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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第364話 俺をナメるなよ、タマキ・バーンズ

 ほどよく盛り上がっていはずの場の空気が、ケントの言葉によって一気に冷めた。


 ――『莫迦駆(ばかがけ)』と『神討(しんうち)』。


 どちらも、タマキが武闘家として身に着けた最高の奥義。必殺技。

 異世界において、あいつはその二つで『大神格』の神を滅ぼすことに成功した。


 それは、滅びた神自身からの依頼だった。

 できることなら滅ぼしてほしい。それが無理なら殺してほしい、と。


 この依頼を成し遂げたことで、タマキは後世『史上最強の生物』と呼ばれた。

 その、人類が編み出した究極とも呼べる技を、自分に使ってほしい。

 ケントは確かに、そう言ったのだ。


「……な、何言ってんだよ、ケンきゅん?」


 タマキが、さすがに理解できない様子でケントに聞き返す。


「冗談、だよな?」

「そんなワケないだろ。今の俺の顔が、冗談言ってるように見えるか?」

「う……」


 それはケントの言う通り。

 俺が見ても、他の誰が見ても、ケントが冗談を言っているようには見えない。


 じゃあ、本気で?

 ケントは本気で自分に『莫迦駆』と『神討』を使えって言ってる、のか……?


「どうしてだよ、ケンきゅん。どうしていきなり、そんな……」

「この前――、覚えてるか、タマちゃん。あのシルク・ベリアとの戦いだ」


 シルク・ベリア。

 確か『Em』の一部門である『騎士団』に所属していた女だ。

 何の因果か、今はタマキの弟子になったとのことだが――、


「あのとき、あの戦いのあとで君が俺に言ったこと、覚えてるか?」

「え……」


 問われても、タマキには心当たりがないようだった。

 少し間を空けて、ケントが答えを告げる。


「君は俺に『この技だけは俺に使えない』。そう言ったんだよ」

「あ、そうだ……」


 聞いて、タマキも思い出したようだった。

 そして直後に、ケントのまなざしに一層の険しさが宿る。


「そんなことは、認めない」

「認め、ない……?」

「俺は君の全てを受け止める。それが、君にとっての禁忌だとしてもだ」


 そして言い放たれたその言葉には、強く固い決意が確かに込められていた。


「タマちゃん。俺は君の、何だ?」

「え、ケンきゅんは、俺の、その、か、彼氏……」

「ぅん、まぁ、そうだね……」


 おい、タマキ。急に顔を赤くしてモジモジすんな。ケントもそれに呑まれるな。

 場の空気を剣呑なモノにしておいて、そのリアクションは混乱するだろ。


 そんな俺達の視線を感じとったか、ケントは咳ばらいを一つする。

 そして改めて、まっすぐにタマキを見据えた。


「そうだ、俺はタマちゃんの彼氏で、そして、タマちゃんの守護者だ」

「うん……」


「俺は、タマちゃんを守る。どんな脅威からも。タマちゃん自身からも」

「オレ自身から、って、何だよ……?」

「わかりやすく言ってやろうか」


 ケントの表情が変わる。

 それは、明らかな怒りの顔。八重歯を剥き出しにした、噛みつかんばかりの表情。


「俺をナメるなよ、タマキ・バーンズ」

「ケ、ケンきゅん!?」


「君の中には俺への『侮り』がある。自分の技で俺が滅ぶんじゃないかという心配、不安。だから俺にその技を使いたくないという忌避感。使わないと結論付けた余計な判断。いらないよ、いらない。そんなものはいらない。無駄な心配だ。不要な不安だ。無意味な忌避感だ。取るに足らない判断だ。――俺を、ナメるなよ?」

「だ、だって、そんな、そんなの……ッ」


 ケントに睨みつけられて、タマキは狼狽を露わにする。

 それを見せられている俺達も、気持ちはタマキと同様で、展開についていけない。


「ケント、おまえ、そりゃ……」


 こいつの言わんとしていることはわかった。

 タマキの抱いている不安を無駄と断じ、解消しようとしている。それはわかった。


 しかし、その不安を根本から除くための方法は、それこそ一つに限られる。

 それをタマキにしろと、ケントは詰め寄っている。


「今じゃなきゃ、いけねぇのかよ?」

「別に、今でなくてもいいとは思いますよ、団長」


「だったら――」

「けどね、今がちょうどいい機会なのは確かなんですよ。キリオにゃ悪ィですけど」


 タマキに視線を固定したまま、ケントは俺にそう答える。


「それに団長。あんたなら、俺の気持ち、わかってくれるんじゃないですか?」

「…………」


 当て推量かもしれないケントのその言葉は、実際、当たっていた。

 俺には、ケントの気持ちが多分だが理解できている。ナメるなと言った理由も。


「意地だけじゃねぇよな。意地もあるけど、ほとんどは誇りだよな」

「そういうことです。俺には誇りがある。タマちゃんの守護者としての誇りが」


 わかるぜ。わかるよ、ケント。

 俺だって同じだ。俺だって、ミフユを守る自分に誇りを持っている。同じだよ。

 だが――、


「……だがおまえ、わかってるよな。おまえがしようとしてることは、下手すれば」

「滅ぶ、でしょうね。俺の魂は。最悪の事態に陥れば、蘇生不可の死だ」


 そんな恐ろしい事実を口にする割に、ケントの顔に恐怖は一切浮かばない。


「でもね、団長。俺は、俺の存在がタマちゃんに我慢を強いてるってのが許せねぇ。その我慢は本来、する必要のない我慢だ。いらないモノなんですよ」

「我慢……?」

「そうなんだろ、タマちゃん」


 ケントが、話の向きを俺からタマキへと戻す。


「武闘家の君が、自分の最高の技を俺に試したと思わないワケがない。ずっと、我慢してたんだろ。あの夏から、今日までずっと、ずっと……」

「…………」


 タマキは返答しない。どころか、あろうことか、ケントから目を逸らした。

 いつだって何事も真正面から受けて立つあのタマキが、答えることから逃げた。


 その事実は、俺や周りの家族達に、少なからず衝撃を与える。

 そしてケントは、さらにタマキへの追及を強める。


「君は試したかったはずだぜ。でも、我慢し続けたんだ。自分の技が俺を蘇生不能の死に追いやるかもしれない。その不安と心配が、君に我慢を強いた。けどその我慢は、逆に君の中にある興味を大きく育てていったはずだ。だから――」


 ヒナタとカリンが戻ってきたのは、このタイミングだった。


「だからタマちゃんは、ずっと前から俺を殺したかったんだろ!」

「「……え?」」


 声に気づいて見やると、何か随分と着込んでいる二人がいたので、俺は駆け寄る。


「おう、おけーり」

「ただいまー、お父さん。……その、何? 何かあったの?」

「何じゃ何じゃ、シカエシイチ武道会はそろそろ終わるんじゃなかったんかえ?」


 ヒナタもカリンも目が真ん丸ですわ。

 さてさて、この状況、どう説明したモンかね……。


「ケンきゅんは勝手だ!」


 俺が悩んでいたところに、急にタマキが叫び出した。


「さっきから聞いてたら、何だよ。勝手なことばっかり言ってさ!」

「そうだな、勝手なことを言ってる自覚はあるよ」

「そうやって大人ぶって、オレをわかってる風なことばっか言って、何なんだよ!」


 タマキにしては非常に珍しい、ケントに対する怒声である。

 俺も、ヒナタもカリンも、その滅多に見られない光景にポカンとしてしまう。


「オレが、本当はケンきゅんに『神討』を使いたがってて、それを我慢してる? 何だそれ。そんなワケないだろ! あの技は、本当の本当の奥の手なんだぞ! それを大切な人に使いたくないと思ったら悪いのかよ! そんなの、普通のことだろ!」

「…………」


 タマキが怒鳴る。ケントは黙ったままだ。


「『神討』は本当に、本当に危ない技なんだぞ! 成功率は高くないけど、成功したら本当に神様だって生き返れなくなるんだからなッ! すっごい危ないんだぞ!」

「…………」


 タマキが怒鳴る。ケントは黙ったままだ。


「それを、ケンきゅんに使おうだなんて、オレは思ったことはねぇよ! 試したいなんて思ったこと、あるワケないだろ! 勝手にオレの気持ちを決めんなよな!」

「…………」


 タマキが怒鳴る。ケントは黙ったままだ。


「ああ、もう! さすがにこれはオレ、怒ったかんな! そんな、ケンきゅんに一番危ない技の『莫迦駆』と『神討』を使えなんてさ、そんなの、そんなのな……!」

「……タマちゃん」


 それまで黙っていたケントが、タマキに向かって指摘する。


「笑ってるぜ、顔が」

「え――」


 タマキが、わめくのをやめて指先で自分の顔に触れる。

 皆が目撃していた。ケントの言う通り、タマキは笑っていた。


 言葉では全否定しながらも、その顔はゆるゆるで、嬉しそうに笑っていた。

 ケントへの声も、どう聞いても弾んでいた。はしゃいでるときのタマキの声だ。


「タマちゃん、もう、我慢しなくていいぞ」

「……ケンきゅん」


「やろうぜ、タマちゃん。俺と君との最後の勝負だ」

「で、でもよ……ッ」


 もはや言い逃れしようのない指摘を受けながらも、タマキはなお逡巡を見せる。

 それも仕方はなかろうが。あの『神討』は、実際に神を滅ぼした拳だ。


 相手がそれを使うことを許そうとも、タマキには迷いは残るに違いない。

 けど、その迷いを容易く断ち切ってしまうのが、ケントなのだ。


「なぁ、タマちゃんさ――」

「な、何だよ……?」


「君の『神討』は神を滅ぼしたんだろ? それはスゲェよ、さすがだと思うよ」

「うん、あんがと……」


 礼を言いつつも、タマキはそんなに嬉しそうではない。

 褒められた喜びより、迷いの方が強いのだろう。ケントが続ける。


「だけどさ、君にとって俺は――、《《神様程度の存在なのか》》?」

「…………」


 どえれぇことを言い放ったケントに、タマキは一瞬キョトンとなって、


「そんなことないよ! ケンきゅんは神様なんかより、ずっとすごいんだ!」

「だろ? なら『神討』なんかで俺は滅びない。防ぐさ、これまでと同じように」

「うん、うん! そうだよな、ケンきゅんだったらそのくらい、できちゃうよな!」


 笑うケントに、タマキは拳を握って満面の笑みでブンブカうなずく。


「えぇ、何であれで納得できるんじゃ……?」

「あっさり言いくるめられちゃったねー」


 カリンは思いっきり眉間にしわを寄せ、ヒナタは露骨な呆れ顔を見せている。

 タマキは純粋というか根っこがバカなので、これは必然の帰結か。


「やろうぜ、タマちゃん。君の全部を、俺が受け止めてやる。軽々とな」

「うん、やろうぜ、ケンきゅん! オレの全部をくらわしてやる!」


 シカエシイチ武道会最終戦――、タマキvsケント。

 その対決種目は、一撃必滅だ。


 ……意味わかんないや。

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