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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第362.5話 ヒナタ専用特別八大地獄コース/大焦熱地獄

 気がつくと、雪が降る宙色の街の中。


「……あれ?」


 ヒナタは、自分がモコモコの格好をしていることに気づく。

 コートに手袋、ブーツに耳当て。首に巻かれた厚手のマフラーがとても温かい。


「ヒナタ」

「カリンお姉ちゃん?」


 声がした方へ振り向くと、黒い和服の上に分厚いジャンパーを着たカリンがいた。


「ここはどこ?」

「八大地獄の七番目、モコモコ大焦熱地獄じゃよ」

「大焦熱?」


 言われて、ヒナタは周りを見る。

 人はいないが車はある街角。その全てが、雪に埋もれた銀世界。


「どこが大で焦げて熱いの?」

「モコモコじゃろ、おんし。あったかくないかえ?」


「すっごいあったかい」

「じゃあ、大焦熱じゃな」


「何てすごいこじつけだ~」

「ええんじゃ。言ったモン勝ちじゃよ、こういうのは」


 ニシシと笑って、カリンが手を差し出してくる。


「ちょっと歩かんか?」

「いいけどー」


 二人は手を握って、雪が数センチ積もる街中を歩き始める。

 誰もいない二人だけの夜の雪の街。


 いつもは途切れぬ喧噪に包まれたそこが、このときに限っては静寂に沈んでいる。

 もちろん、この雪の街だってニセモノ。カリンが創り出したイミテーションだ。


「本物の街みたい。すごいね!」

「『金色符』の力が大きいがのう。ここまで相性がいいとは思わんかったわ」


 声を弾ませるヒナタに、カリンも同調して笑う。

 彼女の異面体『婆娑羅堂(バサラドウ)』と『金色符』の親和性は凄まじいものだった。


「雪を歩く感触も、音も、冷たさも、全部が本物同然じゃ。大したもんじゃのう」

「何それ~、自画自賛っぽいよ~?」

「自画自賛じゃよ。だって、実際にそう思っておるからのう」


 そう言って、カリンがまた笑う。

 彼女が感じていることをヒナタもまた感じていた。

 雪を踏みしめる感触から足裏に伝わるかすかな冷たさまで、何もかもがリアルだ。


「本当だね、すごくそれっぽい。ここが本当の街だって言われても信じちゃいそう」

「そうじゃろ? ンフフフ……」


 その言葉は褒め言葉に等しかったらしく、カリンは嬉しそうだ。

 二人がしばらく歩いていると、彼女がポツリと漏らす。


「ワシはな、ヒナタ」

「うん」


「自分が感じる楽しさを、ワシ以外の誰かと一緒に分かち合うのが好きじゃ」

「そうなんだ」


 ヒナタとしても、初めて聞く話である。少し興味深い。

 聞く姿勢を見せる彼女に、カリンはゆっくりと笑いながら語っていく。


「ワシは、常に誰かと一緒にいた。幼い頃はととさまやかかさま、おんしらと」

「うん」


「独り立ちしてからは、ササラを誘って吟遊詩人として各地を回った」

「うん、そうだね」


「ワシが企画を好むのは、それで皆が楽しんでくれるからじゃ。ワシが見たいと思った景色を、多数の人間が一緒になって見て、楽しんでくれるからじゃ」

「お姉ちゃんは、一人はイヤなんだね」

「そうなんじゃろうなぁ……」


 雪が降る曇天を見上げ、カリンは白い息を吐く。


「一人で生きられるとは思う。じゃけど、それを楽しいとは思わんのじゃろうな」

「隣に誰かいてほしいのかもね。……それがササラお姉ちゃんでも」


「ワシはあのクソガキのことは嫌いではないぞ。ま、誰が見てもクソガキじゃけど」

「どれだけ年とっても変わらずクソガキっていうのはすごいよね……」


「ときたまいるじゃろ、そういうヤツ。ほら、こっちでいうひろ●きとか」

「あー……、ササラお姉ちゃんとは別ベクトルだけど、何かわかる」

「じゃろ?」


 そして、二人して納得したことに笑いを漏らす。


「世間なんてそんなモンじゃよ。常識と多数派が尊ばれる一方で、非常識と少数派が持て囃される。単純なようで複雑で、入り組んでいるようで単純っていうね」

「小学五年生が何か悟ってるー」


「おんしみたいな四歳児よりははるかにマシじゃと思うよ、ワシ」

「五十歩うんたら~」

「だまらっしゃい」


 ニコニコしているヒナタに、カリンは唇をツンと尖らせた。


「なぁ、ヒナタ」

「なぁに~?」

「おんしは、シキトに会いたいか?」


 いきなり話題が変わって、ヒナタはちょっと驚きながらも、少し考えて、


「会いたいかどうかでいったら、会いたいに決まってるでしょ~?」

「じゃよね~、そうじゃよね~」

「何々? もしかして、カリンお姉ちゃんも会いたくなっちゃったのかな~?」


 唇に手を当てて、ヒナタはニヤケ面になってカリンを流し見る。


「一人で生きるのはつまらないんだモンねぇ~?」

「おんしホントに四歳児?」


 カリンが半ば呆れつつも「まぁ……」と曖昧に続けて、結局は首肯する。


「そうじゃのう、やっぱ、考えずにはおれんわな、良人(おっと)のことは」

「おやおやぁ、カリンお姉ちゃんが何となくセンチな感じだぞぉ?」


「チョップしたろか?」

「やぁん、やめてよ~!」


 空いてる方の手でカリンがチョップのマネをする。ヒナタはかぶりを振った。


「いいや許さん。チョップじゃ~!」

「わ~、鬼~、れいこくひどうのお姉ちゃんだ~!」

「うるさい、うるさい!」


 逃げ出すヒナタに向かって、カリンがその場の雪で玉を作って投げつける。

 ヒナタも負けじと雪玉を作って、いきなり雪合戦が始まった。


「くらえ~い!」

「そっちこそ、とりゃ~!」


 パスンパスンと全身雪まみれにしながら、二人は一緒になってはしゃいで笑う。

 雪合戦は十分ほど続いたが、やがて体力を使い切って、二人は雪の上に寝転んだ。


「わぁ~、疲れた~! つめた~い!」

「はぁ、はぁ、そ、そうじゃのう。ちょっとだけ、疲れたわい……」


「ちょっとだけ~?」

「おんしと一緒にするでないわ……」


 四歳児としてもヒナタのスタミナは相当なものだ。カリンでは全くかなわない。


「はぁ、はぁ……」

「雪は冷たいけど、体はあったかいね~」


「それだけモコモコなら、そうもなるじゃろ。はひぃ……」

「くらえ~、のしかかりだ~!」

「ちょ、ヒナタさん!? あんぎゃ~!」


 呼吸を整えているところにいきなり乗られ、カリンはなすすべなく潰される。

 二人はもつれあいながら雪の上をゴロゴロしていく。


「アハハ~、お姉ちゃんの声、面白かった~!」

「おんし、おんしってヤツァ……」


 最終的に、二人して雪の上に大の字だ。鉛色の曇天を、二人が一緒に見上げる。


「――グレイさん、だっけ。お姉ちゃんの旦那さん」

「そうじゃよ、元はワシとササラのマネージャーだった男じゃよ」


 ヒナタにいきなり言われるも、カリンは驚くでもなく空を見たまま返す。


「覚えてるよ~。最初からササラお姉ちゃんじゃなくて、カリンお姉ちゃん狙いだったんだよね、あの人。マニアックだな~って思ったよ、私」

「狙いって言い方もどうなんじゃろね……。あとマニアックは失礼じゃろ、ワシに」


「でも、グレイさんが来た頃って、ササラお姉ちゃんの全盛期だったでしょ?」

「そういえばそうだったかのー……」


「そのときからカリンお姉ちゃんの方が好きだったなら、マニアックでしょ」

「あ、あれ? そうか? 何かそうな気がしてきたぞ、あれ……?」


 雪の上から身を起こし、カリンは不思議そうに首をかしげる。

 その様子を見て、同じく身を起こしたヒナタがまた笑う。


「アハハ、変なの~!」

「うっさいわい! ほれ、そろそろ行くぞ!」

「は~い」


 二人が、また手を繋いで歩き出す。

 夜の雪の街に、二人のサクサクという雪を踏みしめる音だけが響く。


「何か、面白いね」

「どうした、ヒナタ。藪から棒に」


 カリンが隣を歩く妹を見る。ヒナタは、かすかに視線を上げて笑っている。


「バーンズ家って、異世界じゃ『最悪にして災厄なる一家』とか呼ばれてたでしょ」

「ああ、そうじゃのう。おんしとか『最終兵器』じゃしね」


「うるさいなぁ。ちょっと異面体が派手なだけだモン」

「そうかの~? ……で、その『最悪にして災厄なる一家』がどうしたんじゃ?」

「うん……」


 問い返されて、ヒナタは若干の沈黙。それからまた口を開く。


「そんな私達なのに、誰も、一人でいられなかった」

「……ああ、そうじゃのう」


 妹の言葉に、カリンもうなずく。


「タマキお姉ちゃんはずっと独身だったけど、でも、それもケントお兄ちゃんのことが好きだったから。心の中には最後まで、好きな人が一緒にいてくれた」

「タクマの兄御も同じようなモンじゃったんじゃろ。誰かは忘れたが離婚して、結局それ以降は一人じゃったけど、それも――」

「心の中に、シイナお姉ちゃんがいたから、なんだろうね」


 タクマとシイナが日本で結ばれて、ヒナタも本当によかったと思っている。

 きっとそれは、隣を歩くカリンも同じだろう。


「カリンお姉ちゃんにはグレイさんがいて、私にはシキくんがいて――」

「シンラの兄御には今は美沙子殿がいて、マリクの兄御にはディ・ティ様がいて」


「みんな、隣に誰かいるよね」

「ジンギにだって、ササラにだって、ヤジロにだって、あのギオにだって、いたな」


「大陸最高の怪人ギオ・ハイランドが実は愛妻家な事実を知ってる人って、どれくらいいるんだろうね。あの奥さん、すごく優しくていい人だったよね……」

「ああいう聖人みてーなタイプじゃないと、ギオのヤツの妻は務まらんじゃろ」


 二人共にうんうんとうなずきあって納得する。

 そして次に零したのは、カリンだ。


「まぁ、仕方があるまいよ。ワシらはバーンズ家じゃ」

「そうだねー」


「アキラ・バーンズとミフユ・バビロニャを見て育ったのだから、そうもなる」

「それも、そうだねー」


 ヒナタが苦笑する。


「お父さんは、こういうのを何て言うだろうね?」

「ととさまなら『自分は弱いから寄っかかれる相手が必要なんだ』とか言うじゃろ」


「ああ、言いそう~!」

「ワシも実際、同じことを思うよ。ワシらは弱者じゃ。隣人が必要なんじゃよ」

「……だね。私も同じだよ」


 最悪と呼ばれても、災厄と呼ばれても、自分達は弱い。弱く小さいただの人間だ。

 だから自分と共にいてくれる誰かを欲する。誰かを愛し、愛されたいと願う。


「誰かを愛さずにはいられない。ワシら(バーンズ家)はそういう生きモンじゃよ」

「ウチの家族、愛情重たすぎ問題~」

「その愛の重さに耐えられる相手しか選ばんから問題なしじゃ」


 そこからさらに歩くと、やがて、また道路の真ん中にポツンと立つ扉が見える。


「あれが、次の地獄の入り口かな~?」


 扉に気づいたヒナタが言うも、カリンはゆるりとかぶりを振る。


「いいや、アレは出口じゃ。大魔王城の二階続いておる」

「え、そうなの?」


 意外な言葉に、ヒナタは驚く。

 今歩いている大焦熱地獄は七つ目の地獄。八つ目はなしということだろうか。


「うむ、つまり――」

「あ、そっかー。いつもの日常が八つ目の地獄ってオチだね、これ!」

「…………」


 ほのかな微笑みと共に八つ目の地獄を語ろうとしたカリンが、その瞬間固まった。

 ヒナタが、正解したからだ。大正解だったからだ。

 オチを先に言われてしまった。


「あ……」


 固まったカリンに気づいて、ヒナタも固まる。


「……あの、ごめんね。お姉ちゃん」

「いや、いいんじゃ。読まれるようなオチしか用意できなかったワシが悪いし」


「お姉ちゃん? 目に涙を溜めながら言われても説得力ないよ?」

「グゾオオオオオオオ! ヂグジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ヒナタから冷静な指摘を受けて、カリンはまた雪の上を転がり回った。

 文字通りの駄々っ子である。

 ヒナタは、心ゆくまで姉を暴れさせることにした。


「急ごしらえのイベントは詰めが甘くなるから嫌いじゃ~! ワシのバカ~!」

「プロ意識はあるんだよね~、カリンお姉ちゃん……」


 ――三分後。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

「そうやってまた体力使い切るんだから~」

「疲れた……」


 顔を真っ赤にして汗まみれになるカリンを、ヒナタが抱え起こす。


「はいはい、それじゃあみんなのところに戻ろうね~」

「う、うむ……」


 ヒナタに支えられ、カリンがノロノロ扉の前まで歩いていく。

 そして、その手で扉を開けると――、


「だからタマちゃんは、ずっと前から俺を殺したかったんだろ!」


 そこにできた扉の隙間から、ケントのそんな叫び声が聞こえてきたのだった。


「「……え?」」

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