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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第358話 無敵探偵スダレvs六面ダイス、決死の挑戦!

 激闘の末。これで五人目。


「一、二、三、四――、階段についたぞォ――――ッ!」


 シカエシスゴロク開始からすでに四時間。

 やっと、シンラが階段に到着した。


 一人目のタクマが到着したのが一時間半も前のこと。

 そこから、二人目に美沙子、三人目にタマキ、四人目にシイナと続いていった。


「……やっと、やっと来れましたぞ」

「お疲れ様です、シンラさん」


「ああ、見えますぞ、美沙子さんの幻影が。ここが、涅槃か……」

「シンラさん? 現実ですよ、シンラさん!?」


 心身を消耗し尽くし燃え尽きかけたシンラが、アルカイックスマイルを浮かべる。

 ここまでダイスを振るたびに爆死、振らなくても爆死、時々巻き込まれて爆死。

 この四時間で、こいつ含めて何回爆発したやら。


「……これでまだゴールじゃないのが恐ろしいわね」


 伝う汗を手で拭い、ミフユが緊迫した顔つきでそれを言う。ホントにね。

 これも仕返しだから仕方がないんだけど、それにしてもエグいよね。何これ。


 俺は、階段前の休憩所の方へと走っていく。

 階段は六人そろわないと上がれない仕掛けになっており、近くに休憩所がある。


 ベンチが並んでおり、ジュース、食べ物の自販機などがそこにある。

 そこで軽く食事も済ませておけということなのだろうが――、


「……どいつも目が死んでおられる」


 ベンチに座る五人は、皆、ぐったりとしていた。

 あの体力オバケのタマキですら、ベンチで深く頭をうなだれさせたまま動かない。

 俺はそっと近づきつつ、タマキにマイクを近づけてみる。


「――無理だよぅ、無理だってェ~、恥ずかしいよぅ」


 あ、これは疲れ切ってるんじゃなくお題の厳しさに心折れてるヤツだ。

 体力的にはまだまだイケるが、お題が天敵すぎて気力が底を尽きかけているのか。

 どっちにしろ、タマキには厳しい戦いが続きそうだ。


「あ~、だりぃ~……。もう歩きたくねぇ~……」


 こちらひゃタクマ。

 シイナと隣り合って座っており、体をだらしなく投げ出して天井を見上げている。


 その目はうつろになっていて、口は半ば開けっ放し。

 下手したらよだれ垂らすんじゃねぇの、こいつ。と思えるくらいに疲労困憊だ。


 ダイスを振っている最中はそこまで疲れているようには見えなかった。

 しかし今、これだけ疲れ切っているのはなぜか。


「……帰ったら、覚悟しておいてくださいよ」


 隣に座っているシイナが原因である。

 シイナは、タクマに続いて二番目に階段前に到着した。そしてずっと座っている。

 タクマとは対照的に、タマキのように頭を深くうなだれさせている。


「もう許せよ~、シイナァ~」

「許せるわけないじゃないですか……、絶対許してあげませんからね……」


 うん、つまり痴話喧嘩続行中なんだわ、この二人。

 自分の行ないで損ねてしまった彼女の機嫌をなんとか戻そうとしてる彼氏。


 そういう構図でございまして。

 でも、シイナのオコっぷりが相当なレベルで、タクマもお疲れのご様子。

 半分以上、自業自得な気もするけどね、それについては。


 ま、二人のことは二人のこと。

 あっちから相談が来たなら乗るけど、それまでは触らぬアレにたたりなしってね。


 続いては、お袋とシンラ。

 こっちはタクマ達とは対極というか――、


「美沙子さん、がんばりました。余は、何とかここまで来れました……」

「はい、見てましたよ。ずっと見てました。がんばりましたね」


 お袋が優しく微笑んでシンラの頭を撫でている。

 その撫で方は俺に対する撫で方ともちょっと違っていて、いたわるような感じだ。


「癒される……」


 呟くシンラの表情もだいぶ緩んでいる。


「それで、あの、シンラさん。アタシも……」

「わかっています、美沙子さん。よくぞがんばられました。大したものです」


 今度はシンラの方がお袋の頭を撫で始める。

 その手つきは同じく労をねぎらうような感じであり、お袋が身を縮こまらせる。

 撫でられているお袋の顔は、嬉しさ半ば照れ半ばで頬はほんのり赤い。


「可愛いわねぇ、ああいうときのお義母様」

「…………」


 いつの間にか隣に来ていたミフユに言われるも、俺はそれに言葉を返せない。


「え、もしかして妬いてるの、あんた?」

「いや~? まさか、そんなこと~……、いや、妬いてんだろうなー、この感じ」


 この、胸の奥がモニョモニョした感じ。

 これは間違いなく、ヤキモチってヤツなんでしょうなぁ~。


「あら、珍しい。素直に認めたわね」

「あとで頭撫でて……」

「はいはい。お子様なんだから。笑えないわねぇ」


 ミフユは苦笑しつつもうなずいてくれる。

 うん、これはちょっと、自分でも笑えないわ。そんな自分に笑うんだがね。


「それで……」

「残りは……」


 階段前で休む五人の様子を確かめたのち、俺とミフユがスゴロクの方を向く。

 そこには、ダイスを手にしてマガツラに煽られている最後の一人の姿があった。


『クカカカカカ! さぁ、とっととダイスを振りな、スダレさんよォ! ご自慢の情報を使って、見事にこの難局を乗り越えてみな。乗り越えられるならばなぁ!』

「あぁ~うぅ~……」


 そう、残る最後の一人は、スダレだ。

 力なくダイスを掴んでいるその様はタクマやシイナよりさらにグロッキー。


 ボサボサの髪はいつも以上に乱れ、眼鏡は派手にズレている。

 その顔色は悪く、唇も血色を欠いて、頬がプルプルしてるのは疲れからだろう。


「情報一強、無敵探偵スダレさんだが――」


 生まれたての小鹿みたいになってるスダレを眺め、俺はあごに手を当てる。


「あいつ、こういう『運』が絡むことには滅法弱いんだよなぁ~……」


 そりゃあ、いろんな角度で情報を生かすこともできるが、極論、ダイスは運。

 そしてスダレは、情報が絡まないことにはまったくもって弱いのだ……。


「ふんにゃ~!」


 力が抜けるかけ声と共に、スダレがダイスを放り投げる。

 ちなみに、二が出れば階段到着。というところまで来てはいるスダレだが――、


『ダイスの出目は――、三ッ! 残念だったなァ、一つ戻ってお題に挑戦だァ!』

「もぉ、疲れたよぉ~……」


 出た結果にガックリ肩を落とし、スダレは階段の一つ前のマスに止まる。

 そして出てきたお題の内容を、スダレがフニャフニャ読み上げる。


「え~と、『罵られてください』?」


 そこに、パッ、と夫であるジュンが転移してくる。


「あ、ジュン君~!」


 それまで瀕死だったスダレの顔が、愛する夫の登場に一気に復活する。

 しかし、現れたジュンは、スダレに一言。


「不快だね、君に君付けで呼ばれるのって」

「え」


 ピシッ、と動きと表情を凍てつかせるスダレ。

 ジュンは、それだけ言ってパッと消えた。本当に、罵倒するだけの出番だった。


「うわ、今の一言、あの一件で姉様がキリオ君に浴びせた……」


 シイナの声が俺に届く。

 どうやら『キリオ』の一件のさなかにそういうやり取りがあったらしい。


 なるほど、異能態に支配されていたにしても、今の一言は痛いな。

 そりゃあ言った側はやり返されても仕方がない。


 え? ジュンはスダレを泣かさないって誓っただろって?

 こんなのノーカンに決まってるだろ。誰に聞いてもそう答えるよ。スダレでも。


「…………」


 スダレ、涙目でプルプルしちゃってるけど、身から出た錆なんだろうな、これ。

 まぁ、ジュンのことだ。あとで死ぬほど謝ると思うが……。


『クカカカカカカカ! 特別出演、ジュン・ライプニッツだったぜェ! さぁ、スダレ、ダイスを振りな。これはおまえがやらかしたことへの禊なんだぜ!』

「……わかってるぅ~」


 文句を言うことはなく、粛々と現実を受け入れて、スダレがダイスを放り投げる。

 一が出れば勝利、ではあるのだが――、


『六だな! 一マス進んで五マス下がりな!』


 無情! ダイスさん、スダレに優しくない!


「もぉぉぉぉぉ~~~~!」


 思い通りにならない状況に、スダレがキレて声を荒げる。なかなか珍しい。


『今回のお題はぁ~? ……『ねぎらわれてください』だぜ!』

「え~、何それェ~……?」


 首をかしげるスダレの前に、再びパッとジュンが転移してくる。


「あ、ジュン君……」


 スダレさんが顔色を青ざめさせる。ビクビクですやん。


「スダレ――」


 だが、ジュンはさっきとは正反対に穏やかに笑って、妻に声をかける。


「がんばってるね、スダレ。このスゴロクだって、とっても苦労してここまで来たんだね。すごいよ、スダレ。キリオ君にちゃんと謝りたいって思ってるってことだろ? だから文句の一つも言わずにここまでダイスを振り続けて、えらいなぁ、スダレは」

「ジュンくぅ~~~~ん……」


 いきなり優しくねぎらわれて、今度こそ泣き出しそうになるスダレ。

 しかし、それは善意で舗装された地獄への道。今、お題の真意が三女に牙を剥く。


「本当にすごいよ、スダレ。キリオ君を『ミスター』扱いしたのだって本当は君のせいじゃないのに、それを自分のやったことだって思って、謝ろうとしてるんだから」

「え……」


 ジュンの語る内容に、半泣き満面笑顔だったスダレの表情がにわかに曇る。

 ああ、なるほどね。そういうお題かぁ。これはまた、エグイですねぇ。


「君は悪くない。何も悪くないよ、スダレ。全部、悪いのは『キリオ』であって君じゃない。だから、キリオ君に向けた言葉も君の本意じゃないのも知ってるよ」

「待って、あの、ジュン君、ま、待っ……」


 優しい笑顔、優しい声、優しい言い方で詰むがれる、スダレへのねぎらいの言葉。

 だが甘いオブラートに包まれていたのは、スダレの心臓を直撃する強烈な毒素。


「わかってるよ、スダレ。君は何も悪くないよ。キリオ君を家族扱いしなかったことも、姉と呼ばれて不快だと返したことも、全部『キリオ』のせいだからね、うん」

「ち、違うのぉ~! それは、ウチが悪くてぇ~! ウチのせいなの~!」


 Q.自分が悪いとわかってて『君は悪くないよ』と言われたらどうなりますか?

 A.今のスダレになります。


「いや、君は何も悪くないよ、スダレ。キリオ君だってわかってくれるさ。君はあの『キリオ』に言わされてただけだって。あとでキリオ君に言いに行こうよ、一緒に」

「やめてぇ~~~~! ウチの心が死んじゃう~~~~!」


 もうね、スダレがさっきまでとは別の意味で泣き入ってるモンね。

 ひっでぇお題もあったモンですよ。笑うわ。


『しゅ~~~~りょ~~~~ッ!』


 NULLに乗ったマガツラが、いつの間にか持ってたホイッスルを吹いて鳴らす。

 またしてもあっさり転移するジュンと、床に座り込んですすり泣くスダレ。


「まぁ、でも、仕返しってこうでないとな」

「娘がさめざめ泣く様を見てそれを言えるあんたは何なのよ?」


 ミフユにバシッと肩を叩かれた。痛ァい!?

 その後、スダレはさらに二回ほどダイスを投げ、心に傷を負いながらゴールした。


 激戦、でしたね……。

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