん、いる? いるんでしょ? 開けてよ!」


 聞こえたのは、なんとも騒がしいお袋を呼ぶ声だった。


「あれまぁ……」


 お袋がちょっとビックリしている。この反応、知り合いかな?

 何というか、随分と礼儀知らずというか……。


「はいはい、今開けますから待っててくださいね~」


 そう返して、お袋が玄関に出て鍵を開ける。

 するとドアが勢いよく開かれ、髪の長いお袋よりやや上くらいの女が入ってくる。

 きつい印象の顔立ちに、随分と派手な化粧をしている。


「何で鍵なんてかけてるのよ、相変わらず鈍臭いわね、あんた!」

「はいはい、すいません。小夜子(さよこ)さん」


 小夜子と呼ばれたその女は、挨拶の向きにいきなりお袋を罵倒してくる。

 何だ、こいつ……。


「随分とお久しぶりですね、小夜子さん。今さらアタシに何かご用ですか?」

「何よ、わざわざ勘当されたあんたを見に来てやったいとこに、随分と御挨拶ね」


 いとこ。この女、お袋のいとこか。

 それに『勘当』というワード。こいつ、金鐘崎家の人間か。


「別に、見に来てほしいなんて頼んだ覚えはありませんよ、アタシ」

「はぁ? あんた、少し見ない間に随分と生意気になったわね。美沙子の分際で」


 ……あ? 美沙子の分際、だ?


「やめときなよ、アキラ」


 俺の気配の変化を察したらしく、お袋に先に制されてしまった。ええい、鋭い。


「何、奥のガキ、あんたの息子? へぇ、ちゃんと子育てできるんだ、あんたって」

「ええ、おかげさまで。これも家を出られたからかもしれませんね」


 居丈高に振る舞ってくる小夜子に、お袋はやんわりと反撃に転じる。

 その物言いが気に喰わなかったらしく、小夜子にその表情を不機嫌そうに歪める。


「あんた、美沙子のクセに……」

「うるさいねぇ。こちとらヒマじゃないんだよ。用件があるならさっさと言いな」


「な、あんた! 美沙子のクセに――」

「アタシが美沙子なら、何だっていうんだい?」

「ぅ……ッ」


 小夜子は凄むが、猫を被るのをやめたお袋が軽くガンを飛ばす。

 それだけで、小夜子は怯んでビクッと身を震わせた。所詮、役者が違いますわ。


「……年始の挨拶、あんたも本家に来なさい」


 そして、声を小さくして小夜子が言った本題が、それ。


「本家に? 何でまた……?」

「知らないわよ。私はあんたに伝えろって言われただけよ!」


 小夜子が声を張り上げるが、そんな抵抗は無駄である。格付けは終わっている。


「そんなことはどうでもいいわ。それよりあんた、どうせ明日あさってヒマでしょ。ウチの子供達預かってよ。ちゃんとお礼はしてやるから。ありがたく思いなさいよ」

「はぁ? ちょっと小夜子さん、アンタ、何を……」


 そんなアホなことを言い出して、小夜子はお袋を無視して外の子供達を呼ぶ。


「ほら、ちゃんと挨拶するのよ、あんた達!」

「「は~い」」


 そしてそこに聞こえた声は――、え、マジで?

 小夜子の後ろから出てきたのは俺よりは年上の二人の子供。片方は小学五年生。


 前髪ぱっつんのおかっぱ髪で、少しきつめの可愛らしい顔立ちの少女。

 着ている服は、ちょっとお高そうな黒いワンピース。

 俺とお袋を前にして、その少女はペコリと頭を下げて挨拶する。


「初めまして、金鐘崎花凛(こがねざき かりん)です」


 いや、初めましてじゃねーよ。おまえ、カリンじゃねぇかッ!?


「あらあらあらあら……」


 これには、お袋も目を点にしている。

 だが、驚くべき事実はそれだけに留まらなかった。


 次にもう一人の方も挨拶をする。

 こっちは少年で、年齢はカリンと同じほど。やはり俺より年上。


 男にしては髪が長く、前髪で右目が隠れている。

 背が丸まっていて、目の下にクマ。瞳もどこか虚ろで、口もかすかに空いている。


 陰気。どこまでも陰気。

 根暗とか陰キャという言葉をそのまま具現化すれば、こんなかもしれない。


 そんな、頭にキノコでも生えてそうなジメジメしたイメージの少年。

 実は俺は、こいつのことも知っていた。

 驚愕に固まる俺の前で、その少年はボソボソとくぐもった声で名乗る。


「……金鐘崎神祇(こがねざき じんぎ)。よろしく」


 おまえ、ジンギじゃねぇかァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 366話まで一気に読んで、やられるのは辛いけどやり返しすぎるから溜飲も下がるし読んでて面白い [気になる点] 大魔王城はあまりにギャグ要素強すぎて無理だった 話分からなくなるかもと思ったけ…
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