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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第361話 この切っ先に、一擲を成して乾坤を賭せん!

 武道じゃないじゃん。


「これが、第一試合の、競技……!?」


 シンラが何やら真顔でショックを受けているが、いや、競技でもないじゃん。


「う~ん……」


 ほら、エンジュは完全に困ってるよ。困り果ててるよ。

 二人がいるのは舞台の上。

 シンラとエンジュを隔てるようにして、中央にデカデカと鎮座するものがある。


 ――樽。


 デカイ、樽。シンラよりデカイ、木の樽である。

 かなり古いのは、そこかしこに穴が開いているのだが、その上、


『ヘッヘッヘ、早くしてくんなせぇ、旦那ァ、嬢ちゃんでもいいぜぇ~?』


 と、低いだみ声でシンラ達を呼んでるおっさんがいる。

 エロい顔つきをした、頬とあごとを伸ばしたひげで埋めているおっさんだ。

 名前はそのまんま『エロひげ』という。


 エロひげは、樽の上から顔だけを出している。

 体は樽の中にすっぽり収まっている。

 そして樽の周りには、天井から降ってきた多数のサーベルが突き立っている。


 もう、おわかりだろう。

 これこそ、シカエシイチ武道会第一試合の勝負テーマ『エロひげ危機一髪!』だ。


 樽の穴にサーベルを刺していって、ハズレが引いたらエロひげ発射。

 ハズレを引いたら負けというわかりやすいルールのおもちゃなんだけど――、


「これも、カリンの『婆娑羅堂(バサラドウ)』なのかねぇ……」


 俺は半分感心しながら頬を掻く。

 この『エロひげ危機一髪!』、本物はただのおもちゃで、喋りもしねぇっての。

 それが――、


『ゲヘ、ゲヘヘヘ、早く、早くしてくだせぇよ、旦那、お嬢ちゃん。その鋭く太ェモノでこの穴にブスッといってくだせぇや。ブスッと、一思いに! 心を込めて!』


 これはひどい。

 きたねぇひげヅラのおっさんが、頬を赤らめて恍惚とした面持ちでのたまっとる。

 エンジュは当然のことながら、シンラですら若干引いてらっしゃるじゃねぇか。


「……変態性がスタンダードすぎるわ。もうちょっと偏りがほしいわね」

「そういう演技指導、マジでいらないから」


 あごに手を当てて評論するミフユちゃん様大先生に、俺は低くツッコんだ。


「それでは、第一試合、開始です」


 カァ――――ンッ、と、無情にも鳴り響く試合開始のゴング。え、どこから?

 ひとまず、シンラとエンジュは樽から目を離して、互いに相手を見据える。


「いいですか、太祖様――、じゃなかった、シンラ伯父さん」

「うむ、次代の聖騎士長であったおまえにそう呼ばれると、何とも面映ゆいものだ」


「あっちではあんまり接する機会はなかったですしね」

「だがこちらではただ高校生とサラリーマンだ。気兼ねする必要などないぞ」

「そうですよね。では、改めて伯父さんと呼ばせてもらいます」


 そこに繰り広げられるのは、近くて遠かったかつての主従の会話。

 で、同時に、遠くはなかったが接する機会がなかった親戚の会話でもあった。


「ところでどうだ、エンジュよ。両親より年上になった感想は?」

「それは、少し複雑ですけど……」


 おや、エンジュが何でかこっちを見ておるぞ。シンラもつられておるぞ。


「おじいちゃんとおばあちゃんが《《ああ》》ですから、気にしても仕方ないかなって」

「…………そうだな」

「ンだコラァ! 言いたいことがあるなら言えよ! 何だよ!」


 どうして二人してちょっと消沈した空気見せてんですか? ねぇ!?

 俺がもう一言二言抗議しようかと思ったら、先にエロひげの声が高らかに響いた。


『ヘイヘイヘイヘ~イ! まだかい、旦那、お嬢ちゃん! こっちはとっくに準備できてるんだぜ! 見ろよ、俺ちゃんの『(樽の)穴』を! 期待感で熱く熱く濡れそぼっちゃってるんだぜェ~? だから早く、その鋭く太く長いヤツを俺の(樽の)穴に! ザクザクブスブスグサグサ、突き入れてくれよぉ~! ヒョ~~~~!』


 キモいほどのテンションブチ上がりっぷりである。


「……さっきよりマシね。50点台はあげてもいいわよ」

「だからおまえは冷静に評価するのやめぇや」


 俺は、隣で腕組みしているミフユに軽く裏手ツッコミをする。


「…………」

「…………」


 おっさんがヌチャヌチャわめいてるその前で、シンラとエンジュが睨み合う。


「エンジュ、レディファーストだ。おまえからゆくがよい」

「いえ、ここは年長者への敬意を表して、伯父さんからどうぞ」


「いや、おまえからゆくがよい。余は見届けてやろうぞ」

「いえいえ、私なんてあとでいいですから。伯父さんから行くべきですよ」


「フ、余を礼儀知らずにしてくれるな、エンジュよ。おまえが先にゆくのだ」

「大丈夫です、私が譲ったってことはみんなが見てますから。伯父さんからどうぞ」


「断る。おまえからゆくのだ、エンジュよ」

「お断りします。シンラ伯父さんから、どうぞ」


「…………」

「…………」


 互いに譲ることを一歩も譲らず、再び無言で睨み合う。

 二人の姿に、俺は『絶対にサーベル刺したくない』という鋼の意志を感じとった。


 ――こうなれば俺が動くほかあるまい。


「シンラ! エンジュ!」

「父上?」

「おじいちゃん?」


 俺が大声で呼びかけると、二人がそれに気づいてこっちを向く。そこに、叫んだ。


「最初は、グー!」

「「ッ!?」」


 叫んだ内容に、二人の顔つきが一気に引き締まる。俺は続けた。


「じゃんけん!」

「「――ポンッッ!」」


 重なる二人の声、動き。そして勢いよく突き出された互いの右手。

 シンラがチョキで、エンジュが、グー!


「私、後攻で!」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」


 響き渡ったエンジュの宣言に、シンラが自分の出したチョキを震わせて、嘆いた。

 まぁ、しょうがないよ、これは。公平で公正な決め方だよ。


 仮にエンジュが魔剣士の能力を駆使してたとしても、結果は出てしまった。

 ならば、そこにイチャモンをつけるようなシンラではないだろう。


「ぐ、し、仕方があるまい!」

『おお、旦那からですか~い? イイですぜぇ! さぁ、早く! 早く早く早く! その硬くて長いので、俺の『(樽の)穴』をブチ貫いてくだせぇ~!』

「…………」


 キャンキャン声で猛るエロひげに、シンラの顔から表情が消える。

 あの顔は、無。迫る己の窮地を前に、シンラが己の心を完全な無にしたのだ。


「…………」


 シンラはサーベルの一本を引き抜いて、近くにある穴に狙いを定める。


『早くぅ~! 早く刺してェ! 挿入してェ~! ブスブスしてェ~~~~!』


 うるせぇなぁ、このおっさん。


「…………」


 しかしシンラは動じた様子もなく、両手に握ったサーベルを顔の横に持ってくる。

 そして水平に構えて、切っ先は真っすぐ樽の穴の直線上。

 シンラが、今、樽に向かって床を蹴った。その顔に、憤怒の表情が刻まれて、


「死ねェェェェェェェェェェェェェェェ――――いッ!」


 絶叫。

 そしてサーベルを突く。切っ先は、引っかかることなく穴を貫いて、


『ぁ、ッふぅぅぅぅぅ~~~~、んッ、んんッ、くはぁ~……、ぁン! ッ!』


 大魔王城二階全域に余すことなく轟き渡る、おっさんの喘ぎ声。

 俺は、初めて知った。

 おっさんの口から発せられる艶のある喘ぎ声は、ただの精神攻撃でしかないと。


「殺してぇ……」


 とは、おっさんへの殺意を瞳に滾らせるケントの弁である。

 もちろん、それはできない。だからこそ、殺意とヘイトが溜まりまくる。きっつ。


『ヘ、ヘヘ……、よかったぜぇ、旦那ァ……、だが残念、それじゃトベねぇな』

「声が半分満足げなのやめろや」


 ついつい、俺はそれを指摘してしまう。

 シンラは舌打ちだけを残してその場から下がっていった。

 おっさんが生きてるのが心底残念そうだ。わかる、わかるよシンラ、その気持ち。


「次は私ですね」


 代わって、エンジュが前に出る。

 膝下に届く長い三つ編みに、銀縁の眼鏡。でも格好は魔法剣士っぽい感じ。

 そんな俺の孫娘は、サーベルを抜かずに何やら樽へ近づいていく。


『お、どうした、お嬢ちゃん。俺とトークしたいのかい?』


 おっさんがねっとりとした目を向けてくるが、エンジュはそれを綺麗にスルー。


「あのひげ! エンジュを汚い目で見て! 八つ裂きの八つ裂きの八つ裂き――」

「やめとけ」


 むしろ母親の方がヒートアップして父親に止められておりまして。笑うわ。

 ラララの娘へのラブっぷりがすごい。


「……ふむ」


 エンジュは周囲の一切を無視し、指でコンコンと樽の表面を軽く叩く。

 さらに一か所だけでなく、次はもう少し場所をずらして、またコンコンと叩く。


『……何してんだい、お嬢ちゃん?』


 これには、エロひげも不思議そうに尋ねてしまう。

 が、エンジュはそれも完全に無視。そこから数分に渡って、樽全体を叩き続ける。

 何となく、誰も声をかけられないでいる中、エンジュはうなずいた。


「うん、よし、わかったわ」


 一体何がわかったというのか。

 それを明かさぬまま、エンジュは次にリリス義母さんに何かを確認し始める。


「だから――、それで――」

「ん~、そうですね。それについては……」


 義母さんが、チラリとシンラの方を見る。

 もうその時点で、ロクなことにならなそうな予感しかしない。


「イベントが盛り上がるので『全くの同時ならOK』としましょう」

「は~い、ありがとう!」


 自分のひ孫に礼を言われて、リリス義母さんも嬉しそうだ。


「何だ、何をしようというのだ……!?」


 顔に警戒感をバリバリに浮かべるシンラだが、もはや末路は決まった気がする。


「それじゃあ、やろうかな!」


 エンジュが右手を高く掲げる。

 すると、地面に刺さっていた多数のサーベルが、全て宙に浮いた。


 俺は悟った。

 そうか、エンジュがリリス義母さんに確認したのはこれか。

 一回の手番で、複数のサーベルを刺していいかどうか、確かめたのか。


「待て、エンジュよ! もしや、ハズレ以外の全ての穴にサーベルを刺す気か!?」

『全ての穴に! 一気に! サーベルを!?』


 うるせぇ、黙ってろエロひげ!


「いえいえ、違いますよ」

「何、違う……?」


「はい、全部の穴にサーベル刺しちゃいます」

「え」


 笑うエンジュ。固まるシンラ。


「いや、だが、ハズレ穴にサーベルを刺せば、おまえの負け……」

「『勝ったら負け』ですよね、この武道会』

「あ」


 ますます笑うエンジュ。ますます固まるシンラ。

 そっかー、さっきのコンコンは、ハズレ穴の位置を調べてたのかー。


「あ、あんな、軽く樽を叩いただけで見極めたというのか……?」

「私、『敏感肌』と『超嗅覚』を持ってるので、時間をかければそのくらいは」


 うわぁ、そんなこともできるのかよ。すげーな『剣聖』。


「何故、わざわざ全ての穴を……?」

「別にハズレ穴だけでもいいんですけど、ここは派手にやっちゃおうかなって」


 朗らかに応えるエンジュに、シンラはもう、完全に絶句しておられる。


「じゃ、いくよ」


 浮いたサーベルがキュンキュンと空中を奔り、全ての穴の直前に配置される。


「あの数のサーベルをちゃんと同時に操れてるのはさすがだよね、タイジュ」

「そうだな。刻空剣に比べれば全然簡単だろうが、あの数はなかなかのものだ」


 娘が見せるスゴ技に両親もご満悦の様子。


『ま、待って待って! お嬢ちゃん、こんないっぱいいきなり挿入されたら、俺ヤバイって! ヤバイヤバイ! 耐えきれないよ、こ、壊れちゃう~! 顔中の穴という穴から汁が出ちゃうってばぁ~! やめてくれよぉ~~~~!』


 エロひげが半泣きで訴えるのだが、エンジュは明るく笑って一言返す。


「そっか、壊れちまえ」


 案外エンジュは口が悪い。

 そして、空中に留まっていた多数のサーベルが、一息に樽の穴に突っ込まれた。


『ァ……』


 絶叫するかと思われたエロひげは、一声だけ発してビクンと身震い。そして、


『あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~んッ!』


 樽から飛んだ。


「はい、これで私の負け。シンラ伯父さんの勝ちで~す」


 こうして、エロひげ危機一髪はシンラの勝利に終わった。

 つまり、シンラの敗北である。


「……フ」


 しばしの沈黙ののち、笑ったシンラのその顔には、綺麗な諦念が浮かんでいた。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 シンラの右手に『飲む全快全癒』。


「…………」


 青。圧倒的青。絵の具の青より、空の青より、マリンブルーより、さらに青。

 それが今の、シンラの顔色。


「はいッ、はいッ、はいッ、はいッ!」

「はいッ、はいッ、はいッ、はいッ!」


 そしてその傍らでリズミカルに手を叩き、俺とミフユがシンラに促す。


「シンラ君の、ちょっとイイトコ見てみたい!」

「そ~れ、一気、一気、一気、一気!」

「おのれ……、この親共……ッ」


 近くで手を叩いていると、シンラが奥歯をギリと鳴らすのが聞こえた。

 ああ、イイねぇ、イイよその顔、その表情。最高。苦しめ。さぁ、飲むのです!


「「あ、そ~れ! 一気、一気、一気、一気! 一気、一気、一気、一気!」」


 パンパンと手を打ち鳴らし、俺とミフユがシンラの周りをグルグル回る。

 シンラは顔を真っ赤にしながら、ついには怒声を轟かせた。


「バーンズ家長男の姿、しかとその目に焼き付けよッ!」


 そしてぇ、シンラが、紙コップの中身をォ! グイ~~っと、一気飲みだァ!


「――――ッ」


 そのあとのシンラの有様は、語るまでもないよね。

 ただ一言『憤死』、とだけ……。

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