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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第361.5話 ヒナタ専用特別八大地獄コース/焦熱地獄

 画面の向こう側で、死体になったシンラが転がっている。その顔色はとてもいい。


「あ~あ~、お兄ちゃんったら……」

「いや~、エンジュめ、やってくれよるわ。何とも愉快な展開じゃて」


 木と木の間に張られた布に映る画面を前に、ヒナタとカリンが笑っている。

 共に、まだ水着姿のままだ。

 ヒナタはビーチボールを抱え、カリンはトロピカルなジュースを飲んでいる。


 二人が座っているのは、真っ白い砂浜。

 ザザァン、ザザァンとすぐ近くから波の音が聞こえてくる。


 ここは、並の出るプールがあるワクワク叫喚地獄、ではなかった。

 泳げる環境は共通しているが、場所が全く異なっている。


 突き抜ける青空。その向こう側に見える大きな入道雲。

 太陽の光が全体に降り注ぎ、空気と砂浜をジリジリと焼いている。


 ヒナタが振り返れば、そこにあるのは空よりも蒼く、だが透き通った綺麗な海。

 ここは八大地獄の五番目、サンサン大叫喚地獄だ。


 元ネタの大叫喚地獄が叫喚地獄の十倍すごいトコなので、こうなったらしい。

 プールとプライベービーチでは、規模の差が十倍で収まらないが。


 その辺りは色々とフワッと、なのだろう。

 ヒナタも、その辺りはあまり深く考えないことにしている。


「お姉ちゃん、そろそろ遊び疲れたよ~」

「おうおう、そうじゃのう。叫喚地獄とここで、しっかり遊んだからのう!」


 カリンがパンと手を打ち鳴らすと、いきなり目の前にドアが現れる。

 ドアには大きく『シャワー室』と書かれている。


「ちゃんと砂を洗い流すんじゃぞ~?」

「わかってるってば~」


 ヒナタがドアを開けようとすると、海の方からキュイキュイという鳴き声。

 振り向くと、そこには何と数頭のイルカが顔を出していた。


「あ、ばいば~い! またね~!」


 笑って手を振るヒナタに、イルカ達は鳴き声で応じて海面から跳び上がる。

 それを見て、ヒナタははしゃいで拍手を贈る。


 もちろん、これらのイルカは本物ではない。

 カリンの異面体による演出の幻影を纏った『絶界』の軟質ゴーレムだ。

 だがその見た目や手触りは、本物と何ら遜色はない。


「う~、名残惜しいなぁ~」

「そう言ってもらえると用意した側としても嬉しいものよのう」


 ヒナタの素直な反応に、カリンもホクホク顔である。

 その後、二人はシャワー室でしっかりと砂と塩分を落とし、普段着に着替えた。


「お姉ちゃんの和服って、着るの大変そう~」

「普通にやったら大変じゃよ。ほらでも、ワシって『出戻り』じゃし?」

「ま、そーだよねー」


 髪も乾かし、綺麗さっぱり。シャワー直後は気分がいい。

 更衣室の先にあるドアをくぐると、またそこには暗い通路が続いている。

 いつの間にか、カリンの手にはもはや見慣れた感のある提灯。


「さ、往こうぞ、ヒナタよ」

「お姉ちゃん、まだあきらめないんだ?」

「ぐむ……」


 直球で指摘を受けて、カリンが身を揺する。

 その反応を見るに、彼女の方もそろそろこの演出に限界を感じているようだ。


「そ、そろそろマンネリ、かのう……?」

「マンネリかどうかはわからないけど、少し飽きちゃった~」

「はい、マンネリ! マンネリ確定ッ! マンネリめぇ~! 許さんぞぉ~!」


 暗い通路に怒声を響かせ、カリンが提灯をどっかに放り投げた。


「ええ、そこまでキレちゃうのぉ~?」


 ヒナタもここまでの反応を見せるとは思っていなかったので、ビックリだ。


「よいかヒナタよ。エンタメ業界ではパクリバレとマンネリは害悪なのじゃ!」

「パクリはバレなきゃOKって聞こえるんだけど……?」

「サンプリングです。オマージュです。パロディです。ノットパクリ」


 かつて見たことがないほど、カリンが真顔である。


「あ、はい」


 ヒナタも、そう返す以外になかった。


「とはいえあまりこだわりすぎてもいかんのも事実。仕方がない」


 カリンがパンと手を打ち鳴らす。

 その場の景色がパッと変わり、そこは紅葉の並木道。


「わぁ……」


 時刻はもうすぐ夕暮れ、黄色く色づいた紅葉の葉が冷たい秋の風に揺れている。

 ベンチが等間隔で置かれている道には、落ちた紅葉の葉が積もっている。


「綺麗だね~。私、こういうのも好き~」

「詫びじゃ。少しここを歩こうではないか」

「うん!」


 誰もいない秋の並木道を、幼い姉妹二人が手を繋いで歩いていく。


「聞こえるか、ヒナタよ。緩やかに吹く風に葉が揺れる音が」

「うん、聞こえるよ、お姉ちゃん」


「この場はワシが用意した人造の空間じゃ。この風も、この木も、葉も、全て」

「うん」


「しかしな。そこに聞こえる音だけは違うぞ。これだけは、本物の音じゃ」

「うん」


「ほとんどがまがいものかもしれぬ。されども、その中からこうして本物を創ることもできる。自惚れかもしれんが、いい音ではないか?」

「うん。サワサワッてしてるね。耳が気持ちいい。好きな音だよ」

「ありがとうよ」


 ヒナタは、風流や風情がわかる歳ではない。

 異世界でも、あまりそういったものを気にしたことはなかったように思う。


 だが、今、カリンが言おうとしていることは何となくわかる。

 この秋空の下で歩く紅葉の並木道に、ヒナタはとても心地よいものを感じている。


「でも、さっきまで夏だったのに、いきなり秋になっちゃった」

「そうじゃのう。ま、体に影響は出ないようにはしておるからの。問題はないわい」

「は~い」


 夏が秋になったところで、寒暖差にやられるヒナタではない。

 何せ、彼女自身が春夏の権化みたいな存在である。

 しかし姉の気遣いが嬉しいのも確か。ヒナタは素直に返事をしておく。


「ところで~、次の地獄はどんな場所~?」


 並木道の先に、ポツンと立っているドアが見える。

 これまでと同じパターンなら、その向こうには次の地獄があるのだろう。


「次の地獄は『焦熱地獄(しょうねつじごく)』じゃよ。黒縄地獄よりさらに激しい炎によって罪人は焼かれ続けるという、恐るべき地獄じゃ。ファ、ファ、ファ」


 カリンも調子が戻ってきたらしく、黒幕笑いを再び見せ始める。


「ほほぉ~、しょーねつじごくですかー」

「その言い方、さてはおんし、全然怖がっておらんな?」


 カリンは憮然とするが、ヒナタは小首をかしげて言い返す。


「これまで、怖がるような要素、一つでもあったっけ?」

「あ~! 言っちゃうか、おんし、それを言っちゃうか!? あ~、許せ~ん!」

「どこに地雷があるかわかんないよ……」


 これまでを振り返っても、怖がるポイントというものは一つも思いつかない。

 だが、カリンにはそんなヒナタの反応が不服なようだ。


「どの地獄の前でも、怖がるよう演出しとったじゃろ~! がんばったじゃろ~!」

「うん、がんばってるな~、とは思ってた。怖くなかったけど」

「んぎゅ~~~~!」


 カリンが変な声で鳴いた。ヒナタは、それをちょっとだけ可愛らしく感じる。

 そして、頬を膨らます姉を見て楽しんでいるうち、扉の前に到着する。


「はいはい、着いたぞ! 次の地獄じゃよ~!」

「そんなつっけんどんにならなくてもいいでしょ~! もぉ~!」

「フンだ! フンだ!」


 唇をツーンと尖らせるカリンが、ドアノブに手をかける。

 並木道は、やはりというか空気が冷たい。ヒナタの体もある程度冷めている。


 カリンがドアを開けると、向こう側からファ、と、空気が流れ込んでくる。

 それが、何とも温かい。

 空気に肌を撫でられて、ヒナタは『あれ』と感じる。


「さっさと入るがよい。これが八大地獄の六番目――」

「わぁ……!」


 部屋に入ったヒナタはそこにあるものに瞳を輝かせる。


「ポカポカ焦熱地獄じゃ~~~~!」

「おこた~!」


 そこにあったのは、こたつだった。

 テーブルにはミカンが積まれた木の菓子盆が乗っており、こたつ布団には猫。


「わぁ、にゃんこ~!」

「おこたといえばみかん! そして、猫! これぞ冬の完全装備よ!」


 部屋は、どこかの家のリビングのようだった。

 その一角には大画面テレビがあり、そして最新のゲーム機が置かれている。


「わぁ、このゲーム! お兄ちゃんと買おうかって相談してたやつだ~!」

「ヒナタよ、それだけではないぞ。窓から外を見てみぃ」

「お外~?」


 猫を撫でていたヒナタが、カリンの言葉に従って窓から外を見てみる。

 すると、そこに見えるのは雪で白く化粧された夜の風景。

 窓に近づくと、冴えた雪の冷たさがしっかりと伝わってくる。


「わぁ、わぁ~!」

「部屋の外に出ることはできんがの。ま、これも演出の一環じゃよ」


 ヒナタは、猫を抱き上げて、しばし窓から雪景色に見入る。

 動かなくなった妹に、カリンが横から声をかけた。


「そんなに気に入ったかえ?」

「ん~、ちょっとね。少しだけ、シキ君のこと、思い出してた」


「シキ君……? ああ、シキトのことかえ。おんしの夫で、最初で最後の客の」

「そうそう。あの人と出会ったのって、こういう雪の日だったんだよ~」


「ほほぉ、そうじゃったのかえ。初耳じゃわい」

「私のデビュー日だったんだ。でも、あの人と意気投合しちゃった~」


「そうであったのう。何とも懐かしい話じゃね~。なぁ『幻の大娼婦』ヒナタよ」

「やめてよ~、お姉ちゃん。結局、デビュー即引退になっちゃったんだから~」


 ヒナタは、雪景色に異世界での過去を思い出す。

 娼婦としてデビューしたその日に、のちに夫となる男と出会って、引退を選んだ。


 アキラには驚かれたし、ミフユからはものすごく笑われて、祝福された。

 ヒナタが娼婦という生き方を選んだことについては、何も言われなかったのに。


「シキトはいい男じゃったからね。惚れてもしゃあないわ」

「やめてってばぁ~!」


「言い出したのはおんしじゃからね~? ほれほれ、体が冷えるぞ。こっち来い」

「は~い」


 カリンと共に、ヒナタはこたつに入る。

 猫も再び丸まって、姉妹二人は疑似的ながら真冬の幸福を噛みしめる。


「少しあったまったら、ゲームでもするかのう」

「あ、じゃあアレやりたい~! マジオ~!」


「うぇ、ワシ、アクション苦手なんじゃけど……。別のにしない?」

「イヤでぇ~す。マジオ一択でぇ~す。異論は私に勝ったら受け付けま~す!」

「この四歳児、勝手に自分ルールを主張し始めたんじゃけど!?」


 互いにこたつに入りながら、二人がワイワイ話している。

 部屋の中はポカポカで、ちょっとしばらく、この場から離れられそうもなかった。

 なお、ゲームの結果については、案の定であった。


 シカエシスゴロク八大地獄コース第六弾、ポカポカ焦熱地獄――、敗れたり!

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