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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第358.5話 ヒナタ専用特別八大地獄コース/叫喚地獄

 カリンが起きるまで、二十分弱かかりました。


「にゅあぁ~、ねみゅい~……」

「カリンお姉ちゃん、そんなに寝起き悪かったっけ……?」


 毎度、闇の中に長く伸びる通路を、今はヒナタが先頭に立って歩いている。

 カリンはまだねぼすけさん真っ最中なので、ヒナタに引っ張られていた。


 明かりとなる提灯も、持っているのはヒナタだ。

 これではどっちが案内役かもわからない。


「それにしてもしっかり寝ちゃったねぇ~」

「じゃのぉ~、んにゅぅ……」

「お姉ちゃん? 起きて? お姉ちゃんが地獄に屈してどうするの?」


 今にも鼻ちょうちんふくらましそうなカリンに、ヒナタが呼びかける。

 しかし、返されるのは「だいじょぶじゃよ~」というまるで大丈夫ではない答え。


「お姉ちゃんってば~!」

「だいじょぶ、ワシはだいじょぶじゃからぁ~、むにゃむにゃ~」

「…………むぅ」


 ヒナタは一声唸り、そしてパッと繋いでいた手を離した。

 今までカリンに合わせていた歩幅も自分なりの大股にして、速足で先へと進む。


「ふぎゃんッ!?」


 すぐに、後ろに蟠る闇の奥からカリンが転ぶ音と悲鳴が聞こえてくる。

 ヒナタが立ち止まって振り返ると、闇に蠢く影が見える。起き上がったカリンだ。


「へ? え? あれ!? ヒ、ヒナタ、どこじゃッ! ヒナタァ~!?」


 影が顔を左右にブンブン振っているのが見える。どうやら目が覚めたらしい。

 程なく、カリンが通路の先にある提灯の明かりに気づく。


「ヒナタァ~~~~ン、そこにおったんかぁ~~~~ッ!」


 カリンが、半泣きになりながら大慌てでこっちに駆け寄ってくる。


「ここにいたよ~。っていうか、ずっといました~。お寝坊さん」

「ひ~ん、許してくれ~。これも全部あの布団が気持ちよいのが悪いんじゃ~!」


 それを用意したのは誰でしたっけ、という意地悪はしないことにする。

 確かにあのお布団、すごく気持ちよかったし。


「あのお布団でまた寝たいな~」

「お、気に入ったかえ? そしたら、今度お届けしてやってもよいぞ?」

「ホントォ!」


 こともなげに言い放つカリンに、ヒナタは瞳を輝かせて聞き返す。


「そんなことできるの? あのお布団、結構いいモノなんでしょ?」

「おう、何も問題はないぞ。何せあのお布団、オーダーメイドの一品モノじゃし」

「絶対お高いやつー!」


 重ねて驚くヒナタだが、カリンはそれをワハハと笑い飛ばす。


「なぁに、お布団のレシピは記録済みじゃろうし、《《あやつ》》に頼めばすぐじゃろ」

「あやつ……?」


 レシピ。あやつ。頼めばすぐ。

 それらのワードが、ヒナタの脳内に一つの検索結果をもたらす。


「え、まさか、お姉ちゃん。あのお布団を造ったのって……」

「おんしが考えてる通りじゃよ。ジンギの兄御じゃ」

「ジンギお兄ちゃんもこっちに『出戻り』してるんだ!」


 初耳の情報である。

 ジンギ・バーンズはバーンズ家の五男。ラララとカリンの間に生まれた男子だ。


 家族内でも特に優れた錬金術師で、優れた魔法アイテムを造る発明者。

 その分野では、マリクをも凌ぐ腕前を発揮する。


「うわぁ、うわぁ、懐かしぃ~! 会いたいなぁ~!」

「このイベントが終わったら合わせてやろうかの」


「ホント!? 絶対だよ? 約束だよ? 嘘ついたらガンマレイだからね!」

「嘘一つで跡形も残さず蒸発する羽目にッ!?」


「私、自分が嘘をつくのはいいけど、人に嘘つかれるのはきらーい」

「うわ、この四歳児、邪悪! 無邪気に邪悪なんじゃけど!」

「じょーだんでーす」


 ジンギのことが聞けたからか、ヒナタは楽しそうにクスクス笑っている。

 そんな妹が無性に可愛く感じられて、カリンがそっと手を伸ばして頭を撫でる。


「お~?」

「あ~、もったいないのぉ~、絶対おんしなら人気出るのにな~」


「またそれ~? 他のお姉ちゃん達だっているでしょ~?」

「却下。全却下」

「全ッ!?」


 却下をするカリンの声はひどく平坦で、そのギャップにヒナタが身を震わせた。


「え、そ、そこまで……?」

「タマキの姉御はバカゴリラじゃし、ヒメノの姉御はマリクの兄御が絶対黙っとらんし、スダレの姉御はエロすぎるし、シイナの姉御はメンタルクソ雑魚じゃし、ラララの姉御は絶対娘の方を推薦するしで、どいつも無理じゃ。不可能。いんぽっしぼぅ」

「わひゃあ……」


 カリンの挙げた理由を何も否定できないヒナタは、無意味に声を漏らすしかない。


「あ~、でもかかさまなら……、無理か。一番無理じゃな。ととさまおるし」

「それは無理だね。それは、無理。お父さんいるし」


 姉妹の共通見解であった。


「ちなみに、私以外には誰かスカウトしたい人っているの?」

「リリスばばさま」


 カリン、渾身の即答。


「ええ、リリスおばあちゃん、なの……?」

「『出戻り』する前もヤバかったが、こっちじゃ男なのがさらにヤバイわ。何じゃい、あの涼やかな艶気と爽やかな色気は。あんなん、男も女もイチコロじゃろ」

「あー、言われてみれば……」


 着流しを纏うリリスの姿を思い出して、ヒナタは納得するしかなかった。

 美貌と風格が同居し、爽やかさと艶めかしさが両立しているのが今のリリスだ。


「何か、性別を超えた魅力、みたいなものはあるよね。今のリリスおばあちゃん」

「じゃろ? 当人、かかさま含めて家族に愛されりゃ満足な人じゃけどね」


 それは自分含めて、家族のほとんどがそうなので、ヒナタは軽く笑ってみせる。


「でも、そう考えると、ササラお姉ちゃんって一人だけ違ってるんだねー」


 他の家族達がリリスと変わらない中、違うのはササラだけだ。

 あの七女は、とにかく人に愛されないと気が済まない厄介な気質の持ち主だった。


「ま、あやつは承認欲求の化身じゃからね」


 自分の相方でもあったクソガキを思い出し、カリンが軽く肩をすくめる。

 だからアイドル向きなのかなー、と、ヒナタも考える。


「あれ、着いちゃった」


 考えているうちに、次の地獄の扉が見えてくる。


「着いたか。ではヒナタよ、その提灯をワシに返しておくれ」

「は~い」


 ヒナタは素直に提灯をカリンに返し、自分は扉の前からどく。

 すると、カリンは扉に片手をつき、肩を軽く揺すらせクツクツ含み笑いをする。


「ついに辿り着いてしまったのぃ、ヒナタや。この第四の地獄に……」


 顔に薄い笑みを張りつかせたカリンが、ヒナタの方にかすかに振り返って告げる。

 ねばついた声質は、辺りを包む闇と相まって恐怖を駆り立てる。はずだった。


「……え、まだそれ続けるの、お姉ちゃん」


 だが、もはやテンプレと化しかけているその導入に、ヒナタは戸惑うばかりだ。


「ワシは演出をやめぬ。やめぬぞ。何があっても、絶対にじゃ」

「その根性は見上げたものではあるけど、私はどう反応すればいいのなーって」


「普通に怖がればええじゃろ! 怖がってよ! 慈悲をくださいよ!」

「ついにおねだりまでし始めちゃったかー……」


 ますます困り果てるヒナタだが、この状況で自然に怖がれる演技力などない。

 が、ふと思い出したことがあるので、カリンに尋ねてみる。


「そういえばお姉ちゃん、次はどんな地獄なの?」

「お、聞きたい? それ聞いちゃう? じゃあ話すかー。話すしかないのぉ~」


 すごく、嬉しそう。

 それだけでヒナタは『あ、よかったー』とか思えてしまうのだった。


「次なる地獄は八大地獄が四つ目、その名も『叫喚地獄(きょうかんじごく)』よ。この地獄に落ちた者は猛火に焼かれ、熱湯を浴びせられ泣きわめくといわれておる」


 カリンが、ゆっくりと扉に力を加えて、内向きに開いていく。

 そこから光が漏れて、ヒナタの顔を照らしていく。


「見さらせィ! これこそ誰もが大声で騒ぎ出す『叫喚地獄』じゃぁ~~~~!」

「うわ、わわわわぁ~~~~!」


 ドバァ~ン、と、開け放たれた扉の向こうから香ってくるのは――、塩素の匂い!


「おっきぃプールだぁ~!」


 そこにあるのは、かなりの広さを持った室内プールであった。

 泳げるプールに子供用のすべり台付きプール。近くには浮き輪や水鉄砲もある。


「これぞモフモフ等活地獄、ガツガツ黒縄地獄、ヌクヌク衆合地獄に次ぐ、ワクワク叫喚地獄じゃ~! 精々、水温30℃の室内温水プールで遊び回って、体力を使い果たすがよいわ! 水着と浮き輪も準備済みじゃ! あ、更衣室はあっちじゃよ~!」

「は~い!」

「うむ、元気よくお返事できてエラい!」


 それから、二人は更衣室で水着に着替えて、プールに戻ってくる。

 ヒナタはオレンジ、カリンは黒い子供用水着で、共に手には浮き輪を持っている。


「あれ、カリンお姉ちゃんは泳げないの~?」

「ち、ちっげぇ~し! 今日はちょっと浮き輪で遊びたい気分なだけじゃし!」


 あ、泳げないんだ……。

 顔を赤くして声を荒げるカリンを見て、ヒナタが確信しないワケがなかった。


「ファ、ファ、ファ、ところでヒナタ。おんし、驚くのはこれからじゃぞ」

「なぁに~?」

「このワクワク叫喚地獄の真の姿を見せてやろうぞ! あ、ポチッとな」


 カリンが壁のスイッチを押すと、ガコンと何か重い音がする。

 そして、子供用プールの隣にある大きなプールに、その異変は生じた。


「ま、まさか、これって……」


 ヒナタが、そこに起きた異変に生唾を飲み込む。そう、それはまさしく――、


「波が出るプールだァ~!」

「その通り! こっちのプールは最大60cmの波が出るんじゃ~!」


「わ~! わ~! すごぉ~い! 早く行こう、お姉ちゃん!」

「待て待て、走るな! 転ぶぞえ、一緒に行くから!」


 姉妹二人、浮き輪にしっかりしがみついて、大きな波に身をゆだねる。

 ザバァ~ン、ザッパァ~~~~ン!


「わぁ~、流されちゃう~! きゃ~!」

「うお、案外勢いつくのう、これ! あ、でもたのっし!」

「「きゃあ~~~~!」」


 たっぷり一時間ほど、二人は温水プールを楽しんだ。

 なお、はしゃぎすぎて先に体力使い果たしたのは、カリンの方であった。


 シカエシスゴロク八大地獄コース第四弾、ワクワク叫喚地獄――、敗れたり!

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