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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第356.5話 ヒナタ専用特別八大地獄コース/黒縄地獄

 シンラが焦げ肉片と化し、シイナがお星様になっていた頃。


「楽しかったぁ~~~~!」


 その直下では、四歳児の末っ子がホクホク顔をしていた。

 頭に猫耳、腰に猫尻尾。両腕にワンコのぬいぐるみを抱えている。お土産である。


「そうかえ、楽しかったかえ。そりゃ、何よりじゃわい。……フフフ、フフフフ」

「カリンお姉ちゃん、脚と肩と全身が微細に震動してるよ?」

「そりゃつまり全身ってことじゃのう……」


 暗い通路の中を提灯を持って歩くカリンは、指摘された通りプルプルしていた。


「……侮っておったわ。四歳児の体力、侮っておった」


 この次回の言葉からもわかる通り、モフモフ等活地獄に、カリンも飲み込まれた。

 自分が用意した子猫と子犬が可愛くて、つい一緒になって遊んでしまったのだ。

 結果、体力を使い果たして疲れ切り、プルプルしているカリンである。


「カリンお姉ちゃ~ん」

「何じゃい……」

「さっきの子猫と子犬、本当に可愛かった~。ニセモノとは思えなかったね~!」


 ぬいぐるみを抱え興奮気味に語る妹に、カリンは「お?」と小さく反応を示す。


「気づいておったか」

「そりゃ気づくよ~。『絶界』って本物の生き物は造れないんでしょ?」

「そうじゃな。あの子猫も子犬も、実際はゴーレムよ。本物に似せてあるがのう」


 実際は、柔らかい素材を用いて創造された小動物型のゴーレムだ。

 その上に、さらにカリンの異面体である『婆娑羅堂(バサラドウ)』が使用されている。


「さすがは名監督にして名演出家。演出効果はお手の物だね~」

「ファ、ファ、ファ、そうじゃろそうじゃろ。……もっと褒めていいんじゃよ!」


「謙遜」

「ワシ、小五だし~、そういうのわかんないし~」


「お父さんみたいなこと言ってる……」

「そういえばととさま小二なんじゃよね。やったぜ、ワシの方が年上~!」


「それ言ったらシンラお兄ちゃんは私のこっちでのお父さんだよ?」

「そのようじゃのう。最初にそれ聞いたときは奇縁もあったモンじゃと思ったわ」

「全くだよね~……」


 姉妹二人、話をしながら先へと進む。

 そのさなか、話題はカリンが使っている『金色符』へと移っていく。


「何か変な感じだな~」

「どうした、ヒナタ」


「ん~? ここって『絶界』なんでしょ~?」

「そーじゃよ。『異階』のおおもとになった人造の異世界じゃのう」


「私って『絶界』にいい思い出ないんだよね~」

「む、そうか。話に聞いた『絶界コロシアム』のことじゃな」

「それだけじゃなくて、今の仕返しのもとになった一件でもいいトコなかったし~」


 ぬいぐるみをキュッと抱きしめ、ヒナタはその幼い顔に渋い表情を浮かべる。


「そっちは仕方がないじゃろ。自分でもわかってるんじゃろ?」

「わかってるけどぉ~、むぅ~……」


「『コロシアム』の方も気にするでないわ。主催者はととさまが亡却済みじゃろ?」

「そうだね~、私も誰のことか覚えてないし」

「ならもう終わった話じゃわえ。気にするな気にするな」


 カリンが、カンラカンラと笑い飛ばす。

 ヒナタにしても姉の言うことはもっともだとも思うので、これ以上は言わない。

 しかし、カリンの方がまだ話を続けてくる。


「それにな、ヒナタよ」

「はぁ~い?」

「おんしの中にある『絶界』に対する思い出はこれから塗り替えられるのじゃぞ」


 またしても、カリンが意味ありげな笑みを浮かべて肩越しにヒナタを流し見る。

 その吊り上がった口角を見て、ヒナタも軽く小首をかしげる。


「次の地獄のことですか~?」

「ファ、ファ、ファ、その通り。次なる地獄は『黒縄地獄(こくじょうじごく)』じゃよ」


「それは、どんな地獄なのかな~?」

「ここに墜ちた罪人は、熱く焼かれた鉄の縄で縛られて焦げ目をつけられ、熱く焼かれた鉄の斧で身を切られて激しい苦痛を味わうという、実に恐ろしい地獄じゃよ」


「うわ、それは怖いね……。熱いし痛そう……」

「そうよ。第二の地獄はさらに恐ろしい地獄なのじゃ。ファ、ファ、ファ、ファ」


 自分なりに考えた悪役笑いを響かせて、カリンはそこで足を止める。

 ヒナタも目の前にそそり立つ扉に気づいて、同じく立ち止まった。


「今回は特に声とかは聞こえてこないね~。ネタバレに配慮してるね~、ちゃんと」

「ワシはいつだってネタバレに配慮しとるモンね~! ちゃんと!」


「今のところ、今見せた『クワッ!』っていう顔が一番怖いよ、お姉ちゃん……」

「それも全てシイナの姉御ってヤツのせいじゃよ」

「完全に怒りから恨みの域に達してる……」


 重く低い笑いを漏らすカリンに、ヒナタは何も言えなくなる。

 まぁ、シイナが買った恨みについては、本人にどうにかしてもらうしかない。

 そこで、ヒナタはその件に関する思考を打ち切った。


「さぁ、開くぞよ、ヒナタよ……」


 カリンが、低く抑えた声でヒナタに促してくる。

 告げる彼女の姿は、第一の地獄と同じくさながら闇からにじみ出した幽霊のよう。


 闇を曖昧に照らす提灯の光が、カリンの輪郭を頼りなく浮かび上がらせている。

 彼女の黒髪や和服が、闇と一体化しておどろおどろしい雰囲気を漂わせる。


「――心の準備は、いいかえ?」


 押し殺したその声はかすれていて、まるで囁き声。

 聞く者の不安を静かに煽るその声は、闇の中に流れて消えていく。


「お姉ちゃん……」


 覚悟を試すかのような言い方をする姉に対し、ヒナタもまた神妙な面持ちを作り、


「あの、ノッた方がいいのかな?」

「あ~! もう開けるわ~! もう開けちゃうモンね~! 別にいいモンね~!」


 カリンは半泣きになりながら扉の取っ手に手をかける。

 ヒナタとしても悪いとは思っている。

 だが地獄が怖くないと知らされた以上、空気感を演出されても反応に困るのだ。


「……シイナお姉ちゃんの罪はでっかい」

「ほんとそれな」


 ヒナタに同調を示し、カリンがドアを開けていく。

 モフモフ等活地獄と同じように、扉の向こう側はかなり明るいようだった。


「見るがよい! これが焼けた鉄に苦しむ『黒縄地獄』じゃ~!」

「おぉ~~~~!」


 ババ~ン、と開け放たれた扉の向こうに広がる光景に、ヒナタは声をあげる。

 目よりも先に、耳よりも先に、鼻先がその地獄の正体を捉える。


「いい匂ォ~~~~い!」


 ヒナタの鼻が嗅ぎ取ったのは肉が焼かれて焦げる匂いだった。

 そこは、いってしまえば鉄板焼きの店だった。


 さほど広くない部屋の真ん中にカウンター席があり、焼けた鉄板が置かれている。

 焼けた鉄板の前に立つのは、シェフの格好をしたゴーレム。

 今も、右手にフライ返しを持ってデケェ牛肉の塊を鉄板で焼いている真っ最中だ。


「これぞモフモフ等活地獄に続く第二の地獄、ガツガツ黒縄地獄じゃ! 見るがよい、ヒナタ! あの鉄板に焼かれているデケェ肉を! はわぁ~、でっかぁ~い! 焼かれてるぅ~! 美味しそぉ~! ってなるじゃろ?」

「なる~!」


 ウキウキで説明するカリンに、ヒナタも右手を挙げて同意する。

 モフモフ等活地獄でめいっぱい体を動かしたところだ。おなかは空いている。


 さらにいえば、ヒナタは家族でもかなり食べる方だ。

 火属性と陽属性の魔力に特化したその実は、常にエネルギーを燃やし続けている。

 そのため、四歳とは思えぬ量を、彼女はペロリと平らげる。


「あああ、音が、音が美味しいよぅ!」


 二人が見ている前で、肉は焼かれている。

 ジュウジュウと、肉の焼ける音。バチバチと、脂が爆ぜる音。


 そこにシェフが調味料を垂らして、焦げたそれがまた強い匂いを生じさせる。

 醤油が焦げた感じの、いかにも食欲をそそる匂いであった。


 そこに加えて、見た目。

 肉の表面が程よく焦げて濃い目の茶色に染まっている。

 表面などは溶けた脂でテラテラと光っていて、一目で美味しいとわからせられる。


「はぅあ~、おなかペコペコォ~……」


 空腹の状態で、目、耳、鼻の同時攻撃をされては、ヒナタも堕ちるしかない。

 ぬいぐるみをだっこしたヒナタが、フラフラとカウンター席に歩き出す。


「待つのじゃ、ヒナタ。おんしにはノルマを課す!」

「ノルマ~?」

「あれを見るのじゃ~!」


 カリンが得意げに指さしたその先、ヒナタが見やれば、テーブルが置かれている。

 そして、テーブルの上には肉、肉、肉、とにかく、肉!


「カルビ、タン、フィレなど、あそこに用意された様々な部位の肉、全てをあのテーブルの上からなくすことが、このガツガツ黒縄地獄を訪れた者のノルマよー!」

「な、何だってぇ~!?」


 これにはヒナタは素直に驚いた。カリンは満足げだ。


「ヒナタよ、果たしておんしにあれだけの大量の肉を食いきることはできるかな? まだまだ幼い四歳児の身で、あれほどの、大量の肉を! 消費しきれるかな!?」

「う~ん……」


 ぬいぐるみをカウンター席の一つに置き、唸るヒナタ。カリンはさらに満足げだ。


「ファ、ファ、ファ! 目に浮かぶようじゃぞ、ヒナタ! 最初こそはイキがってガツガツいって『美味しぃ~♪』とか言うけど、数分も経たないうちに食べきれなくなって徐々に顔色を悪くしながら、最後の方は無言で一口食べては水で無理矢理流し込んで数分休憩、一口食べては水で無理矢理流し込んで数分休憩を繰り返しながら『あ~、食べ放題って聞いて調子乗りすぎたな~』と後悔するおんしの姿がなぁ!」

「何、そのやけにリアルな想像……」


「一週間くらい前にこっちのおじいちゃんと食べ放題に行ったワシの体験談じゃ」

「自分の後悔に妹を巻き込まないでほしいなぁ~……」

「じゃよね~……」


 ヒナタの意見が真っ当すぎて、カリンはぐうの音も出なかった。


「ところでお姉ちゃん」

「何じゃ、ヒナタ。ギブアップは認めんぞ。もうお肉焼いちゃってるから!」


「それはいいんだけど、確認したいことがありまぁ~す」

「ほぉ、何じゃ?」

「あそこのテーブルの~」


 今さっきカリンが指さした肉山盛りのテーブルを、今度はヒナタが指さす。


「うむ、あそこのテーブルの?」

「あそこのテーブルの上のお肉を全部なくせばいいんだよね?」

「そうじゃよ、その通り――」


 と、うなずきかけて、カリンは「ん?」と疑問を覚えて動きを固まらせる。


「今うなずいたよね~、その通りって言ったよね~。はい、言質とりました~!」

「あの、ヒナタ。待つんじゃ、あの、食べ切る……」


「さすがにあの量は二人がかりでも食べきれないよ。残った分は収納空間行きです」

「そんなぁ!? がんばって地獄の内容考えたんじゃよ、ワシ~!」


「あのね、お姉ちゃん。いくら私でも限度があるってこと、わかろう?」

「ああ、ものすごい優しい目で諭されてしもうた!?」


 ヒナタに肩ポンまでされて、カリンはもう、納得するしかなかった。

 シェフゴーレムが焼き上げて切り分けたステーキがカウンター席に置かれる。


「ほらほら、できたみたいだよ~。一緒に食べようよ~。おなかペコペコでしょ?」

「むぅ、腹は減っとるがのう……」


「じゃあ、いいでしょ~、あ、ご飯とかある?」

「無論じゃ、そこに抜かりはないぞ!」


「やった~! それじゃあ、早速食べようよ~! いただきま~す!」

「おなかすいたし、ま、いっか!」


 こうして、育ち盛りの名プロモーターは空腹感に負けて思考を放棄した。

 サイコロ状に切り分けられたステーキは、とっても柔らかくて美味しかったです。


 シカエシスゴロク八大地獄コース第二弾、ガツガツ黒縄地獄――、敗れたり!

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