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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第357話 タクマ・バーンズの死闘、ただし犬も食わない

 大魔王城のシカエシスゴロクも、いよいよ白熱していた。

 そろそろ何人かが二階へ続く階段を目前にしており、新たな舞台が迫りつつある。


 そんな中、現在、タクマの番。ダイスは五投目。

 他の連中が派手に吹き飛んでたから目立っていなかったが、こいつもボロボロだ。


 一投目、二投目はまだよかった。

 他と変わらず『愛を叫んでください』とか、そういう穏やかなお題だった。


 牙を剥き始めたのは三投目。

 まずは『自分のお相手への不満を三つブチまけてください』というお題。


 これ自体、そこそこ意地の悪いお題だが、何とタクマは五つ挙げちゃったのだ。

 するとシイナが『三つって言ったじゃないですかー!』と騒ぎだしてしまう。

 ちなみにタクマが挙げた不満を列挙すると、


 ――寝る時間が遅い(深夜アニメ最速視聴したいがゆえ)。

 ――他の男の話をする(占い館に来る男性客の話とか)。

 ――時々話を聞いてくれない(スマホを弄っているらしい)。


 まずはこの三つ。

 いずれも大したことのない不安だな。二つ目はちょっと男としてはモヤるが。

 そこからさらに、タクマは二つ挙げてしまう。


 ――割と年齢関連の愚痴が多い(何度言ってもやめてくれない)。

 ――貯金額を比較して負けてるからって拗ねるのやめろ(シイナさんさぁ……)。


 と、タクマは以上五つの不満を吐露してしまったワケだ。

 それに対して、シイナがキレた。


「と、歳のことはそんな気にしてないって言ってるじゃないですかァ~~~~!」

「嘘つけよ! 何かあるごとに俺のこと『若い』とか連呼してさ! 言われる方の身にもなれっつ~話だぜ! たかが五、六歳の差だろうがよ~!」


「たかが!? たかがって何ですか! 私達の年代で五歳以上の差がどれだけ大きいと思ってるんですかぁ~! 姉妹の中で最年長な事実がどれだけ悲しいと……!」

「ほら、やっぱ気にしてるじゃねぇか!」

「にゃあああああああああ! しまったぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!?」


 そして始まる痴話喧嘩。

 喧嘩するほど仲がいいとはいうものの、これほど無様な喧嘩も珍しい。

 無様なのが主にシイナだけなの、マジで笑うけど。


「貯金額の優劣とか本気で意味わかんねーわ! どうせ合算するだろうがよ!」

「そうですけど。そうですけどッ! でも何か負けてるのは悔し――」


 チュドゴドドドドズゴォォォォォォォォォォォォォォ――――ンッ!


 痴話喧嘩長くなりすぎて、二人同時に爆・砕ッ!

 これには俺は笑い、ミフユは呆れ、マガツラは『えぇ……?』と声を漏らした。

 そして続く四投目がまた難物だった。


『あなたのお相手の《《物理的な》》魅力を三つ挙げてください』

「物理的な……」


 つまり性格とか目に見えない部分を除外した、はっきり目に見えてる魅力だな。


「これなら、ら、楽勝ですね……!」

「楽勝って言ってるその唇がすでに震えてるわよ、あんた……」


 腕組みして無理に笑って強がるシイナを、ミフユが容赦なく突き刺していく。

 俺は早速マガツラと共にタクマのもとに赴き、マイクを向ける。


「よ~、タクマ、また変なお題来ちゃってんねぇ~?」

「おーよ、父ちゃん。ちょいと照れちまうけど、この程度なら何てこたァねぇぜ」


 お、言うじゃないですか。

 だったらその言葉、現実にしてもらおうじゃねぇか。ってね、思ったんです。


『クカカカカカ! いいのかい、タクマさんよォ?』

「何がだよ、マガツラ」

『挙げる魅力は、たったの三つでいいのか? ってきいてんだよ!』


 だがここでマガツラが余計なことを言ったァ――――ッ!


「…………!」


 そしてタクマの顔つきが変わったァ――――ッ!


「ちょっと? あの、ちょっと? タクマさん? ねぇ、タクマさん!?」


 シイナの顔から血の気がサーッと引いていったァ――――ッ!


『それではタクマのチャレンジ、スタートだぜェ!』

「いやぁぁぁぁぁ! 説得の時間くらいはくださいよォ~~~~!?」

『スタ~トォ~~~~!』


 マガツラが、シイナの絶叫を振り切って開始を宣言する。直後――、


「シイナの物理的な魅力となると、そうだな、髪、目、鼻、口、輪郭、肌、首筋と」


 もう七つ出た。


「ちょっと、タクマさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――んッ!?」


 だだっ広いスゴロク全体に響き渡るシイナの絶叫。これはむごい。そして笑うわ。


「肩のラインとかもすげえ女っぽくてグッとくるし、腕ももちろんのこと、あ~、二の腕、二の腕いいな。太すぎず細すぎず、そんで白くて実は色っぽい。肌の白さも病的な感じじゃなく、健康的な白さっていうかミルクな色合いというか。わかるかな~、これは俺にしかわかんねーかもしんねーけどなー。腕とくれば手も当然のことだよな。手と指、特に指。細くてさぁ~、スラッとしててさぁ~。指のこと語るだけで今日一日かかりそうだな。しかたねぇ、次だな。あとはまぁ、これ言うとセクハラとか言われそうだけど物理的な魅力となったら言わないワケにゃいかねぇだろ、胸な。何か本人はタマキ姉とかスダレ姉みたいな感じになれてないのを気にしてるっぽいんだけど、違ェんだって、そうじゃねぇんだって! バランスなのよ、バランス! 身長と、体の細さと、全体の角ばり、丸みとか、そうした全体のバランスを考えたらシイナはもう最の高なワケよ。腹だって全然締まってるしさぁ~。マジであいつの全身のバランスは神がかり的なんだって!」


 ほほぉ、タクマはおっぱい星人ではなくバランス重視派か。初めて知ったぜ。

 そしてそれを聞かされているシイナが、つま先まで赤くなって茹っている。


「あの、タクマさん? もう三つ語りましたよね? もう、いいですよね……?」

「何言ってんだよ、シイナ。まだこれから語る部分について挙げてるだけだぜ。語るのはこれからだよ。まぁ、そんな時間かかんねぇって、すぐ終わるよ」

「まだ始まってすらいなかったと!?」


 愕然となるシイナに、俺もミフユもかける言葉が見つからない。

 何というか、タクマが実にバーンズ家をしているが、される方はたまんねぇな。

 第三者視点で見るとシイナ大変だなーってすごく思う。そして笑うわ。


「まずはなー、やっぱ、目かなー。目。瞳。シイナの一番のチャームポイントだと俺は思うぜ。シイナの顔って少し童顔っぽくも見えるけどよ、それは顔立ちが幼いんじゃなくて目が二重で少しだけ垂れ目気味なのが要因としてはデケェと思うんだよなー。顔立ち自体はむしろ大人っぽいと俺は思ってんのよ。その証拠にシイナが口紅塗ると、一気に年齢が上がって見えるんだよな。いつものホワンとしてる感じがキリッと引き締まってさ。まぁ、それでもやっぱ目のおかげで可愛げが一番最初に来るんだけどな。うんうん。それに瞳もさ、何でかいつも濡れてる感じに見えるんだよな。これは俺の惚気じゃないと思うんだけどな。瞳が綺麗っていうか、瞳が光ってる? 艶がある? そんな感じでさ――」

「あああああああああああ、語り出しちゃったぁぁぁぁぁぁぁ! ついに語り出しちゃったぁぁぁぁぁぁ! そしてこれ絶対三十分以上語るやつですよぉぉぉぉぉ!」


 腕を組んで、心底自慢げなドヤ顔で滑らかに喋るタクマに、シイナた頭を抱える。

 そして、シイナが選んだのは、最終手段だった。


「マガツラさァ~~~~ん! ギブアップ! ギブアップでぇ~~~~す!」

「あ、おい! シイナ! まだ一つ目だぞ、あと最低九つは語らねぇとだろッ!?」


「何で三つが十個に増えてるんですかッ!?」

「え、あっれ、十個じゃなかったっけ?」


「ナチュラルに記憶がすり替わっているゥ――――ッ!?」

『クカカカカカカ! なかなか面白いコントだったぜ! だがここで打ち切りだ!』


 チュドゴゴゴゴゴズゴォォォォォォォォォォォォォォォ――――ンッ!


 また、二人揃って爆ッ・砕ッ!

 もうもうと立ちこめる黒煙を眺めながら、俺は呟いた。


「何て見事な爆発オチだ……」

「つまり最低ってことよね」


 隣に立つミフユのコメントが、なかなかに雅だった。

 これを見てるキリオは、腹抱えて笑ってンだろうなー、絶対。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――大魔王城三階、玉座の間という名のお茶の間。


「…………ッ! ……ッ、……ッ。…………ッッ!」

「あなた様? あなた様! そんな、声も出ないほどの爆笑で体がくの字に!?」


 腹抱えて笑うどころではなかった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 かくして、三投目、四投目とシイナ諸共爆砕されたタクマが、今、五投目に挑む。

 ダイスを両手に抱えたタクマを、シイナが目を真ん丸にして睨んでいる。


「いいですか、タクマさん。どんなお題でも暴走はなしです。お願いしますよ?」

「お、おぉ。めちゃくちゃ圧強ェな、おまえ……」

「これまでを振り返ればそうもなりますよ! 何で私まで爆砕なんですか!」


 うん、それはそう。

 三投目、四投目はタクマがダイスを振るたび、シイナまでチュドってたモンな。


「待て待て、四つめのお題のときはおまえがギブアップしたんだろうが!」

「ギブアップせざるを得ない状況に追い込んだのは、タクマさん本人ですよー!」


「俺はただおまえの魅力を語っただけだろー!?」

「三つを十個に増やす方な一人ねずみ講する人の『だけ』に信頼性はありません!」

「ひどくね!?」


 いや~、実に見事な痴話喧嘩よ。見ていて参考にしたいくらいだ。


「アキラ」

「おう、何だよ、ミフユ」


「明日くらいに久しぶりにやりましょうか、愚痴り会」

「おう、ちょうど俺もそう提案しようかと思ってたところだ」


 俺とミフユは、喧々囂々やり合っているタクマとシイナを眺め、声をそろえる。


「「……ああはなるまい」」


 なお、タクマはその後、五投目で二階への階段に到着。

 初めての一階クリアを成し遂げたのだった。


「不完全燃焼だから、今度みんな集めて聞いてもらうわ。シイナの魅力について」

「やめろって言ってるんですよォォォォォォォォ――――!?」


 仲いいなー、あいつら。

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